2010年8月号
連載4  - まちづくり拠点「コ・ラボ西川口」
前編
JR西川口駅西口
違法性風俗店一掃後のビジョンを探る
早稲田大学と地域が調査研究や社会実験
顔写真

木村 裕美 Profile
(きむら・ひろみ)

中小企業診断士/
早稲田大学 都市・地域研究所
客員研究員

埼玉県のJR西川口駅西口一帯で、違法風俗店一掃後の戦略的なまちづくりを目指し、産学官民が協同して調査研究、社会実験などを行っている。その拠点が平成21 年に開設された「コ・ラボ西川口*1」だ。

歓楽街にできた、まちづくり社会実験拠点「コ・ラボ西川口」

かつては歓楽街として全国に名が知られた西川口の商店街の空き店舗に、早稲田大学がまちづくり社会実験拠点「コ・ラボ西川口」を開設した。地域住民、企業、行政等との協働による運営を目指し、多様な主体を受け入れさまざまな活動が展開されている。

平成18 年に違法性風俗店の一掃を始めたが、その後空洞化してしまった「まち」をどう立て直すのか? 川口市と協働連携協定を結ぶ早稲田大学が、地域再生で連携している。

従来型の環境変化への追随型施策形成ではなく、環境変化を予測し地域住民のニーズやポテンシャルを生かした戦略的なまちづくりを行うための、産学官民の協働事業を進めている。各セクターの縦割りの調査や計画、事業の推進だけではなかなか動けなかった地域の企業や商店街や有志が、自律的な活動のために大きく動き始めた。

違法性風俗店乱立の歓楽街となった背景

江戸時代から鋳物産業を中心に発展してきた埼玉県川口市だが、現在は人口51 万人を抱え、移転や廃業した鋳物工場跡地にはマンション等が林立し、荒川を隔てた東京都のベットタウンへと変ぼうを続けている。

そんな川口市内の一角にあるJR 西川口駅の開業は昭和29年で、その2 年前に開設された川口オートレース場の最寄り駅として多くの乗降客でにぎわった。昭和37 年、川口~大宮間を結ぶ産業道路も開通し、周辺にはさらに飲食店等が増え始め繁華街として発展してきた。一方中小零細企業の多い川口鋳物協同組合の組合員数および従業員数は、増減を繰り返すも、昭和36 年以降は下降傾向となった。

西川口駅西口一帯が「風俗」の代名詞となったのは、昭和60年 新風営法が大幅改正したころからのようである。駅前の一部が県条例で性風俗禁止除外区域に指定され、風俗店が林立するようになった。昭和45年の地図上にも既に「トルコ」なる名称が確認されているが、その種の店はわずかに2 軒であった。

高度経済成長期、オートレース場の売り上げも向上し活況を呈していたが、平成3年度をピークに減少傾向となる。同じころ、都内にあった風俗店が一斉摘発を受け西川口に流れたとも言われている。

川口市では、平成元年度から3 年度にかけて、「西川口周辺都市整備計画策定調査」を実施し、都市整備部開発管理課は平成5 年に「西川口のまちづくり アメニティあふれるヒューマンスケールの商・業・遊・住複合都市を目指して」をまとめ、「西川口をさらに発展させるためには、シンボルとなる施設の整備や適正な土地利用が望まれる」とした。平成10 年には風俗営業法改正により、新手の風俗店も取り締まり対象となったが、違法風俗の強引な客引き等は無くならなかった。

テロ対策から違法性風俗店の一掃、その後空洞化へ

平成13 年9 月に米国で同時多発テロが勃発(ぼっぱつ)。世界中でテロ撲滅のための活動が強化され、小泉政権下でも犯罪対策閣僚会議が実施される。平成16 年11 月に埼玉県警は西川口を「風俗環境浄化重点推進地区」とした。違法性風俗店をはじめとした西川口駅周辺の社会環境は、犯罪の温床となる要因が複雑に交錯しており、この地域の犯罪現象と併せて風俗環境の浄化をする必要があるとして、違法性風俗店一掃のための取り締まりを強化した。

最盛期は約200 店舗、働く女性は 1,000 人超。不法滞在の外国人も、「いったい何人住んでいるのか、われわれも分からない」との県警幹部の談があったほどだが、地域住民などの協力もあり、半年程度で劇的な効果を上げることに成功した

西川口駅西口のまちづくりの推移

表1

しかし、違法性風俗店が撤退した後の空き店舗が埋まることは容易ではなかった。周辺の飲食店など、地場で商いをしてきた小規模事業者は独自の集客力を求められることとなった。違法性風俗店なき後のまちづくりについての議論より先に、一掃に注力した結果であった。

打開策として、平成19 年度全国都市再生プロジェクト推進調査、平成20 ~ 21 年度地方の元気再生事業が、川口商工会議所と市役所などを事業主体にして推進される。「B 級グルメタウンのまちづくり」としてイベントの開催や、飲食店舗の開業助成等を行った。また「西川口まちづくりステーション」を空きビルの一角に開設し、地域の諸団体代表による西川口駅西口再生会議を立ち上げたが、利害関係が異なる住民や各産業関係者、諸団体の議論の進展は極めて困難であった。

早稲田大学の「コ・ラボ西川口」が産学官民連携の場に

その間側面支援してきたのが、早稲田大学早田宰研究室である。早田教授は早稲田大学都市・地域研究所の岡田昭人、筆者ら客員研究員や学生等とともに、関係するさまざまな団体や個々人との議論を重ね、当地での研究を継続している。

写真1

      まちの方々との開設記念式当日一杯で
          入りきれない学生

平成21 年にはまちづくり社会実験拠点「コ・ラボ西川口」を開設し、早稲田大学と地域、企業、行政が協働して、地元に密着したアクションリサーチ、提案型の調査研究、多様な主体による創造都市を目指した新しいまちづくりの社会実験を推進しており、複数の大学とも連携し始めている。

平成22 年1 月26 日には、地元の企業経営者の有志に早田教授・岡田客員研究員も出資者となって「西川口まちづくり合同会社」が設立された。

今年度より始まる西川口駅西口再生支援事業補助金事業は、市民からの寄付、財団法人民間都市開発推進機構の拠出金「住民参加型まちづくりファンド」、さらに川口市西川口駅周辺都市整備基金の一部を活用している。

また、地元商店会の若手を中心とした有志たちは、昨年度から「コ・ラボ西川口」で商店街と大学の連携による協働体制構築事業を共に行いさまざまな勉強会や事業を重ね、各店舗が自律的に集客力を向上できる連携事業を始めた。主に飲食店が埼玉県産の食材をテーマに各店舗で開発したメニューを、お客さまに食べ歩いてもらおうという「フード&ドリンクテーリング」だ。飲み物と食事各1 品のセットを1,000 円で提供するというイベントで、新規顧客開拓を狙っている。1 度目の実施で、複数の店舗から商店会への入会申し込みや次回の参加希望が相次いだ。行政や民間企業の支援の話も進んでおり波及効果も期待できそうだと、実行委員会は次回策を模索中だ。

多様な主体が協働し地域に内在する資源を活用することで効率的にシナジー効果が発揮され、それぞれが自律的に活動できる関係性を構築していくことが可能となる。今後さらに産学官民の連携による成果が期待される。

*1 :コ・ラボ西川口
http://www.colabnishikawaguchi.jp/

平成21年度全国商店街支援センター 商店街と大学の連携による協働体制構築事業報告書:http://www.colabnishikawaguchi.jp/files/
nishikawaguchistory.pdf