2005年7月号
巻頭言
顔写真

松野 建一 Profile
(まつの・けんいち)

日本工業大学 大学院技術経営研究科
教授・工業技術博物館長/(財)先端
加工機械技術振興協会 専務理事


5月第1週の連休を利用してスロベニア共和国*1を訪問し、首都のリュブリャナでわが国の産学官連携の状況について講演を行った。同国では、今後の経済発展のためには技術開発が必須であるということから、昨年10月に技術庁(Slovenian Technology Agency)を新設したが、本格的な活動に入る前に、産学(官)連携による技術開発に成功しているフィンランド、アイルランド、スウェーデン、米国、そして日本の状況を学ぼうということになり、同庁から日本人講演者推薦依頼を受けたリュブリャナ大学教授が以前から知り合いの筆者を紹介したため、本年2月に同庁から招聘状が届き、それに応じたというのが真相である。

講演2時間、質疑応答1時間であったので、まず日本の概要紹介として近年の経済・産業や少子高齢化などの状況、科学技術創造立国の必要性を説明した後、1995年の科学技術基本法成立以降の各種の産学官連携推進策、技術移転機関(TLO)、大学発ベンチャー、MOT(Management Of Technology)、国立研究所や国立大学の法人化などの状況を、実例やデータを紹介しつつ説明した。質疑応答では産学官の出席者からさまざまな質問があったが、特に大学教授たちは旧社会主義国でずっと大学所属で身分が安定していたためか、産業界や技術庁の人たちほど連携の必要性を切実には感じていないようであった。

講演の翌日には、独立以前は工業都市であったが独立後多くの企業が倒産して活気を失ってしまったツェリエを訪問した。再活性化のために前記の教授たちの発案で昨年開設したサイエンスパークの1周年記念式典に参加したのであるが、2016年までに6,000万ユーロ*2の資金でその周辺にある倒産工場の跡地を再開発して、240企業、45研究機関、新規雇用者2,850人のテクノポリスにする計画ということであった。「大冒険だね」と言ったところ、「10周年にまた招待するよ」と自信たっぷりであった。

さて、わが国での産学官連携では、各種推進・支援策の実行により、共同研究の数、TLOの実績、大学発ベンチャーの数などが順調に増えてきたことは大変喜ばしいことであるが、今後順調に進展するであろうか。近年、筆者は産学官連携、地域連携による研究開発プロジェクトの提案公募に応募した案件の書類審査、ヒアリングなどに参加する機会が急激に増えてきたが、“産学官連携ブーム”に乗った、研究開発体制が名義貸しではないか、事業化の見通しが甘すぎないかと思われる提案も時折見受けられる。

産学官連携で最も重要なのは参加者の意識であるが、それは十分に整ったと言えるのであろうか。知り合いの大学教授や企業人に本音を聞くと意識は各人各様であり、特に大学教員間、教員と企業や事務担当者との間の温度差が大きいような気がする。この状況では、国などの各種支援策が終わった後、果たしてどの程度の連携、TLO、大学発ベンチャーが生き残れるのか懸念されるところである。優秀なリーダーとコーディネータの下、産学官の情熱を持った人々が連携して成果をあげた事例を数多く積み上げ、諸外国に向かってわが国の産学官連携は大成功であったと自信を持って言えるようになってもらいたいものである。

*1スロベニア共和国
旧ユーゴスラビアの北西端に位置する、四国とほぼ同じ広さで人口200万人弱の小さな国。首都はリュブリャナ。1991年6月に念願の独立を果たし、昨年EU(欧州連合)に加盟した。北はオーストリア、西はイタリア、東はハンガリー、南はクロアチアに接し、わずか数十kmながらアドリア海にも面している。東欧を含む全欧州の中央に位置し、交通の要衝でもあるため、高速道路網の整備が急ピッチで進められている。「欧州の緑」と自負するように緑が非常に豊かであり、また、鍾乳洞が6,000カ所以上ある。

*2
1ユーロ=約130円(2005年6月現在)