2005年1月号
巻頭言
顔写真

尾身 幸次 Profile
(おみ・こうじ)

衆議院議員
(元経済企画庁長官/
元科学技術政策担当大臣)


フロントランナー時代に入ったわが国は、「知」の創造とその活用による世界最高水準の「科学技術創造立国」を目指して、科学技術政策を推進している。

技術革新サイクルの短期化、融合領域の拡大などが進む中、企業は、厳しい国際競争を勝ち抜くために、大学の優れた研究成果を積極的に活用することが重要である。一方、大学は、経済社会の期待に応えつつ特色ある研究・教育活動を推進し、知の還元を行うことが求められる。

このような背景のもと、大学の優れた研究成果を実用化につなげる産学官連携は、今後のわが国の発展の大きなけん引力となるものである。

産学官連携は、関係者の相互理解や努力もあり、着実に進展してきている。大学と企業との共同研究や技術移転機関(TLO)の活用は、ここ数年間で大幅に増加し、共同研究は約9,000件、TLOは約40組織、大学発ベンチャーも900社を数えるに至っている。

産業界および大学の英知と技術力、資金力を結集する経済活性化プロジェクトは、省庁の枠を超えた協力の下、産業競争力の強化を目指して、平成16年度現在全国で約300プロジェクト、予算総額約6,100億円の事業が展開されている。

地域経済や地域社会の活性化の観点からも、産学官連携の果たす役割には大きいものがある。知的クラスター創成事業*1、都市エリア産学官連携促進事業*2、産業クラスター計画*3などが年々拡充され、大学と地元企業との間の各地域の特性を生かした連携により、研究開発機能の集積が進んでいる。

今後の産学官連携の方向を示すいくつかのキーワードを挙げてみたい。

まず、大学改革である。産学官連携は、大学にとっても教育研究の高度化を促し、国際競争力を強化するものである。国立大学法人化などの制度改革を最大限活用して、柔軟に産学官連携に取り組み、魅力ある大学づくりをすることが求められる。

企業については、今後は、自前主義にとらわれない、いわゆるオープンイノベーション*4が新しいビジネスモデルであると考えられる。外部の技術ソースとのネットワークをマネジメントする能力が不可欠となってくる。

産学官連携の形態としては、個別連携から包括連携へ、そして開かれた連携へという動きを見ることができる。個別の研究テーマごとの連携というスタイルから、技術交流、人材交流、情報交換など幅広く、組織と組織の間で連携するスタイルへの移行により、柔軟かつタイムリーな技術開発が行われる。このような枠組みで連携を深化させていくには、知的財産(知財)や秘密保持などについて契約関係の中で明確化しておくことも必要である。

人材育成も産学官連携における重要なテーマである。産業界が求める実戦力のある人材をいかに大学で育成していくか、技術開発と経営の両面で力を発揮できる人材をどう育成していくかなど、大学のカリキュラムの充実やMOT*5コースの設置、実践的インターンシップなどに期待が寄せられている。

知的財産の保護と活用も大きな課題であり、知財管理体制の整備強化、適切な権利化のための支援などの戦略が必要である。

産学官連携は、既に創成期を過ぎ、課題を克服しつつ、質的な充実を図るべき段階にきている。今後ともわが国が世界に貢献しつつ、持続的発展を遂げていくことを目指し、関係者が情報交換を密にして、より一層産学官連携を進めるために、この産学官連携ジャーナルが活用されることを期待し、巻頭言とする。

*1知的クラスター創成事業
地域科学技術振興施策のひとつ。自治体を中心に大学や公的研究機関を核として、関連研究機関や研究開発型企業などが連携し、国際的な競争力のある技術革新のための知の集積を目指す文部科学省の研究開発に関する事業。
参考サイト:(社)政府資料等普及調査会「地域科学技術振興施策」
http://www.gioss.or.jp/current2/cr041004.htm

*2都市エリア産学官連携促進事業
全国各地にある都市エリアにおいて、大学や公的研究機関などの「知恵」を活用して新しい技術シーズを生み出し、製品化一歩手前まで育成し、ベンチャーなどの新規事業創出、研究開発型の地域産業の育成を目指すもの。また、都市エリアにおける産学官連携事業の促進を図ることを目的とする。

*3産業クラスター計画
各地域における人的ネットワークの形成を核としてイノベーション創出の環境を整備し、それにより内発型の地域経済活性化を実現しようという経済産業省による施策。
参考サイト:経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/

*4オープンイノベーション
企業が自社内部に産み出した知識だけでなく、外部の知識も活用して技術革新を起こす枠組みのこと。

*5MOT
Management of Technology.技術経営のこと。