2006年5月号
連載5  - ヒューマンネットワークのつくり方
ネットワークづくりは情報整理から -私の情報整理術-
顔写真

村田 勝英 Profile
(むらた・かつひで)

豊橋技術科学大学 科学技術コー
ディネータ/文部科学省 産学官
連携支援事業 産学官連携コーデ
ィネーター/工学博士


はじめに

このようなテーマで書き物をすることになってしまったが、先輩諸氏と違い、筆者はネットワークづくりなどまるで考えたこともないお粗末なコーディネータであるということをまず白状せざるを得ない。コーディネータなる職種は一匹おおかみ的な仕事なので、何でも自分でやる、自分でできる範囲がコーディネータの仕事だと割り切ってやっていると言ったら、一匹おおかみのネットワークなるものを見てみたいから書いてくれと言われてしまった。といういきさつなので、タイトルと照らし合わせると、誠に心もとない書き物であることをご容赦いただきたい。内容は、「私の資料整理方法」とでも言うべきものである。

筆者が豊橋技術科学大学の産学官連携コーディネータなるポストに就いたのは2004年4月のことである。大学での業務内容を紹介すると、技術相談、特許出願、技術移転、地域連携、シーズ調査とそのデータベース化、「シーズ育成試験」などの申請、産学官連携に関わるイベントの開催、学内行事への参加など多岐にわたる。これらの中でトピックスを一つ挙げるとすれば、技術相談の有料化システムを全国の大学に先駆けて構築し、日々運用していることであろう。この技術相談の有料化システムについては講演等でもすでに紹介しているが、直接筆者にコンタクトがあれば、その実績も含め、さらに詳しい情報を提供している。

コーディネータのネットワーク

さて本題のヒューマンネットワークの話。はっきりした目的がなければ、ネットワークづくりといっても極めて効率の悪い作業にならざるを得ないのは理解できる。またコーディネータの仕事が一件一件分野も人脈も異なることが多いので、なおさら雲をつかむような話である。筆者のコーディネータ稼業も1年目より2年目の方がずいぶん仕事がはかどるなという感じがするが、これはネットワークができたからというより、この1年、自分に集まった情報が整理され、それをベースに自分にとって有効と思われる情報が選択できる(課題解決の道筋が想定できる)ようになったためと考えた方が適当であろう。

さて一方、良いネットワークというのは自分にとって有効な情報を提供してくれる存在と考えられるが、良いネットワークを構築するためには、この問題は誰に聞けば有効な情報が得られるとか、誰それ経由でどの機関に頼めばやってくれるとかが、自分の中であらかじめ整理されていなければならない。すなわち、良いネットワークを自分のものにするためには、それを機能させるための情報が自分の中に存在していなければならない。仮に、自分の中にネットワークに関する情報が整理されていなければ、どのような立派な人物が名前を連ねるネットワークも機能しないであろう。

筆者もコーディネータになった途端、絶え間なく寄せられるもろもろの情報洪水にいや応なくさらされているが、その中で資料整理という点では、長年培った独自の方法を採用しているおかげでなんら不自由を感じない。それほど変わったことをするわけではないが、必要なときに必要な資料を取り出せるし、部屋に書類の山ができることもない。その効果のほどは歴然としているのでこの機会に紹介し、今回の宿題の答えとさせていただきたい。あふれるような言葉の海を整理し、有効な情報にたどり着く、すなわち産学官連携コーディネータが直面する課題解決のための一助となれば幸いである。

資料整理の方法

資料整理の仕方は人さまざまである。筆者も以前は、資料にいちいち穴を開け、○○ファイルと称する分厚くて頑丈なホルダーにとじていたが、これが意外と不便で使いにくいということに気が付いた。インデックスを付けるとか、いろいろ手を加えないと必要な情報が出てこない。それで、写真に示すような紙製のファイルホルダーに資料を入れて整理することにした。要点は以下である。

1. ファイルホルダーに付ける名前は固有名詞、もしくは固有名詞に近い名詞とする。
2. 名前は鉛筆で3カ所に書く。すなわち、ファイルホルダーの耳の部分とホルダーの横サイド部分(写真参照、ホルダーの手前の部分)、中央に折れ線があるのでその両側に同じ名前を書く。
3. 入れるファイルが1枚しかなくてもホルダーは別にする。すなわち、ホルダーを使うことを惜しまない。
4. ホルダーは立てて置く。すなわち、横の部分に書いた名前が見えるように書架に並べる。
5. 書架では、ホルダーを大まかなドメインで区分して並べる。ドメインの中のホルダーは、アイウエオ順に並べる。

この資料整理の方法は、梅棹 忠夫著『知的生産の技術』(岩波新書)にヒントを得て編み出したものである。ホルダーの名前に一般名詞、例えば報告書、研究会、仕様書などを付けると、たとえその中に必要な書類が入っていたとしてもまずは探し出すことが難しい。とにかく個人名とか会社名、イベント名、タスクの名前などの固有名詞、もしくは固有名詞に準じた名前を書くように心掛けることが必要である。

名前を3カ所に書くのは探しやすくするため、鉛筆で書くのは、名前の書き直しができるようにするためである。そのときは当然と思って付けた名前でも、パッと手が行ったところになかったときは、手が行った先、すなわちそのとき連想した名前に変更する。

次はホルダーを惜しまない。1枚しか書類が入っていなくてもホルダーは別にする。せっかく固有名詞を付けたのに他の固有名詞にかかわる書類も入れたのでは分類したことにならない。往々にして、1枚しか書類の入っていないホルダーの方が後で役に立つことが多い。ホルダーは湯水のごとく使うことをお勧めする。“村田さん、毎月のようにファイルホルダーを買っていますが、いったい何に使うのですか”などという質問にも、用途を縷々(るる)説明し、“これがないと小職は仕事にならないのです”と動じることなく答える。

ホルダーは立てて並べる。積んでおくのは名前が見にくいし、乱雑に見える。写真に示すように立てて並べれば場所も取らないし探しやすい。写真手前の書架3段分が小職のもとへ届いた資料1年分のファイルで、2年目も終わりに近い現時点では、2つ目の書架3段がほぼ満杯に近くなっているのがうかがえる。筆者の部屋に、これ以外に書類を置く場所はない。

ファイルホルダーはいくつかのドメインに分けて並べる。写真の書架では技術相談、個人、機関、豊橋技術科学大学、パソナ・文部科学省などのホルダードメインがある。写真、矢印の範囲が過去2年間分、約230件の技術相談ファイルを示す。相談者名でアイウエオ順に並べてあるのでいつでも取り出せる。また現在処理中の案件には付箋を付け、納期等を書いておく。このようにすることにより、処理すべき案件を忘れることもなく、資料を探す手間も格段に少なくなる。

効果のほどは
写真1

写真 ファイルホルダーと書架

押し寄せる資料をしかるべきファイルホルダーに収めると、とりあえずなんとなく仕事が片付いたような気がするが、並べた資料が後で実際に役立つのはまれである。実際に役立つのは、具体的に仕事をするときつくるホルダーである。ちなみに、この書き物をするためのホルダー(写真左下)には、「産学官連携ジャーナル」執筆 締め切り3/24、と書いてある。中には、産学官連携ジャーナルの創刊趣意書、執筆の手引き、執筆依頼、先輩コーディネータの書き物など関係書類一式が入っている。あとは途中で構想を考えたときのメモが2、3枚。本件の場合この程度で十分であるが、学術論文を書くような場合には、一般にこの内容がけた違いに多岐にわたることになる。ただし、これ以上の説明は省略する。

あとがき

コーディネータが扱う情報は、紙に書かれた資料だけではない。パソコン経由で膨大な情報が押し寄せるが、この電子データといわれる情報も基本的には同じコンセプトで整理する。すなわち、“フォルダに固有名詞を付ける”である。またE-mailによる来状・出状はせいぜい10個くらいのドメインに分けて整理すれば、比較的容易に検索でき、探すのに困ることはない。

パソコンを相手に、後ろに並ぶ書架の資料を適宜参照しながら事務処理をする、というのが平均的な私の姿である。