2005年12月号
特集2  - ベンチャー起業の若手に聞く
目標達成の一つの手段 -大学発ベンチャーで成功者になれるのか-
顔写真

山下 関哉 Profile
(やました・せきや)

(株)舞ロジック 代表取締役/
早稲田大学大学院理工学研究科
博士課程


目標ありきで始めた大学発ベンチャー

産学連携、あるいは大学発ベンチャーというキーワードを耳にするようになってから早数年が経過しようとしている。

よく「なぜ大学発ベンチャーを考えたのですか」という起業に至る動機について質問を受ける。確かに、舞ロジック社は1999年、当時私が早稲田大学の理工学部修士1年のときに、私を中心に研究室のメンバー数名とともに立ち上げたソフトウェア開発の会社であり、現在も早稲田大学内に事業所を置いて活動していることもあるので、位置付けとしては大学発ベンチャーになるのだろう。しかし、1999年当時はまだ産学連携、あるいは大学発ベンチャーというキーワードはなく、本格的に大学がベンチャー企業に取り組みだしたのは2001年以降であると記憶している。

つまり、私は「大学発ベンチャー」を考えたわけではなく、「自分のビジネスを持ちたい」という目標がはじめにあり、その手段として自分の研究を活用したことになる。もしかしたら数年後は、大学発ベンチャーとは全く異なるビジネスをしているかもしれない。

子供の頃からの起業への思い

私の起業したいという思いは小学生ぐらいの頃に遡る。私はTVゲームが大好きな少年で、家庭用ゲーム程度のクオリティーでは満足できず、ゲームセンターのハイクオリティーなゲームが好きだった。しかし、当時のゲームセンターはというと、暗くて不良の溜まり場というイメージであった。子供心に私は、店内をもっと明るくして、例えばハンバーガーのようなフードを販売したり、女の子や親子でも遊べるゲームを置けば、一部の不良っぽい人だけではなく、もっと多くの人が入ってきて、もっと楽しいのに、などと考えてしまう小学生だった。今日でいうアミューズメントパークがまさに当時、私の頭の中にあったイメージである。

高校生になると、ますます自分でビジネスを持ちたいと思うようになり、その方向で自分の進路を模索していた。当時はアメリカのシリコンバレーでの成功物語を知るようにもなり、これからの時代にビジネスで挑戦するならソフトウェアだろう、と単純に考えていた。そこで、大学はビジネスを勉強できる商学系に進むか、ソフトウェアの技術を勉強できる工学系に進むか迷ったが、マイクロソフトのビル・ゲイツやアップルコンピュータのスティーブン・ジョブスが技術に精通していたことを考えると、この分野に挑戦するなら、やはり技術を勉強しておいた方がいいと考えて(高校まではキーボードに触れたことも無かったので)、理工系の学部を選ぶに至った。

理工系の学部、大学院と進学していく過程で、配属された研究室の研究に触れてみて、こうした技術をビジネスに活用できないか、と思うようになり、必然的に自分の選ぶ研究テーマとしても、ビジネス化ができるようなテーマを探すようになった。そして、修士1年の秋に起業することになるのだが、全て自己資本(300万円)での起業なので、開発に大きな資金を投資できるわけでもなく、研究テーマに関連した手持ちのアイデアをいくつか製品化してみるに過ぎなかった。

しかし、事業を拡大したい気持ちは山々でも、そう簡単にはいかないものである。この頃の製品はほとんど売れず、創業してから既に2年が経過しようとしていた。自分の研究には打ち込めたので、修士課程を卒業して、博士課程へ進学することはできたが、製品の売り上げはゼロに近く、収益のほとんどはホームページ制作やデータベースシステムの開発受注による売り上げだった。

主力製品の開発経緯

この頃、人材派遣のビジネスをやっている知人と飲み話をしていたときに、派遣スタッフの予定表(シフト)作りに追われて大変だという話を、半ば愚痴程度に聞いていた。スケジュール作成のソフトウェアは無いのかと尋ねてみると、あれば使っているとのことだったので、ちょっとした興味を持ち、自分で調べてみようと思ったのが、舞ロジック社の現在の主力製品である「MY Fellow」の発端である。

似たようなソフトウェアはいくつかあるが、知人が言うには、ただスケジュールを作成すればいいというものではなく、仕事や時間帯によって年齢や性別、熟練度などを考慮しなければならず、その上でスタッフ本人の空いている時間や希望、労働基準法に準拠した勤務時間の制限、さらに重要なことに人件費に関わるコスト計画-つまり、ある期間内に発生するスタッフの人件費をいくらまでに抑えなければならないか、といった条件を考慮してベストなスケジュールを作成する必要があるというのだ。そうなると、結局、既存のソフトウェアでは対応できないことになる。

これは私が所属している研究室のテーマでもある、並列処理におけるタスクスケジューリングの最適化問題と非常によく似ていると思い、いくつかのアルゴリズムが、知人が悩むスケジュール作成の問題を解決できないか考えてみた。

何度かのバージョンアップと技術的な改良を重ね、仕事や時間帯、スタッフの諸条件や空き時間、コストと勤務時間などを考慮しながら、約1万人のスタッフの最適なスケジュールを1カ月分作成することが可能になった。計算に要する時間は1分以内である。現在は人材派遣会社やアミューズメントホールなどに導入されている。まだ、自分としては満足できるものではないが、今後は営業ターゲットを広げたり、付加価値的なサービスを追加したり、代理店販売などにより、さらに事業を拡大していきたいと考えている。

事業は行き着くところ「お金儲け」である

振り返ってみると、起業して間もない頃は自分の研究テーマありき、で考えていたように思う。大学のナレッジをベースにしたスケジュール作成ソフトにしても、小学生の頃に考えていたアミューズメントパークにしても、最終的には多くの人がお金を払ってくれるような製品でなければ、事業としては上手くいかない、ということである。逆に、大学の知財や技術開発がそういった製品になり得れば、他には真似ができない強力な差別化をもった事業として展開することが期待できる。

そして、最も重要なことだが、事業である以上、それはお金儲けにならなければ意味が無い!ということである。ある投資家の方に「君はなぜ起業したのか?」という質問をされたとき、「お金儲けをしたいからですよ!」と素直に応えたところ、すかさず「君に投資をしたい」というオファーをいただいた。当時、私は他人の資本を入れるつもりは全く無く、その投資家の方とも別件でたまたまお会いしただけなので、丁重にお断りしたが、その投資家の方が言われるには、投資の申し入れをしてきた起業家には必ずこの質問をしているそうだ。そして、迷わず「儲けたいから」という趣旨の返事が返ってこなかった起業家に対しては、事業計画も聞かずに投資の申し出を断ることにしているとのことである。それぐらい儲けることに貪欲にならないと、事業としての成功は望めない、ということなのであろう。

先ほどから「儲ける」という話が何度も出てきているが、具体的にどれくらいの収益を得れば儲けたことになるのかは、人によって違うはずだ。同じように「成功」の定義も人によって違う。もちろん、「成功=儲ける」ではないだろうが、起業するからにはその大きな目的は(どれくらいかは別として)儲けることであり(儲けたお金をいかに使うかも、また別として)「起業による成功=人に喜ばれる製品(サービス)づくり=儲ける」といえるのではないか。

重要なのは自分自身の成功の定義

「MY Fellowの成功の理由は?」と聞かれることがあり、それはそれで嬉しいのだが、当初の自分の計画と比較すると、全然儲かっているうちには入らないので、自分としてはMY Fellowはまだ成功ではなく、そこに成功者といわれる人とは大きなギャップを感じる。

儲けるためだけの手段であれば、必ずしも起業であるとは限らない。例えば、儲けたい額にもよるが、今の時代はネット株で儲けることも選択肢としてはあるだろう。

しかし、起業による成功者になるには、人に喜ばれる製品(サービス)づくり、つまりMY Fellowを人に喜ばれる製品に仕上げ、かつ、それで儲けることが重要だと思っている。

10年後、20年後、さらには晩年に自分はどうなっていたいか、成功者になれるか? それは自分自身の成功の定義にもかかっていると思うが、私の考えでは、事業で成功している人は、自分が何をしたいか、どうなれば成功といえるかを明確なイメージとして持ち、自分の意思に素直に、しかし貪欲に行動してきた人、その結果、イメージに限りなく近い人生を送っている人ということになるのだろう。

自分は、研究者として実績をつくりたいのか、どれくらいのお金を持っていたいのか、どんな人生を送りたいのか、まずは自分自身と向き合い、成功といえる人生を送るためのプロセスを設計することが重要だと思う。そして、大学発ベンチャーというのは、大学生や大学で研究を続けてきた人たちにとって、プロセスとして選択できる素晴らしい選択肢の一つではないだろうか。