2010年8月号
特集  - 地域金融・新モデル-産学金連携を探る
米沢信用金庫
地域金融機関と山形大学で「産学金連携コーディネーター研修」
~ひとづくり・ものづくり・ことづくり~
顔写真

加藤 博良 Profile
(かとう・ひろよし)

山形大学国際事業化研究センター
コーディネーター、産学連携推進員/
中小企業応援センター 山形大学
「学金連携システムネットワーク」
コンソ-シアムマネージャー、
コーディネーター/
米沢信用金庫融資部地域活性化推進室

山形大学と地域の金融機関は平成19 年から同大学内で金融機関の職員を対象にした「産学金連携コーディネーター」研修を行っている。その成果の1 つが、菓子製造業と同大学工学部のプラスチック発泡技術を連携させた「米粉100%シュー」だ。

産学金連携に息づく鷹山のDNA

米沢市は東北有数の工業地域である。その製造品出荷額は東北の自治体で第3 位、情報通信機械器具製造業に限ると東北第1 位、全国第2 位*1を誇る。

約240 年前、宮崎の高鍋から入部した第9 代米沢藩主 上杉鷹山が、殖産振興と人材育成をもって藩財政の再興に努めた。再興策の1 つとして、養蚕の付加価値を高めるため米織(米沢織物)を奨励し、当地の基幹産業になっていった。時代が進むにつれ、織物産業は機械化が進行し、周辺産業である織機業は電子・電気機器産業へ発展(NEC のノート型パソコンは当地にて誕生し、現在も唯一の生産工場になっている)し、現在のものづくりの基盤になっている。当地が、「絹糸がエナメル線となり、電子回路になった」と評されているゆえんでもある。

米織は高分子学としても進化し、山形大学工学部の前身が誕生した。人造絹糸(ビスコース)が開発され、鈴木商店(現在の双日)との産学連携により、日本最初の化学繊維工場「帝国人造絹糸」が誕生し、新産業を生み出した。この企業が現在の「帝人」の基礎である。現在、高分子学は「米粉100%パン」や「有機EL」等を生み出し、疲弊する地域経済に一石を投じ、新たな付加価値を創出しようとしている。

米沢信用金庫も、世界恐慌と関東大震災の影響が大きかった窮乏期に、円滑な資金供給を目的に、米織の若手機業家たちが田村新吉貴族院議員の協力のもと発足させた(産官連携から生まれた)金融機関である。危機的な状況であった米沢の経済を立て直したとの記述が残されている。

鷹山の起こしたイノベーションの連鎖を「火種運動」と呼ぶ。鷹山のDNA を受け継ぎ、価値創出の火を絶やさぬよう産学金連携で地域を活性化していくことが使命であると考えている。

産学金連携を成功に導く3要素

米沢信用金庫は、平成15 年より山形大学と共同研究契約を締結し、共同研究員(常駐職員)を派遣している。「産学金連携」を成功に導いていくために、地域企業に則した産学連携へのアプローチ手法と、それを実践する金融機関人材の育成、そして、企業・大学・金融機関が連携する出口までの支援メニューを構築し連動させることがポイントであると考えている。

1. 知的資産経営(強み経営)からの産学連携へのアプローチ

近年、地域企業に持続的な成長を可能とする知的資産経営が求められている。また、企業の多くが、知的資産経営は利益創出に有効であると認識しており**1、同時に、産学連携も利益を計上する傾向にあるとのデータが出ている**2

産学連携は、この知的資産経営の延長線上にあり、潜在的な強みを顕在化させ、フォーカスすることでニーズが発生すると考えている。

金融機関の日常的かつ継続的な相談機能を有効活用し、知的資産の可視化をしていくことにより、産学連携の潜在的需要を顕在化していくことが可能になると考える。

2. 金融機関人材育成・・・産学金連携コーディネーター研修制度

米沢信用金庫は、平成17 年より、山形大学内において、ケーススタディー型の産学連携研修を行ってきたが、金融コンサルティング機能とコーディネート機能の融合の必然性**3を感じ、平成19 年に、山形大学と地域金融機関との連携の下、産学金連携コーディネーター研修をスタートさせた。

この研修は、前述の知的資産経営を誘発する目利き人材の育成を目的とした内容で、実際に地域企業を視察し、経営者・現場担当者とのヒアリング、経営理念から生産ライン・商品・在庫管理までを把握し、企業成長プランを策定する実践型研修形式をとっている。レポートを加えた審査を通過した修了者には、山形大学から認定*2 を付与される。

金融機関職員は、事業資金の貸し手であると同時に、当該企業の経営資源を見つめ直す「強みの見える化」の協力者としても期待されている。企業価値を高めていく可能性を持つ産学連携活動を経済活動に結び付けるプロデューサーとして、企業と共に創りだす「共創」を実践していくことが必要であると考える。

3. 開発(入口)から販売(出口)までの支援メニュー=循環型支援
図1

図1 開発(入口)~販売(出口)まで一貫生産の
     食品加工業をモデルにした支援

地域企業の場合、自己発信型の企業が少ない。そのため、自社の強みや弱み(課題や潜在ニーズ)を自覚していないケースが多々ある。そこで、気付きを与え、課題を掘り起こし、顕在化させていく必要がある。

こうした課題の顕在化ステージにビジネスマッチや商談会を有効活用し、第三者(市場)の評価による「気付き」を与え、事業や商品の再構築をしていく支援メニューを用意している。商品・製品の評価となる「利益」を通じて開発(リサーチ・プラン・テストマーケティング・材料調達・生産・プロモーション等)における課題を再確認し、再構築することにより、新たな商品開発の可能性を模索していくことが重要であると考える(図1)。

利益創出のプロセスに関わることにより「理解」する
写真1

写真1 米粉100%シュークリーム

金融機関が携わった事例として、工学部のプラスチック発泡技術を応用した「米粉100%シュークリーム」(写真1)がある。この共同開発の背景には、技術的支援にとどまらず、後継者育成、商品設計、原材料調達、価格設定からプロモーション等の販売戦略まで、さまざまな支援プロセスがあり、結果(利益)に結び付いている。また、その結果は、次の共同研究へと循環していくのである。

また、プレス業の洗浄工程改善の事例においては、環境経営による企業価値創出と社会的評価の向上や、ボトルネックとなる同工程を改善することにより、生産効率向上や不良率改善による実質的な利益創出につながっていくことを確認し、共同研究につなげている。

製本装置製造業の切削工程における紙粉吸排出機能改善の事例においては、開発スタッフとのディスカッションやデータ測定実験に参加し、開発スケジュールと資金計画を連動させた事業計画の組み立てを行っている。

金融機関職員が、開発に関与することにより、技術経営による相談・支援が可能となる。商品開発にはリスクを伴うが、当該開発が、企業にとって「利益」をもたらすことを理解できれば、後押しが可能になってくる。産学連携を含めた開発は、長期的視点からの支援が必要である。結果に基づいて判断しがちな金融機関が、企業利益を生むプロセスに関わることで、効果的な開発資金・運転資金支援やリスク管理が可能になってくる。

支援システムの構築=学金連携システム「米沢モデル」確立へ
図2

図2 学金連携システム米沢モデル

産学連携のコーディネートも、金融機関における経営支援(含む資金供給)も根本的には同一であると考えている。経済活動の主人公である企業が、永続的かつ成長的に経営を行うことが、おのおのの結果に結び付け、継続性を生み出すのではないかと思われる。

山形大学と米沢信用金庫および連携金融機関は、「価値を創造する地域中小企業への貢献」の活動指針の下、正のスパイラル(高付加価値→開発力強化・新事業・新創業・雇用創出・所得増加・税収増加・事業承継等の円滑化)を生み出すことを到達点としている。

大学が有する多分野にわたる専門知識とネットワーク、地域金融機関が有する経営支援ノウハウと「Face to Face」のコミュニケーション力に前述の3要素を組み合わせた新しい産業支援の『学金連携システム』形成を目指している(図2)。

その実践ステージとして、地域力連携拠点事業や中小企業応援センター事業*3 を受託し、産学連携学会で提唱してきている。

最後に

尊敬する日本人として「上杉鷹山」の名を挙げたJ.F. ケネディは、「国家があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国家に対して何ができるかを自問してほしい」と述べている。

企業の活性化に必要なものは、自らの努力で価値を創造しようと努力し(自助)、企業・支援機関が互いに向き合い(互助)、支援によって(扶助)はじめて成功に近づけるのではないかと思う。産学官金連携は、上杉鷹山の残した「三助の精神」の現代版完成形ではないかと思う。

私たち信用金庫は、地域が限定されており、この地でしか生きられない金融機関である。しかしながら、応援すべき地域企業はこの地から世界へ飛び立つ可能性を秘めている。地域と運命共同体である私たちは、企業のため、地域のために盛り上げていかなければいけないと考えている。金融機関が「自助」を誘発し、「互助」「扶助」でサポートしていきたいと考える。

●参考文献

**1 :加藤博良「知的資産を活かす地域産学官金連携の取り組み」第7回産学連携学会年次大会

**2 :小野浩幸「産学連携の効果測定」第4回産学連携学会年次大会

**3 :加藤博良「地域協同組織金融機関における産学金連携コーディネーターの必然性」第6回産学連携学会年次大会

*1
平成20 年経済産業省統計

*2
認定期間は1年間。更新要件として、共同研究契約締結や法認定など実務実績が求められる。

*3
経済産業省委託事業で、中小企業の経営力向上や事業承継を支援するための事業。大学と金融機関の連携による申請は全国唯一。