2006年12月号
特集
国立大学法人化後の大学の産学連携推進体制 -東北大学の場合-
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高橋 富男 Profile
(たかはし・とみお)

東北大学産学官連携推進本部
副本部長 兼 事業化推進部長、
客員教授

当大学の研究推進・知的財産本部は「研究の円滑化とトラブル処理の支援組織」であり、「新しい産学連携のモデル作り」をする。この流れで産学連携推進体制が組まれている。大学の使命である教育・研究・社会貢献のバランスを考慮しつつ、企業との連携を深めていく。当大学の産学連携行動指針も紹介。

最初に、現在の組織体制に至る経緯についてお話しください。

高橋    知的財産ポリシーや利益相反ポリシーについては、国立大学法人化(2004年4月)の前につくった大学が多いのですが、東北大学では、やりながら実態に合ったかたちで策定する方針をとり、知的財産ポリシーは2004年6月末に正式にできました。

知的財産ポリシーの基本は、「知的財産の社会での活用を優先する」ことにあります。大学での知的財産の権利取得・運用は社会における活用が第一義であって、大学の知的財産を社会で使っていただくことに尽きます。当初、研究推進・知的財産本部という組織にしたのですが、研究推進部の組織化は法人化に間に合わず、知的財産部だけでスタートしたので、特に、本来あるべき産学連携に必要な組織を作るのに半年遅れたために、日経エレクトロニクス(2005年1月30日号)に書かれたトラブルが起きてしまったということです。そういう経緯を踏まえ、基本的考え方として研究推進・知的財産本部は先生や企業を指導するアドミ組織(管理業務組織)ではなく、「研究の円滑化とトラブル処理をするサポート組織である」、「新しい産学連携のモデル作りをやるところである」ということを打ち出したのです。当然、「外部資金を獲得する」、「知的財産の戦略的保護と活用を図る」、「学内外に情報を発信する」、「利益相反等のトラブル等から教職員をガードする」という役割があります。そのために制度・体制を整備して、学内外の満足度を向上させようということが基本にあります。

図1

図1 東北大学産学官連携推進構想

当初、文部科学省から提唱されたのが、発明の創出・保護・活用という3つ、発明が出てきたら、それを権利化し、活用し、対価を研究者に還元するということでしたが、これだと大学の先生の発明は儲かるものだというような前提がインプットされていたのです。ところが、蓋を開けてみたらそうではないということが分かって、特にホームラン性の発明なんかは滅多に出ないため、知的財産部内活動の最適化だけでなく「知的創造サイクル」の全体最適化の追求をしようとして、「善循環モデル」を構想しました。これは、「研究成果の活用第一」を重視し、「研究環境整備」に力点をおいた産学官連携推進モデルです。知的財産の活用は結果であり、そこに導く手段として研究活動があるわけですから、われわれの仕事は、先生方の研究活動を支援するための研究環境の向上、共同研究・受託研究費の獲得にあり、そのためには企業・大学間の信頼性向上と共同研究成果の活用や移転技術によって企業に何らかの成果を挙げてもらい、東北大学に対する評価を向上させなければならない。そうした役割を担うものとして研究推進部を2004年の10月に立ち上げました。共同研究の結果出てきた知的財産を大企業に使ってもらうにはTLOである株式会社東北テクノアーチが技術移転します。こうして研究推進・知的財産本部ができたのですが、2006年の4月から事業化推進部が加わって産学官連携推進本部となりました。これは、従来、東北大学の産学連携が国内外の大企業中心であったので、地方にも目を向ける必要があるということ、大学のシーズの企業化を大学発ベンチャーとしても取り組むということ、地域のプロジェクト推進において、地元からは東北大学の顔が見えにくいし、本来、大学として組織でやる必要があったのではないかという声も大きかったことです。そこで大学の窓口として事業化推進部をつくったわけです。現在、人員は総勢5人です。なんといっても、東北大学は宮城県・仙台市にあるわけで、地域産業振興支援として、MEMSパークコンソーシアム、知的クラスター創生事業、産業クラスター計画等の大きなプロジェクトがありますし、東北大学サイエンスパーク構想もあるので、大学発ベンチャー創生等の支援を含めて、事業化推進部マターがわんさと増えてきたというのが実態です。東北経済産業局・宮城県・仙台市等が官側の夢やビジョンを実現するために大学がいかに役割を果たすことができるかという官学連携を通じて地域産業振興支援と地元企業支援を効果的に行うことを目指しています(図1)。

大学組織として知的財産の扱いを今後どうするかというのは、法人化後の大学共通の悩みだと思いますが、東北大学では今お話のあった組織で当分やっていくということでしょうか。

高橋    産学連携には共同研究とかコンソーシアムとかいろいろありますが、やはりベースは知的財産です。大学の先生方の優れた研究というのは、それを使う側にとっては知的財産権という権利化がされていないと安心できないということがあります。それで現在の組織でやっていくのですが、問題は平成19年度で大学知的財産本部整備事業が終わります。そうすると補助金がなくなります。なくなったらどうするんだということで、各大学が厳しい対応を迫られています。本学では、平成17年度から共同研究の直接経費の10%を間接経費(産学連携経費)として認めて納入していただき、本部・部局それぞれ5%ずつ産学連携体制整備経費としています。単純に計算しても、それでは足りませんので、研究推進部と事業化推進部の方は総長裁量経費で賄っています。当本部はコストセンターであってプロフィットセンターではありませんから、研究環境等の整備向上になくてはならないという市民権を得ることが不可欠になります。

これまでの経験から、今後、産学官連携推進本部全体としてうまくやっていけるとお考えでしょうか。

高橋    事業化推進部はまだ半年ですが、研究推進部と知的財産部は研究推進・知的財産本部としてずっとやってきていますから、その流れで産学官連携推進本部としてうまくやっていけると思います。法人化後に起こったトラブルはほとんど解消し、今はトラブル的なものは全くありません。課題は、次から次へと新しいことが出てくる中で人材の確保をどうするかです。

当初から苦労しながら立ち上げをやってきた部長クラスの下のクラスの人材が育っていないが、増強するには予算的に苦しいので、宮城県や仙台市、東北経済産業局、金融機関等に、来ていただける人材派遣をお願いしている現状です。共同研究契約にしても金額も増えており、契約のスピードも速くなっているし、産業側からの評判も今年は2位と飛躍的に上がっています。

過去のトラブルを乗り越えられたのは、どういうことがポイントになったのでしょうか。

高橋    学内外でのトラブルの原因は、すべて知的財産の取り扱いに絡むもので、企業も大学も相互に主張しすぎて、がちがちになってしまったことです。その結果、研究契約締結の大幅遅延、出願費用等の企業負担強要、研究開始遅延などが発生して、機関帰属ルールへの学内反発を招きました。そこで、共同研究・受託研究契約の雛型にある知的財産の帰属、共同出願の費用負担、共有特許の実施料支払等について柔軟に対応できるよう改定し明確化したことです。しかも、企業側で選択してもらうことにしました。われわれは知的財産の活用が第一なので、一定の大学のルールの範囲内であれば、企業の都合の良いようにやってくださいということです。例えば、企業が譲渡を希望すれば、これは基本特許だから譲渡しないということではなく、有償譲渡や専用実施権により対応し、その代わり儲かったらわれわれにも還元してもらうというのが基本です。出願費用を持分比率で負担する場合は、その持分を他の企業へ技術移転してもいい選択肢もあります。条文は条文として解釈を柔軟にしています。それが企業に非常に受けたということです。さらに、内容が分かりにくいという企業へは、東京でも大阪でもこちらから出向いていって説明します。相手の言うこともよく聞かなければいけないのでメールや電話では十分には伝わりませんが、訪問すると法務の人や研究管理の担当者も出てきて、極めて短時間で理解が得られます。研究契約を早く結び、研究をスタートさせることがお互いにハッピーなのです。それから組織的問題として、知的財産部同士だとお互い自分のところをガードしようとして法務論争になりがちです。大学の知的財産部は企業に活用してもらうための営業部門なのです。問題が格別なくても、できるだけこちらから企業を訪問するようにしていますので、相互にわだかまりが無くなり、東北大学のファンになってくれて、共同研究の件数・金額とも増えています。これによって、企業との知的財産問題合意所要日数は、当初は25日ぐらいかかったものが改善後は3日以内になっています。大体、年間契約件数が1,000件近くありますが、相談対応をわずか2人でやっています。早く契約すれば、研究が早くスタートでき、お金も入ってくるので、事務方も先生も企業も楽になります。

未来科学技術共同研究センター(NICHe)や東北テクノアーチと産学官連携推進本部との関係についてはどうでしょうか。

高橋    法人化前はNICHeと東北テクノアーチが主として産学官連携と地域連携および知的財産管理を担当してきましたので、産学連携の蓄積を引き継ぐかたちで研究推進部と知的財産部ができたわけですが、地域連携については事業化推進部ができるまでNICHeに残されたままでした。産学官連携推進本部がつくられたことで、NICHeは大型産学官連携プロジェクトを担う部局となりましたから、地域連携のような大学本部に属する業務はやらないということではっきりしています。東北テクノアーチは、主に企業に対する技術移転を行っていますが、関連するマッチング等を含め営業品目として自由にやることになっています。知的財産の管理活用の流れでは、当該発明について、市場性評価と特許性評価に長けている東北テクノアーチが第一次評価をやっています。その評価を参考に、知的財産評価委員会でもんでから知的財産審査委員会にかけています。そこで出願となれば、東北テクノアーチが直ちに技術移転の業務に取り掛かるのです。

今後の戦略として、産学官連携推進本部としては、どのようなバランスを考えているのでしょうか。

図2

図2 東北大学(包括的)研究協力推進形態

高橋    大学には、研究・教育・社会貢献という3つのミッションがあるわけですが、バランスが非常に大事だと思います。知的財産管理はお金が掛かりますので、すべて出願するわけにはいきません。中長期的にみて、これがなければ日本が困るだろうというものは金を掛けても権利化しておく必要があります。平成17年度の発明届出の機関帰属状況ですが、大学と企業で共有し費用負担が企業であるものが42%、持分比率負担であるものが10%、大学帰属が25%、個人帰属(却下案件)が23%となっています。共有特許は共有企業が活用できるよう、利益が出たら還元してもらう条件で、譲渡等の技術移転や実施許諾をしますし、大学帰属分は原則として東北テクノアーチが技術移転を促進します。大学は戦略的に大事な特許しか持たないということです。知的財産をベースにした産学官連携モデルとして、企業による大学教員指定型、組織連携(包括)協定型、大学提案研究コンソーシアム型とに分類できますが、組織連携協定型や大学提案研究コンソーシアム型を増やしたいと考えています。組織連携協定型は、包括的研究協力推進形態であり(図2)、すでに幾つかの企業と研究協力協定を結んでいます。そういうかたちで連携を深めていって、役に立つ大学、顧客満足度の高い大学になればと考えています。

地域の中小企業とはどのような関係になるのでしょうか。

図3

図3  受託事業「学術指導」運用の概要

高橋    地域産業振興は各自治体などでそれぞれに推進しているので、それと競合しても仕方がありませんし、まして仙台地域は受け皿になる企業が少ないという事情もあります。地域連携の取り組みについては、知的クラスター創生事業等の地域プロジェクトや自動車関連産業振興等の地域重要施策への関与と協力を中心に、大学の技術シーズの事業化支援等があります。気楽にご相談いただけるよう受託事業として学術指導(図3)の運用をしており、この2年間で84件の相談があり、なかなか良い制度だと評価をいただいています。

基礎研究と産学官連携の関係についてはどうでしょうか。

図4

図4 基礎研究と産学官連携の関係

高橋    大学にとって基礎・基盤研究推進が大切なことは言うまでもありません。そのため平成17年4月から研究基盤推進本部を新設しました。また研究担当理事のもとに設置した研究推進企画会議で全学的研究戦略の企画立案をしています。また基礎・基盤研究と産学官連携研究以外に、部局をまたがるような大型の研究については、特定領域研究推進支援センター(CRESS)が企画立案支援を担当しています(図4)。

最後に、産学官連携推進本部の行動指針を策定された経緯をお願いします。

図5

図5 東北大学産学官連携推進本部 行動指針

高橋    努力の結果、産業界からの評価が2位となりましたが、人が交代したら組織の行動文化等も変わってしまうのでは意味がありません。そこで、折角できた組織のDNAを残さなければいけないということで、これを作りました(図5)。掲示してわれわれが常に見、お客さまにも見ていただいて実践することで、お客さまに満足していただき、大学の評価もさらに上がり、善循環になるということを期待しているわけです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

●聞き手・本文構成: 川村 志厚
(経営デザイン研究所 代表/本誌編集委員)