2006年2月号
連載3  - ヒューマンネットワークのつくり方
目配り・気配り・金配り
コーディネーター・ネットワーク構築の秘訣・要諦 -第2回「気配り」編-
顔写真

谷口 邦彦 Profile
(たにぐち・くにひこ)

文部科学省 産学官連携支援事業
産学官連携コーディネーター
(広域・全国地域)


1. 「目配り」と「金配り」のブリッジ:多様性と信頼性

第1回「目配り」編のポイントは毎日ランダムに発生する「出会い」への対応を大切にしており、この対応がネットワークの品質を左右するということであった。

第2回「気配り」編は「目配り」編における「出会い」を受けて、次の「金配り」編へのブリッジであり、その第1対象は「文部科学省・産学官連携コーディネーター」である。従って、まず、このネットワークを確たるものとする活動を紹介し、さらに第1回の3-2(2)項のような業務として確立する前の探索的な活動に取り組む時に、「目配り」編でご縁ができた方々とどのようにして「金配り」のパートナーとしてネットワークを構築して行くか、そのポイントとして「多様性」と「信頼性」を重視していることを記述していきたい。

ここで、この連載で記述している「金配り」について少し説明させていただくと、プロジェクトに取り組む時には「人」「場」「機械・装置」などの資源を調達する必要があり、私は自己資金を持っていないのでプロジェクト推進のためには公的資金など何らかの方法で「お金」(資金)の工面が必須になる。このような資金調達のことを「金配り」と表現している。また、とりわけ、業務として確立する前の探索的な活動には、「人」が重要となり、この部分は的確なパートナーを得ることが重要事項である。

2. 「気配り」の実践はフットワークとネットワークで

この項では、ある程度確立したネットワークをどのようにして維持・拡大を図っているか? その柱である活動を、「フットワークとネットワーク」という表現で記述する。

2-1.個別訪問・定期的サービス・グループ会議

2005年の8月号でも紹介した「文部科学省・産学官連携コーディネーター」のネットワークは、全体としては、[1] 全国会議(1回/年)、[2] 地区会議(7地区・各3回)の公式会議と平素のホームページやメール交信で運営されているが、筆者は広域担当(全国地域)としてこれらを補完するために図1の3パターンの活動を設定している。

この概要はこれまでも紹介の機会があり図中にも説明しているので割愛するが、いくつかの特記事項を紹介する。

(1)個別訪問

地方へ出張する機会には、できる限り各大学に配置されているコーディネーターを訪問し、本人との情報交換と関係教員・職員との交流に時間を割いており、数人で共通の話題が設定できる場合には「CD懇話会」としてグループ交流を図っている。この他、コーディネーターが開催にかかわっているフォーラムとかイベントには極力参加することにしている。

余談ではあるが、筆者は産業地勢を知る方法として公設試験研究機関の活動に関心を持っており、地方へ出かける時には訪問の時間を取れるように日程を調整して、今まで約200ある鉱工業系機関の内、約80機関を訪問している。

図1

         図 1 文部科学省・産学官連携
             コーディネーターのネットワーク

(2)定期的サービス

コーディネーターに対してはホームページが充実するまでは「メルマガ」を発行していたが、最近は少しピッチを落としている。

一方、図1中央の近畿地区の100大学、とりわけ、未配置大学との連携のために、これまで全体に呼びかける「近畿産学官連携コーディネーター・実務者会議」を近畿経済産業局・(独)科学技術振興機構との連携で2回実施するほか、四半期に一度は産学官連携に関連した情報提供などのサービスを実施している。

(3)グループ会議

これは図1右の「CDナノテクフォーラム」で年に3回実施しているもので、全員が一堂に会するには経費的に厳しいので、TV会議で実施することを試行している。

2-2. 天神祭「大阪大学・船」乗船記

2-1項は任務上にかかわる連携強化の活動であったが、平素何かと接点が多いコミュニティーとの連携を強化する事例として、母校阪大の天神祭「大阪大学・船」乗船記をお届けする。

17:30頃に乗船場でそれぞれの船に乗り込む。船は砂利船に、横4列×3列・縦18番までの折りたたみ椅子席に、スタッフが約30名で総勢230~40名。まだ明るい18:20に離岸。

写真1

写真1 「エールの交換」ならぬ「ハッピの交換」

阪大船の進行司会は林家花丸さんとお伽衆の女性。早々に、天神講と総長との間でエールならぬハッピの交換。応援団とチアガールが雰囲気を盛り上げる間に「吉兆」のお弁当をいただく。アルコールは飲み放題でこの頃にはおおむね皆さん仕上がり気分。

他の船とすれ違う時は、双方、「阪大船でございます」と名乗ってから「うちまーしょ チョンチョンもうひとつせ~ チョンチョン 祝おうて三度 チョチョンがチョン」という「大阪ジメ」でエールの交換。各種の祝い船・篝船の往来、最後は頭上に降り来るような花火で幕。3時間はアッという間の楽しいヒトトキ。 平素は会議などでお会いする機会しか無い多数の先生や同窓との交歓の機会であり、この中で第4項に記載するパートナーとしてご一緒の機会が芽生えている例があり、参加費3万円は高くなかったと実感している。

2-3. 定期的会合への参加

これは、第2-1項や第2-2項ほどは公的ではないが、意外に情報のベクトルが多様で次のような期待を持って参加している。[1]参加者の関心事や関連事項の定点観測、[2]プロジェクトの正式な会合の間の促進、[3]参加者を通じて関係者への伝言、[4]新たな出会い、など。

これは、第1回の「目配り」編に近い部分もあるが、メンバーはほぼ固定しているので、新たな出会いよりは定点観測に近い位置付けである。主な会合として3つを挙げておく。

(1)月例:研究・技術計画学会MOT分科会

東京駅ビル9Fの北陸先端科学技術大学院大学・八重洲キャンパスで、先端の技術経営や関連政策の講話と討論。関東地区の産学官メンバーとの勉強と交流の場。

(2)月例:東大阪・チーズ&ワインの会

主旨は、大阪府のクリエイション・コア東大阪に入居している企業・大学・関連行政関係者などの交流の場であるがほぼ毎月顔を出している。2005年4月からの集まりで会費はワンコイン(500円)。当初20名前後であったが現在40名前後。地域行政や地元の動きがよく分かる。

(3)四半期に1回:大阪大学・応用化学科同期の会

2月・5月、8月・11月の最終金曜日17:30に決められた場所に集合。リタイヤ組ながらNPOや地域クラブなど幅広い活動に触れる機会。

3. 即応性のある協働パートナーの探索

第3回「金配り」編でも記述するが、一つのプロジェクトを推進するには的確な「人」「場」「モノ(機械・装置)」の準備が必須であり、とりわけ「人」、それも多様な人材が必要となる。そのためには常に呼びかけることができる人材のデータベースが必須であり、「目配り」編でご縁ができた方の中から私のデータベースに登録させていただく方とのネットワークを構築することがこの項の中心課題である。

3-1. パートナーとしての信頼性

そして、前項でも記述したように「金配り」の源泉は政策の一環である公的資金などの活用であるので、プロジェクトの品質確保のため人材の信頼性の確保と、いつでも立ち上げることができる即応性が要諦であり、ご一緒いただくパートナーには次のような方を想定している。

(1)「絵を描く」人(協創)、「汗をかく」人(協動)

最近、「協働」という表現が多く使われるようになったが私はこれを「協創」と「協動」に大別しており、分かりやすいように失礼ながら標記のように表現している。前者はプロジェクトの構想などを練る時に一緒に考えていただける方であり、後者は構想を実行に移し推進する時に厭わず共に行動を取っていただける方である。「絵を描く」人は多いが「汗をかく」人がないために頓挫するプロジェクトが多く、特にこのような視点でパートナーを大切にしている。

もっとも、誰しも、完全に一方の方はおられず、私がお付き合い願っている方々はそれぞれに得意な分野があり、その分野では「協創」のパートナーであり、他の分野では「協動」のパートナーとしてご支援いただいている方々である。

(2)ベクトルは前広に左右45度の90度

思考のベクトルが私の思考方向から「左右45度の90度」、100歩譲って「左右60度の120度」で、とにかく前向きに歩を進めておられる方と優先的にお付き合いすることとしている。

ベクトルの違う方々と仕事をするほど時間が掛かり疲れることは無いし、自らの時間的な投資効率の低下につながるので、仕事の性格上やむを得ない場合はともかく、できるだけこのような方との仕事は優先順位を下げさせていただいている。

(3)ノリが良い

前の2つは私の関心事や思考の方向が時期により変わっていくので、パートナーも固定的では無いが、この項に関しては共通の事項である。

ベクトルの違う方々との仕事も疲れるが、それ以上に止まっている方に動いていただくことは多大のエネルギーを必要とするので、「打てば響く」「理屈を言うより腰を上げる」という方々とのお付き合いを先行させている。おかげさまでゴルフの優勝挨拶ではないが、「良きパートナーに恵まれて」楽しく仕事をさせていただいている。

3-2.人探し昔話

このような形でパートナーを探す習性は約30年前に8名の技術者・1名の営業と総勢10名でスタートした病院情報システムの社内ベンチャーにおける次のような組織づくり体験のおかげと思っている。

[1] 字のきれいな女子社員の確保:ワープロが1台300万円を切るまでの数年間、提案書は手書きのため、字のきれいな女子社員の確保、退職すると前任者に近い字体の持ち主をと毎年3月には人事課に出掛けた。
[2] 業務担当者:隔年に業務監査があり定年退職数年前のベテランが来られるが、この中で的確で厳しい指摘があった方が定年前の制度である専任職に移られるのを待って人事にお願いした。この方々の給与は本社負担のため採算上も有利。ご本人たちも現職中の技能が活かせるとして喜んでいただけた。
[3] 英語が得意な技術出身者:当時、DECのコンピュータを使用していたため仕様書は全て英語で、第一線の技術者の時間をかなり要していた。そこで人事に相談すると「英語はメチャ強いが技術は…」という方がおられると。以降、資材が着くと梱包を解いて翻訳をお願いした。今でも年賀状が届く。
[4] CS担当者:新規顧客の争奪戦を展開する営業と顧客を守る営業とを分けて、「CS(カスタマー・サービス)グループ」を創ることを考案したが割く人材が無い。社内で探しているとテレックス時代に第一線で活躍した方でシステム革新に追従できなかった方がとのこと、早速、お願いした。

3-3. 的確なパートナーを得るために

前項で、「協創」のパートナーとか「ベクトルは前広90度」とか、また、その関心事が変わると申し上げたが、それは気まぐれに変わるのではなく、1年後、2年後、3年後……5年後に取り組みたいこと、そのコンセプトや構想に沿って変わるのである。

そして、次回の「金配り」編で詳細にご紹介するが、その実現のためには、どの公募制度から資金を手にしようかと常に考えており、そのコンセプトや、構想に沿ったベクトルであり、それに見合ったパートナーである。

このように考える習性は、産業界における組合三役(副執行委員長)をしていたころ、委員長が「書記長は毎月の事業を考え、副委員長は向こう1年間の闘争・活動について考え、委員長は3年後・5年後の戦略を考える」と仰ったことがルーツになっているように思われる。

3-4. パートナー群とともに

このようにして、任命を受けている産学官連携コーディネーター以外にNPO*1やリタイア組を基盤に組織化している企業**1などの連携を深めつつあり、幾つかのプロジェクトに取り組んでいる。

ここに多士済々の主なパートナーのプロフィールを紹介する。

M氏: 工学博士、ナノテクノロジー・材料分野の研究者。研究所長・関係会社役員経験者。
K氏: 材料分野。韓国・中国の現地法人責任者の経験。ハングル・中国語を駆使した調査のプロ。
U氏: 経済学部出身。情報システム部門の責任者。著書もあり。
Yo氏: 通信工学分野。CATV会社の社長経験者。
K氏: 小学校・大学の学科・クラブの同期。S・NPOの幹部。小中学生への学習プログラムのプロ。
Ya氏: 元・労組委員長。N・NPOの幹部。イベント企画のプロ。

このような平素は共にしないが、いざと言うときにパートナーを組める人材を擁していることは、昔の大名が日頃から素浪人を城内に確保し、人手が必要な時に動員した心が最近よく分かってきたような気がする。

4. 相互信頼のネットワークの構築

「目配り」の段階は今後の可能性の契機であるのでさほど深刻ではないが、「気配り」の段階では相互信頼に基づくネットワークを構築しておかないと、次の「金配り」の段階で、プロジェクトの品質・スピードに大きく影響するので、相手にはこちらの習性もよく理解いただいて相互に信頼できる関係を構築していくことが肝要である。

4-1. 知的活動波動論:パートナーの思考周期

皆さん、客先から検討を依頼された時に早い方が良いと思って1週間後に訪問の電話を入れたところ、「いや、まだ考えてないよ。もう1週間後にしてくれないか」と言われた経験はありませんか?

私は産業界で社内ベンチャーをしている時、私たちの会社は週報制度で相互に確認することが習慣になっていたので、そのピッチで対応して失敗した事例があり、それからは、Aさんは1週間人間、Bさんは2週間人間と類別して、「顧客の先を越さない。遅れてもダメ。考えようか、というタイミングに」と対応した経験がある。

これは「気配り」の段階に限ったことではないが、信頼関係を構築しつつある時には特に重要なことである。

4-2. より強固なネットワークづくりを目指して~喜びを分かち合う~
図2

図2 祝詞カード

2005年8月号の「4.ネットワークのメンテナンス」にも記述したように、叙勲・褒章・昇進など、相手が嬉しい時には喜びを分かち合うことを形にするために、図2のような手製の「祝詞カード」を差し上げるように心掛けている。これは、産業界にいた時には会社製の祝詞カードがあり、活用していたが離れると無いことに気付き工夫したものである。

4-3. 最強のパートナーは身近な女性

今も「モバイル・ケータイ・旅ガラス」と称しているが、現役時代も座ったところが職場。すると「港港に女あり」という訳ではないが、それぞれよく座る場所では多くの女性のお世話になる。そこで、その半年間お世話になった方々にはちっぽけな感謝の気持ちとして、「口と足で描く芸術家たち」*2の作品をモチーフにしたプチタオルを差し上げている。

そして、何よりも最強のパートナーはワイフ。仕事の理解にと建設中の「けいはんな学研都市」へ出掛けたり、阪大や今のキャンパス・イノベーションセンターで食事をした後、デスクがある部屋の「視察」とか。すると、「今日はけいはんな」と言うと「あの食事をした都ホテルのあるとこね」と言う次第。

5. むすびと次の予告

いつもこれほど厳密に考えて関係者とお付き合いしているわけではないが、整理してみるとこのような次第で、整理の機会をいただいた編集部にお礼を申し上げたい。

次回「金配り」編では、「阪神・淡路大震災後の被災者2,500人・3年間のメンタルケア」と「ヒューマノイドロボットを活用した工科高校の実技学習」を事例として、どのようにして「人」「場」「モノ(ロボット)」「情報」「金」を確保してプロジェクトを構築したか、ご紹介して責を果たしたい。

●参考文献

**1 :谷口邦彦編.産学官連携の推進と専門職人材.研究 技術計画 .Vol.18 , 2003, p.5-72 .

*1特定非営利活動法人 ニッポン・アクティブライフ・クラブ(NALC)
http://www.nalc.jp/
特定非営利活動法人 シニア自然大学
http://www.sizen-daigaku.com/

*2世界身体障害芸術家協会
http://www.mfpa.co.jp/