2005年8月号
海外トレンド
清華大学の知的財産権管理システムおよび産学連携
-清華大学が担う中国理工系大学の牽引としての
役割-
顔写真

中村 真帆 Profile
(なかむら・まほ)

東京大学先端科学技術研究センター
特任助手



はじめに

私が東京大学先端科学技術研究センターの研究員として清華大学に派遣されたのは昨年(2004年)のことである。受け入れ先である清華大学科研院は2003年度末に新しく設立されたばかりの大学内知的財産管理部門であり、先方の心行き届いたアレンジのおかげで1週間ほどの滞在で多くのことを学んだ*1。その後、今年のはじめに清華大学科研院の2名の先生方が今度は東京を訪問し、東京大学の東京大学TLO(通称:CASTI*2)や東京大学産学連携推進本部、日本知的財産協会などの日本側と意見交換を行った。2回にわたる清華大学との交流を通して、日本の大学も中国の大学から多くのことを学ぶことができることを確信している。どちらからというより、一緒にお互いが直面している問題について考えられるといった方が正確かもしれない。

本稿では、「清華大学の知的財産権管理システムおよび産学連携」というテーマで日本の皆様に清華大学の概況、知財管理の現状、および産学連携の取り組みについて紹介を行いたい。

清華大学概況

清華大学(Tsinghua University)は、中国で屈指の理工系の大学で、北京の学園地区海淀区にそのキャンパスを構えている。清華大学の沿革については、1911年に清華学堂として創建され、翌年にその名を清華学校と改名し、1925年に学部を設け学生を募集し、1928年には国立清華大学とさらに校名を変更し、その翌年に大学院を設立した。第2次大戦期には空爆にあい、校舎が倒壊、学校を閉鎖した。受難の時期を経て、戦後46年に再度大学を清華園に再建した。その後、清華大学は常に中国の技術開発の拠点として国家プロジェクトを引っ張り、「エンジニアの揺りかご」と呼ばれ中国科学技術開発を支えてきた。知的財産権に関しても中国の大学として早くから着目し、1985年度は特許出願件数*3185件(特許付与件数13件)であったのが、2002年度には583件(特許付与件数164件)と約3倍に増えている*4。この特許出願件数、特許付与件数は共に中国の大学の中ではトップクラスである。

知的財産管理機構

清華大学が知的財産権管理について積極的に取り組みだしたのは1996年ごろからで、まず学長をリーダーとするテキスト(知的財産権指導者グループ)を設立、その執行機関としてテキスト(知的財産権管理事務室)を設立した。また、それと同時に学外機関としてテキスト(特許事務所)を設立、清華大学の技術の特許化などの仕事を行ってきた。

1996年から2003年までは前述の「知的財産権管理事務室」が清華大学の知的財産権管理について統括してきた。しかしながら、事務室の下部組織相互の職務の境界線が不明確であったり、運用に際して新たな問題が発生してきたことで、科研管理体制の変革を2003年度末に行い、知的財産権管理事務室を廃止、清華大学科研院を創設した。

図1

図1 科研院体制

現在の科研院体制については図1を参照されたい*5。また、これとは別に2003年に、大学の保有する企業の整理、統廃合を行い、大学の経営に関する資産を用いて「清華控股有限公司(TsinghuaKonggu youxiangonsi)」を設立したことにも触れておきたい。

知的財産権関連規則

知的財産権管理体制を整えるとともに、清華大学では統一したルールに基づく知的財産権管理をめざし、関連規則の整備を積極的に行ってきた。まず、1996年度の第16回学内会議において「清華大学知的財産権保護規定」を制定した。本規定の意義について何点か指摘をすると、まず第1に、清華大学の知的財産権を保護すること、第2に、革新分野の研究開発を促進させ、大学内外の協力と連携を強化すること、第3に大学所属の教授、研究員と大学の利益関係を調整する、それと関連し、大学所属の研究員の対外活動に関しての規範を定める。すなわち知的財産権の流失防止、漏洩に関して罰則を設けることなどがあげられる。

前述の「清華大学知的財産権保護規定」の一環として1998年から知的財産権保証書制度の実施を始めた。この保証書制度というのは、清華大学に入学する大学院生および所属の研究者に「清華大学知的財産権保護規定」の遵守の責任と任務を負うことを規定した保証書に署名させる制度である。そのほか、学部の学生に対しては「知的財産権ハンドブック」を配布し、保証書への署名は求めないものの、その中で知的財産権の保護を義務化している。またそのほかの研究院などに対しては、知的財産権保護に関する契約を結ぶ形をとって運用を行っている。このように、大学の知的財産権の管理については大学をあげて徹底して行っている。

技術開発成果普及の促進への取り組み

次に技術開発成果普及促進への取り組みについて簡単に紹介を行いたい。開発成果普及については、まず「清華大学科学技術成果転化促進に関する若干規定」を制定した。この規定は、1999年の大学会議を通過したもので、本規定は科学技術の転化に成功した者に対する奨励について、大学教授の企業経営に関する事項などを規定した。2001年には「清華大学特許活動強化に関する若干意見」を規定し、論文の執筆と同様に特許が重要であると同規定で記載した。その後、清華大学にとって科研体制の変革年となった2002年度の12月に開催された「第15回清華大学科学技術討論会」において1996年からの科研体制の問題点について具体的かつ積極的討論がなされ、前述の若干規定を補足・修正する形で、「清華大学教授の学外兼職活動に関する若干規定(試行)」、「清華大学教授の学術道徳に関する規則」、「清華大学学術道徳建設強化に関する若干意見」などの学術道徳に関する規則と、「清華大学科学研究機構管理規則」、「清華大学重点実験室および公共条件プラットフォーム建設管理委員会規則」などの科学技術研究体制に関する規則を制定した。これらの規則は、それぞれ清華大学の開発成果普及を支えるものとなっている。

大学と企業の連携

清華大学の企業との連携については、早くからいろいろな形で行われていて、日本でも紹介されている。本稿では、大学と企業との連携モデルの1つとして地方政府との連携による産学連携の取り組みについて紹介をしたい。まず、清華大学は科学技術開発部を設立し、地方政府と企業との仲介を各地の責任者に行わせることで、より緊密な形での連携を目指している。清華大学では現在全国の重要拠点の多くの省(市)と協力協定を結んでいる。清華大学の産学連携の取り組みは地方経済の発展計画にも参与し、地方の経済振興にも力を注ぐことを目標としており、広東、山東、河北には研究開発基金を設立した。

このような地方との連携の拠点として、清華大学はいくつかの機関を設けている。例えば、テキスト、北京清華工業発展研究院、浙江清華長三角研究院、河北清華発展研究院などは研究院型の機関で、そのほか大連産学研連携事務室、江門産学研連携事務室などの産学連携を中心としたタイプ、また温州研究開発センターなどがある。また、以上のような外部機関の設立に対して、清華大学の大学内には1995年に「清華大学企業連携委員会」を設立した。この委員会の役割は企業と大学の架け橋、企業が大学と連携を希望する場合の窓口の役割を担っている。そのほか、清華大学科技園*6、清華大学国家技術移転センター*7、清華大学国際技術センター*8を設立し、国内外企業、大学と地方の連携がスムーズに行われるような体制作りを目指している。

結びにかえて

本稿ではごく簡単に清華大学の知的財産権管理と産学連携について紹介を行った。中国の大学を取り巻く環境も刻々と変化しており、その刻々と変化する情況に応じて知的財産権管理、産学連携についても大学全体として取り組んできた。彼らの行ってきた取り組みは実践対応型といってよいと思う。日本の感覚からみるとそれらは整合的でない場合もあると思う。しかし、運用を行っている現実を含め、私は彼らのこれまでの取り組みについてプラスの評価をしたいと思う。今の清華大学の管理体制もまた変わるだろう。そのような清華大学、ダイナミックに変わっていく中国の現状からは今後も目が離せない。とにかく、やってみるという清華大学の改革に対するフットワークの軽さは日本側にとっては参考になる点ではないかと思う。

最後に、清華大学が中国の大学の産学連携に関するモデルとしての役割を担わされているのは周知の通りであると思うがその点を指摘し、清華大学の取り組みについて調査することの重要性を皆様にご理解いただければと考える。

*1
訪問先としては、大学内機関にとどまらず、「清華同方株式有限会社」の知財部、「北京維信諾科技有限会社」(清華大学発ベンチャー)などを訪問した。

*2 :東京大学TLO(CASTI)
http://www.casti.co.jp/

*3
正確には、専利出願件数で特許、実用新案、意匠の出願件数をすべて含む。

*4
テキスト(1985年-2002年)テキスト2003年6月。訳:「清華大学特許基本データ統計」(1985-2002年)清華大学科学技術処2003年6月。

*5
鄭永平・党小梅・蒙憲飛著中村真帆訳「清華大学知的財産権管理と技術移転の体系」(近日発表予定)より引用。

*6
http://www.thsp.com.cn/参照。

*7
清華大学国家技術移転センターは、中国国家技術センターとして国家経済貿易委員会と教育部から認定を受けている。

*8
http://www.ittc.com.cn/参照。