連載2
● - 若手研究者に贈る特許の知識 基礎の基礎
第4回 外国で特許を取る
日本で取得した特許は日本国内でしか効力がない。特許の効力が及ぶのは取得した国の領土内に限られるからである。米国では「先願主義」ではなく「先発明主義」を採用しているので注意が必要だ。
特許権の効力は「属地主義」といって、取得した国の領域内に限られる。従って、日本の特許は日本国内でしか効力がない。一方、米国特許を取れば米国本土はもちろんアラスカ州、ハワイ州、グアム島、サイパンでも権利が及ぶ。当然、侵害行為があれば差し止めできる。属地主義とはそういうものである。 他方、欧州特許(EPC特許)を取得したからといっても、指定国にしか権利は及ばない。欧州特許は、ドイツのミュンヘンにある欧州特許庁(EPO)で審査を行うが、パスした特許権は指定国特許の束であるという約束の特許だからである。 物やサービスが国境を越えてどんどん広がるグローバリゼーションの下では、外国特許の取得は欠かせない。従って、以下の場合には外国出願を検討すべきだろう。
ただし、時間的な制約がある。日本出願と同様な内容の外国出願ならば、日本出願から1年以内に出願する必要がある。翻訳に一定時間を取られるので、翻訳期間も考慮して外国出願の要否を決定し、準備を進めなければならない。
今の時代、わが国企業は世界市場を視野に入れてビジネス展開しているので、上記の「外国」には必ず米国が含まれてくる。米国で特許を取る場合、明細書の記載方法、特許になる発明の要件や特許庁での手続きにさほど差はないが、米国では“早い者勝ち” でも先に発明したかどうかが問題になる。「先願主義」ではなく、「先発明主義」を採用している。 この「先発明主義」は、同じ特許が2つ出願された場合、発明日が先である者に特許権を付与する制度のことだ。先発明主義は、発明してからすぐに出願手続きができない個人発明家が不利を被らないようにする制度で、米国の伝統が大きく反映されている。競合出願による“先発明の争い” になれば、証拠として発明日を確定するために“実験ノート(ラボノート)”を提出する必要がある。 なお、この「先発明主義」には、企業が大きな費用を投じて新技術を製品化した後に、個人発明家から突然「私が先に発明して取った特許がある」として、訴訟を起こされるという別の問題があるため問題も多い。 欧州各国をはじめそのほかの国々では、日本同様に特許の出願日が早い者に特許権を与える「先願主義」を採用しているので「先発明主義」を採用しているのは世界中で米国のみである。
しかし、先発明者と名乗る者が突然現れてライセンス料を要求する“サブマリン特許”(潜水艦が海面から急に顔を出す様子からこう呼ばれる)が生まれ、特許侵害だと言われた当事者が困り果てる事件が少なからず起こっている。先に同様な技術で特許を取っても、発明日が先のその技術を包含する“サブマリン特許” が出てくれば、その特許の支配を受ける。「権利の安定性が損なわれる」とか「費用の重荷に耐えかねる」といった不満が出て、先発明主義を否定する動きがここにきて出てきた。こうした背景の下、米国では、先願主義へ向けた特許法の改正案が議会へ提出された。現在、改正案は、両院司法委員会で承認されて一部修正を受け、本会議に上程されるところまできている。ただし、今のところは修正された改正案は、純粋な先願主義というわけでなく、発明をして先に発表した者と先に出願した者とが競合した場合、後願であっても先発表者を優先するという“先発表主義”を規定している。 先発明主義は、18世紀末に採用されて以来、長い歴史を経てきた米国の伝統的な考え方だが、審議結果によっては、先発明主義が消えるかもしれない(図1)。
EPOに特許出願をして特許が認められると欧州主要国で特許を受けたことになる。ただし、特許を取得する段階で権利取得する国の言語の翻訳文を提出する必要があった。例えば、ドイツで権利取得する場合にはドイツ語の特許の翻訳文を提出しなくてはならなかった。フランスではフランス語の翻訳文、オランダではオランダ語の翻訳文が必要になり、その分費用負担が増えていくものであった(ただ、2008年5月以降に特許付与された公用語(英、独、仏)による特許は、ロンドン協定を批准した13カ国では翻訳文の提出が不要になった)。特許取得までの手続きは図2に示される。
諸外国において、特許を取得したい場合、従来は
という手順を踏んでいた。上記b.では、費用は国の数に比例した出願経費が必要となる。 この手続きの煩雑さを避け費用を節約する要請から、1個の特許出願で世界の主要な国のほとんどに対して出願した効果が得られる“PCT 国際出願” 制度ができた(図3)。この制度を利用することにより、
という手順でよくなり、初期費用や手間を大幅に削減できるようになった。 特に、近年はPCT国際出願に対する料金の優遇制度が充実してきているので、4カ国程度以上であれば、総費用としても安くなる場合がある。 なお「国際調査報告」「国際予備審査報告」という特許性調査の結果を見た後に目的とする外国への出願手続きを取ることができるので、最近ではPCT国際特許出願は大幅に増えている。 |