2006年5月号
特別寄稿
群馬・埼玉両大学の知的財産戦略
-広域的に技術プッシュを目指す-
顔写真

須齋 嵩 Profile
(すさい・たかし)

群馬大学 地域共同研究センター
教授/研究・知的財産戦略本部
知的財産戦略室長


1. はじめに

「大学で生まれた発明の知恵が新たな事業・製品を生みだし、地域の競争力を高め、利益をもたらすこと」「研究成果を特許化する必要性と組織的に技術移転を進める機能が不可欠である」等、大学内に深く理解されてきている。また、「誰にでもできることは、誰もやらない」新規性の重要性が醸成され、知的財産取得の価値の認識が急速に高まっている。

企業でも高額な特許報奨金制度を導入するなど基本発明のインセンティブを高める努力をしているものの、基本技術開発のリードタイムは長く、資金投入量も多く、必ずしも商品化に直結するものではないのでリスクが極めて高くなっている。独自の研究を進め、基本特許の創出に最も近い大学に「大学に行けば基本技術がある」との多くの期待が高まっている。

首都圏北部4県の国内工業出荷高を見ると埼玉、茨城、栃木、群馬は、5、9、11、12位と高い産業集積の地域でもある。しかしながら、都心に極めて近いために地域性が薄まる可能性もある。

大学で生まれた研究成果を広域的に技術移転する方策を検討する中で大学間の連携が必要であると痛感した。群馬・埼玉両大学は文部科学省の知的財産戦略本部事業に連合で応募し採択されたので、その取り組みと知的財産活動に連動した産学連携の一端を報告する。

2. 共同で進めてきた知的財産戦略
図1

図1 研究・知的財産戦略本部



図2

図2 両大学の連携スキーム

図1に示すように、本部を群馬大学に置き、「研究戦略室」と「知的財産戦略室(埼玉大学は知的財産部)」を両輪に各戦略の策定とその遂行を担う組織にした。技術移転を進める「技術移転マネージメントグループ(TLO組織)」を両大学にブリッジさせた。また、両大学の地域共同研究センターのスタッフの活動も連動させた。「研究戦略室」は、基礎・応用研究戦略の策定と運用、重点8領域の研究推進、21世紀COEプログラムの研究教育拠点の形成への取り組みを行う組織である。埼玉大学の「総合研究機構」とも連携して、相乗効果を出すようにしている。

「知的財産戦略室」の活動は、知的財産ポリシー・ルールの策定から知的財産の創出・取得・管理・活用、情報提供、地域における特許等の創出支援、大学発ベンチャー起業支援、共同・受託研究等の契約交渉、国際的な知的財産専門家ネットワークの構築、人材養成、教職員・学生への知的財産啓蒙活動、技術移転戦略の策定等、制定から活動まで両大学が共同で行う組織である。

その半面、異なる法人組織であるので、独自性を出す努力やトップダウンの指示徹底の壁がある。図2は両大学の知的財産の種々のレベルの運営のスキームである。市場性や事業性など評価委員会に提出する評価資料は両大学が共同で作成している。なお、知的財産戦略室のスタッフは民間企業の研究室長、知的財産部長の経験者である。さらに、平成16年度の文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に、本戦略室のスタッフが「知的財産啓蒙教育及び弁理士チャレンジ教育」の内容で応募して採用され、幅広い学内外の知的財産に関する教育に取り組んでいる。

3. 知的財産と産学連携の結び付きは
3.1 研究会は技術をプッシュする交流の場作り
図3

    図3 アナログ集積回路研究会の立ち上げ
        スキームと技術移転モデル

群馬大学では研究成果を発信する多くの研究会を立ち上げている。例として、アナログ集積回路研究会の立ち上げ時について述べる。半導体のアナログ回路技術は使い古された技術と考える人が多いが、むしろ技術のノウハウの集積である。県内には日本を代表するアナログ回路を得意とする半導体メーカー2社の拠点とそれらの回路を応用する企業が多数集積している。研究会の目的は、アナログ関連の製造拠点の集積促進、開発能力のレベルアップで競争力アップ、コア技術であるアナログ技術に焦点を当てた人材育成、研究開発支援等を行うことである。大学では研究会を通じて、共同研究が進展し、学内にアナログ集積回路技術に関する寄付講座の開設、共同研究成果から技術移転の結実があった。図3にこの研究会の立ち上げのスキームや技術移転のモデルをまとめた。

群馬大学を中心に地域特性を生かした、ケイ素科学の研究拠点を形成する研究会も同じである。群馬県は、ケイ素の新しい応用展開を目指す日本原子力研究所高崎研究所、世界のトップレベルの信越化学工業(株)やGE東芝シリコン(株)等が存在する世界屈指のケイ素産業の地でもある。上記3組織と連携大学院を設置して、学内外の研究・教育の充実も図っている。このような趣旨で種々の研究会を立ち上げ、これらから共同研究や特許等の共同出願が出ている。同じく、埼玉大学でも(独)理化学研究所や地域企業と「埼玉バイオプロジェクト」を(独)科学技術振興機構(JST)の下で文部科学省地域結集型共同研究事業を立ち上げている。今後、ますます広域に飛躍した研究拠点の形成が必要であると考えている。

3.2 企業との包括提携

群馬大学は、早い時期から共同研究に関して大手企業と包括提携を結んできた。特に近傍の地域に研究所や主力事業所を有する企業と提携を結ぶことにしている。

現在まで、富士重工業(株)、サンデン(株)、太陽誘電(株)、三洋電機(株)、チッソ(株)の5社と提携を交わしているが、その包括提携の利点をまとめた。

[1] お互いの持っている研究能力をより高められる。
大学: 多くの基礎研究を専門的に深く研究をしている。当然であるが、論理的に研究を進めている。
企業: 大手企業はグローバルな事業の展開をしており、世界の産業界の動向が把握できる。先端ニーズとシーズを持っているので、大学には見えないニーズを把握できる。また、グローバルな競争の中で開発スピードが速い。
[2] 個人的な共同研究から、大学と企業間との組織間コミットメントが可能となる。
[3] 幅広い分野での交流、学生のインターンシップ等しっかりとしたフォロー体制が可能となる。
[4] 秘密情報管理や知的財産権の取り扱いの取り決めも可能となる。
[5] 提携から生まれた成果をもとにコンソーシアムを組むことで、関連会社の技術レベルの向上と地域の活性化と研究開発拠点が形成されるようになる。

この提携は利益相反をかんがみながら、お互いの特長を生かした効果を見いだすことが可能となった。また、地元の金融機関、都市銀行、政策金融機関の9機関と個々の特長を生かす産学連携の締結をしている。この提携によって、多方面の地域企業のニーズを把握することが可能になり、共同研究の増加の起因と地域企業育成の支援の一助となっている。

4. 両大学の知的財産戦略本部の成果と課題

表1 両大学の知的財産活動実績

表1

両大学が連合した研究・知的財産戦略本部の活動の成果の一部を次ページの表1に示した。平成15年度と17年度の比較を見ると、出願件数では9.2倍、海外特許も15倍と格段に増加している。欧米、中国、韓国、台湾やタイの海外の弁理士事務所等とネットワークを構築してきたので、単に知的財産の防御のみでなく、技術移転を積極的に進めて行きたい。両大学の体制も整備されたので、技術移転は今後かなりのスピードで増加するものと期待している。また、両大学が共同で技術移転活動を進めた結果、共同研究が1.23倍、受託研究も1.3倍と増加した。その成果をまとめると、

[1] 中小規模の大学では知的財産戦略本部を立ち上げて、その活動を進めることは多くのスタッフと労力が必要であるが、大学間の連携により多くのスケールメリットが出せる。例えば、知的財産ポリシーなどの制定や知的財産評価等多くのことが共通で採用できた。
[2] 地方では弁理士事務所も少なく、連携により弁理士事務所等を共用できるので、対応の早さや経費等の節約が可能となった。
[3] 連携のスキームで示したように、評価委員会提出資料を共同でチェックすることで幅広い意見が集約され、特許性や技術移転可能性の確度が高くなった。
[4] JSTで行った新技術説明会等の技術移転活動を共同で行うことは、多方面にわたる新技術内容が提案できた。また、多くの成果が結実された。

その半面

[1] 個々の大学の論理が先行するきらいがあり、調整に時間を要する。
[2] 地方の大学では県レベルの活動が多くあり、自治体間の壁が広域活動の支障になるケースがある。
[3] 知的財産マネージャーを別々の大学で採用したので、当初は相互交流が少なかった。
[4] 法人が異なる故に、知的財産権の帰属の判断、評価を個々に対応した。
[5] 事業終了までに、法人組織でない共同の技術移転マネージメントグループの在り方を決めておく必要がある。

5. まとめ

平成17年12月に群馬・埼玉両大学の知的財産戦略室を軸に、茨城、宇都宮両大学と連携して新技術説明発表会を行ったが大変好評であった。また、4大学は、大学院教育における研究連携および産学連携の推進、大学院教育の国際化を図ることを目指して連携協定を締結した。このような背景もあり、広域における技術移転活動の一元化の可能性を秘めている。

群馬、埼玉両大学で構築した研究・知的財産戦略本部を共同で行うメリットも多くなってきている。今後、次のようなことを考慮しながら、知財戦略本部事業の終了後の対応を考えて行きたい。

[1] 大学の特許は産業界で採用されて価値が出るので、技術移転マネージメントグループによる技術移転実績を増加させねばならない。そのためにも、一気通貫で幅広い見識を持った目利き人材の育成が必須である。
[2] 各大学には知的財産戦略本部が設置されている。技術移転組織を本部内に含めた学内組織、連携した外部組織、多くの大学で構築している自治体の支援で構成する組織、スケールメリットを生かした広域組織等、いろいろなスキームが考えられる。今後、群馬・埼玉両大学を軸にした広域的な技術移転組織の可能性を研究していきたい。
[3] 知的財産の経費は共同研究の間接経費等で賄っているが、本部事業終了後に自立して運営できるようなプロフィット組織を構築する必要性がある。