2005年12月号
特別寄稿
特許庁における産学官連携への取り組みについて
-大学等支援施策を中心として-

月野 洋一郎 Profile
(つきの・よういちろう)

特許庁 総務部 技術調査課
課長補佐


はじめに

我が国の経済は緩やかに回復に向かっているといわれていますが、このまま持続的な経済成長を遂げ、国際競争力をさらに高めていくためには、これまでのような産業界を中心とした活動だけではなく、大学で創出される研究成果を産業社会に反映しその活用を促進することが重要です。我が国の大学の研究開発ポテンシャルは世界的にみても高いレベルにあり、例えば、我が国の研究開発費のうち約19%は大学に投資されており、国全体の研究者の約36%は大学で研究を行っています*1。これらの大学の研究成果を産業社会に有効に反映させるためには、大学が適切な知的財産管理を行うことが求められます。そのためには、活用される可能性の高い研究成果の発掘から権利化および産業界への技術移転に至る一連の知的財産の管理が円滑に進むためのルール作り、体制整備および人材確保が課題となります。

特許庁では、このような大学における組織的な知的財産活動を支援するために、発明の創出、権利化、活用という知的創造サイクルを確立するための支援施策を実施しています。

1. 知的財産の普及啓発
(1) 大学等に対するセミナーの開催

日常的に研究活動を行い知の創造を担っている大学・公的研究機関の研究者が、知的財産に関する実務能力を身につけることを目的として、「大学・公的研究機関研究者向けセミナー」を全国各地で開催しています。本セミナーでは、研究成果を特許明細書として書き下ろす手法や、特許化による研究成果の社会活用の意義について説明し、研究者が、研究成果の権利化と権利活用に関する実務的な知識を習得できるように努めています。

(2) 研究者向けの広報活動

特許庁では、大学等の研究者向けに、研究成果を特許出願するためのポイントや特許庁の各種支援策を紹介したパンフレット*2を作成し、全国各地の大学、研究機関に配布するとともに、機会があれば個別の説明会を開催するなどして広報活動を実施しています。

このパンフレットでは、研究者に関連する制度や運用、例えば、試験研究と特許との関係や(試験研究の例外)、国内優先権制度等について分かりやすく解説しています。

(3) 産業財産権教育用副読本・標準テキストの提供

研究者への知的財産への普及啓発も重要ですが、特許庁では、初等・中等教育の早い段階での知的財産意識の啓発や知的財産制度の理解を促すことが重要との認識のもと、児童・生徒を対象とした取り組みを行っています。

具体的には、初等・中等教育段階の各年齢層に応じた産業財産権教育用副読本を提供しています。小学生、中学生、高校生向けとして編集された各副読本は、児童・生徒らが自然科学に興味を持ち、オリジナリティーあふれる新しいアイデアを生むことの楽しさを知り、さらに、日本の産業発展に知的財産制度が果たした役割をマンガやイラストなどで分かりやすく解説することにより知的財産制度の意義について理解を深めることを目的としたものです。

また、高等教育段階向けとして、大学生等を対象とした産業財産権標準テキストも提供しています。この標準テキストは、特許編、商標編、意匠編、流通編からなり、例えば、特許編であれば、日常の研究活動の中で生まれるアイデアを特許となる発明として把握し、特許を取得するまでの実務能力を取得できるように網羅的に構成されています。

2. 知的財産の権利化支援
(1) 知的財産管理アドバイザーの派遣

産学連携を促進し、産業の活性化を図るためには、大学内に知的財産管理体制を構築し、大学が新規産業創出の核となることが求められます。ただ、これまで大半の大学では知的財産を組織的に管理するという認識が希薄であったため、知的財産管理体制構築の前提となる知的財産専門人材が欠落・不足しており、何らかの手だてをする必要がありました。このような観点から、特許庁では、平成14年度から大学が知的財産管理部門を構築することを支援するための専門家(知的財産管理アドバイザー)を派遣する事業を行っています。

知的財産管理アドバイザーは、民間企業における知的財産管理業務の経験者で、いわば知財のエキスパート人材であり、大学職員に知的財産管理実務を指導することにより、将来的に大学自身が自立して知的財産管理部門を運営できる体制の構築を図っています。平成17年度は全国17の大学で知的財産管理アドバイザーが活動しています。さらに、平成14年度以降の支援事業を通じて得られた知的財産管理体制構築の成果・ノウハウ等を網羅したマニュアルを作成し、各種のシンポジウムやセミナーを開催するなどして、派遣されなかった全国の大学に対しても適正な知的財産管理がなし得るよう支援を進めています。

(2) 特許料・審査請求料の減免措置*3

特許庁では、大学等技術移転促進法や産業技術力強化法等に基づき、大学・TLO等に対する特許料・審査請求料の減免措置を講ずることにより、大学・TLO等における産学官連携や技術移転の取り組みを支援しています。例えば、国立大学の場合は、平成16年4月の法人化後も、産業技術力強化法附則第3条に基づく料金減免の経過措置が設けられています。具体的には、平成19年3月末までに出願された特許出願については、出願料、審査請求料、特許料は全額免除されます。平成19年4月以降に出願された国立大学の特許出願は、審査請求料と特許料1~3年目の半額軽減の減免措置となります。一方、私立大学の特許出願についても、審査請求料の半額軽減と特許料1~3年分の半額軽減の減免措置が受けられます。

(3) 早期審査制度

特許庁では、基礎的研究成果の早期活用、独創的研究開発を行う出願人の支援等、我が国の産業競争力強化を目的として、大学、高等専門学校、公的研究機関、TLO等の出願を対象として、事情説明書の提出により早期に審査を行っています。この早期審査制度を利用すると、通常の平均審査順番待ち期間である26カ月が約2.6カ月にまで短縮され、研究成果の早期権利化、早期活用を図ることが可能となります。

(4) 大学等を特許法第30条に規定する学術団体に指定

大学では研究成果を学会等で早期に発表したいという要望があります。このため、特許法第30条は、「特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表する」場合を新規性の喪失の例外として取り扱うことを規定しています。大学等が特許庁長官の指定する学術団体とされた場合は、当該大学等が開催する研究集会における研究発表の内容についても、学会発表と同様に新規性喪失の例外が認められます。

平成17年3月31日現在の指定状況は、大学140機関、高等専門学校25機関、大学共同利用機関4機関、独立行政法人25機関、公設試験場50機関となっています。

なお、適切に権利を確保するためには、研究発表の前に出願をすることが重要であることから、特許庁では大学研究者に対してセミナー等を通じて啓発活動を行っています。

3. 知的財産の活用支援
特許流通促進事業*4

独立行政法人工業所有権情報・研修館では、平成9年度に特許庁が開始した「特許流通促進事業」を引き継いで、中小・ベンチャー企業や大学・研究機関等の知的財産活用を支援するため、特許流通促進に向けた各種事業を実施しています。

(1) 特許流通アドバイザーの派遣

特許流通アドバイザーの派遣事業は、特許流通の拡大を図ると同時に、特許を活用できる企業の裾野を広げることを目的として、平成9年度より開始した事業です。特許流通アドバイザーは、企業訪問を中心に活動を行い、企業、大学、研究機関が保有する提供可能な特許の発掘と中小企業等の特許導入ニーズを把握し、両者のマッチングのアドバイスを無料で実施しています。

事業開始当初は、中小企業の支援施策の一環として、大企業の開放特許を中小企業に移転することに主眼を置き、自治体等に特許流通アドバイザーを派遣していました。その後、大学からのシーズの移転も支援することを目的として、平成10年度よりTLOにも特許流通アドバイザーの派遣を行い、現在に至っています。

特許流通促進事業の成果の一つとして、特許流通アドバイザーが仲介した特許ライセンス契約等の成立(成約)があります。成約件数は、事業開始当初の平成9年度はわずか6件であったものが、平成17年6月末には累計5,829件となっています。

特許流通アドバイザーは、年間百数十件を企業訪問しますが、それを通じて企業経営者のさまざまな相談にのってきたことによりその信頼を勝ち得、特許の意識が低かった地方で技術力を有する企業を発掘し、知財活用の重要性を覚醒させたことも本事業の大きな成果です。

他方、立ち上げ初期のTLOにおいても特許流通アドバイザーは極めて重要な役割を有していました。現在成功していると言われるTLOにおいて、特許流通アドバイザーは、その技術移転の仲介を行い、ノウハウを蓄積してきています。

このようなことから、特許流通アドバイザーの役割は、以下の二つに集約されます。

(a) 技術移転を行う仲介者、コーディネーター
(b) 特許制度の重要性を現実に体感させ、親身な指導を行う先生(現実の課題に対する手取り足取りの指導が不可欠であり、セミナーでは困難)

現在、特許流通アドバイザー115名(平成17年6月末)の全国的なネットワークが構築されていることにより、各自治体の垣根を越えた全国的な技術移転が活発化しています。これは、特許流通アドバイザー間の情報の共有化とともに、多種多様な技術者集団によるあらゆる分野のノウハウの交換が機能していることが大きな原因と考えられます。

なお、現在も中小企業と大学を支援するスタンスは不変ですが、事業開始当初に意図した大企業→中小企業の移転のみではなく、大学→大企業・中小企業、中小企業→中小企業等のさまざまなパターンの技術移転を実践しています。

また、技術移転から事業化に成功した事例も数多く出てきており、この事業の経済的インパクトは、平成16年12月末までに把握できたものだけで約1,578億円に達しました。これは、前年調査結果の1.3倍、これまでに投入した事業費の総額の7.4倍であり、特許流通促進事業の成果が着実に伸びてきています。

表1 経済的インパクトと事業費

表1

※経済的インパクトは、特許流通アドバイザーの活動により発生した金銭移動の総額(事業経費を含まない)を示しています。具体的には導入した特許技術に基づき製造した製品の売上高、製造のための開発・投資、ライセンス収入、新規雇用者人件費の合計になります。

(2) 特許ビジネス市の開催

特許技術などのシーズを保有する企業や大学が、特許技術の内容をビジネスプランとともに提示し、金融機関、証券会社、商社、シンクタンク、民間知財業者、ライセンシー候補企業、一般参加者から当該技術についてライセンスや共同研究、資金提供等の各種提携の申し出を募る場として開催しています。

(3) 特許流通データベースの提供

企業、大学、研究機関等の開放特許の流通を促進するために、活用が可能な開放特許を一括して検索できるデータベースをインターネット上で提供しています。平成17年3月末で約5万8,000件の開放特許がデータベースに登録されており、そのうち、約1万7,000件が大学・公的研究機関の開放特許です。また、各大学等のホームページからリンクすることにより、各大学の開放特許を擬似的に表示する機能(バーチャルデータベース)を搭載し、大学の研究成果の技術移転を促進しています。

おわりに

政府全体として、平成17年6月に策定された「知的財産推進計画2005」に対応した知的財産施策が展開されていますが、特許庁および工業所有権情報・研修館は、知的財産に関する施策の中核を担う立場として積極的に各種施策を展開してきました。「知的創造サイクル」の活性化のためには、大学自らが自立的に知的財産管理を運営できるようになり、大学での研究成果を権利化して産業界に技術移転し活用していくことがますます重要になります。今後も、特許庁および工業所有権情報・研修館は、官民の適切な役割分担のもとで、大学を中心とする支援施策を通じた産学官連携の活性化に向けた取り組みを行っていきます。

*1
「平成16年科学技術研究調査」総務省統計局

*2パンフレット「研究成果を特許出願するために」
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/pamphlet_re_ap.htm

*3特許料等の料金減免措置一覧
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/genmensochi.htm

*4
「中小・ベンチャー企業における知的財産の活用方策に関する研究会報告書」平成17年3月、財団法人知的財産研究所、pp.127-130