2006年10月号
巻頭言
顔写真

金子 尚志 Profile
(かねこ・ひさし)

日本MOT学会 会長
日本電気株式会社 名誉顧問



MOT学会の発足に当たって

昨今、技術革新が経営の死命を制する時代に入り、従来のMBA教育に加えて技術経営を教える教育プログラムに対するニーズが高まってきた。実はこのプログラムこそ、昨今の専門職大学院大学の科目として新設されてきたMOT(Management of Technology)にほかならないわけである。その背景には米国において1980年代中ごろから、急速に進展する技術革新を背景に、ビジネス・スクールと工学部が連携してMOTプログラムを導入してきた世界的な動向がある。世界の動向に対してタイミングを失する事なくMOTを創設支援された行政当局、大学当局ならびに関係する諸先生方のご努力に深く敬意を表する次第である。

一方、産業社会の実態も「経営知識の付与と技術革新知識の付与」、つまりMOTのカリキュラムを真剣に求めていたわけである。私自身企業人を50年間相務めたうち、研究開発に約20年、事業に10年、企業経営に15年間携わってきた。しかし特に後半の経営面では、技術系教育を受けたままでは経営面の戦略知識の不足に常に悩まされ続けてきたと言えよう。特に私がMOTニーズを強く感じたのは、M&AやTOB等の戦略的経営環境の激しい米国法人の社長を務めていた時だった。当時カリフォルニア大学バークレー校のビジネス・スクールと工学部の連携によるMOTが創設され、われわれに企業寄付を求めてきたころである。当社は率先してこれに参加・支援してきた。

さて、3年ほど前から、私は「科学技術と経済の会」の「技術経営会議」議長を仰せ付かった。この運営をつかさどるうちに、この組織の重要なミッションは技術経営の教育、すなわち法人会員各社の技術系幹部社員に対する「MOT」であることを痛感した。事実、当会としても経営者の卒業生は大勢いるので、東京大学工学部と連携するなどあらゆる機会を使ってMOTの実践を図ってきた。そのような中で、当然ながら、専門職大学院大学の方々と協調してMOT分野の進歩発展に尽くすべきとの考えに到達し、古川勇二氏や、児玉文雄氏とも議論を重ね、まずは論文発表の土台をベースにした「MOT学会の創立」を図り、開放的環境での多角的議論展開により、学術的内容のレベルアップを目指そうということになった。「科学技術と経済の会」は、その機関紙をA4判横書きに変更し、学会誌を包含し得る体裁も整えていただき、学会設立に絶大な協力をいただいた。その間、学会会則等の整備もなされ、去る6月20日に芝浦工業大学内に「MOT学会」として発足したわけである。

当面、「科学技術と経済の会」との関連で、私が初代会長を引き受けることになったが、本来はMOTを実践する先生方が中心になってリードすべきとの信念を持っているので、いずれ会長はお譲りする。関係者全体でこの学会を健全な姿に育てて行こうではありませんか。