2005年3月号
産学官エッセイ
日本の産学官連携と技術移転の実際 -米国との比較-
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ジョン・サンデリン Profile
(Jon Sandelin)

スタンフォード大学技術ライセンス室
名誉シニア・アソシエイト



近年、日本は世界各地、特に米国の産学官の関係に非常に注目している。1990年代の終わりから、米国の実状、具体的にはスタンフォード大学の実状を詳しく知るために、日本の大学、政府機関、企業から数百人をこえる関係者が筆者のもとへ視察に訪れている。

筆者の専門は学術研究成果の産業への移転(通常行われるライセンス供与全般とベンチャー起業)であるが、1998年の大学等技術移転促進法*1施行以来、日本はこの分野で著しい進歩を遂げている。この法律により、承認されたTLO*2に対して資金が助成されるようになり、続いて日本の大学による技術移転を促進するほかの法律も整備された。たとえば、

(1) 1999年の産業活力再生特別措置法*3により、承認TLOの特許料が50%減額され、また一方で、中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)*4が制定された。この法律は、米国のバイ・ドール条項が数多く含まれているために、日本版バイ・ドール法とも言われているが、2003年の文部科学省の指導により2004年4月1日付(87の国立大学の法人化が実施された日)で同法が義務化されるまでの間は、これらの条項は随意規定であった。
(2) 2000年の産業技術力強化法*5により、一定の条件のもとで大学教官が顧問料の支払いを受けることが認められ、自らの発明を商品化する際、大学教官は企業の役員を兼ねることができるようになった。また、承認TLOは国立大学の施設を無料で使用できるようになった。
(3) 各種の法律の2002年の改正により、大学発ベンチャー企業が国立大学の施設を利用できるようになり、承認TLOのスタートアップ活動が促進された。
(4) 2003年の知的財産基本法*6により、国立大学の法的身分が変わった。

などである。

米国の大学技術移転管理者協会(AUTM)*7は1974年の設立以来、大学側の要求を政府の政策立案者に対して活発に訴えており、公法96‐517(バイ・ドール法として知られる)などの立法に影響を与えた。これにならって、日本の大学知財管理・技術移転協議会(JAUIPTM)*8も同様の活動を行っている。当初2000年9月にTLO協議会として発足したときの初期のメンバーは、各承認TLOの代表、経済産業省、文部科学省の代表であった。JAUIPTMはおおむね大学と政府の関係者で構成されてきたが、産業界とプロバイダーの両方の代表を、この技術移転団体に多数受け入れることがプラスになると思われる。AUTMの3,000人を超える会員のうち、ほぼ50%は産業界とプロバイダーで、彼らはAUTMの活動に貴重な支援とアドバイスを行っている。AUTMの年次大会での「Networking Fair」は、大学、業界、政府の関係者が交流し、貴重なネットワークを構築する場となっている。

中央政府の役割は、日本と米国でだいぶ違っている。米国には「文部科学省」のような大学の方針や活動を直接コントロールできる政府機関はないので、米国の大学は、自らの裁量で教育、研究、公共サービスの方針を決定できる。昨年(4月1日)実施された日本での国立大学の法人化は、より大きな裁量権を大学に与える方向への前進であり、また大学の発明に関する所有権の所在を明確にすることにもなる。これがあいまいであると、米国の経験によれば、大学の研究に投資してもその成果を利用できない可能性がでるため、産業界はそのような投資に消極的になる。ライセンス協会の機関誌les Nouvellesの2004年3月号と6月号の記事で、東京大学のRobert Kneller教授は、この法人化について総合的に論評し、技術移転の実際に及ぼす影響について述べている。

これらの記事によれば、多くの場合、あるいはほとんどの場合、ある発明が開示され大学がその発明について所有権を主張するかどうかを決定するまでの期間が4週間しかないが、これは重大な制限であると思われる。米国ではバイ・ドール条項により、政府資金での発明の場合、政府の後援を受けた団体(これは非営利団体などに限る)が、発明に関する権利を保持することを選択するまでの期間は、(1)政府機関への発明開示から2年経過日、または、(2)発明が公開されたことによる新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする場合にはその出願期限の60日前、のいずれか早い日までとされている。特許出願費用を払う前に、確認研究結果を待って発明を保留したり、発明が有効であることを示すためのプロトタイプを作成するのは、日本の多くの大学では難しいようである。さらに、米国では、最初の発明の公開から特許出願まで1年間の猶予期間(グレース期間)があり、また必要であれば、米国では非常に低い費用でできる仮特許出願もある。このように、最初に発明を公表した後、極めて少ない費用で、費用がかさむ通常の特許出願までの期間を2年間まで延長できる。

日本の方式で米国と異なる点はほかにもある。たとえば、

(1) 日本の大学では、発明の取り扱いについて、米国の通常の場合よりも発明者が強い発言力を持っていることが多い。発明者は、その発明に商業的価値がないので公共財産にしてしまおう、と言明したり、職務に関連した発明でないので発明者がその発明の所有権を保持すべきだ、と言明したりする権利も持つ。
(2) 知的財産権所有についての文部科学省の政策は、大学教員(ファカルティ)にのみ適用され、院生やポスドクは除外されている。米国では、研究プロジェクトに関して金銭面の支援を受けている者は誰でも(学生もポスドクも)、通常は発明の所有権を大学に譲渡するように同意する誓約書に署名することになっている。ほとんどの発明は、教授とともにひとりあるいは複数の院生・ポスドクが共同発明者としてかかわっており、また権利の一部譲渡を要求する外部のスポンサーがついているので、この権利譲渡は重要である。もしその共同発明者である院生やポスドクに発明を譲渡する義務がなかったら、大学は他に権利を譲渡できなくなってしまう可能性がある。ただし、日本の大学は、発明を行うために大学の施設を使用するいずれの学生も、発明の所有権を大学に譲渡するよう義務を課すことができるので、全部ではないとしてもほとんどの大学がこの義務を課している。
(3) 多くの国立大学は独立した営利目的を持つTLO組織と契約関係を維持しており、この組織がライセンス供与と、通常「贈与」の形態で大学にロイヤルティ収入を戻すことにかかわっている。米国の税法では、大学に支払われるロイヤルティは「非関連事業利益」として税が免除されるため、したがって所得税が発生しない。

などである。

要約すれば、米国のバイ・ドール法が障害を取り払って、大学での効率的・効果的な技術移転プロセスを可能にしたように、最近の日本の法律や政策の変更によって多くの障害が撤廃された。また、米国で1980年のバイ・ドール法成立の後、相当の経済的利益を生み出すために必要とされる、訓練を受け経験を積んだ技術移転の専門家のインフラを築くまでに長い時間を要したのと同様に、日本でもかなりの年数がかかると見られる。スタンフォード大学の技術移転オフィスの設立は1969年である。1969年から1980年には、ロイヤルティ収入は累積で4,100万ドル、1981年から1990年には、ロイヤルティ収入は累積で4,000万ドルであるのに対し、1991年から2000年では4億ドルとなった。ただし重要なのは、この4億ドルの大半が1970年代に公開された発明から得られているという事実である。

●参考文献

・”Guide to Technology Licensing Organizations (TLOs) in Japan” FY2003, Industry-University Cooperation Division, Ministry of Economy, Trade and Industry

・Kneller, Robert, “Transformation of Japan’s National Universities into Administratively Independent Corporations”, les Nouvelles, March 2004, pp. 1-5

・Kneller, Robert, “The New Japanese System of Technology Transfer: Concerns related to the Role of University IP Centers”, les Nouvelles, June 2004, pp. 69-72

・Kneller, Robert, “University-industry cooperation and technology transfer in Japan compared with the US: another reason for Japan’s economic malaise?”, University of Pennsylvania Journal of International Law 2003 24 (2)

・Nishizawa, Akio, “The New Management System of Intellectual Property Rights in Japanese National Universities”, Innovation Matters, August 15, 2003 Vol. 1, Issue 6 (www.techingroup.com)

・”Status of Japanese Technology Transfer”, A workshop held at the AUTM Annual Meeting in February 2003 with the following presentations:
New System of IP Management and Technology Transfer of the Japanese University by Mr. S. Tanaka, MEXT
New Industrial Policy to Enhance the Cooperation between University and Industry by Mr. M. Hashimoto, METI
New Management Policy for IP and Technology Transfer by Dr. S. Kodato, Tokyo Institute of Technology
Management and Tech-Transfer Activities at a Private University- Keio UniversityÅfs Experience, by Mr. K Shimizu, Keio University
Expectation and New Strategy for New University Collaboration by Mr. T. Ito, Matsushita Electric Industrial Co. Ltd.

*1大学等技術移転促進法
正式には大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律。http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/sangakuc/sangakuc10_1.htm

*2TLO
Technology Licensing Orga-nization(技術移転機関)の略称。2004年10月18日現在、承認TLOは38機関(http://www.jpo.go.jp/kanren/tlo.htm)。支援策など詳細については、http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/tlo.htmを参照。

*3産業活力再生特別措置法
http://www.meti.go.jp/policy/business_infra/saisei-hou.html

*4中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)
http://www.chusho.meti.go.jp/gijut/sbir/

*5産業技術力強化法
http://www.meti.go.jp/kohosys/topics/00000087/

*6知的財産基本法
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki/hourei/021204kihon.html

*7大学技術移転管理者協会(AUTM)
http://www.autm.net/index_ie.html

*8大学知財管理・技術移転協議会(JAUIPTM)
http://www.jauiptm.jp/