2006年12月号
連載5  - 産学官連携事例
北海道の花“ハマナス”の商品化

金澤 勉 Profile
(かなざわ・つとむ)

株式会社はるにれバイオ研究所
専務取締役

北冷地の風土病ともいえる壊血病の一種である水腫病には昔からハマナス花の茶を飲むなどして予防してきた。そのハマナス花を商品化するまでの経緯を述べる。

はじめに
写真1

写真1 共同研究開発したハマナス花

北海道の東部に位置するオホーツク地域は、農・林・水産物の宝庫として知られている。かつては北見地域において世界の7割以上のハッカの生産を誇っており、また、現在タマネギは日本の生産量の約3割に達している。その他、流氷がもたらす水産資源も知られている。私ども株式会社はるにれバイオ研究所は、こうしたオホーツク地域の有用資源を利用し、付加価値の高い商品を作り出すことを目的として、北見工業大学山岸喬教授を中心として2002年に設立されたベンチャーである。今回は山岸教授との共同研究の結果得られた成果をもとに開発したハマナス花(写真1)を用いた製品についてご紹介する。

きっかけは古文書

ハマナスは1978年(昭和53年)「純朴」、「野生的で力強い」、「花の色が鮮明で葉も美しい」、「生命力が強い」などの特徴から北海道のシンボルの花となった。日本中部以北、サハリン(樺太)、朝鮮半島や沿海州などの海岸に自生するバラ科の植物である。ハマナスの花には加水分解型タンニン、フラボノイドなどのポリフェノールやアントシアン系の色素が知られていたが、われわれが最も注目したのは、アイヌ民族が江戸時代にハマナスの花を「水腫(すいしゅ)病」*1と呼ばれた病気の治療にお茶のようにして用い、有効であるとの古文書の記載を見つけたことである。

写真2

写真2 胡地養生考

江戸時代、ロシアが日本に通商条約の締結を求めたが、当時の幕府がこれに応じなかったことから、択捉(えとろふ)の番屋が襲撃されるという事件が起こった。これに対し幕府は東北各藩に蝦夷地の警護を命じた。このとき現在の留萌(るもい)付近に秋田藩の藩士が派遣され、そのとき随行したのが医師の岩谷省達で「胡地養生考、安政4年」(写真2)という日記を書き記した。この日記は秋田県立図書館に現存している。

その「胡地養生考」の中の水腫病の項にハマナスの花の煎じ汁を朝夕、お茶のように飲むと水腫病に効果があるとの記載が見られる。「水腫病」はその症状からビタミンC不足により起こる「壊血病」と類似しており、アイヌ民族がハマナス花からビタミンCの補給をしていたのではないかと考え定量したところ、豊富なビタミンCが含まれていること、また、そのビタミンCは煮沸しても安定であることが明らかとなった。ビタミンCの安定化については研究中であるが、ポリフェノールが関与しているのではないかと推測している。

ハマナス花の意外な作用

先にも述べたように、ハマナス花にはビタミンCのほか、加水分解型タンニンを含む豊富なポリフェノールが含まれている。近年、カテキンや縮合型タンニン、フラボノイドなどに種々の有用な生理活性が認められていることから、ハマナス花についても動物実験でその作用を調べた。このとき、通常のマウスなどではふん尿などによる臭いが強烈に感じられるが、ハマナス花投与群では臭いが和らいでいることが認められた。実際に飼育時の臭いを検知管式気体測定器で測定したところ、アンモニアなどの臭い成分の減少が認められた。これらの臭い成分の減少はボランティアの方々に飲んでいただいたときの彼らのふん便でも認められたが、ふん便中の成分を分析した結果、整腸作用が関与している可能性が考えられた。そこで、in vitro*2でのハマナス花のビフィズス菌に対する影響を調べたところ、ハマナス花を添加した時に、若干ではあるがビフィズス菌の増殖を促す働きがあることがわかった。ビフィズス菌などのいわゆる“善玉菌”の増殖を促進する物質にはオリゴ糖などが知られている。われわれもハマナス中の活性物質を調べたところ、オリゴ糖以外の成分に活性があることがわかり、種々検討した結果、ポリフェノールである加水分解型タンニンであることが明らかとなった。一般的にはポリフェノールには抗菌活性が知られており、実際にわれわれが単離した化合物でもビフィズス菌以外では増殖を抑える働きが示されており、こういったポリフェノールの腸内細菌に及ぼす影響、さらに整腸効果に及ぼす影響については現在も引き続き検討している。

ハマナス花加工食品の商品化と新しい作用への展開

以上のような消臭作用、整腸作用などのほか、抗酸化作用、消化酵素阻害作用などの実験室レベルでの働きや、肌が滑らかになるなど特に女性の肌の状態の改善などから、ハマナス花加工食品として商品化した。商品化後も、皮膚に対してどのような作用を及ぼすかについて検討していたが、これまでとは異なる働きがあることが明らかとなった。札幌市内の病院にて病院職員によるボランティア23名にハマナス花加工食品を1カ月間服用していただいた。服用開始前と開始後の2回、一般血液検査や肌の状態などのアンケート調査を実施し、ハマナス花加工食品が及ぼす影響を調べた。その結果、予期せぬ働きとして、服用前の血液検査で血中の中性脂肪(トリグリセライド)の値が高めを示していた方すべてにおいて服用後減少しているという結果を得た。そのほか、標準値を示していた方では影響が認められなかったことから、ハマナス花の成分にこういった作用を示す物質が含まれていることが示唆された。

ハマナスの栽培 -北海道ブランド化を目指す-
写真3

写真3 栽培中のハマナス(八重咲き)

ハマナスは北海道の海岸に自生し、初夏の6月ごろからハマナス花は咲き始め、夏の海岸をピンク色に彩る。オホーツク沿岸には多数の原生花園があり、たくさんの観光客を楽しませている。ハマナスの花の商品化に当たり、当初は野生品の採集を考えていたが、こうした環境面やコストの問題から北見市内の農家にお願いして栽培を始めている。かつて、オホーツク地域ではハマナスの花から香料を採取する目的で栽培が行われていた経緯があり、栽培に適した環境であることがわかっている。われわれもハマナスの栽培に着手したが、ハマナスには多様な品種があり、収穫量やポリフェノール含量などに差が見られ、優良な品種を栽培しないと採算が合わない。現在は収量が多く、さらに花の咲いている時期が比較的長い品種を栽培(写真3)し、今後さらなる展開を行えるよう努力している。ハマナスの栽培が大面積で行われるようになれば、新しい観光資源としても期待でき新しいブランドが形成されるものと期待している。

おわりに

これまでハマナスの研究、商品化に至る経緯についてお話ししてきた。現在も北見工業大学をはじめとして北海道内のさまざまな研究機関にご協力いただき、ハマナスの詳細な機能を調べている。特に重点地域研究推進プログラム「伝統医学とバイオメディカル技術による生活改善食品の開発」というテーマで遺伝子レベルでハマナスの働きを解析中である。

今後も意外な発見や予期せぬ働きなど新しい知見が得られることを期待しているが、これまでさまざまな方々の努力に支えられて商品化に至った。あらためてこの場を借りてお礼を申し上げたい。

*1水腫病 (壊血病)
体のあちこちが腫れあがり(水膨れ、全身にリンパ液がたまる)、激痛を発し、しかも知覚や意識は最後まで正常で、患者は激痛にもだえ苦しみながら死ぬ。寒さと生鮮野菜の欠乏が千島の風土病と言われる水腫病を誘発していく。
参考ウェブサイト:入手先http://www.edinet.ne.jp/~ken01/shirase23.htm,(参照2006-11-16)

*2in vitro(インビトロ)
試験管内、体外で行う試験、検査、処理、投与および照射実験などの総称。