2005年4月号
産学官連携事例報告
神奈川県立神奈川総合産業高校における連携講座について
顔写真

宮原 紳 Profile
(みやはら・しん)

神奈川県立神奈川総合産業高校
校長



県立神奈川総合産業高校の紹介

神奈川県立神奈川総合産業高校(以下学校の愛称であるLiSA*1と称す)は、神奈川県教育委員会の県立高校改革推進計画により相模台工業高校と相模原工業技術高校を再編統合し、2005年4月に開校した高校である。

LiSA設置の目的

産業界を取り巻く環境は、この10年間で大きく変化している。電気・電子産業や自動車産業をはじめ多くの産業の海外進出が進み、各企業の製造部門の海外移転により日本の産業構造が大きく変化し、製造業の雇用人数の減少という現象が起こってきた。雇用形態では、正社員から請負、派遣、パート、アルバイトなどの契約的雇用形態が拡大し、就業構造も変化している。また、社会や経済のグローバル化、情報化の急激な進展も起こっている。

このような雇用環境の変化や科学技術の高度化、グローバル化といった社会の変化に柔軟に対応することができるよう、また、進学して継続的に学ぶ希望や、幅広い分野にわたる学習への希望などに応じることができるよう、科学と国際の視点から産業を総合的に学ぶ新しいタイプの専門高校が設立されることになった。地域や産業界との連携を図りつつ、新たな産業の創出や科学技術の進展に主体的にかかわる創造的な人材の育成をめざす高校である。

LiSAのビジョン
[1]キャリア教育の実践

高校時代から社会で生きて行くために必要な基礎的な知識や能力の修得と将来就きたい職業の目標を持つことを狙いに、キャリア教育を推進する。

[2]地域・産業界との連携教育の実践

地域・産業界・大学・NPOなどと連携し、外部の教育資源を積極的に活用する。

[3]継続的に進化する学校づくり

世の中の変化に対応して、LiSAの提供する教育カリキュラムも進化させる。

“産・学”との連携講座の重要性

本校設置の目的とビジョンの実現を図ることから企業や大学、研究機関と連携した授業を実施する。こうした産業界や大学等と連携する教育活動を本校では「連携講座」と位置づけ、積極的に開講していくが、その理由は以下のように概括できる。
[1]学校は将来社会で活躍し豊かな人生を生きる力を育成する部分社会である。従って、学校から社会へつながる学習活動を推進していくことが自然である。
[2]社会から学校への視線は、進学やスポーツなどの大会における顕著な成果にあり、将来社会で活躍する人材を育成している学校の学習活動そのものに対しての視線が希薄である。従って、学習活動における産業界の「存在感」(プレゼンス)は極めて低いことから、学校(特に中等教育)の学びが社会に出るための学びであるという意識が希薄になっている。こうした状況を打開するために、学校の学習活動における社会のプレゼンスをより一層高める必要がある。

連携講座の形態について

連携して行う学習プログラムは以下の2つの形態の間でさまざまなバリエーションがありうる。

ここで、[1]の典型は講師まで外部から導入するものである。これについては「丸投げ」という批判がよくあるが、われわれは、以下のように判断している。

アウトソーシングすることが生徒の成長にとって現段階で適切であり、生徒・保護者が評価するならば躊躇(ちゅうちょ)せずに導入する。
プロパースタッフ(教員)はラーニングサポーターとして、社会にあるさまざまな優れた学習機会やプログラムを媒介とし、生徒の興味・関心を広げ、日々の学びを「反復」することで、生徒自らが成長することを助けるトレーナーとしての役割をする。
外部の学びの機会で学習した事柄を、生徒自らが発信(プレゼンテーション)することをプロパースタッフが評価する(すなわち評価者としてスタッフが生徒から「学ぶ」側に立つ)ことで単に「教える」よりも数段すぐれた学習効果をもつ。

[2]は、プロパースタッフが素材をアレンジしてプログラムを作成するという意味で、スタッフのエディター能力(フットワークといってもいい)の高さが要求される。

現在そうした能力を持つスタッフは多くない。にもかかわらず、外部の教育現場に対する連携の視線は、この[2]の型に向かう。それは外部の方々が教育活動プロパーではないから極めて自然な視線である。しかしながら、教員のエディター能力あるいはプロデュース能力が概して低い現状では、こうした視線に基づく外部からの連携プログラムは一般化しづらい(どこの学校でもできるとは限らない)。従って、こうした社会から学校への自然な眼差しを反映した連携講座を実現していくためには、次のことが必要となる。

スタッフのエディター能力・プロデュース能力をアウトソーシングの[1]型を反復して導入する中でオンザジョブトレーニングとして育成する、あるいは文部科学省の産学官連携コーディネーターのように、こうした能力の高いスタッフを専属でおくこと。
エディター能力・プロデュース能力を育成するには、プログラムに参加している生徒から評価を受け、フィードバックしてより一層プログラムを高度化していくこと。

05年度のLiSA連携講座
大学生・院生の活用が連携講座実施の際に極めて重要であること

文部科学省のSPP事業*2を実施して、TA(学習支援者)としての大学生・院生の学習プログラムへの関与が果たす高い効果を体験した。これはTAとなる学生の熱意にもよるが、年齢が高校生と近いながらも大学という「次の世界」に存在していることと、TAとは別に「権威」としての講師が存在していることとが相乗的に作用して効果を発揮していると考えている。

従って、TAとしての大学生・院生を活用する連携講座を積極的に構築していくことが今後の最も重要な課題である。また、学習プログラム以外でもアシスタントとしての学生を積極的に導入する。イメージ的には、右の図のように高校生が将来活躍していく社会への「媒介」として学生をとらえ、積極的に高校生の学習などさまざまな高校の活動に参加してもらうという構図を構築していくことである。

*1LiSA
LiSAは本校の理念をLiberal、Science & Arts、 Academyの3文字に集約し、さらに設置目的にある「国際の視点」internationalityを強調するためiの文字を小文字にして添えて作成した愛称。LiSAについてはhttp://www.lisa-ac.jp/を参照。

*2SPP事業
サイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)。文部科学省が、平成14年度から「科学技術・理科大好きプラン」の一環として実施。実験・観察・体験を通して科学技術の本質に接し、その発展に携わる研究者・技術者の姿に触れる機会を充実することにより、「科学技術創造立国」を目指す我が国の次代を担う青少年の育成を図るためのプログラム。詳細は http://www.rikadaisuki-spp.jp/index.htmlを参照。