2005年1月号
特集
コーディネータにおける”熟練”の本質
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稲村 實 Profile
(いなむら・みのる)

財団法人岡山県産業振興財団
岡山県産学官連携コーディネーター



第三者の視点の重要性

高度成長期には時の流れとともに基礎研究、技術開発から市場化へと直線的に続くリニアモデルが失敗知らずで、これが事業化についての正論とされていたが、最近、従来とは異なりイノベーションのモデルにも市場主導型や、市場共創型などが台頭して、企業の持つ潜在的ニーズと新規性にあふれた大学のシーズを結びつけ、新規事業展開につなげていく、産学官連携コーディネータの活躍に世の中の期待が集まっている。

しかし、大学と企業はその生い立ちから種々の相違点を持っている。

大学と企業の決定的な相違点は、研究遂行のプロセスである*。企業では、1つの研究テーマに対して社員が総力をあげて求心的に解決をはかるのに対し、大学人には、狭いところを長年にわたり探求し続けた人が少なくない。大学人の多くは、経営者観念が不要であり、同業者および異業種人との連携の機会も少ないため、一国一城のあるじとなりやすい。そこで大学人はまず、学・学(学内・学内)連携して「わが研究室」という個人商店から脱却すること、目線を同じく、同じ土俵で、同じ言葉で議論することが、大きなシーズ技術による効果的な産学官連携のための出発点である。

そして、大学は教育・研究という従来業務に加えて、社会貢献という立場に立って、与えられた企業ニーズに沿った研究テーマを設定し、自らの組織力(リーダーシップ)で学内協力者をメンバーに引き込み問題解決していくことが望ましい。

これまでの経験から、産学官連携で成功するためには、企業はあまり外部の人たちに吐露したくない最高機密である企業ニーズをさらけ出し、主体性を持って学・官・公を共同研究チームに組織化して設定された共同研究テーマを命がけで深掘*していくべきで、「主役は自分だ」という認識を強く持てと言いたい。

また、官は黒子として、研究テーマ遂行に必要とする費用のごく一部を気付け薬として拠出する役割を持つ。

なかなか公の場に出てこない企業の潜在的なニーズと大学の革新的シーズを結びつけ、新たな事業展開へとつなげられるような公の立場である産学官連携コーディネータの活動に期待が集まっているのは当然の帰結といえる。そして公は、あくまで黒子として、陰ながらリーダーシップを発揮するが、共同研究という踊りの場において共催者ではなく、後援者であることを忘れてはならない。

産学官連携のきっかけは「大学」、「企業」いずれからも起こりにくい。双方を広く見渡すことのできる第三者機関、踊りの場を作り出す仕掛け人の存在が大切である。

コーディネータの役割などについて
1. 何故(なにゆえ)ニーズオリエンテッドの産学官連携なのか

そもそも、著者が拝命することになった、岡山県の地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)*1のコーディネータは、大企業技術者のOBであり加えて中小企業の経営経験があることを必要条件として人探しをしていたと、上司のY氏から聞かされた。(財)岡山県産業振興財団に採用され出勤した初日に氏から、「(大企業でなくて中小)企業のニーズを主体にコーディネータ活動をするよう」指示され、すべてはここに始まっている。

著者は、公的コーディネータの経験はまったくなかったが、早速地獄?の毎日が始まった。企業の人とMan to Manで知りあうためには、まず、「やる気のある」経営者が集まってくる11の研究会と10の異業種プラザをはじめ、財団主催、共催、ならびに後援の行事には必ず出席し、交流会にも参加することが指示され、実行に移された。昼の部はまあまあの自主性が許されたが、アフター・ファイブは、上司自ら「さあ始まりますよ、行ってらっしゃい」で逃げるわけにはいかない始末である。

著者は、財団に入る前は、土・日のボランティアで県の非常勤技術アドバイザーをしていた。IE*2の担当で、県の工業技術センターの担当者(Na氏、Fu氏)につれられ、「やる気のある」企業*3を訪問し、IEの指導をしてきた。工場の生産性向上のために改善の手順を説いていき、会社訪問の何回目かに、当方の得意ジャンルである「20 Keys」*4という工場改善活動の伝家の宝刀を引き抜いて、このプログラムにチャレンジしてもらう。こうなればこちらの思うつぼである。

こうした手法を駆使して岡山県下の企業に、「20Keys」について手作りのスライドで話をしてきた。財団で毎日のように実施される交流会で出会う未知の企業経営者と名刺交換して、おしゃべりしているうちに、その企業についての改善の手順が直感的にぼんやりと見えてくる。そして別れ際に「今度、近いうちにあなたの会社に遊びに行ってもいいですか? 工場を見せてください」と言うと、100人のうち99人の方は「どうぞ、どうぞ喜んで!!」ということになる。こんな単純なことが、企業のニーズを引き出すための糸口となることが多かった。

これに対して大学の先生方の技術シーズは成功経験ばかりで、その成果に至るまでの失敗経験は表現されることがほとんどない。「わが門を叩け、さすれば成功経験(ただし、学会にて公開済み、私有する特許などの知財権はほとんどなし)を与えん!」となる。

これまで電気・機械・金属ならびにIEという、著者が浅く学んだ分野に属する学のシーズについては、研究シーズの先進性に難点を感じることが多かった。そのため共同研究のテーマに取り上げることを逡巡するきらいがあったことは否めない。これまで電気・機械・金属ならびにIE分野の先生に厳しくあたったことを少し反省している。

縷々(るる)書いたが、ニーズオリエンテッドというのは、人生の大半を企業で過ごした著者のこれまでの社会生活を反映するものに過ぎない。元大学教授や公設試所長など、人生をシーズの側で過ごした方は、原則的には、シーズオリエンテッドでコーディネート活動することで成功確率を高めることができる。

前述したように、「主役は自分だ、という認識を強く持て」という企業の役回りからして、ニーズオリエンテッドのテーマがシーズオリエンテッドのテーマに比較して事業化への成功確率が高いことは自明の理というものだ。

2. 企業に対する支援で心がけている点

武田信玄が言い残したように、人が第一、戦略は二の次と心得ること。仕事で最も重要なのは適材適所の人的ネットワークであって、優れた人を得なければ、どんなにいい戦略も実現できない。

一番大切なことは、「やる気」のある企業のみを選択することだ。一言で言うならば差別化すること、差別化は実につらく厳しいが、差別化できない人はコーディネータ失格だ。改善のアイデアは常に企業の現場から生まれる。

ずいぶん以前に(独)科学技術振興機構(JST)から、「次世代のコーディネータの人物像とは」というアンケートを受けたことがある。著者は答えていわく、

[1] 馬鹿さ、好奇心、スペシャリティ。
[2] 現場にこそ真理がある、「情熱」をもって。
[3] 相手の「目線」で傾聴・対話。
[4] 「ミツバチの集団」的思考、80%は組織方針に忠実に行動、残りの20%は柔軟で、好奇心に富んだ行動、この少数派の人たちの論理的・創造的思考形態が新しい「お花畑」を見つける。
[5] 教育者たれ。幅広い「経験」と、磨き上げた「勘と想像力」と、たくましい「意志」を武器に、後輩のために行動すべき。
[6] 自ら高揚して相手をのせるエンジンと、時にはさめた頭で周囲と一緒に戦略を考えるクーラーを持つ。
そして、
[7] 誰にでもおくせず意志疎通できるタフな神経、行動力、マンパワー。

原稿を出そうとして財団の同僚たちに検閲してもらったら、「(7)を追加しなさい、これこそあなたのもつ強烈な特性であるし、ほかのコーディネータたちにも持ってほしい特性である」と示唆された。

3. コーディネータ養成に必要な研修内容

人数が急増してきたコーディネータの養成に必要な研修内容として、「経験」ある先任コーディネータによる先進事例の講話を聴くことに勝るものはない。ニーズ側・シーズ側の人たちとコミュニケーションする技術として、特に大切なことは、揺らん期に関係を構築して、対話できる(From the Cradle)ことと、リーダーシップを発揮して、アセスメント~目標設定~介入~必要ならクロージングできる(To the Grave)ことである。

自前で調達すべきコーディネート能力(獲得すべき対象)としては、共同課題研修、例えば(財)全日本地域研究交流協会(JAREC)の目利き研修会など(ベストプラクティス・自ら異質な視点の存在に「気付く」こと)に参加し、他人からコーディネート能力を得て、その後ステップアップして自分のコーディネート能力を高めることができたと思っている。このJARECの目利き研修会では、はじめて岡山会場開催をコーディネート? して、これを実現していただき、岡山県の産業戦略強化政策に貢献することとなった。黒子として大変うれしく思っている。

4. 技術評価に成功した人々

ジョージ・ディなどは、技術を評価するにあたり、「新技術の出現の気配を感じとることが大切で、そのときにおってくる強力なシグナルは特許・ノウハウおよび文献の引用、コンペチターの行動であり、弱いシグナルとしてはナレッジネットワーク(同業者とのミーティング、学会、継続的な教育により築かれた非公式ネットワーク)、競争上の知力であるとした。そしてこれらの事象を同時発見あるいは収束することだと言っている。そして評価の実施(コミットメント)段階では、「Watch & Wait(注意して待つ)、Position & Learn(ポジションをとり学習する)、Sense & Follow(感じ取り理解する)ならびにBelieve & Lead(信じて導く)である」とした。

一方、国内で技術評価に長けた経営者のひとりである林原氏*5は、「部下の研究者が好きで興味がある(テーマの研究開発だ)からやらせている。応用ではなく、基礎研究の分野である。あるひとりだけが好きな研究だから、競争者はいない。だから独創が生まれる。独創こそ割があうのである。応用研究は少し油断するとすぐに陳腐な技術になる。基礎をベースにした研究は違う。研究のすそ野から成果に至る過程、派生する副産物まで、すべてが自分のものだ。これは多少のことでは、ほかは追随できない。独創はリスクが大きいと思われているが、実は逆で、人まねほどリスクの大きなものはない」と言う。社長の役割は、「まず『結果の責任はすべて私がとる』ことを明確にし、新しいテーマに挑戦させることだ。研究者ひとりひとりの発言を聞き、テーマをまとめたりはしない。合議などで決めるのは、とんでもないこと。みんなの意見を聞きつつ社長が決める。適切な研究テーマは人を育てる。しかし、これまでの研究開発には数知れぬ失敗や、失敗に終わりかけたケースがある。多くの失敗は忘れ去られるが、会社の現在は、その上(数多くの失敗の積み重ね)にあることを忘れたくない。このことを次代の人、とりわけ若い人たちには知ってほしいと思う」と言っている。

もうひとり、武田薬品工業(株)の故藤野相談役は「研究で、当たる人と当たりにくい人がいる。当たりやすい人には『予知能力』がある。薬になりたいと言っている化合物の叫びを、研究者がその構造をみて、その声が聞こえるかどうか? これこそ『感性』しかない。そこまで感性を磨かなければ創薬研究をやっているとはいえない」と言っている。

上述したように、技術評価に成功した人々はどの人をとっても定量評価することなく、察するところどうも定性的に評価をしているようである。

著者も数少ないコーディネータ体験から現場の実体験、仮想体験、成功体験ならびに失敗経験を積み重ねて勘が働くようになるのだと思う*。いうまでもないが、一番重要な経験は失敗経験である。技術だけで評価せず、総合的なリスク評価を加えて意志決定することが事業化成功への信頼性を高めているように思われる。

そして著者のように感性が少し足りないコーディネータは、どのようにして感性や勘を磨いていけばよいのか? それを次に述べたい。

5. 科学的かつ定量的技術評価

JARECが実施している技術移転にかかわる目利き人材育成研修プログラムで策定した技術移転にかかわる成功・失敗因子分析方法では、表示された項目について、5段階評価で重みをつけ、各項目を5点満点で採点すると、そのコーディネータの技術移転テーマについて現状で改善しなければならない問題点が定量的に表現されるようになっている。シーズ発掘・技術評価・技術育成、市場開拓・市場参入計画、知的財産マネジメント、ライセンシング、技術開発支援、事業計画支援ならびに事業推進支援の7つの大項目についての評価点がレーダーチャートに示される。同じテーマについて時系列的に進度管理に使うことや、審査のために使うこともできる優れもので、いろいろな使い方が考えられ、この分析方法の普及が期待される。

結びに代えて

著者が若いころ、所属企業の職場で責任者としてコーディネートした技能五輪の選手強化訓練方法は、産学官連携コーディネータの技能伝承方法との類似性があり、相通ずるところがある。

三菱重工業(株)・神戸、川崎重工業(株)・神戸ならびに石川島播磨重工業(株)・相生という造船王国兵庫県で、これら強豪をしりぞけて溶接種目の県大会上位入賞はすべて所属企業が独占することにはじまり、これを数年間連続して維持し、数年のうちに全国大会で優勝し、ついに第20回国際技能五輪大会に参加して優勝を飾るという物語だ(*)。

表1 技術移転にかかわる成功・失敗因子
     分析方法

表1

筋の良い優秀な技能面での先輩(養成工と言っていた)が、筋の良い「やる気のある」若い後輩を徒弟制度的に集中訓練し、短期間に熟練者に仕立て上げ、技能五輪世界大会で優勝させたという経験をした。

B.Rogoff によれば、「熟練(Expertise)とは相対的な語彙(ごい)にすぎない、すなわち熟練者が未熟練者に比して熟達していて、技能の組織化がある程度進んでいることを意味するにほかならず、それ自身熟達化のプロセスの完成を意味するものではない。徒弟とは、それ自身が単独で学ぶことではなく、周囲の他者の変化を手がかりとし、その実践共同体への参加形態そのものが学習となっていることを表現するひとつのフレームワークであり、徒弟的関係を集団内の随所で築くことのできるような学習の機構を入れ子構造的に内部に備えていることが望ましい」とある。

コーディネータの後継者育成のやり方はまさに上述した徒弟制度的に育成されるもので、筋の良い「やる気のある」若い後輩がいなければそこで「お家断絶」してしまうものともいえる。企業のニーズを捉えて、産学官連携の共同研究・開発のコーディネートをしてきた短い経験から、研究成果という「知」の創成は比較的容易であるが、これを実用化・事業化していくこと(守成)は難しい。官の補助金を注ぎ込み、研究には成功するが、事業化の見通しの立たないプロジェクトが多い。

メンバーの能力を高めあい、練達した産学官連携活動からのみ、成功確度の高い新事業プロジェクトが生まれてくると確信する。

●参考文献

・研究技術計画 Vol.18,No.1/003P22~34

*1地域研究開発促進拠点支援事業
Regional Science Promo-tion Program.地域における科学技術振興と新産業・新技術の創出を促進するため研究シーズの産業化を目指した共同研究の企画や技術移転など研究コーディネート活動を支援することを目的とする。

*2IE
人・物・設備を総合したシステムの設計、改善・確立に関する活動であり、そのシステムから得られる結果を明示し、予測し、評価するために、工学的な分析・設計の原理・方法とともに、数学、物理学および社会科学の専門知識と経験をよりどころとして行うものである。

*3「やる気のある」企業
開発型企業、高い独自性、価格優位性、品質・機能優位性、柔軟性を有し、競合製品・競合技術と差別化が図られた高付加価値な製品・技術を開発することがコア・コンピタンスとなっている企業、こうした開発が付加価値の源泉となるよう目指している企業。

*4「20Keys」
元三菱重工相模製作所生産技術課長の小林厳氏による工場改善活動プログラム。製造工場の製造体質を抜本的に革新する具体的な進め方とやさしい改善手法のこと。"工場革新"に必要な20項目をそれぞれ5段階評価し100点満点を目指す方法。これらの20項目は「相乗効果」が得られるよう相互に関連しあうようにしており1つの項目の改善が進むとほかの19項目も自然と向上する。

*5林原氏
林原 健。株式会社林原社長。岡山にあって「インターフェロン」の研究・製造など研究開発型企業として世界に通用する独自の技術開発を行っている。また、メセナ(文化支援活動)を中心とした社会貢献活動を積極的に行っており、第1回「メセナ大賞」を受賞。

*参考資料資料
ジャーナルサイトに別途掲載のpptファイルを参照のこと。

**「コーディネータ」と「コーディネーター」の表記について
本ジャーナルでは、特例を除き「コーディネータ」で本文を統一しています。肩書などについては各所属機関での名称を使用しています。