2006年8月号
連載3  - MOTと産学連携
第4回 産学連携でのWIN-WINを得るには
顔写真

出川 通 Profile
(でがわ・とおる)

(株)テクノ・インテグレーション
代表取締役/早稲田大学 客
員教授/東北大学 客員教授
/島根大学 客員教授

Win-Winとなる産学連携の主なステージは開発ステージである。そこでの連携がうまくいけば企業側はマーケットが見え、商品化のめどが立つことになり、学側は新しく創出した新技術の移転に成功し、ひいては教育・研究の再生産につながる。

概要

優れた技術シーズの商品化、事業化の方法論とツールを与えるものがMOTであり、そのための有力な手段の1つが産学連携である。その連携を空間的な技術・事業分野のマッチングだけでなく、時間軸的な進捗ステージの相互理解とマッチングで行うことが大切になる。

事業化についての産学の連携がうまくいくためには、産側では学側の差別化技術をベースにした開発が完了し商品化のめどが立つこと、学側では新しく創出した新技術の移転に成功し教育、研究の再生産につながることが必要である。

ここでは、MOTと産学連携に関するWIN-WINの関係への期待と課題をまとめてみた。

産学連携の重要性とMOT

技術革新の早さ、技術の専門化・複合化により、1つの企業だけで全ての技術や事業化へのステージに対応するのに無理が生じている。また企業における知財のストックも底をつき始めている。このため企業が新事業展開としてある領域に踏み込んだ場合、革新的な分野であればあるほど技術シーズが不足することになる。そこの欠落空間をうまく補うのが産学のアライアンス(連携)の基本で、その結果、開発スピードが上がり、企業は得意な分野、例えば生産や事業化に特化できるというメリットが生じてくる。

MOT(技術経営)自体は、技術シーズ(必ずしもハイテクの差別化技術とは限らない)を基に、付加価値を認められるような新商品や新規事業を創造していくこと(=プロダクトイノベーション)を目指している。

新事業を創り上げるには、従来の組織や生産コストを低下させる体制(=プロセスイノベーション)の継続や思考形態ではできないことから、さまざまなツールや工夫が必要になってくる。この工夫やツールを提供するのがMOTの役目である。

アライアンスの難しさとWIN‐WIN

産学連携とはアライアンスの一種で、企業同士の場合でもアライアンスを組む場合には、必ずといってよいほど、双方の企業の文化の間の相克が発生する。そのギャップを解消するにはその歴史や経緯などの積み重ねの差をお互いが認め合うところからスタートする。

大学と企業との間は、これまでは同一の経済原理に基づかない異分野にあり、異なった原理・原則下にあった。このため産業界と大学の双方とも当初、その違いの故に連携=アライアンスは容易であると、考えていた節があった。確かに国立大学法人化する前は双方の価値判断の原理が企業=経済、大学=知の追求といった具合にかけ離れていて、その軋轢(あつれき)が表面に出なかった。しかし、企業と同じ(経済)原理の土俵に立った途端にアライアンスが難しくなってきていると筆者は考える。もし軋轢が存在しても企業同士であれば、最終的に経済原理で解決されていくが、学側が中途半端な考え方を持っていると、この問題は尾を引くことになる。

産学連携の勘違いと対応策

産学連携の支援を、新事業創出という観点で実際に行っていくと、現実に下記のような双方の勘違いが生じている場合が多いと感じている。

「ベンチャー起業」に関する勘違い
「死の谷と連携ステージ」に関する勘違い
「先端技術」に関する勘違い
「技術と知財の価値」に関する勘違い
「技術移転」に関する勘違い
「資金集め、ベンチャーキャピタル」に関する勘違い

これらのほとんどの項目はMOTの手法を基に解釈・解決することができるので、逆にMOTのツールを知ることで効率のよい連携の推進と実のある成果を得ることが可能になる。ここではその内容を詳細に述べないが、ご興味ある方は、下記の日経BP社のウェブサイトを参照されたい。

http://nikkeibp.jp/wcs/show/leaf/CID/onair/jp/biz/411981

死の谷と魔の川の認識と理解

技術シーズを事業にしていくには技術シーズを作り出す研究ステージ、製品の開発をする開発ステージ、製品を商品にする事業化ステージ、さらに工場で量産する産業化ステージという4つの時系列的なステージがある。MOTでは「研究」と「開発」の両者の境界障壁を「魔の川」と呼び、開発によって製品を作ってそれを商品にする事業化ステージの間を「死の谷」と呼ぶ。

図1

図1



図2

図2

企業側の死の谷はまさに開発「製品」を「商品」として事業化するところにある。大学側も死の谷と呼んでいる場合もあるが、この認識としては往々にして実はその前の研究ステージから開発ステージに移行するという「魔の川」を越えられるかが課題となっている場合が多いようである(図1)。

大学側への企業からの期待としては「開発ステージでの連携」、すなわち「客へ出せる評価サンプル(=製品)試作での連携」であるとも言える。実はこの開発スピードが顧客への付加価値を決めていくことになり、ここでの産学での協力関係がうまくできれば産学連携は成果を出せる可能性が非常に高い。言葉を変えると産学連携がうまくいくパターン、すなわちWIN-WINとなる主なステージは研究ステージでなく開発のステージであるということになる(図2)。

連携の結果として、企業側としては製品開発が迅速に進むことで、マーケットが見えてくる。事業化ステージに入ってくれば、企業は産学連携から離れて技術シーズを社内に取り込みながら死の谷を越える活動となる。企業にとってはここから先はクローズドのビジネスの世界となる。ここまでくれば産学連携は大成功である。

すなわち大学が越えるべき障壁はいわゆる産業界の「死の谷」ではなく、研究と開発との間に横たわる「魔の川」ということになるのである。ちなみに米国の大学の産学連携はこの開発ステージに踏み込む例が多く、このことが企業から巨額の共同開発資金を入手できる1つの理由となっている。

企業は何を学に期待しているのか

当たり前だが産業界は自らが持っている機能と同じものを大学には期待はしていない。もし大学が産業界と同じ発想やレベルや意識で研究開発をしても無駄になるか、単なる下請けで終わることを示している。では産業界にできないことは何であろうか。それは下記2つの方向に絞られてくると考えている。

[1]マクロで長期的な視点:将来の技術の広がりをとらえて、その方向とベクトルを見据えた視点を提供し、高い視点でとらえた提案や研究ができること。

[2]技術の深掘りと周辺データの蓄積の視点:[1]では、高い視点からのとらえ方であったが、技術の体系化を行いながら技術を深掘りする。


以上のような視点で産学連携をとらえると、大学側は企業側の状況を理解し企業側も大学側の持つ本質的な機能をよく理解することが前提となる。このことで企業と大学とのアライアンスがWIN-WINで得られることになる。また、両者の共通したミッションをとらえて中長期的なしくみと、リード・サポートする官側(行政)の役割も必要である。

このように産学連携においては、お互いが技術の事業化を進めながらも、立ち止まってMOTの視点を入れながらお互いの強みと弱みを認識した上で対応することが重要であり、この連携が中長期的なWIN-WINの関係を築くポイントとなると考えている。

●参考文献

(1)出川通.技術経営の考え方 MOTと開発ベンチャーの現場から.光文社新書,2004.