2005年4月号
連載3  - 実録・産学官連携
大学における知的財産管理方法
顔写真

市川 博子 Profile
(いちかわ・ひろこ)

慶應義塾大学 知的財産センター
係主任・技術移転アソシエイト



はじめに

慶應義塾大学知的資産センターは、1998年11月に設立され7年目になるが、現在は、発明提案ベースでは1,100件以上の案件を抱えており、技術移転のライセンスも約130件あるため、特許担当1名、外国・契約担当1名と計2名の専任者で知的財産(知財)管理を行っている。技術移転活動が活発化するのと並行して、当然その管理体制も充実させていく必要があり、管理すべき情報量も膨大に増えてきている。

以下、大学や技術移転機関(Technology Licensing Office:TLO)における知財の管理方法について、特に実務的な業務フローと情報管理の方法を中心に記載する。他大学から問い合わせを受けることの多い内容については、特に詳しく記載している。知的財産本部やTLOで知財管理を検討する際のたたき台となれば幸いだ。

大学における技術移転活動の流れ
図1

図1 大学の技術移転

大学における技術移転活動は、図1に示す通り、[1]研究から発明が生まれ、[2]特許の出願・権利化を行う。興味を持ちそうな企業を調査して折衝し、条件などを調整後、実施許諾契約を締結して[3]技術移転を行う。技術移転先の企業で製品化に向けた準備を整え、[4]製品化をする。そして[5]さらなる共同研究、委託研究へ発展する。技術移転後に、製品化のための共同研究がさらに加わることも多い。また、[3]の技術移転は、特許出願後すぐにスタートするため、[2]の特許の権利化と[3]の技術移転とは、実務的にはほぼ並行して行われていく。さらに、最近は、[3]の技術移転として、発明者自身が大学発ベンチャーを設立し、新規ベンチャーに技術を移転するケースも確実に増えてきている。いずれにしろ、これらの活動すべてに知財がかかわっており、全体をまとめて管理していかなくてはならない。

慶應義塾大学では、図1を用いると、[1]~[4]を知的資産センターが担当し、[5]の共同研究や委託研究の契約書や経理上の管理などは、各キャンパスの研究支援センターが担当している。研究支援センターと知的資産センターとは、研究契約の特許など必要に応じて連携したり、情報を共有したりする。

知的資産センター内では、技術移転担当者と知財管理担当者に大別されるが、技術移転担当者は、技術分野でグループが分かれている。

知的財産管理詳細
図2

図2 業務フロー(特許の権利化)

特許の権利化に関する業務フローを図2に示す。特許の権利化と技術移転に関する業務は案件ごとに特定された技術移転担当者が行い、発明者や特許事務所・企業への事務手続き、経理処理、捺印処理、データ管理は知財管理担当者が行っている。

以下に詳細を記載する。ほぼ時系列に記載している。

(1) 特許相談

特許出願を希望する発明者は、発明の特許性や手続きについて、電話やメールにて問い合わせが来ることが多い。問い合わせに対応しつつ、発明提案書を提出してもらう。特許相談を受けた場合には、この時点から案件管理をスタートする。

整理番号は、受付順に連番で採番している。特許庁へ提出する願書の整理番号が半角10桁以内に指定されているため、同じルールを用いるとよい。ちなみに、外国出願、分割出願の場合には、連番にはせず、元の整理番号に識別記号をつけて管理している(図3)。

案件ごとに、発明者に資料を送付したり、特許事務所に連絡したりと、何かしら作業したら、必ず、日付、担当者、処理、内容を記録しておく。1週間ごとに行った処理を抽出して、業務報告書を自動作成するようにすれば、内容漏れや記入ミスの確認にもなる。

紙の書類は、案件ごとに時系列にファイルして保存する。現在、知的資産センターでは、整理番号順に紙のファイルをすべて保管しているが、PDFなどで管理してもよい。

(2) 発明提案
図4-1

図4-1 発明提案受領書



図4-2

図4-2 連絡書類の自動作成

発明提案書は、知的資産センターのホームページから、誰でも自由にダウンロードできる。書誌的事項、発明の内容、技術移転情報を記載する欄があり、発明者に記入していただくようになっている。弁理士にそのまま送付することを考えて、識別番号や、発明者の住所などもあらかじめ記載してある。発明者の住所は、所属するキャンパスの住所に統一している。

発明提案書を受領した際には、発明提案受領書を発明者に紙面(図4-1)にて送付する。ここで出願中止になってしまう案件もあるため、記念の意味も込めて紙面にてお送りしている。文面など、事務担当が送付する一連の文書は、あらかじめ知財管理ソフトに設定しておけば、宛先や番号など自動出力できるので便利だ(図4-2)。

発明提案書に記載された情報から、代表発明者(発明提案書を提出した人)および共同発明者の所属・連絡先、提案の名称、研究費情報、学会発表情報、技術分野などをデータ入力する(図5)。また、出願しないで放置されることのないよう、発明相談日および発明提案日からアラーム管理をスタートする。特許は、期限を過ぎると権利を失うケースも多いので、期限管理は徹底して行う必要がある(図6)。

(3) 発明インタビュー
図5

図5 データ入力



図6

図6 アラーム管理

発明提案書を受領後、技術移転の担当者が決定される。この時点から、特許の権利化、技術移転とすべての業務を基本的に1人の技術移転担当者が担当する。知財管理担当者は、案件の技術移転担当者をデータ入力する。誤変更防止のため、技術移転担当者と知財管理担当者とではデータベースのアクセス権の設定を変えている。技術移転担当者は、自分が担当する案件について技術移転情報を入力でき、そのほかの案件については閲覧のみができるように設定している。

担当者は、発明者に直接アポイントを取って、発明インタビューを行う。提案書の内容だけでは発明の特許性が判断しにくいケースや、提案書に記載されていない部分に基本発明が隠されているケースも多いからだ。この際、発明者には学内ルール(発明取扱規程、技術移転により収入を得た場合の配分方法など)や今後のスケジュールなどを説明する。

(4) 弁理士選定・発注

発明インタビュー後に、出願要否を決定する。[1]特許性と[2]事業化の可能性の2点から判断するが、出願を見送る場合には、発明者に発明を返却する。

出願を決定するとすぐに弁理士に発注する。知的資産センターでは、多数の弁理士に出願をお願いしているが、同じ発明者の場合は、同じ弁理士にお願いすることが多い。

(5) 出願

弁理士発注後、弁理士と担当者とで発明者に明細書作成のインタビューを行う。インタビュー後、弁理士が明細書を作成し、原稿チェック後、特許庁へ出願する。出願直後に事務所から特許庁の受領書のコピーを送ってもらい、出願番号と出願日を確認する。この時、発明の名称、出願番号、出願日をデータ入力し、その日のうちに発明者に出願完了報告書を送付する。特許事務所には出願電子ファイルをCDで送ってもらうが、受け取りに数日かかってしまうことが多い。

支払い処理時には、支払い金額と日付、内容をデータ入力しておくとよい。案件の経費管理や、弁理士別の料金比較に役立つ。

また、出願から1年以内であれば国内優先権主張出願や外国出願が可能だが、期限の1~2カ月前にアラーム管理をして、外国出願の要否を最終確認するとよい。外国出願費用は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)や経済産業省の補助制度を利用できる。

(6) 出願公開
図7

図7 特許一覧

出願後、約1年半で公開されるが、公開公報は発明者にコピーを送付している。一方、知的資産センターのホームページ上では、出願直後に書誌情報の情報発信を開始する。知財管理ソフトからホームページ画面を自動作成できるように設定しておけば定期的な更新が容易になる。JSTのJ-STOREや独立行政法人工業所有権情報・研修館の特許流通データベースなどの特許流通用のサイトに登録すると公報情報なども付加してくれてさらに有効だ。自大学のホームページで公開している特許一覧(図7)の各案件からJ-STOREや特許流通データベースの同案件のページにリンクを貼ると、より有効活用できる。

(7) 審査請求

出願して3年以内に審査請求を行う。知的資産センターでは、技術移転が完了した案件から優先的に審査請求を行っているが、それ以外の案件に関しては、約4カ月前までに技術移転の可能性を再検討して、審査請求の要否を決定する。審査請求を見送る場合、発明者が希望すれば権利を返却する。特許庁の審査請求料は、国立大学は無料で、私立大学の場合は半額減免となる。

(8) 特許査定・維持

審査請求後、拒絶理由通知がくれば、技術移転担当者が発明者に相談して対応する。

大学の場合、企業に比較して特許査定率が高く、慶應義塾大学でも審査請求したうちの80%以上が特許査定となっている。

特許査定後、3年分の年金を納付すると特許登録となる。年金納付も国立大学は無料で、私立大学は、個人発明家と同様の半額減免措置となる。4年以降は、1年ごとに納付するが、納付期限が切れないようにアラーム管理を行う。

おわりに
図8

図8 大学で管理すべき範囲

以上で特許の権利化に関しての業務は、ほぼ完了する。前述の通り、これと並行して技術移転の業務が進行するため、並行して技術移転の管理も必要になってくる。技術移転の管理方法については、別の機会に詳述したいと思う。

図8は、図1と同一の図面を用いている。従来市販されている知財管理ソフトは、特許の権利化情報のみをデータとして管理することしかできず、図8における発明[1]および権利化[2]の部分のみを管理するソフトしか存在しなかった。従って、他の部分は個別に管理しなければならなかったが、大学の技術移転活動について管理する市販のソフトは、存在しないし、ましてや特許の権利化と同時に管理していくことは不可能だった。実際は、委託研究契約や共同研究契約には、知財の帰属配分や費用負担などが決められているものが多いし、特許の権利化活動と技術移転活動とはほとんど並行して行われるために、それぞれの情報が把握できないと業務に支障が出てくる。特許単独ではなく、技術移転活動にかかわる知財情報全体を一元的に管理していくことが大切だ。

そこで、学内管理用にAccess(Microsoft社)で一から作成した。その結果、案件ごとの収支を表示することができるようになり、統計処理も非常に充実した。年度別、年別に出願件数や登録件数など所望のグラフを作成できるので、傾向を把握しやすく、年報や月報をいつでも簡単に提出できる。発明者ごとや、弁理士ごと、技術移転担当者ごといろいろな角度から統計処理が可能だ。使用しながらもさらに改良を加え、2001年、知財管理ソフト「TL王」(登録商標)として、他大学のTLOにソフトのライセンスを開始した。2004年2月からイースト株式会社に保守・販売を委託し、現在、全国の34大学・TLOにてご活用いただいている。

「TL王」は、図8における[1]~[5]のすべてを管理できるのが特徴だ。イースト株式会社(http://www.est.co.jp/tlo/trial.htm)から体験版を無料ダウンロードできる。興味を持っていただける方は、試用後に感想などいただければ幸いである。