2006年6月号
連載2  - 地域の産学連携事例
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の早期発見・早期治療サービスの事業化

谷川 武 Profile
(たにがわ・たけし)

筑波大学大学院
人間総合科学研究科


はじめに

(1)国民の健康を脅かす「睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)」の早期発見サービスの産業化の必要性

SASは、睡眠中の頻回な上気道の閉塞・狭窄(きょうさく)により睡眠が妨げられ、覚醒中に強い眠気による居眠りや集中力低下をもたらす。日本人成年男子の約5%にSASの疑いがあると推計され、SAS患者の「交通事故」発生率は3~10倍と報告されている。2003年2月の山陽新幹線運転士の居眠り運転事件を契機に、交通事故・産業災害の一因として注目されている。また、SAS患者における「心疾患」や「脳血管障害」の発生率は非SAS患者の4~8倍に上ることから、国民の健康づくりを通じた国民医療費の適正化という点でも、SASは社会的なリスク要因となっている。

写真1

写真1 SASスクリーニング検査機器「ソムニー」
     ☆自宅で手軽にSASスクリーニング検査が受け
     られる。

一方、企業では適切な対応を迫られているが、[1]SASについての情報不足、[1]SASのマス・スクリーニングを適正に行うサービスの担い手の不在、[3] 当該領域の専門医が少ないこと、などから適切な対応が取られていない。





(2)SASスクリーニング・サービスと減量・健康増進サービス一体化の必要性

図1

図1 事業の概要図

少なくとも閉塞性SAS患者の60~70%は肥満が認められるとの報告もあり、患者にとって根本治療は減量であるため、効果的な減量指導システムが求められている。一方、肥満と関連する糖尿病、高血圧症、高脂血症は、社会生活上さほど大きな障害にはならないため患者の減量に取り組む意欲を喚起しにくいが、SASは日常生活への影響が大きいため、患者が減量に取り組む意欲を形成しやすい。その点で、SAS患者は減量指導サービスをもっとも受け入れやすく、サービス効果が高い層といえる。医療機関や職域・地域保健でも肥満解消に取り組んでいるが、診療報酬上の評価が確立していないことに加え、効果的・体系的な指導法が普及していないため十分な効果を挙げていない状況である。

このような現状にかんがみ、多人数の対象者に対してSAS検診を簡便に実施可能なスクリーニング法を開発し、さらに栄養指導と運動指導を組み合わせた減量・健康増進プログラムの提供を事業化するべく筑波大学発のベンチャー企業としてソムノニクス(株)*1が設立された。

経済産業省からの委託事業

筑波大学、NPO法人睡眠健康研究所、ソムノニクス(株)を中心とした快眠健康サービスコンソーシアムは、経済産業省の公募事業である平成17年度「電源地域活性化先導モデル事業」に採択された。

(1)委託事業実施の主な目的

[1] 福島県内の電源立地地域、および大手運輸企業の電源立地地域に位置する支店、営業所等で広報活動を行い、5,000件のスクリーニング・サービスを希望者に提供する。
[2] スクリーニング受診者5,000名のうち減量・健康増進サービスの提供が必要と認められる者で本サービスへの参加希望者100名を対象に減量・健康増進サービスを実施し、SASに対する減量効果を明らかにする。

(2)成果概要

写真2

写真2 SASの広報活動



写真3

写真3 減量・健康増進サービスの実施



写真4

写真4 専門医による指導

[1] SASスクリーニング検査

福島県内の電源立地地域(双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、いわき市)、東京電力(株)福島第一原子力発電所、同福島第二原子力発電所、関連企業において2,982名の検査を実施。その他の電源地域と合わせて5,130名の検査を実施した。

[2] 減量・健康増進サービス

福島県内の電源立地地域スクリーニング受診者のうち減量・健康増進サービスの提供が必要と認められ、参加を希望する107名を対象に主に食事指導を中心とした3カ月間のサービスを実施し、平均で-4.4kgの減量を達成した。





本原稿は以下の2名とともに執筆した。

三浦 仁(みうら じん)
ソムノニクス株式会社 総務部長
櫻井 進(さくらい すすむ)
筑波大学睡眠医学講座講師

*1ソムノニクス株式会社
〒305-0031
つくば市吾妻3-7-15
TEL:029-861-8581
FAX:029-851-2014
http://www.somnonics.co.jp/
広く一般企業、個人からのSAS検診を受託している。従来にない睡眠面からの健康増進・事故防止対策として活用されたい。