2006年12月号
連載6  - 大学発ベンチャーの若手に聞く
大量のCADファイルを瞬時にしてPDF化 -ITによるイノベーションを進行中- 千葉 宣明氏(株式会社マイクロアーツ)に聞く
産業のイノベーションを語るときに21世紀をまたいでその役割を担ったのが「IT」といえるだろう。ITと一口で言っても「IT化する」ことと「ITによるイノベーション」は違うものだ。今回は、ITによるイノベーションを実現しようとしているケースをご紹介したい。

国土交通省は平成8年に「建設CALS整備基本構想」を発表し、平成19年からの本格実施を予定している。いわゆるCALS/EC計画だ。財団法人日本建設情報総合センターのホームページによれば、CALS/EC*1とは公共事業支援統合情報システムの略称で、一人一台のパソコンがインターネットにつながっている職務環境を前提とし「従来は紙で交換されていた情報を電子化するとともに、インターネットを活用して公共事業に関連する多くのデータベースを連携して使える環境を創出する取り組み」と定義している。例えば、建築・土木工事における設計図等は、これまで紙に印刷して運ばれていたが、これを電子媒体として機能させるもの。膨大な紙情報が一つの電子ファイルに収められることによって、経費の節減とスピード化が実現できる。同時に企業や地方公共団体の設計図の長期保存を電子媒体で行うことも決まっている。もちろんこのシステムを導入するにはCADシステム*2の発達と普及が前提にある。

しかし、ここで問題が発生した。CAD情報は、

1. 閲覧性が悪く公共の保存データとしてはふさわしくない
2. セキュリティーに欠けるため、改ざんを防ぐことができず設計者の著作権を守ることができない
3. 容量が大きく大量保存をするためのコストが膨大にかかる

ことだ。この問題を解決するのがファイルのPDF化*3だ。代表的なソフトがAcrobatだが、ここでさらに問題が発生した。保存される設計図が膨大で手間がかかることと、細かな図形がきちんと変換できないことだ。

設計図の長期保存が義務付けられている建設業者等は、年間保存枚数が大手で100万枚になるという。これまでは、保存のコンパクト化にマイクロフィルムを利用してきた。例えばPDFに単純変換するのに1枚30秒かかるとして、1工事現場の図面で77時間以上、1社で1年分100万枚を変換保存するには5年半かかると計算される。大手ゼネコンがPDF化する人材を雇うとすれば、1日3交替で休日も出勤するとして15人以上の専門スタッフを必要とする計算だ。

写真1

写真1 代表取締役 千葉 宣明氏

マイクロアーツ*4の千葉社長(写真1)は、二つの課題を克服するソフトを作り上げた。

千葉宣明氏は昭和36年3月生まれの技術者である。そして工学院大学建築科を経て一級建築士を取得した構造技師でもある。今日のソフトを開発する下地は、構造設計を勉強するのに必須のコンピューターを駆使するところから培われた。大学卒業後、地元ゼネコンの現場監督を経験したあと30代で独立し設計士に。以来、図面設計の請け負いを中心に仕事していたが、5年前にCADシステムのPDF化への時代を予感し、確信し、始めた事業だ。現場を経験し実務に携わってきた業界人の直感だ。千葉氏は会津大学のリエゾンオフィスに相談し、神谷徳昭教授の門をたたいた。神谷先生の専門は数学。一般にPDFは画像を印刷画面にして解析しファイル化しているが、マイクロアーツのそれは違う。一つ一つの図形を直接CADファイルから幾何的に解析し座標に組み込んでいくもの。従って、アナログ化に伴う画像の劣化も防ぐことができる。例えば、曲線の表し方は従来製品が短い直線の集合体として認識するのと大きな違いがある。グラフや曲線がきれいに見えるゆえんだ。平成14年、15年と福島県の補助金を受け開発に特化。平成16年から販売開始したが、品質を飛躍的に上げて平成17年から本格販売に入った。当初、大手システム会社と販売代理店契約を結んで進めたが、販売価格を引き下げて原則直販方式に転換した。

現物を見ていただくのが一番だが、50枚でも100枚でも、1,000枚でも一つのファイルに入っているCADデータはワンクリックでPDF化される。しかも、画像の劣化が考えられないので変換後のチェックが不要となる。「速くてきれい」、PDF化に伴う二つの問題を一気に解消した優れものだ。特に1ファイル50枚以上の変換には効果的だと言う。当初は2名で始めたソフト開発も現在は社長を入れて5人体制になっている。

CADシステムの発展は著しい。建築土木から機械製品の設計までさまざまな分野でのデータ保存にイノベーションを起こそうとしている。

筆者の感想

千葉氏は、パソコン少年がそのまま大きくなったような人だ。それだけにITの世界に関しては誰にも負けないものがある。品質も良い。ウェブに公開していることもあり、月間で数10件のオーダーも新規に入ってくる。しかし、時代の流れは制度改正をきっかけとしてフォローの風が吹いているとき。一番ニーズが強いと思われる建設関係でも大手では清水建設を始め数社しかない。情報が届いていないのだ。職人かたぎの人特有の「良いものが売れないはずはない」という錯覚に陥ることのないよう販売戦略の確立と営業力の向上が求められる。

●取材・構成: 平尾 敏
(野村證券株式会社 公共・公益法人サポート部 課長/本誌編集委員)

*1CALS/EC
Continuous Acquisition and Life-cycle Supportの略「生産・調達・運用支援統合情報システム」、またECはElectronic Commerce:電子商取引の略。

*2CADシステム
Computer Aided Designの略で、「設計を自動化し、多くの時間や労力を必要とする設計図の作成・修正を、コンピューターを使用して、簡単かつ迅速に処理するシステム」

*3PDF
Portable Document Formatの略で、Adobe System社によって開発されたドキュメントファイル用のファイルフォーマット規格。

*4株式会社マイクロアーツ
http://www.microarts.jp/