2005年11月号
特集2  - ベンチャー起業の若手に聞く
大学生のうちに一度は起業! -それは最もローリスクなチャレンジである-
顔写真

間下 直晃 Profile
(ました・なおあき)

(株)ブイキューブブロードコミ
ュニケーション 代表取締役社長
兼 最高経営責任者


必然性があってこその起業

私が今の会社を起業したのは、1998年10月で大学の3年生の時であった。高校時代、体育会と文化祭に明け暮れていた自分は、大学に入って月並みにアルバイトをすることにどうしても興味を覚えることができず、アルバイトに近くてもいいので何か自分の持っている知識などを使ってできることがないかなぁと思っていたのである。そんなところに、ホームページを作ってみないかという声をかけてもらったのがきっかけで、ホームページ作りの勉強に没頭。当時、まだインターネットはあまり一般的ではなく、ウェブサイト(ホームページと一般的には言われているが、本来はウェブサイトが正しい表記である)は素人でも少し勉強すれば追いつけてしまうレベルだった。世間一般で作られているレベルのホームページを作るためには、とりあえず1週間も勉強すれば何とかなった。結局、1~2週間くらいかけて作ったウェブサイトの対価として20万円をもらった。学生の身分からすれば大金である。そして、自分の労力がそのままお金に跳ね返ったいい例であった。ますます興味がわいてきて、どんどん勉強が進む。相変わらず月並みなことが嫌な自分は、何か人と違ったものを提供したい。つまり差別化の意欲がむくむくとわいてきて、他のサイトではまだやっていないこと(当時はアニメーションやゲームなど)を提供してみた。気がついたら、いろんな人のバックアップもあって、お客さんが複数ついていた。仲間も集まってきた。これは会社にしたほうがいいだろうということで、1998年10月に有限会社ブイキューブインターネットが設立されたのである。

なんとも「ビジョンがない」「計画性のない」起業だと言われかねないが、新しくできつつあるインターネットのマーケットにおいて、「新しいこと」、そして「求められること」をやってやろうとして自然と生まれてきたのである。別に社長になりたかったわけでも、会社を作りたかったわけでもない。この頃起業ブームなのか、学生と話すと「起業したいので会社の作り方を教えてください」とか、「社長になりたいんですけど、どうしたらいいですか?」と聞かれることがよくあるのだが、「何をやりたいの?」の問いに答えてくれる人は少ない。会社を作ることも社長になることも、会社法も変わることもあり非常に簡単なのだが、箱を作っただけでは何も始まらない。要するに「何をしたいか」と「何が世の中で必要なのか?」を考えないといけないのだが、漠然と会社を作ってその中でやることを探そうとしているケースが多いように見受けられることが悲しい。

学生起業はローリスク

やりたいことが見つかっても、学生のうちの起業は「経験がないから無理」とか、「一度会社にいってから起業すればいいじゃないか」とか、「リスクが高すぎる」とか言う人が本人、周りを含めているが、学生のうちに起業してしまうことがいかにリスクが少ないかをご存じない方が多い。私としては、

金を借りない
投資を受けない
正社員を雇わない
(できれば)入金されるまで支払いはしない

の原則だけ守っていれば、実際問題リスクはほとんどないと考えている。

最悪、大学4年や大学院の2年になって将来性がないと思えばその事業はたたんで、新卒として会社に入れば済むし、そんな経験をしていた新入社員はもろ手で喜んで迎え入れてくれる。よく米国と違って日本は事業で失敗するとなかなかやり直せないと言われるが、学生でやっている場合には「若葉マーク」もついているし、何とでもやり直せる。少なくともマイナスにはならないのである。ただし、上記の原則を守らないと逃げられなくなるので、リスクを抱えることになる。私の場合には、3番目の「正社員を雇わない」というのを、ある段階で破ったことがきっかけで本格的に事業をやることになった。それらを破るかどうかは、自分たちの将来性を信じられるか信じられないかで大きく変わると思うし、いけると思ったから私は原則を破り始めたのだ。今はすべての原則を破っている。大きく成長していく過程に入ると、これらの原則は妨げになってしまうからである。リスクは抱えた形にはなったが、それらのリスクに対応できるだけの経験も知識もそれなりにはついてきているから可能になるのだ。ただ、まだ先がわからない過程であれば、これらの原則を守っていさえすれば至って安全に多くの勉強をすることができるのである。普通に就職して結婚して子供でもできようものなら、起業することがいかに大変か身に染みるはずである。「大企業にいるあなたと結婚した」的なことを言い出す奥さんもいるし、子供の顔をみていると踏ん切りがつかなくなるのは、想像にたやすい。サラリーマンと起業家は生活が全く異なる。家族の協力は必須なのである。つまり、一般的には起業して駄目になるというリスクを負える環境は、年をとればとるほど難しくなっていく。体力も学生のうちのほうがずば抜けて高い。起業時は体力勝負な部分がどうしてもあるし、その観点からしても早いほうがいいのだと思う。大学へ行きながらの起業は、学生という身分もあるのですべての時間を割くことはできないが、ビジネスを勉強し、会社経営とは何かを勉強するいい課外授業にはなるはずなのである。何より家庭内の邪魔者はいない。ただ、私の場合には大学教授(松下温教授)の高い理解力により「邪魔をしない」というバックアップと、最近では共同研究などでのバックアップをしてもらえたので良かったが、中には事業を「邪魔する」先生もいると聞く。「けしからん」ということらしい。ちゃんと大学で勉強しろと。

大学による「意味のある環境づくり」を望む

これは勝手な提案であるが、優秀な人間を埋没させてしまわないためには、通年で20単位くらいの授業として「起業」を用意して大学が明確に支援をしてはどうだろうかと思う。学生なんてどうせおもしろい授業にはきても、つまらない授業は出席しないでテストをうまくごまかすだけで卒業していく。そんなつまらない授業をとらせるくらいだったら、「起業」という授業をちゃんとした単位のとれる(それも春秋2単位という意味のないレベルではなく、大きな時間を割いてもそれが報われるくらいの規模で、学校に来なくて良い授業。提出物は、事業計画と損益計算書/賃借対照表)科目として用意したら、もっと優秀な人材が発掘できていくのではないかと思う。

また、大学発ベンチャー(産学連携)の事例を見ていると、「大学教授・助教授」が社長になって設立されるベンチャーが少なくない。しかしながら、大変失礼な言い方で恐縮だが、先生方は、

すでに偉い
先生が本業で、しかも忙しい
ビジネス経験者が少ない
国からの支援金や企業からの委託研究費などで金銭感覚が麻痺

しているケースが多い。どれもベンチャービジネスにおいてはマイナスな要素ではなかろうか。ベンチャーキャピタルもようやくこのことがわかってきたようで、先生が社長をやっている大学発ベンチャーには出資をしなくなってきた。パワーがあり、ハングリーでローコストで突っ走れる学生が、有識者の支援を受けて立ち上げる方が圧倒的に成功率が高いのである。

年をとればとるほど周辺環境、内部状態的にも難しくなっていく「起業」。ほぼ全員が大学に行く今、大学が「意味のある環境作り」をすることによって、学生による安全な起業・起業体験のチャンスを醸造していけば、大学発ベンチャーの成功例もたくさん出てくるのではないだろうか。日本が国際競争力を取り戻していくためには、大学・大学生から大きく変化していかなければならないと、自分の起業、知人の起業、そして採用活動を行う上で切に感じるのである。