2006年9月号
連載3  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
こだわりのモノ作りを支える産総研発ベンチャー -研究所から産業のイノベーションを発信する- 瀬戸 章文 氏(Afje株式会社)に聞く
イオン発生装置を応用する静電気除去のための除電装置を紹介する。産業界との接点を常に持っている研究者が起点となっている産業技術総合研究所発のベンチャーである。

数年前、マイナスイオンの健康効果がマスコミで騒がれた。一番効果が高いといわれた、砂漠に生息している「サンスペリア(俗称:虎の尾)」はテレビで紹介された翌日には日本中の花屋から消えてしまった。かく言う筆者も、前日までいくらで売っていたのかは全く問題ではなく、たった1鉢残っていたそれを3,000円で死守した記憶がある。今、それは大きく成長し、高さにして2.5倍、量にして5倍になった。元は十分取ったと満足している。

写真1

写真1 CTO
     瀬戸 章文氏

さて、マイナスイオンブームは今回ご紹介する瀬戸章文氏(写真1)に、イオンを数値的に測定する装置を作らせるに至った。マイナスイオンの量がどの程度あるのかを茨城県袋田の滝で測定したのが平成12年。瀬戸氏がマイナスイオンと付き合った始まりだ。科学者としての瀬戸氏は健康ブームから足を洗ったものの、いまだにここから抜け出すことができず、逆にマイナスイオンを生成する装置を作り上げ、ひいては、日本の工業技術の信頼を一段と高める役割で貢献している。「日本のモノ作りここにあり」を科学的に支えている1人だ。

瀬戸氏は昭和44年11月生まれで現在36歳。脂の乗った、今が旬の研究者だ。彼は大学、大学院と進んだ後、現在の産総研*1に入り一貫して研究員として生きてきた。たまたま、研究員として常に産業界との接点があったことが、氏のライフステージにある。彼は「温室にいると、論文を書いているだけの人間になってしまいますが、私には現場の生の声が届いてきました。私たち研究員は、世の中のためになることをしなければ意味がないのだということを知りました」と言う。しかも日本に必要なものは、まさにモノ作りの分野であるとも断言する。そして責任ある仕事をするためにもベンチャーを作ることを決意した。創業は本年4月24日、4カ月が過ぎた。

写真2

写真2 イオン測定器と除電器

Afje(アフジェ)とは産総研の愛称であるAISTの先頭の文字、クライアントであったFISA(フィーサ)社の先頭文字にj(ジョイント)e(エンタープライズ)を合わせたもの。FISAはイオン測定器と除電器(写真2)などの製造販売を行っている会社である。

それでは、耳慣れない「除電器」について少し説明をしよう。日常で発生する静電気は、人々の生活にさまざまな障害をもたらしているが、実は工業界でも同じことがいえる。代表例として、自動車塗装の際に発生する静電気は鋼板の表面にムラを作る。ほんの小さなムラなので見た目にはほとんど分からないが、長期間にわたると、静電気に侵されていないものと比べたとき、ムラのある表面の塗装ではそれが早くはがれてくる。従って製品の完成度にこだわりをもつ日本のメーカーは、イオンを使って静電気を消そうとする。そのための装置が「除電器」なのである。

写真3

写真3 COO
     野村 哲雄氏

ここに目で見ても分からない、こだわりの部分に手を掛ける日本のモノ作りの神髄を見る思いがする。従って日本で売れても世界中で売れるとは限らない。日本では少なくともこの除電器は、小型の部品から、自動車のような大型のモノまでの、塗装等の加工には必需品だ。従来は、極細の針の先からイオンを発生させていたが、同時に周辺のゴミも拾ってしまうため、一定時間後にその周辺ゴミを取り除くための作業が必要となる。針の周辺についたゴミを落とすのは微妙な作業である。彼は、針の代わりに平面板にイオン発生装置を作ることを発明した。従って面倒な掃除も、平面をさっとふくだけで済んでしまう。さらに筒状に曲げることで同心円の筒を何重にも重ね合わせることも可能になり効果は格段に向上した。現状は国内130億円のマーケットながら、今後改良を重ねることで、新しいマーケットの創造も大いに期待できる。その志にひかれたクライアントであるFISA社の斎藤敏男社長は経営を後進に譲り、瀬戸氏のパートナーになってしまった。さらに産総研が推進するベンチャー支援制度を受けて参画してきたのが野村哲雄氏(56歳)(写真3)で、バックアップ部門を担当している。Afjeは役割分担が明確になった3人のスクラムで出来上がったベンチャーだ。除電器から波及するマーケットは今の130億円のフィールドにはとどまらないという。クオリティーを追求するモノ作りに応えることはさらに大きなマーケットを創成するし、そのためにはIPO(株式公開)も視野に入れたビジネスプランが生まれてこよう。

筆者の感想

産学連携を語るときに旧国立研究所を抜きにしては考えられない。今回はその意味で産総研発ベンチャーを取り上げた。産総研が抱えている研究者はおよそ2,500人と言われている。他の雇用形態も加えると5,000人とも言われる。まさに日本の科学技術を実践し、産業を支える役割を担っている。瀬戸氏が主張するように現場と密着した研究が期待されるところだが、その仕組みも充実してきた。大事なことはベンチャーを創設しそれを実践するスタッフが拡充されることだが、この点については今後の充実が日本では期待される。その点からも、瀬戸氏を取り巻くパートナーたちの健闘を大いに期待したい。

●取材・構成: 平尾 敏
(野村證券株式会社 公共・公益法人サポート部 課長/本誌編集委員)

*1産総研
独立行政法人 産業技術総合研究所。産業技術の向上を通じた社会の発展に寄与することを目的にしている。