2006年9月号
連載2  - 産学官連携事例
抗ウイルス作用を有するドロマイトを加工した新素材の応用開発
顔写真

岡本 尚機 Profile
(おかもと・ひさき)

鳥取大学 地域共同研究センター
副センター長、専任教員(助教授)


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共同執筆:伊藤 壽啓 Profile
(いとう・としひろ)

鳥取大学農学部附属 鳥由来人獣共
通感染症疫学研究センター 教授


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共同執筆:大槻 公一 Profile
(おおつき・こういち)

鳥取大学農学部附属 鳥由来人獣共
通感染症疫学研究センター 特任教授


SARSや鳥インフルエンザの感染予防策となるか。ドロマイトを原料とするナノテクノロジーを応用した微粒子をガーゼに塗布する抗ウイルスマスクを開発、商品化を述べる。

〈鳥取大学の産官学連携の主な取り組み〉

鳥取大学は県東部の鳥取キャンパスに地域学部、農学部、工学部の3学部があり、90キロ離れた県西部の米子キャンパスに医学部がある。教員総数は約700名で、うち半数は医学部(病院も含めて)教員である。県東部には電機・電子関連企業が集積しており、中部(倉吉)には製造業が、西部(米子・境港)には製造業、環境リサイクル関連企業、食品関連企業等が集積している。

鳥取大学に地域共同研究センターが設置されたのは平成5年で、平成12年度までは年間共同研究件数は20~40件程度で推移していた。平成13年度には文部科学省から産学官連携コーディネーターが1名配置され、平成15年度にはベンチャー・ビジネス・ラボラトリーが設置され、平成16年度には学内措置として知的財産センターが設置され、産学連携も活気づいた。平成17年度には東京・大阪オフィスの開設とコーディネーターの配置を行い、平成17年度には共同研究件数は145件に達した。鳥取大学における共同研究の特徴は、中小企業との割合が約50%、地元県内企業との共同研究の割合が約40%と高いのが特徴である。日経グローカル(2006年6月5日発行)が東京都を除く全国の国公私立大学135校を調査したところ、地域貢献では鳥取大学は第3位を獲得した。

鳥取県内には、鳥取大学以外に高等教育研究機関は3機関しかなく、元県職員が監事として着任し、県とのパイプ役を果たしていることもあり、鳥取大学と県との連携は強い。県各部局と鳥取大学各学部との連絡会、県公設試験場との連携、鳥取・倉吉・米子各商工会議所のアフターファイブ交流会への参画、地元金融機関との連携協定調印も行われている。      (岡本尚機)

はじめに

2003年から鶏の高病原性鳥インフルエンザがアジア各地で発生し、日本でも79年ぶりに発生が認められた。ベトナムやタイを中心とする東南アジアでは人への感染例も数多く報告されており、現在までに230人が感染し、うち132人が死亡、致死率は57%以上となっている(平成18年7月現在)。このような状況から世界保健機関(WHO)はこの鶏のウイルスが変異して人の新型インフルエンザウイルスとして世界的大流行(パンデミック)に発展する危険が間近に迫っていると警告している。今や新型ウイルスの出現に備えた対策を十分に確立しておくことが世界中の人々にとって緊急の課題であることに疑いの余地はない。しかし、突然変異する新型インフルエンザウイルスに対する根本的な防止法はいまだ確立されていない。もしそのウイルスが国内に侵入した場合、医療機関や各種公共機関のみならず、一般社会全体にも相当の混乱が予想される。新型インフルエンザに対して、従来型のワクチンでは効果は期待されず、唯一の治療薬である「タミフル」も供給が間に合わない。新型インフルエンザウイルスの伝播(でんぱ)力から考えて、SARSの時とは比べ物にならないほどの感染者と死者が出ることが予想される。まずは感染を防止すること、そして万が一発生した場合には、その被害を最小限に食い止めることが肝要である。

抗ウイルス性新素材の共同開発
写真1

写真1 ドロマイトと新素材



写真2

写真2 ドロマイトの1次粒子



写真3

写真3 抗ウイルス活性評価試験


鳥取大学農学部では平成15年5月から、用瀬電機(株)(鳥取県用瀬町用瀬、若林一夫社長)と「ドロマイトを原料にした抗ウイルス素材」の共同研究を開始した。開発された新素材「BR-p3」は、その天然鉱物「ドロマイト(白雲石)」を特殊加工し、さらにナノテクノロジー(超微細技術)を使用して強力な抗ウイルス効果が出るように最適化した微粒子(直径1ナノメートル~100ナノメートル、ナノは10億分の1)である(写真1、2)。原料のドロマイトは食品の添加物としても認められている安全な素材であるが、このドロマイト自体に抗ウイルス効果はない。すなわち「BR-p3」は、抗ウイルス性、抗菌性および安全性を兼ね備えた全く新しい抗ウイルスエージェントである。

これまでにこの新素材を鳥インフルエンザウイルスあるいはSARSウイルスと同科同属で、表面構造も一致する鳥コロナウイルス(鶏伝染性気管支炎ウイルス)とともに鶏卵に注入し、ウイルスの増殖が抑えられる効果を測定する実験を繰り返し実施してきた(写真3)。その結果、本素材は鶏胎仔の正常な成長に影響することなく、感染性ウイルス数を10分前後で10万分の1以下に激減させる効果のあることが明らかとなった。

図1 図2

  図1 鳥インフルエンザウイルスに対する効果


  図2 ガーゼ塗布新素材の抗ウイルス効果

図3

図3 新素材による感染予防効果

そこでこの素材をガーゼに塗布したものを用いて、各ウイルスとの接触試験を実施したところ、いずれのウイルスに対しても同等のウイルス殺滅効果があることが判明した(図1~3)。SARSや鳥インフルエンザの感染予防策としては、WHOは高密度繊維マスクN95を推奨しているが、交換が毎日必要で、このマスク自体にウイルスを死滅させる効果はない。これに対し、新素材は少なくとも3カ月以上にわたってウイルスの殺滅効果が持続することが明らかとなった。これらの研究成果をもとに2005年3月より、新素材BR-p3処理フィルター採用の抗ウイルスマスクとして商品化がされている。

さらに平成16年8月には文部科学省「革新技術開発研究事業」として「抗ウイルス作用を有するドロマイトを加工した新素材の応用開発」が採択され、現在もさらなる応用、最適化の研究が続けられている。

●特許申請

発明の名称:抗ウイルス剤、これを用いた繊維及び抗ウイルス部材
出願日:平成15年8月12日
出願番号:特願2003-292073号
発明者:大槻公一;伊藤壽啓;村瀬敏之;伊藤啓史;若林一夫;
矢倉正美;山名英明.
特許出願人:用瀬電機株式会社;大槻公一.

●表彰

(1)大槻公一;伊藤壽啓;村瀬敏之;伊藤啓史;若林一夫.
(2005年6月6日)
中国地域産学官コラボレーションセンター
「中国地域発展のための産学官連携マスタープラン」
共同研究功労賞「抗ウイルス作用を持つ天然鉱物の利用」
(2)大槻公一;伊藤壽啓;村瀬敏之;伊藤啓史.(2005年4月20日)
平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰
科学技術賞研究部門「鳥由来感染症の疫学的解明に関する研究」