2006年3月号
特別寄稿
JST事業を通じたベンチャー創出の成果
-JST事業を利用して設立されたベンチャー企業調査結果の概要について-
顔写真

粂田 真宏 Profile
(くめた・まさひろ)

(独)科学技術振興機構 産学連
携事業本部 技術展開部 新規事
業創出課 課長


はじめに

平成13年5月に政府から大学発ベンチャーを平成16年度末までに1,000社創出する計画が打ち出されたが、政府の積極的な支援策等を通じて大学発ベンチャーの設立が増加し、平成16年度末現在の経済産業省の調べでは大学発ベンチャーが1,000社を超えた(1,112社)との報告があった。独立行政法人 科学技術振興機構(JST)では、大学発ベンチャー1,000社創出計画が発表されるより前の平成11年度から大学等の成果をもとにベンチャー起業を目指した研究開発を行うプレベンチャー事業を実施してきた。また、平成15年度からは文部科学省からの移管を受けて大学発ベンチャー創出を支援する競争的資金制度として大学発ベンチャー創出事業を開始した。その後事業の再編などが行われたが、両事業によりこれまで41社のベンチャー企業が設立されている(平成17年12月末現在)。JSTでは、ベンチャー創出を支援する事業のほかに、基礎研究事業、技術移転事業、地域関連事業など幅広い事業を実施しているが、ベンチャー創出を直接意図したものではない事業からも発展してその成果を基にしたベンチャー企業が多く設立されている。このようにJSTは直接・間接的にベンチャー創出に寄与してきていると考えるが、ベンチャー創出に対する評価は設立後の展開状況をフォローしていくことが重要になってくることから、JST事業を利用して設立されたベンチャー企業について、その設立状況と企業の活動状況について調査を実施したので下記にその概要を報告する。

調査結果の概要

(1)設立状況

調査は、JST事業*1の成果をもとにして設立されたベンチャー企業*2について、平成17年11月末までに設立されたものをJST関係各部署の協力を得て抽出した。その結果、127社(平成16年度末時点では109社)のベンチャー企業が設立されていることがわかった。上記大学発ベンチャー1,000社に対して約1割に相当する数のベンチャーがJST事業の成果をもとにして生まれていることになる。ベンチャー企業の設立のもととなった事業の内訳を次ページの表1に、企業の所在地別 の内訳を表2に、分野別の内訳を表3に示す。

これらを見ると設立数が多いのはベンチャー創出を目指したプレベンチャー事業からの設立(39社)*3のほかに、地域関連事業であるRSP事業からの設立(43社)が多いことが注目される。これは地域で活動するコーディネータ等が目利きとなり育成した地域独自の技術シーズと地域関係機関のネットワークを活用し、地域での新産業創出への原動力としてベンチャー企業への期待とその設立意欲が高まってきていることが関係しているのではないかと考えられる。また、基礎研究事業においてもその成果を発展させて着実にベンチャーが生み出されてきているのが分かる。社会的・経済的ニーズを踏まえ戦略的かつ研究者の独創性を生かした基礎研究を行い革新的な技術シーズを創出することで新たな事業の種につながる成果が出ていると考えられる。

表1 JST事業を利用して設立されたベンチャー企業(設立年度ー事業別)

表1



表2 JST事業を利用して設立されたベンチャー企業(所在地ー事業別)

表2



表3 JST事業を利用して設立されたベンチャー企業(分野ー事業別)

表3

(2)活動状況

近年、起業環境が整備されてきつつあり、ベンチャー企業の設立は比較的やりやすくなってきているものの、設立後のベンチャー企業の運営は決して容易ではなく、特に大学発ベンチャーについては研究開発段階のものも多く厳しいものとなっている。127社に対し資本金、従業員数、売り上げ、業務内容等について調査を行ったところ、回答のあった約7割の企業(91社)のうち、

資本金: 1億円以上の企業は17社
従業員数: 10名以上の企業は15社
売り上げ: 1事業年度で1千万円以上の企業は47社
うち5千万円以上は19社
うち1億円以上は9社

であった。ただし、10億円以上の売り上げを上げている企業はなかった。

今回の調査から、活躍している企業が出始めているものの必ずしも順調なものばかりではないのが現状である。設立から5年未満の企業が大部分であることと、先端的な技術をベースとした研究開発型ベンチャーが多数あることから、今後の推移をフォローしていく必要がある。

ベンチャー企業の成果と課題

(1)成果

これらのベンチャー企業の中でその技術等に対し受賞などの優れた成果を上げている代表的なベンチャー企業を表4に示す。

表4 JST企業を利用して設立されたベンチャー企業の主な成果

表4

この中で、起業後最初の事業年度で既に製品販売により1億円を超える売り上げを上げる企業も出てきており今後の発展が期待されている。これらの企業は大学等の研究から生み出された優れた技術をベースに経営責任者等が積極的かつ着実な会社運営を行っていることが成果を上げることにつながっているものと考えられる。

(2)課題

ベンチャー企業の課題、問題点等を調査したところ、起業後の資金調達の困難さを挙げる企業が最も多く、次に人材確保の困難さを挙げている。これらはアーリーステージの多くのベンチャーが直面する問題であり、国等に対して支援を要望している。

おわりに

今回の調査から、ベンチャー設立後の運営は容易なものではないものの、その成果は順次現れてきていることが分かった。しかし、今後の数年間がベンチャー企業の真価が問われることになると考えられ、政府としても次期科学技術基本計画に向けて引き続きベンチャー企業の創出・成長を支援していく方向性を打ち出しており、我々としても優れたベンチャーの創出支援を着実に実施していくとともに、ベンチャー起業後のフォローアップにも努めていきたいと考えている。

*1調査の対象としたJST事業
◎研究開発
・新技術の創出に資する研究(基礎研究事業)
 戦略的創造研究推進事業
  チーム型研究(CREST)
  個人型研究(さきがけ)
ERATO型研究
  ICORP型研究
  発展研究(SORST)
 計算科学技術活用型特定研究開発推進事業(ACT-JST)
 先端計測分析技術・機器開発事業
・新技術の企業化開発(技術移転事業)
 独創的シーズ展開事業
  権利化試験
  独創モデル化
  大学発ベンチャー創出推進(プレベンチャー)
  委託開発
 技術移転支援センター事業(データ補完)
・研究交流・支援(地域関連事業)
 地域結集型共同研究事業(地域結集型)
 地域研究開発促進拠点支援事業(RSP)
◎特許取得・活用支援業務
・技術移転支援センター事業
 開発あっせん・実施許諾
 (ライセンス、有用特許返還含む)
各事業の概要はJSTホームページhttp://www.jst.go.jp/を参照。

*2
JST事業の研究開発成果だけでなくそれ以外の成果も合わせてその基礎としているベンチャー企業も含む。

*3
プレベンチャー事業では平成11年度~13年度採択課題30件のうち29件がベンチャー起業されており、非常に高い実績を挙げている。研究開発事務所と評価委員による積極的なフォローアップを行うことなどにより、このような高い起業化率につながっていると考えている。