2006年12月号
連載4  - 産学官連携コーディネーターの事例に学ぶ
みなと銀行との地域密着型産学連携の推進
顔写真

大内 権一郎 Profile
(おおうち・けんいちろう)

神戸大学 連携創造本部 産学連携
コーディネーター/文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業
産学官連携コーディネーター

文部科学省のコーディネーター事例の第1回。本号では、産学官連携と金をテーマとしているので、それに関連して、神戸大学と地元金融機関であるみなと銀行との連携事例を述べる。

はじめに

産学官(民)連携の必要性が国の施策としても言われ、各大学がそれぞれに特徴ある大学として差別化を図るべく、新たな取り組みや模索が続いている。6月に京都で行われた第5回産学官連携推進会議においても、第3期科学技術基本計画を受けて、新たに地域・人材育成・イノベーションがキーワードとして大きくうたわれていた。従来から大学と企業の間では1対1の産学連携が進められており、本学においても年間200件を超える共同研究として定着している。しかし、最近このパターンでの取り組みにとどまらず、効率よいイノベーションのために幅広い技術・異分野の統合・融合が望まれ、その活動が大きく広がりつつある。文部科学省の産学官連携推進支援事業も5年目も迎え、従来の支援事業から「活動高度化促進事業」と名前を変え、従来型の産学官連携に加えて、地域連携・広域連携等、一大学のみではできないことを成し遂げるための新たな連携の枠組みに取り組むことが期待されている。本学においても連携創造本部を中心に新しい地域密着型の産学連携の在り方を模索しており、その中で、地元の金融機関である株式会社みなと銀行との連携活動について紹介する。

具体的な連携活動
図1

図1 神戸大学.みなと銀行 連携図

地元に密着した活動を展開しているみなと銀行法人業務室(現在の法人部)から「地元中小企業からの技術相談対応を含め、地域の活性化に一緒に取り組んでほしい」との申し入れが平成16年1月にあり、その後の検討を踏まえて、実質的に4月からスタートした当大学とみなと銀行との包括連携(図1)も3年目を迎えた。段階的に連携活動を強化することにより、ようやくその効果が出つつあるというのが実感である。

1.企業訪問・技術相談

当初はみなと銀行各支店の営業部門に寄せられる企業からの相談内容のうち、従来対応できなかった技術系の相談を神戸大学で受けることからスタートした。連携初年度の後半からは、銀行より産学連携アドバイザー1名を週2日派遣していただき、コーディネーターと一緒に技術相談のある企業を訪問し、具体的なマッチングを図る努力を続けてきている。営業部門経由であることから、具体的・真剣な相談が多く、単に技術相談にとどまらず、共同研究に発展する確率も高い。従来、大学と縁はないと思っていたような企業からも、気楽に相談できるようになったとの評価をいただき、大学の高い敷居を低くすることに一役買っている。本年4月には農学部・青木教授のシーズをA社へ技術移転し、具体的製品化の第1号となった。

2.「一日神戸大学」の共催

図2

図2 一日神戸大学

連携後の共同開催イベントは「一日神戸大学」からスタートした。「一日神戸大学」は本学が4年前から始めたイベントで、別名“シーズの出前”という通り、企業の方が望むシーズを、望むときに、望む場所で教員自ら紹介するとともに、その後の技術相談・共同研究等の橋渡しをコーディネーターが責任を持って行うもので、既に25回開催している。みなと銀行との共催も、支店からの要請に応えて、取引先の企業を中心に、地元の商工会議所も共催機関として参加することにより、2回開催している。マスコミで有名になった相生市の「ど根性大根:大ちゃん」の救出作戦(成功・失敗事例に学ぶ産学官連携の新たな展開へ向けて、P.214)に、神戸大学のコーディネーターが関与できたのも、「一日神戸大学」を相生支店と共催(図2)したことがきっかけになっている。

3.みなと元気ファンドの審査協力、つなぎ融資の紹介

みなと銀行は、地元企業の第2創業、(大学発)ベンチャー育成などの支援を目的に、公募型の「みなと元気ファンド」を2年前に設立した。その審査の一員として、連携創造本部の教員が参加し、技術的評価面で協力体制を取っている。また、神戸大学との産学連携により、公的な研究開発の競争資金獲得に成功した中小企業に対して、実質入金前の立て替え資金として、みなと銀行からのつなぎ融資をお願いすることも行っている。

4.経営セミナーの共催

図3

図3 みなとエグゼクティブセミナー

今年度はさらに中小企業の経営陣を対象にした連載型の「経営セミナー」を企画した。「みなとエグゼクティブセミナー」と銘打ち(図3)、神戸大学の経営学部および自然科学系の学部より専門の著名な教授陣を派遣し、分かりやすく話をしていただき、経営の一助にしていただこうとの狙いである。10月16日に第1回が開催され、月1回のペースで来年1月まで、計4回のセミナーを予定している。これだけの講師陣を一堂にそろえることは、やはり神戸大学でないとできないと、好評を博してスタートした。

連携活動の評価

地元の、特に中小企業にとって、従来以上に銀行に声を掛けやすくなるとともに、敷居が高いと思っていた大学からコーディネーターが気軽に企業を訪ね、必要に応じてシーズを保有している教員につないでくれる仕組み、あるいは教員が地域を訪れ、先端技術シーズを分かりやすく紹介してくれる仕組み、産学連携の結果として競争的外部資金を獲得した企業への銀行からのつなぎ融資の仕組み等に感謝してくれる企業も着実に増えている。大学にとっても、地元密着型の産学官連携につながる新規企業の開拓に大きく貢献している。

しかし、銀行にとってみると、従来は断るしかなかった技術的相談にも対応できることで、顧客サービスの一環としてのメリットはあるものの、それ以外の(人材を大学に派遣してまでの)短期的直接メリットを追求することはなかなか難しい。つなぎ融資や経営セミナーはその打開策の1つでもあるが、今後とも地域経済の活性化という長期的視点で、できることから手掛けていくという心掛けが大事であろう。そのためには技術相談対応やシーズ紹介といった「種まき」中心の活動から、「成果の収穫=技術移転・イノベーション」につながる共同研究や地域活性型プロジェクトの設立に重点を移していく必要がある。また、一金融機関だけではできることの限界もあり、地域密着型活動の観点で意を共にする金融機関との大同団結を図り、自治体も巻き込んだ地域活性化を考えることも必要だと思う。

終わりに

異なった背景・環境にある機関同士の連携は「言うは易く行うは難し」の言葉通り、本来の効果を出すにはそれなりの時間が必要と思う。大学が保有していない技術・知識・知恵・情報・ネットワークを有する他機関と連携することは、これからの大学にとって、より早く、幅広く、効率的に社会・地域貢献、特に地域の活性化につなげる近道と考えられる。しかし、持っている資源、情報、考え方、進め方の異なる両者がどうやってうまい連携をするのか、正直言ってまだ回答は見つかっていない。違う要素を持った両者が組むメリットの追求と実効ある連携の在り方に今後とも知恵を絞って行きたい。