2006年4月号
連載1  - 産学連携と法的問題
第5回 共同研究契約の法的問題点
顔写真

五島 洋 Profile
(ごしま・ひろし)

飛翔法律事務所
パートナー 弁護士



前提

私は、産学官の連携について、大企業およびベンチャー企業の両方に企業法務系弁護士として関与するだけでなく、大学側の弁護士としてもかかわっている(特に同志社大学では学長を理事長とする産官学連携NPO*1の副理事長として組織面まで踏み込んでいる)。加えて、行政側でも活動している。こうした具体的な実務面で産学官連携を行っている弁護士という立場から、実践的な視点も踏まえ、共同研究に関する法的な問題を検討することとしたい。

問題点は多々あるわけだが、スペースの関係もあるので、間接経費・研究の分担(進捗管理含む)を中心にして秘密保持・成果の帰属および実施関係にも少し言及する形で検討する。

問題1. 間接経費

大学側が企業に対して直接経費だけでなく間接経費についても負担を求めることが増えている。直接経費の10%程度を請求するのが一般的とされている。確かに、共同研究をする場合、研究自体に必要な直接経費だけでなく、事務管理費等の間接経費は必須である。しかし、間接経費の内訳が何かという問題すら明確ではない。例えば、事務経費・水道光熱費・産学連携推進費・知的財産管理費等を間接経費とするのが多数派であるが、情報整備費・外部資金獲得活動費・人材育成費・新規研究立案費等まで含まれるとしている大学もある。どの定義が正しいかという基準はない。しかし、内容の詳細を説明し、費用負担について企業側のコンセンサスを得ることが大切である。企業側は、必要な範囲での経費負担をかたくなに拒絶しないと思われるが(中小企業の一部には今までのように間接経費を取らないでほしいとの主張もある)、経費の使途が必ずしも共同研究内容と関連しない大学内部の一般管理費に向けられるのではないかという不信感を持っている場合がある。そのため、大学側は、企業側に対して間接経費の使途について明示し納得してもらう必要がある。

加えて、企業側と実際に共同研究を行う教員に間接経費以外の90%が確実にわたっていることも示すべきである。企業側には、間接経費以外の費用も、実務を行う当該教員以外の教員等が搾取しているのではないかという不安もあるので、確実な金員の流れを開示すべきである。

さて、上記の定義や間接経費制度の導入よりも私が問題と考えるのは、多くの大学が間接経費の割合を直接経費の10%で一致させているという点である。大学や企業の中には、相場の形成として好意的にとらえるものもある。しかし、上記のように大学によって千差万別な使途や定義があるにもかかわらず、最終的な割合のみが直接経費の10%で、何故に一致するのか全く理解できない。内訳が違えば、当然数字も違って当然である。加えて、内訳が一緒だとしても、各大学は産学連携に関して独自の取り組みをしているわけであり、他大学に追随する形で10%となるのは妥当でない。こうした視点で考えた場合、産学連携に積極的な大学の中から、当該大学の取り組みには費用が必要なことを説明し、企業側の理解を得て、20%以上の割合に変更するものが出てきたことは興味のある事例と考える。逆に、中小企業を想定して間接経費を取らないとしている大学も独自路線として高く評価できる。10%で横並びという不思議な状態は早急に脱しなければならない。特に、独立行政法人化した旧国立大学等には、創意工夫ができるチャンスが来たのだから、間接経費の割合についても独自色を出してほしい。

問題2. 研究の分担

この問題については、双方の分担範囲が不明確になって争いが生じるというものおよび当初予想していなかった作業が生じ、どちらが分担すべきか争いになるというものといった基礎的な部分から考える。例えば、分担範囲が不明確な場合に相手方が行うのではないかと考えて双方が放置して失敗の原因になっていたり(譲り合いによる空白の発生)、予想していなかった作業が生じた場合に手間や費用の負担を嫌って相互に押し付けあう形になってトラブルになったり(押し付け合いによる紛争の発生)することがある。

この場合の対策としては、双方の分担分野を個別に決めると研究に必要な分野の空白が生じるので、最初の段階で研究に必要な分野をすべて列挙した後に、列挙されたものを2個に分割することおよび分割した後の各分野を明確に定義することで、空白のない形で分担範囲の不明確化を防ぐことが挙げられる。また、予想していなかった新たな作業が生じた場合に、単純に両者で協議する旨の条項を置くのではなく(これでは協議が進まない)、作業の性質や傾向に合わせて基本的な負担はいずれがするのかという指針を契約書に記載しておき、それに沿って協議する形の条項にすべきである。協議の前に大枠を定めて協議の円滑化を図るものである。

ここまで記載した基本的な問題は、企業間の共同研究の分担をめぐっても生じるものである。これに対し、産学連携特有の問題としては、大学側研究の進捗管理というものがある。大学と企業が共同で研究するとしても、双方が同席して研究するわけではない。そのため、大学側の研究の進捗をどのようにコントロールするのかというのが進捗管理問題である。極端な例としては、企業側と大学側がそれぞれ研究を進め、企業側は期日までに一定の成果に達したので大学側の研究成果とのマッチングを図ろうとしたが、その段階で大学側の研究が進んでいないことが初めて分かり、トラブルになるというケースが挙げられる。大学側の教員の研究実態を産学連携担当部門の事務職員が把握して管理することは現実には難しい。事務職員と教員との力関係もあるし、研究内容について分からないことも多いからである。そこで、企業側が詳細なマイルストーン(里程標)を契約時に定め、小刻みに進捗管理のための会議を持つべきである。実際に共同研究をする企業側は、研究内容も分かっているのであるから、有効な進捗管理が可能である。

問題3. 秘密保持

秘密保持については、大学も企業も相互の立場への配慮が必要である。すなわち、知財戦略や営業戦略の観点から秘密保持を重視する企業側に配慮して、大学側は秘密保持に努めるべきである。しかし、大学の教員は秘密保持の習慣がない上、学会等での発表を欲する傾向にある。また、学生まで参加させる場合には厳しい秘密保持規定を置きにくいという現実もある(学生は大学に勤務しているわけではなく、厳しい義務を課すこと自体に疑問がある)。こうした双方の違いを踏まえて、相互理解に努めるべきである。

そこで、企業側は、本当に重要な秘密を取り扱う場合、学生を参加させないという研究体制にして構造的に秘密を保持させるべきである。大学の教員だけに絞って共同研究体制を敷くと費用も高額化する場合があるものの、秘密保持のためには必要な負担である。逆に、学生参加型にするなら、秘密保持の程度は限定的にならざるを得ないという現実的理解が必要であろう(学生参加型で授業の側面も取り入れれば、費用は削減できるので、秘密保持が一定程度甘くなっても企業側にもメリットはある)。

また、秘密文書の範囲が増え過ぎると全体的に文書の価値が低下する。そのため、本当に重要な文書に限って「マル秘」等の秘密指定の文言を入れるべきであろう。企業の中には、厳密に考えれば秘密とまではいえないものまで、秘密指定している場合がある。こうした秘密指定の水増しは、実務的には秘密保持の水準を低下させるものであり妥当でない。

問題4. 成果の帰属および実施関係

共同研究である以上、成果の帰属をあらかじめ定めておくのは当然である。負担や貢献に応じた公平な割合になるよう協議し、成果が生まれる前の契約時に基本的な帰属関係を定めておけば争いは防げる(成果が生まれてからの協議は争いの種である)。この場合、予想できなかった成果が生じた場合の協議の指針についてもあらかじめ契約書で定めておくことが望ましい。

また、共同研究の成果が特許等の形で権利化された場合には、実施権が問題になる。本誌の別の稿で取り上げられた不実施補償*2の問題等も生じる。企業側が拒絶反応を示す不実施補償についても、双方の考え方に違いがあることを認識しつつ、事前に協議して、どのように取り扱うかを定めておくことが望ましい。

共同研究を開始する段階では、お互いの関係は悪くないはずであるから、想定できる事柄についてはすべて最初の段階で契約書に盛り込むべきであろう。共同で作業して成果を出すという共同研究の流れの中で、相互のトラブルは避けねばならない。その際、重要な視点は、[1]事前に契約書によってルールが明確化していることおよび [2]大学と企業とが双方の立場の違いを認識しあうことではないだろうか。契約書の作成は予防法務(紛争に勝つこと以上に、根本的に紛争を予防してしまうという企業法務の基礎的考え方)の基本であるが、大学も予防法務の視点を取り入れて、契約書の充実に努めるべきであろう。

おわりに

共同研究契約に関する法的問題点は上記に限るものではない。瑣末(さまつ)なものを含めれば広範囲となる。そうすると、共同研究を進める中でトラブルに巻き込まれずに成果を出すためには、研究を開始する前に研究計画を協議し、これまで述べてきたように、明確な契約書を作成する必要があることが分かる。また、マイルストーンも明確にしておけば進捗管理が容易なだけでなく、不幸にして研究を断念するという場合に、撤退の道しるべにもなると思われる。あらかじめルールを定め、協議の方向性も決めておけば問題は少なくなる。

企業と大学は、考え方も組織も違う者同士なのであるから、共同で研究をするには、相互理解に努めつつ、その基盤の上に明確なルール等を乗せる形にすれば、安全に成果を出せると考える。

*1NPO法人 同志社大学 産官学連携支援ネットワーク
http://www.doshisha-net.org/index.html

*2
2006年1月号に掲載の、“第2回「不実施補償」要求の法的根拠”を参照。