2006年9月号
単発記事
金融機関と大学との産学金官連携例
環境にやさしい機能水”Juju” -金属加工のオイルフリーに挑戦-
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稲池 稔弘 Profile
(いないけ・としひろ)

大阪府立大学 産学官連携機構
リエゾンオフィス コーディネーター


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島崎 公伯 Profile
(しまざき・きみのり)

大阪信用金庫 総合研究センター
調査役/大阪府立大学派遣産学
連携コーディネーター

信用金庫のコーディネータが企業と大学、企業と公的機関等の橋渡しをする。地元中小企業の新事業創出、技術革新を支援する信用金庫の取り組み、その1成功例として金属を、潤滑油もしくは切削油の役割をする水で加工する事業を述べる。

概要

大阪信用金庫の取引先である株式会社新栄製作所(大阪市西区 代表取締役社長 吉村龍雄)の第2創業である株式会社K&Kは、ボルト・ナットの製造経験から、金属加工油の代替として添加物や化学薬品を使用しないで水道水を電気分解した、従来にないpH12以上の強電解水を開発した。

本事例は、大阪信用金庫と大学コーディネータの橋渡しで大阪府立大学および大阪府立産業技術総合研究所との共同研究を経て、開発を終え、販売も始まった。研究開発費は数千万円と多額であったので、近畿経済産業局の補助事業に申請し、平成17年度に採択された。しかし、補助金の授受までは申請から相当の日数を要するため、大阪信用金庫が資金支援を図り、資金面でも支援ができた。

大阪府立大学と金融機関との産学金連携

大阪府立大学は公立大学という性格上、大阪の90数%を占める中小企業を産学連携で支援する方針を打ち出し、文部科学省の大学知的財産本部整備事業に応募し採択校(34校)の1つに選ばれた。この活動の一環として、中小企業に身近な存在である信用金庫・地銀・中小企業金融公庫・商工中金と、産学官連携契約を締結し技術相談等に対応している。平成17年度末で、大学コーディネータと金融機関コーディネータが訪問した企業数は約500社。特に、大阪信用金庫は平成15年6月より、全国で初めて職員1名を大学に常駐させ、産学連携に積極的に取り組んでいる。

(1)産学金連携による成果・実績

図1

                  図1 技術相談の実績



図2

         図2 金融機関ルートによる訪問技術
             相談の結果(累積)

図1に企業からの技術相談に応じた全学の実績を示す。金融機関との連携による効果が、平成15年度、16年度の技術相談件数の著しい増加として現れている。

金融機関との連携によって企業を訪問し、技術相談を受けた結果、どのような成果につながったかを図2に示す。訪問企業490社のうち、56%は具体的な技術相談にまで至らなかったが、残りの44%は何らかの形で成果につながっている。そのうち研究費獲得に寄与したのは、技術移転1件、共同研究15件、寄付研究8件、顧問契約3件である。その他、教員への技術相談111件、公設試験研究機関への相談29件、産産マッチング46件であった。

(2)中小企業から多かった要望

これらの活動を通じて、中小企業が大学に対して期待しているのは、次の項目が多いことが分かった。

基盤技術の強化・高度化・理論面での指導
材料選択、成形加工・金型技術、制御技術、設計技術、表面処理技術
新分野進出の支援(有望なシーズ+技術指導)
下請けからの脱却(独自製品)、新分野・製品のアイデア、静脈産業技術
試験・分析測定(検証データ、有効性のデータ、安全性のデータ)
基礎研究からの技術的なヒント

また、中小企業には、次の課題が潜在的に常時存在することが分かった。

人材の不足(経営の後継者、ものづくり後継者育成、研究開発者)
マーケティング(新製品の売り方と展開、デザイン)

(3)中小企業の産学連携に対する認識と誤解、大学の対応力の問題点

大学は、技術のコンビニではないが、中小企業の中には大学は何でも解決できるオールマイティーであると考えているところが多い。
大学は物を製造するところではないので、ものづくりに関する技術や、具体的な商品開発を仕上げるノウハウはほとんどないが、大学に丸投げする中小企業が多い。丸投げでは機能しない。
中小企業では緊急を要する課題が多いが、大学は時間的に追随できないので、タイムスケジュールのズレが生じる場合がある。
大学は先端的な研究テーマを主に行っているが、中小企業での技術課題は現業のクレーム処理的なものや、従来技術の組み合わせで済ませることができるものが多く、両者のギャップを感じることが多い。

(4)産学金連携に実際に取り組んでみて分かったこと

中小企業の技術的な問題は、コーディネータの技術相談で解決できるレベルのものが多い。
中小企業が産学連携をしていることで、経営革新法*1等の承認申請に有利に働くことがある。
金融機関が間に入ることによる安心感が生じる。
金融機関職員の企業業績面での目利きと、大学コーディネータの技術面での目利きの合体は相乗効果があり、有効である。

大阪信用金庫の産学官連携への取り組み

当金庫は地元中小企業の新事業創出や技術革新を支援するために、平成15年6月に大阪府立大学と提携して「だいしん産学連携共創機構」を設立した(図3)。同時にベンチャー企業などが参画している「さかい新事業創造センター」とも連携し、大阪府立産業技術総合研究所からも協力を得ている。そして当金庫の総合研究センターのマネージャー(調査役)が産学連携コーディネータとして大学に派遣され、常駐することとなった。

図3

図3 大阪信用金庫.産学官連携の体系図

中小企業が大学や公設試験研究機関を利用しない理由として多いのは、それらをよく知らないということであり、産学連携に関心があっても、「どこに問い合わせればよいのか」、「どういった支援内容があるのか」よくわからない、という状況にある企業が多い。そこで、信用金庫の職員が大学に常駐することによって大学の敷居を低くすることで、よりいっそう実効性の高い産学連携を目指している。

産学連携を進めるに当たって企業のニーズを的確にとらえることが大切であるが、信用金庫のコーディネータには目利きするすべは持ち合わせていないので、大学コーディネータ、大学教員の適切なアドバイスや積極的な姿勢が今までの成果に結び付いている。

このように大学の先生方やコーディネータの方々を通じた情報提供やアドバイザーの紹介などの付加価値の高いサービスを提供することが、取引先との関係強化につながるものと思われ、また、その意味で効果的な仕組み作りができたものと思っている。

金融機関のサービス業務には経営相談、法律相談や年金相談など数多くあるが、産学連携を進めることにより、文系の相談業務に加え、技術相談という理系の相談業務もできるようになった。また、数多くの技術相談により当金庫の取引先の技術レベルの把握ができたことや、産学連携会員企業間での産産マッチング、いわゆる技術的なマッチングが実現できたことはこの産学連携がもたらした良質な資産と言える。

信用金庫のコーディネータが企業と大学、企業と企業、企業と公的機関などさまざまなケースでの橋渡しを行い、取引先企業の技術相談に応えているが、中にはその技術相談に企業が求める要望に残念ながら応えられないケースも多々ある。しかしそういった企業に対しても技術的なアドバイスや文献・資料などを提示したりし、できるだけ企業の役に立つよう努力をしている。

大学教員と企業との時間的な感覚はかけ離れており、半年や1年で結果を求めている企業と長く基礎研究を行う大学教員との間では納期に対する意識は違う。ここでも信用金庫のコーディネータが研究室を頻繁に訪れ、研究の進捗状況を把握し大学と企業との納期に対する意識を調節する役目を果たしている。

成功に至る道-強電解水“Juju”の開発-第2創業

以下に述べる話は、大阪信用金庫と大阪府立大学との連携活動の中から生まれた1つの成功例である。

【きっかけ】

地元の優良企業であるボルト・ナット製造業の株式会社新栄製作所は、A信用金庫がメインバンクで取引歴も長く、A信用金庫にとって優良取引先であったため取引条件は厳しく、大阪信用金庫としてはなかなか取引の糸口を見出せなかった。ある日、大阪信用金庫の担当者が訪問の際、置いていった「産学連携」のチラシが社長の目に留まり、当金庫に連絡が入り、当金庫職員の産学連携コーディネータが訪問することになった。

【開発現場、なぬ! 切削油の代わりに水を使う?】

大阪信用金庫のコーディネータと大阪府立大学のコーディネータが(株)新栄製作所を訪問し、4年ほど前から特殊洗浄剤の分野で強電解水の開発を手掛けている現場を見学した。その印象は、多くの技術的な難問を抱えており、商品としての効用も信用し難い点が多く、このままでは商品開発の成功には程遠いと感じた。しかし、企業では相当の先行投資をしており、その熱心さは並大抵のものではなかった。あるときなどは、企業は大学コーディネータの出張先の倉敷まで電話をかけて、協力を要請した。

【電気化学の専門家が必要だ】

最も必要なのは電気化学に詳しい技術者であるが、企業には化学の専門家がおらず、開発を推進するためには電気化学の専門家が加わることが先決であると考えた。

【教員との技術顧問契約】

大学内の電気化学を専門とする、岩倉千秋教授(現名誉教授)と井上博史助教授(現教授)に相談したところ、先生方の専門分野でもあり、また企業の課題が具体的であったため、協力の約束を取り付けることができた。ただし、研究テーマにするほどの内容ではなかったので、最初は顧問契約で、月に1~2回程度、企業に出向き相談に乗っていただくことで合意した。

【第2創業会社設立】

(株)新栄製作所の本業はボルト・ナットなどの金属加工であり、「アルカリイオン水の製造販売」は異分野への進出であるため、第2創業会社(株)K&Kを平成16年3月に設立し、先行して事業化のリスクを賭けた。

【開発費の捻出(ねんしゅつ)】

企業では既にかなりの額を先行投資しており、以前にNEDOへの申請を行ったが不採択であった。今後の多額な開発費を捻出するために、近畿経済産業局に相談し、平成17年度に近経局・地域新規産業創造技術開発費補助事業に応募し、「強電解水によるオイルフリー金属加工技術実用化開発」として採択された。しかし、補助金の授受は申請から相当の日数を必要とするため、大阪信用金庫が資金援助を図り、資金面で支援した。(株)K&Kは大阪信用金庫の産学連携の取り組みを評価し、当金庫をメインバンクとした。

【企業-大学-公設試の共同開発】

商品開発を成功させるためには、理論面、実用評価面、製造技術面など多方面の検討が必要であるため、大阪府立産業技術総合研究所(横井昌幸総括研究員を中心とする金属表面処理グループと増井清徳総括研究員を中心とする金属加工成形グループ)の協力を得て、大学、企業の3者での共同開発を行った。共同開発に当たっての3者の役目は大枠で次のように設定した。

(株)K&K…生産技術、試作機の製作、加工現場での評価、商品化
大阪府立大学…成分分析と現象の解析、さびが出ない理由の解析、効能の理論
大阪府立産業技術総合研究所…加工上の基本評価、切削加工性、摩耗など

〈製造技術開発〉

洗浄・脱脂・防錆目的で、pH12.50の強アルカリ性電解水を利用することは一部で行われている。一方、金属加工では、pH13.10以上の電解水が必要であることを検証実験により確認した。そこで、pH13.10以上の強アルカリ性電解水を製造するため、独自の発想で加電解装置を開発し、生成量が1ユニットで、20L/hを可能にした。

〈利用技術開発〉

金属加工油は、水溶性と不水溶性とに大別される。加工油は、潤滑性・冷却性・防錆性を主な目的として開発され利用されてきた。水溶性加工油は冷却性を主な目的とし、不水溶性加工油は潤滑性を主な目的とされている。

本開発の強アルカリ性電解水は、pH13.10の性状以外の主な組成は水(H2O)であるため、冷却性は水溶性油剤以上であり、防錆性も水溶性油剤に匹敵するものである。

利用技術課題は潤滑性であるとの認識のもと、多種多様の潤滑性向上剤を検証した。対安定性・対環境性・対コスト性等を考慮し、数種の向上剤を選定し、添加溶解させることで、飛躍的に潤滑性向上を実現した。

【販売開始】

平成18年3月に開発を終了し、平成18年4月より、商品名“Juju”と命名して販売を開始した。事業を開始した以上、今後は収益を計上できる状態に1日でも早く持っていくことが大事である。全く新しい技術であり、市場の理解をどのように克服していくかが最大の課題である。

開発商品“Juju”
図4

図4 発想の転換



図5

図5 “Juju”使用による金属加工の例

“Juju”はpH12.8以上の電解水である。この水は、潤滑油、切削油の役割を持つので、従って、金属加工を油加工から水加工に代えることができる。この電解水の利用で、環境負荷の大幅な軽減、トータルコストの削減が実現される(図4)。

すべての金属加工機また金属材料に“Juju”の代替利用が検証されたものではないが、NC加工機、MC加工機、RC(自動丸鋸切断機)では水溶性切削油の代替として、ボール盤(切削タップ・ドリル)、切削加工機、転造(歩み/インフィールド)、ローリング加工機では油性潤滑油の代替として、加工実績がある(図5)。

また、“Juju”は除菌効果、消臭効果を併せ持ち、キッチン、リビング、車、サニタリー、時計・貴金属などで、環境に優しい強力な洗浄水としても利用できる。

本事例を通じてコーディネータとして特に 痛感したこと

【成功の原因…何が成功をもたらしたか】

成功をもたらした主因は何だったかを考えてみると、[1]企業トップの姿勢が意欲的であり、主体性を持って推進したこと、[2]企業が研究開発に先行投資をしたこと、[3]成功に導く技術体制を徐々に構築していったこと、[4]大学と共に取り組めそうな具体的課題を設定していったこと、[5]そこから、大学、産技研の協力を得られたこと、[6]金融機関、公募の資金援助を得ることができたこと、である。その結果、「企業の努力・熱意・勇気の代償」として開発の成功があったと見ている。

このテーマは大学の教員が国の公募助成金を受けて進めている先端研究の範疇(はんちゅう)から外れており、学問的にも教員が興味を持てるテーマではなかった。これを突破して、大学教員の協力を得ることができたのは、企業側の熱心さ、やる気であった。

また公設試験研究機関の協力を得ることができたのも、大きな成功の原因である。商品開発には実用上の諸評価を行う必要が生じるが、その部分では大学よりも公設試験研究機関の方が得意分野である。

【新商品・新技術開発に対して各部門が果たす役割】

新商品・新技術の研究開発は、基礎研究→応用研究→開発研究(実用評価)→生産技術→市場開発→事業化のステップを踏む。産学官連携の真の成功のためには、上記一連の経緯全体に対して、責任を持って対処できる体制を取ることが必須である。大学で対処できるのは基礎研究と一部応用研究である。公設試験研究機関が対応できるのは、一部基礎研究、応用研究、実用評価である。企業は全体に対してかかわりを持つが、主に生産技術、市場開発、事業化の最後の仕上げに責任を負う。特に中小企業に対しては、生産技術、市場開発、開発・事業化資金に対しても支援を必要とされる場合が多い。従って、技術開発、事業経営の現場を知った人が責任を持つ形で運営されることが、成功への確率を高める。

【事業成功まで行って初めて成功】

共同研究や技術移転ができれば産学官連携は達成されたような感覚になるが、本当の成功とは事業として業績につながる売り上げと利益をもたらすまでという、「実質を問う」認識が大事である。すなわち、産学官連携の「ブーム」から「現実」への目覚めが必要である。

【シーズとニーズ】

本事例は企業側のシーズから発展したもので、大学のシーズからではない。分析機器やロボットの試作などのように大学にニーズがあり、企業にシーズがあるケースもある。企業側から出たシーズにも補助金が出ると、成果につながるものがもっと出る可能性がある。

【意識改革・啓発】

中小企業側に大学との長い付き合いの中でテーマを模索していく努力を啓発する必要がある。特に、企業トップの姿勢、企業からの具体的課題設定、大学の研究成果を吸収できる技術対応力、研究開発に投入できる資金力の点で見所のある企業は、産学連携が成功できる可能性が高い。

大学側には、中小企業から要望の多い基盤技術の高度化を行うことに、教員のインセンティブを与える工夫が必要である。

最後に

本事例は商品開発に成功したとは言え、本当の意味での成功は事業に成功して初めて成功と言える。そのためには、最後のハードルは商品の販売とそこから適正利潤を得ることである。その意味ではこれからが大切であると考えている。

*1経営革新法
平成17年4月13日、新法(中小企業新事業活動促進法)に改正。
http://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq02.html

Juju金属加工油代替水について:
http://www.k-k131.co.jp/juju_kinzoku.html