2006年10月号
連載2  - 産学連携と法的問題
第10回 産学連携と税務

大森 孝参 Profile
(おおもり・こうぞう)

高橋雄一郎法律事務所/特許業務
法人高橋・林アンドパートナーズ
弁護士・弁理士

平成15年、日本は研究開発を促進するために税制改革を行い、実質的な減税措置をとった。産学連携を推進する税制優遇措置とは。

はじめに

日本の民間企業の研究開発投資額は、米国の約1/2の規模と言われている。この差は、ほぼ両国のGDPの差と符合している。しかし、平成15年の税制改革によって研究開発を促進するために講じられた実質的な減税規模は、日本の方が、米国よりも大きいものとなった。

政府が研究開発を促進するために税制優遇措置を講じたことによって、今後日本の民間企業の研究開発投資は、政府のもくろみどおりに促進されるのであろうか。本稿では、まず第1に現在民間企業に対して用意されている試験研究費の税額控除制度(研究開発促進税制)について述べ、第2に産学官連携促進特別税額控除制度について詳しく述べ、第3にそのほかの産学官連携を推進するための税制優遇措置について述べ、最後にTLOに関する税制優遇措置について述べる。

民間企業の研究開発促進税制

政府は、平成15年、研究開発税制の抜本強化を打ち出した。長引く経済状況の悪化とデフレの深刻化を受けて民間企業の研究開発投資が微増、微減の横ばい状況に危機感を持った政府は、民間企業の研究開発投資を促進し経済波及効果を狙った大規模な特別減税措置を講じた。

民間企業の試験研究費に係る税制優遇措置は、法人税法の特例として租税特別措置法第42条の4に規定されている。主な税制優遇措置としては、

[1] 全ての青色申告法人を対象とした試験研究費の総額に係る特別税額控除制度
[2] 産学官連携の共同研究・委託研究に係る特別税額控除制度(産学官連携促進特別税額控除制度)
[3] 中小企業を対象とした試験研究費の総額の特別税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制(上記[1]の割合よりも高い税額控除率となっている))

が用意されている。なお、法人税の試験研究費に係る税額控除限度額(上限)は平成15年の税制改正で12%から20%に引き上げられている。また、1年間の税額控除額の繰り越しが可能となっている。

(1)試験研究費の総額に係る特別税額控除制度

対象となるのは、研究開発に取り組む全ての青色申告法人であり、税額控除率は、試験研究費の総額の8%~10%(租税特別措置法第42条の4第1項)。なお、8%~10%となっているのは、試験研究費の4年間の平均売上金額に対する割合(10%が分岐点)によって、税額控除率が変わるためである。

(2)産学官連携促進特別税額控除制度

対象となるのは、公的機関・大学との〈共同試験研究〉および〈委託試験研究〉に係る試験研究費であり、公的機関・大学との〈共同試験研究〉および〈委託試験研究〉に係る試験研究費の税額控除率は原則として12%である(租税特別措置法第42条の4第2項、同条第11項第3号)。この産学官連携促進特別税額控除制度については後に詳述する。

(3)中小企業技術基盤強化税制

対象となるのは、中小企業および農業協同組合であり、税額控除率は、試験研究費の総額の一律12%である。中小企業の研究開発活動を強力に推進するために上記(1)の一般的な試験研究費の総額に係る特別税額控除制度とは異なり、対象を中小企業および農業協同組合としており、税額控除率を優遇して一律12%としている。

産学官連携促進特別税額控除制度

以上に述べた研究開発促進税制のうち、産学官連携の共同試験研究・委託試験研究については、基礎的創造研究を促進する観点から、高い税額控除率が設定されている。企業等が国立大学・私立大学・公的試験研究機関と共同試験研究契約または委託試験研究契約を締結して支出した経費の12%について、税額控除を受けることができる。この税制優遇措置は、平成15年度税制改正により講じられた措置であって、平成15年度から当初3年間は一律12%にさらに「3%」の上乗せ措置が講じられていた。この「3%」の上乗せ措置について、平成18年度税制改正の際にさらに3年間延長する要望が出されたが、結局延長されず平成18年3月をもって廃止されたため、現在は12%の控除率となっている。

ここで注意を要するのは、前記(1)の一般的な試験研究費の総額に係る特別税額控除に(2)の産学官連携促進特別税額控除を上乗せして前記(1)と(2)の合計額の最大20%まで税額控除できるという点である。ただし、(3)の中小企業技術基盤強化税制による税額控除を選択した場合には、(1)の一般的な試験研究費の総額に係る特別税額控除と前記(2)の産学官連携促進特別税額控除を上乗せできない。

例を挙げると以下のようになる。

【例】資本金2億円の青色申告法人に該当するA株式会社が当期(平成18年4月1日~平成19年3月31日)に開発製品の設計・試作等のために複数の取引先企業に試験研究費として3,300万円を支出した。さらに、B大学との共同研究のために1,000万円を支出した。試験研究費の総額としては、4,300万円を支出したことになる。なお、A株式会社の当期の所得に対する法人税額は2,500万円とし、当期を含む過去4年間の平均売上金額に対する当期の試験研究費の割合が11%だったとする。

[1] 企業に支出した試験研究費の総額
3,300万円
[2] 当期の[1]の試験研究費の割合
11%
[3] [1]のほかに大学へ支出した共同研究費
1,000万円
[4] 当期の法人税額
2,500万円

1) 試験研究費の総額に係る特別税額控除制度による税額控除
3,300万円×10%=330万円
2) 産学官連携促進特別税額控除制度による税額控除
1,000万円×12%=120万円
3) 税額控除額合計
450万円
4) 控除後の当期法人税額
2,050万円

産学官連携促進特別税額控除制度の適用を受ける「対象」となる共同試験研究・委託試験研究については、租税特別措置法第42条の4第11項第3号、同規定をうけた施行令第27条の4第14項・15項、施行規則第20条第7項・8項を参照されたい。

そのほかの産学官連携を推進するための税制優遇措置

以上の民間企業の試験研究費に対する税制優遇措置のほかに、産学官連携を推進するための税制優遇措置として、国立大学に対する「寄付金」が法人税法上全額損金扱いとされる優遇措置が設けられている(租税特別措置法第40条、同法施行令第25条の17)。

TLOに関する税制優遇措置の必要性

このような現行の税制優遇措置から見ると、産学官連携に対するインセンティブは、現在のところ民間企業にしか与えられていない。

これに対して、TLO、大学、研究者に関する税制優遇措置は不十分なものである。TLOに関する税制優遇措置として、大学に還元するライセンス収益の非課税化の措置を講じることが平成18年度税制改革の要望事項として挙げられたが、結局この要望は盛り込まれなかった。

社会的にいまだ認知度の低いTLOを、企業と大学・研究者との橋渡し役として必要不可欠な存在に育て上げるためには、TLOのライセンス収益の非課税化、TLOの寄付金収益の非課税化、さらに、TLOに対する特許権譲渡の実質が信託に近いことを考慮して、税法上信託として扱うことなどの検討が必要である。