2006年4月号
巻頭言
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西村 吉雄 Profile
(にしむら・よしお)

東京工業大学 監事




科学ジャーナリズムと技術ジャーナリズム

2005年10月から早稲田大学の「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」に加わっています。科学技術振興調整費による5年間のプログラムです。大学院修士課程で科学技術ジャーナリストを養成します。

私は大学院博士課程を修了するとすぐに出版社に入り、ジャーナリストになりました。『日経エレクトロニクス』という電子技術者向けの雑誌の編集部に20年いて、後半の11年半は編集長を務めました。

私が勤務していた日経BP社では、『日経エレクトロニクス』のような技術雑誌の編集記者を「技術ジャーナリスト」と呼んでいます。私は技術ジャーナリストであって、科学ジャーナリストではありません。この2つは似て非なるものです。

科学ジャーナリストの典型は新聞の科学部などに属する記者でしょうか。読者として想定されているのは、科学者ではない一般市民です。科学記者は科学者に取材し、科学者の仕事を、科学者ではない読者に伝えます。

『日経エレクトロニクス』のような技術雑誌では、読者は技術者です。専門家です。専門家が仕事に役立つ情報を求めて読む雑誌、これが技術雑誌です。技術ジャーナリストは技術者に取材し、技術者である読者に情報を伝えます。取材先も読者も同じ専門分野の技術者です。間に立つジャーナリストも同じ分野の専門家であることが望ましい。これが技術ジャーナリズムの基本構造となります。

日本では一般に、科学雑誌の市場は大きくありません。ところが技術雑誌のほうは、それなりに読者がいますし、広告市場もあります。私が編集長だったころの『日経エレクトロニクス』はよくもうかっていました。日米を比較して、技術雑誌は人口比程度の違いです。けれども科学雑誌は、けたで違います。

以上のような科学ジャーナリズムと技術ジャーナリズムの違いは、あまり知られていません。振興調整費を出した人も受けた人も、上記を知らずにプログラムをつくってしまったようです。科学技術ジャーナリスト養成プログラムにおける私の仕事は、学生にも先生にも、それを知らせることから始まる。そんな気配です。