2005年11月号
連載2  - ヒューマンネットワークのつくり方
産学連携の人的ネットワークづくりにみられる行動基準とバイオ・医学分野での実施事例
顔写真

大石 博海 Profile
(おおいし・ひろみ)

群馬大学 地域共同研究センター
/文部科学省 産学官連携コーデ
ィネーター


(1) 人的ネットワークづくりの行動基準(産官学金の連携)

〈経緯〉

この発想の一端はIM(インキュベーション・マネージャー)研修を受講、具体的に“BI(ビジネス・インキュベーション)システム創成”として進めてきた内容であり(平成16年10月~平成17年1月の4カ月)、これは現在も進行中である。

〈現状〉

図1

図1

群馬大学地域共同研究センター(昭和分室)では、群馬大学医学部(医学科・保健学科)生体調節研究所の教員、および地域企業を対象にした技術移転・技術相談等の実務を、分室長(臓器病態薬理学教授)・産学官連携コーディネーター・事務補佐員で担当している。人的・能力的に業務を遂行する上で、機能を異にする機関・研究所等とのネットワークの構築が必要である。

そこで、技術移転・ビジネスを進める上で、双方が目的を理解・共有化できる人的ネットワークづくりを目指し、 かつ、強固な連携確保を目標にする。

これまで、図1に示すような諸機関(一部、関連する機関を追加)を訪問・趣旨を説明し人的ネットワークを構築してきた。

〈コーディネーターの役割〉

コーディネーターの業務・役割は、コーディネーターがおかれた立場・環境により、活動内容・範囲は異なっているのが実情である。この課題は種々の会議・セミナー等で議論している。

群馬大学地域共同研究センター(昭和分室)におけるコーディネーターの役割は、大学のシーズ探索・共同研究(契約)・商品化開発からビジネス支援(大学発ベンチャー・NPO法人の立ち上げ)である。コーディネーターはこれに至る経過の中で黒子であり、道先案内人と考えている。

事業化(計画)を成功裡に運ぶために、以下の事を念頭に行動している。

ア)双方のリスクを抑え、リスクマネージメントを実行する

イ)必要な時に必要な専門的知識・経験を持つ人材を紹介し課題解決する。

多岐にわたるコーディネーター業務の中で、分野ごとに専門的な知識・関連情報を、迅速に、かつ正しく情報提供することが必要になる。そこで、 この人的ネットワークが不可欠となる。

ビジネスは“生き物”でありクイックレスポンス(迅速な反応)が必要になる。

したがって、そのために十分な情報が入手できるツール、これがネットワークであると考え、試行錯誤しながら、連携パートナーを探索している。

〈行動基準〉

単なる人的ネットワーク(あの研究者・あのヒトを知っている程度)では意味がなく、太い絆・強固なパイプで構築した恒常的なネットワークであることが重要である。 そして、良好な人間関係で成り立っていることもまた必要不可欠であり、この太いパイプこそが、必要な時に力を発揮する。

そのためには、自己研鑽が重要である。すなわち双方が役に立つ関係、有用な情報やアイデアが交換・入手できる間柄になるからである。 広い視野に立って、情報の質と量がうまくかみ合っていることで、信頼関係が深まる。また、相手(顧客)に対し謙虚な行動をとらねばならない。そして、コーディネーターは万能選手ではないことを自覚し肝に銘じて顧客と接する必要がある。例えば、コーディネーターが経験・知識もなく技術相談に応じるならば、それは顧客にとって情報が乏しく、不満足な時間となるからである。したがって、正直に・謙虚に・肩を張らず、弱みをはっきりと伝える勇気が必要である。そこで、コーディネーターは構築したネットワークをベースに、該当分野の専門家を紹介し課題解決にあたる。同時に、紹介後のプロジェクトがいかに動いているか、正しい方向に展開されているかフォローアップする。

組織的ネットワークの場合は、窓口を活用する。機関の窓口は、所属する研究者・開発者の研究概要(目録)等の準備(資料)・把握が必須である。

ア) 組織的・人的ネットワークの構築
行政、群馬県および関東近県の研究機関(公設試)・ビジネス支援機関、専門家(弁護士・弁理士・会計士・中小企業診断士)、金融機関、アカデミア(大学・短期大学・高等専門学校)を結ぶネットワークを構築する。業務を遂行しながら、人的ネットワークを構築している(前ページ図1)。
イ) ネットワークづくりの課題
ネットワーク機関を訪問し、以下の事柄の指摘を受けた。
知的財産・技術にかかわる評価 “目利き人材確保”に課題がある。
質の高い支援内容と機動性をいかに構築するか。
研究開発資金等にかかわる以下の内容:
シーズとニーズのマッチング(共同研究契約の締結)、研究開発資金の投資や融資を積極的に推し進める為に、ベンチャー交流サロン(金融・投資家)の導入が必須である。特に、薬事法と食品衛生法に関与する点、つまり、医療機器・特定保健用食品(機能性食品)は、それらの製造・販売の承認(申請)取得が必要だ。 こ    の為に、医療機関で臨床開発(多額の費用・検証試験データ)を実施、得られた資料(データ)を厚生労働省へ提出し審査を受ける。したがって中小企業が莫大な臨床開発費を負担することはリスクが大きく現実的でない。
異業種の企業がものづくりする場合、販売戦略(ルート)に課題がある。いかに営業展開していくかが課題である。 マーケティング機能が不足している中小企業が対応できるシステムが必要である。
  

〈発展性〉

多施設・多機能にわたる分野のネットワークを組織化し、幅広い地域貢献が可能になりつつある。

(2) コーディネーター間の連携
~バイオ・医学コーディネーター会議の設立~

<設立の経緯>

アカデミアを基盤にしたビジネスはないかとの大学病院からの問い掛けに、学内SMO*1の設置を発案した。これは、全国の大学病院に共通する課題であると考えた。そこで、群馬大学および他大学(全国)の治験実施体制に関する情報入手法を探った。人的ネットワークの構築を目的に、株式会社パソナに相談した(産学官連携コーディネーターのバックグラウンド情報の入手)。当初、自主的な活動の位置付けで、以下の目的に沿ってメンバーを集める事にした。この7月、文部科学省、(株)パソナから、本会議はSIG(Special Interesting Group)として認定された。

<目的>

コーディネーターがバイオ・医学に特化した業務を遂行する。
共通課題を抽出、参加者全員で議論して相互に理解を深める。基本的な事例集を作成して、共有化を図る(将来)。
大学の環境に類似性を持つコーディネーター間で、共通課題を議論、ビジネスとして立ち上げる機会をつくる。

<現在の参加メンバー>

北海道大、帯広蓄産大、弘前大、千葉大、明治大、理科大、慶応大、日本大、名古屋大、金沢大、山梨大、京都大、大阪市立大、大阪大、神戸大、広島大、徳島大、大分大、長崎大、群馬大(20大学、21コーディネーター)

<会議運営(持ち回り・幹事校)>

*メンバー構成

 以下の目的意識を持つ集団である。
 ・専門的バックグラウンドが類似している。
 ・過去にバイオ・医学分野の業務に携わっていた。
 ・バイオ・医学分野に興味・関心がある。

*目的-各大学の取り組み内容を知る。

自大学で活用の機会をつかむ。
自大学での問題・課題の解決につなげる情報収集・事例検討を議論の中から学ぶ。
コーディネーター活動範囲の広がりにつなげる。
業務効率、課題解決に役立てる。

*特別テーマの議論

日常の業務遂行で課題・問題となるテーマを取り上げ、コーディネーターの経験・体験をベースに議論する。
アカデミアの知の活用・地域貢献の一環として、大学が取り組むべき(有利・得策)ビジネスの機会をつかむ・掘り起こす。
具体的なテーマが浮き彫りになった場合、各大学のコーディネーターは担当教授(講座)とビジネスの可能性を検討する。

<トピックス>

北海道大学放射線科、知的財産を技術移転(3年前)した大学発ベンチャー(株)メディカルイメージラボ(遠隔画像診断ビジネス)が経営的に黒字化している。
このビジネスの成功事例にかかわるノウハウを聞き、コーディネーターが担当教授とビジネスの可能性を検討した。群馬大学は本ビジネスの初期の段階から北海道大学と連携・情報交換、今年4月に会社を設立した。

<発展性>

最近、本会議のメンバー間で共同研究(研究者探し・情報のやり取り・契約文書等の指導)に関する案件をタイムリーに処理・検討依頼する事になりつつある。

<学学連携>

~臨床試験支援システム(SMO)の構築~

以下の大学を調査し意見交換した。
ア)東京大学(22世紀医療センター構想) イ)東北大学(学内の治験 実施体制) ウ)福島医科大学(大学法人化と治験ビジネス・臨床研究の 支援体制) エ)札幌医科大学(大学法人化と治験実施体制) オ)金沢 大学 カ)山形大学 キ)山梨大学

 以下の調査結果を得た。

1) SMOビジネスに関する情報量が少なく・認知度が低い。
2) 学内・学外に治験支援システムを導入(設立)した場合、大学のメリットは何か。一方、業務内容・業務量の増減はどうなるか。
3) 大学はアカデミア・知を活用して、地域貢献を基本理念する。 特に、自主臨床研究・探索医療等にかかわる研究をベースに新規性を有する研究(例、論文発表)につながることが、大学で治験を実施する上で最大限に考慮すべき要件だと考える。

~ビジネスチャンス~

 高品質・差別化した治験実施を意図、SMO設立を目指して、大学間の知の活用・地域貢献をかんがみて、SMOビジネスのコーディネートを進行中である。

 これも、人的ネットワークが根底にあってこそ、ビジネスの成功があると考える。

まとめ

大学と治験支援システム(SMOビジネス)の連携には以下のケースが考えられる。

ア)民間企業の導入 イ)大学発ベンチャーの設立 ウ)学内で事業部の設置

民間SMOと差別化したSMOビジネスの構築には、大学と連携する意義を明確にすることが重要である。この発想は経営理念・基本方針につながるべきである。
SMOの構築は附属病院を持つ大学の共通課題であり、将来、本システム・ビジネスモデル(基本骨格)の成功事例が大学間ネットワークで共通に活用できる可能性がある。

*1SMO(Site Management Organization)
治験を実施する際に、医療機関を支援するシステムを意味する。