2011年2月号
特集2  - 競争力アップ なるほど大学活用法
中小企業の海外展開支援と地域の大学の役割
顔写真

岡田 基幸 Profile
(おかだ・もとゆき)

財団法人 上田繊維科学振興会(AREC)
理事・事務局長/信州大学 繊維学部
特任教授(産学官地域連携)工学博士

わが国の中小企業も国際化の波にさらされている。中小企業といえども、市場が縮小傾向にある日本国内にとどまってはいられない。しかし、海外展開の戦略を立てられる企業はそう多くはない。そこで、注目したいのが、各地域にある大学の資産の活用だ。多くの大学はその研究分野において海外の大学と連携を強化している。コーディネータは、今まで以上に地域の大学と強固に連携し、大学に国内外から集まった情報を地域の企業に還元すべきである。

はじめに

私がコーディネータとなって14年、地域企業に提供してきた産学官連携支援の内容は、実に多岐にわたる。しかし、2010年には国内総生産(GDP)が中国に抜かれたと推測され、アジア諸国が経済的な競争力をつけつつある中、取り巻く状況は徐々に変わってきた。中小企業の国際化を望む波である。

日本企業の中国への関心は、これまで加工・組み立て工程における労働集約が主で、地域も中国沿岸の都市部に限られていた。それが現在では内陸部にまで浸透、現地市場に参入し、企画・開発力のある人材の確保に発展している。今後は、社会・産業基盤にかかわるソフト部分の関与が拡大、コンテンツ輸出やサービス業の進出が加速していくと思われる。

京都銀行の髙﨑秀夫頭取は、「東アジアは国内と思え。中国語・韓国語は訛りと思え」と語っている。もはや中小企業といえども、市場が縮小傾向にある日本国内にとどまってはいられない。東アジア圏を大きな経済体ととらえたとき、欧米と比べ立地面での優位性を持つ日本は、拡大化する市場へいち早く展開する切符を手に入れたと思うべきなのである。

海外市場に向けた肌感覚を呼び覚ます

振り返ると、元気なモノ作り中小企業300社の選定、JAPANブランド戦略、農商工連携、地域資源活用、サポイン(ものづくり基盤技術)などの国内の中小企業振興策はそれなりの成果をみせてきた。そのためか、海外展開支援にも同じスキームを打ち出しているのである。すなわち、『自社内に海外での絵図がすでにある』ことが前提だが、実際のところ、海外展開の戦略までは練れていない中小企業が大半である。中小企業の海外展開においては、まず『海外の土俵に乗せる』ことが第一ということ。野心に燃え、日本のものづくりを支えてきた団塊世代の経営者と、海外に対して開かれた後継者世代とが海外に赴き、現地のビジネス情報、経済事情にじかに触れることが先決なのだ。それらを肌感覚で感じ取れば、日本経済をけん引してきた中小企業の“猛者たち”は自らチャンスを見つけ、動き出すことができる。

私が昨年大いに刺激を受けた地を紹介したい。それは、中国沿岸部と内陸部をつなぐ交通の要所、広州や武漢、常熟。それからイノベーションが巻き起こっている米国シリコンバレーといった、活力ある産業集積地だ。

中国はここ10年で中小企業の数が1億社にも膨れ上がった。製造業の数だけでも1,000万社。日本の製造業40万社の実に25倍にも上る。先に挙げた中国の各都市には日本の自動車メーカー各社が進出しており、中国企業との合弁会社も設立されている。市場に目を向ければ日本国内での自動車販売台数はここ数年下降傾向にあり、エコカー関連事業で活況に沸いた2010年でも年間約495万台。ところが中国では09年の時点で国内販売台数が1,364万台を超し、10年後には2,300万台になるとの予測もある。

この流れを受け、マーケットに近い地域での生産ラインの整備が加速。部品や設備、型といった日本のものづくり企業が得意とする分野での現地調達は拡大傾向にあり、ボリュームゾーンでの設計、製造は争奪戦だ。一方でセンサー、鍛造、メッキ処理関連の技術にはまだ乏しく、日本企業の「技術」や「商品・サービスのブランド」はのどから手が出るほど欲しているところである。

シリコンバレーに目を向けると、サンノゼ、サンタクララの2地域のみでも約400社の中小製造業が集積している。産業分野は多岐にわたり、現在ではITのみならず、軍需産業やバイオテクノロジー、新エネルギー分野のベンチャー企業が多く誕生しているという。加工部品、組み立て技術などのニーズは幅広く存在しており、中小企業にとってみればその可能性は未知数なのである。

日本のものづくり中小企業がこうした実情を肌で感じることこそ、海外での事業展開の第一歩なのである。

一騎当千の覚悟で臨む
写真1

             中国系自動車部品工場(広州)
                 現場改善・作業改善の余地有り

実際、私も幾度かの渡航を通じて、海外でも勝負どころがたくさん潜んでいることを感じ取った。たとえば、今や右肩上がりの中国経済だが、先行きを不安視する中国人経営者も存外に多い。各国は最先端技術を出し渋っている状態にあり、中国国内の技術導入は鈍化傾向にあるからだ。加えて中核技術者の流動が激しく、ノウハウが蓄積できないという問題も浮上してきた。品質管理部門が、日本に回帰している事例もある。こうした状況を受け、中国企業は日韓や欧米において優秀なメーカーや人材の確保に乗り出している。中国が圧倒的な規模で市場としての魅力を放ち始めた一方では、このような隙も垣間見える。前述したようにアジア圏全体を一地域としてとらえた企業活動はもはや、必然だ。今この時に中小企業は見聞を広げ、保有技術の高度化に向けた国内企業の連携や産学官連携を強めていくべきである。

「蟻の穴から堤も崩れる」という。中国経済が成長を止めたとき、3度のバブル崩壊を経験し、乗り越えた日本の中小企業経営者の強みやすごみが発揮されることだろう。中国脅威論から脱却し、一騎当千の意気込みで日本のものづくり企業がもう一頑張りすれば、再び、技術立国としての復権が得られると確信している。

同様のことは米国にも言える。シリコンバレーで活躍する企業の大半は、韓国や台湾の企業が占めている。技術的には日本国内の先進的な中小企業のレベルにはるかに劣るにもかかわらず、だ。納期対応や技術提案などソフト面も弱い。こうした背景を知れば、やるべきことは見えてくる。日本の優れた技術や対応こそが、研究開発の最先端地域で必要とされているものだと強い思いを抱いている。

地域の大学の資産を生かす
写真2

          日系IT企業(ミャンマー・ヤンゴン)
              ヤンゴン大学の優秀な学生を採用

忘れてはならないのが各地域にある大学の資産の活用だ。現在、多くの大学はその研究分野において海外の大学と連携を強化している。長野県上田市にキャンパスを置く信州大学繊維学部を見ても、米国、中国、英国、韓国など37の大学や研究機関・企業と交流協定を結び、海外企業でのインターンシップや留学生の受け入れが進む。

先の予算案では平成23年度文部科学省の大学関係主要経費が拡充される見通しであり、研究・教育、職業人育成など各大学にあった機能の強化が見込まれる。大学には新産業の成長著しいシリコンバレーや、環境・介護などで世界をリードする欧州諸国とさらなる連携を深め、情報収集や商品企画力を高めていくことが望まれる。人間工学や感性工学といった日本の誇る研究成果や環境エネルギーなど成長分野の技術開発、商品企画を推し進め、日本は世界に対するアジア圏の司令塔の役割を担っていくべきである。

また、人材という観点から見ても大学の果たす役割は大きい。昨今の就職難を見れば、今後、若者の大企業離れが進み、やりがいを求めた優秀な若者が中小企業に集まってくると予想される。彼らの活躍フィールドを考えると、国際化業務が進展することは想像に難くない。また、自社の海外部門を強化するうえで、留学生の採用を検討することも必要だろう。なぜなら、留学生は自国ではエリート階層。業務提携の可能性も十分あり得るからだ。現在、日本で学ぶ留学生の総数は14万1,774人(平成22年5月1日付 独立行政法人日本学生支援機構調べ)。そのうち中国からの留学生は約8万6,000人と約6割を占める。こうした人々が日本の中小企業とネットワークを持つことを考えると、それだけで多種多様な展望が開けてくる。

中小企業の海外展開の鍵は、地域の大学にあるといっても過言ではない。われわれ地方のコーディネータは、今まで以上に地域の大学と強固に連携し、国内外から大学に集まった情報を、地域の企業に還元することに注力すべきである。