2005年2月号
産学官連携事例報告
産学官連携人材の継続配置へ向けた一提案
-公設試の現場から
顔写真

小山 康文 Profile
(おやま・やすぶみ)

岩手県工業技術センター
連携研究主幹



拡大する産学官連携人材

筆者は、最近10年の間に岩手県科学技術振興室、(財)岩手県高度技術振興協会、岩手大学地域共同研究センター、そして現在の岩手県工業技術センターと異動し、一貫して地域の科学技術政策と産学官連携政策を現場で推進する役割を担ってきた。その中で、旧科学技術庁生活・地域流動研究および地域先導研究、旧科学技術振興事業団(JST)地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)地域コンソーシアム研究開発事業、JST地域結集型共同研究事業、文部科学省産学官連携コーディネータ派遣事業、経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業、文部科学省都市エリア産学官連携促進事業といった、一連の政府助成プロジェクトの導入や実施に関わってきた。この間、RSP事業による「科学技術コーディネータ」の配置を契機に、地域結集型共同研究の「新技術エージェント」、文部科学省の「産学官連携コーディネータ」、都市エリア産学官連携促進事業の「科学技術コーディネータ」と、いわゆる産学官連携コーディネートを司る人材の配置を支援する事業が増え、これらの人材は、それぞれの事業や機関において大きな役割を果たしてきている。

産学官連携人材の消失という問題

岩手県においては、平成8年からのネットワーク構築型RSP事業の科学技術コーディネータ1名、平成12年からの研究成果育成型RSP事業の科学技術コーディネータ4名の配置は、今日まで地域産学官連携の発展を支える基盤として機能してきた。RSP事業の枠組みのもと、科学技術コーディネータの草分けの一人であり、現在も主導的役割を担っている丹野和夫氏を中心に、大学研究者、産業支援機関、そして企業のネットワークを構築して、産学官それぞれから数多くの研究成果(シーズ)を収集し、育成試験とそのフォローアップを行ってきた。さらには、可能性ある成果をほかの研究開発事業に橋渡しして、商品化まで繋ぐなどの成果を上げるなかで、県内の産業支援機関、大学、公設試(工業技術センター)においても、産学官連携に取り組もうとする機運が醸成されてきた。

しかし、国の指定を受けて9年間実施してきた本県のRSP事業も、本年3月で終了することになっている。これに伴って、4名の科学技術コーディネータ(大学OB1名、民間OB3名)が退任してしまうとなれば、彼らが築いてきた人的ネットワークや産学官連携のノウハウの多くが、十分に継承されないまま消失してしまうことが懸念される。

すでに、平成11年10月から平成16年9月まで実施された地域結集型共同研究の新技術エージェント3名(民間OBの非常勤1名、民間派遣の常勤1名、地元大学教員の兼務1名)は、事業終了と同時に、退任もしくは派遣元に戻ってしまった。平成14年に開始され、本年3月に終了予定の都市エリア産学官連携促進事業の科学技術コーディネータ2名(民間派遣の常勤1名、民間派遣の非常勤1名)も、派遣元の民間に戻ることが予想される。

これらのプロジェクトに配置された産学官連携人材は、事業の期間中、それぞれにまったく違ったベクトルを有する「産」と「学」を協働させて、研究開発を推進するための調整が主な業務となる。したがって、具体的な事業化への取り組みが始まるのは、むしろプロジェクト終了後になるのだが、その段階では、中核となっていた産学官連携人材が任期切れで不在となってしまうことから、せっかくの研究成果を事業化に発展させる取り組みが滞ってしまうという強い懸念がある。

産学官連携人材の継続配置

一連の事業を経験するなかで、本県では産学官連携とその連携人材の重要性が認識されてきたところであるが、多くの事業が平成16年度にたて続けに終了し、プロジェクトで活躍された数多くの産学官連携人材が流出し、事業化に向けた十分なフォローができない事態となっている。人材の継続配置がままならない悩みは、本県だけでなく、すべての地域が抱えていると思われる。

その対策として、県が独自の制度を設けて、産学官連携人材の配置も含めたプロジェクトのフォロー事業を検討することは、もちろん必要である。しかしそれ以前に、例えば、RSP事業の科学技術コーディネータや、地域結集型共同研究の新技術エージェントの人材を、県や自治体、産業支援機関、公設試といった地域公共機関から派遣した場合でも、その人件費を事業の枠組みの中で支援するような仕組みができないものだろうか。こうした仕組みに支えられて、地域公共機関の人材が、産学官連携の現場でノウハウを積む機会が促進されれば、事業終了後にそれぞれの派遣元に復職してからも、事業期間中に構築したネットワークやノウハウを活用して、その後の事業化に向けた連携活動を地域において継続できるのではないだろうか。

公設試における産学官連携人材の育成支援を

このような制度が可能となれば、公設試もその主たる業務として産学官連携を掲げ、自ら積極的に産学官連携人材を養成・配置し、産学官共同研究開発プロジェクトの企画立案から関わり、事業が採択されれば所員をコーディネータとしてプロジェクトへ派遣し、プロジェクト終了後には再び公設試に復職し、地域支援の現場において事業化に向けた継続的な連携支援が可能となる。

なお、このような制度を待つまでもなく、当センターでは、すでに平成15年4月に筆者を産学官連携担当に任命し、[1]大学との連携による研究推進、[2]競争的研究開発資金による研究開発の推進、[3]産業支援機関との連携による研究成果の事業化支援、[4]北東北公設試間の共同研究検討など、産学官連携業務を主たる業務に位置づけてきているが、今後さらに、前述したような産学官連携人材の派遣支援制度が発足すれば、全国の公設試における産学官連携への取り組みが加速され、地域における産学官連携人材の継続的配置の可能性が広がるものと考えている。

終わりに

本ジャーナルは、オンライン(双方向)の利点を生かして、産学官連携に関わる政策立案者と活動者の議論の場として利用されることが目的であるとのこと、今回の筆者の意見に対しても、「同感である」「すでに制度上運用可能である」「無理ではないか」「それに代わる手法がある」など、各方面からさまざまなご意見をいただけること、有意義な議論が広がることを大いに期待している。

**「コーディネータ」と「コーディネーター」の表記について
本ジャーナルでは、特例を除き「コーディネータ」で統一しています。肩書などについては各所属機関での名称を使用しています。