2006年12月号
連載7  - ヒューマンネットワークのつくり方
医療開発管理部の活動とヒューマンネットワーク
-医薬バイオ分野での産学官連携活動-
顔写真

樋口 修司 Profile
(ひぐち・しゅうじ)

京都大学国際イノベーション機構
(IIO)スーパーアドバイザー、
特任教授、医学部附属病院医療開発
管理部長/文部科学省 産学官連携
活動高度化促進事業 産学官連携
コーディネーター

POC治験の実施体制の充実は、産学官連携を積極的に推進し得る鍵である。京都大学では、そのための探索医療センターとそのスタッフ部門としての医療開発管理部を置いた。そこで、コーディネータが機能するためにコーディネータ自身が前歴と、コーディネータ後で築いたヒューマンネットワークを大いに活用している。

はじめに
図1

図1 大学アカデミーでの医師主導治験.産学官
     連携活動としての意義.

大学アカデミー主導の「POC治験(創薬型Phase 2a臨床試験)」の実施体制を充実することは、医学バイオ分野において産学官連携を積極的に推進するための重要な「鍵」であると思われる(図1)。

この目的で、2001年に京都大学医学部附属病院内に、探索医療(トランスレーショナルリサーチ)センターが設置された。さらに、産学官連携・プロジェクトマネジメント機能を持つ「医療開発管理部」が、2004年4月に新設された。「文部科学省産学官連携コーディネーター」の機能を活用し、また医療開発管理部長として新しい要請にこたえるため、院内臨床試験とその産学官連携の推進部門として、既存の強力なライン型専門組織である探索医療センターおよび知的財産・契約部門を側面から支援することとなった。以下に「医療開発管理部」の機能と業務につき記し、これを推進するために貴重な支援と助言を与えていただいた関連諸分野のヒューマンネットにつき報告する。

医療開発管理部の設置

医学バイオ分野での「権利の活用」は、応用研究としての「ヒトでの評価(臨床評価)」が重要な一端を担う。大学での臨床評価が創薬型・医師主導の「治験」によって実施遂行が可能になれば、「産」を呼び込む「場」として極めて有用な方策となり、大いに産学官連携を促進し得る。しかしながら、「治験」実施はその予算規模、参画部門の数と相互連関、成果の社会的責任等の面からみて「研究」の域を超える大型プロジェクトであり「事業」としてとらえなければならない。

図2

図2 京都大学医学部附属病院における創薬型・
     医師主導治験実施に際しての担当諸部門および
     ワークフロー、「医療開発管理部」のポジション

この「事業」を完遂するためには、学内関連諸部門との連携を組織横断的にシームレスかつ経時的に、知的財産の管理、GMP・GLP・GCPによる治験の遂行や事業化を展望してのスケジュール管理、医薬品企業との折衝と契約、また政府医薬品機構への対応等広範な調整・総括業務を担当する部門「医療開発管理部」(図2)の設置が極めて有用であると判断された。

医療開発管理部の機能・業務と成果

この目的で新設された「医療開発管理部」は、大学の研究成果(シーズ)・素材を磨き、価値を増大させるプロデューサー機能を持ち、既存の専門責任部門(ライン組織)に横糸を織りいれる組織とされた(図3)。具体的には、「治験による初期臨床評価」をキーワードに、研究初期(発明の権利化ステージ)から研究の出口(標準医療化、産業化)への時間推移を一気通貫でとらえ関係諸部門を調整・総括する部門と位置付けられ、次の4項を業務とした。

(1)臨床試験推進

附属病院での臨床試験(医師主導治験および高度先進医療申請のための臨床試験)が円滑に実施できるよう産学官連携折衝と対医薬品医療機器総合機構折衝を行う。

…探索医療センターとの連携、同センターの指導のもとに。

(2)発明シーズ・研究成果の権利化、調整・整備支援

3年以内の臨床試験を志向する京都大学医学バイオ領域での研究成果を知的案件(知的財産&臨床研究データ等)として資産化。

…医学領域知財・契約部門との連携のもとに。

(3)発明シーズ・研究成果の活用・実用化、産学官連携、折衝支援

対企業折衝(有体物授受契約、共同研究契約、委受託研究契約、ライセンス契約)の推進。

…医学領域知財・契約部門との連携のもとに。

(4)代表研究者による臨床試験・所要研究費調達、支援

図3

図3 医療開発管理部の組織横断的業務

政府研究資金への応募、民間企業・ファンドへの応募(産学官連携面、実用化へのイメージ、市場性面から応募力を増強)。

…大学事務部門(産学連携・研究推進課)とともに支援。

この2~3年間の医療開発管理部の活動成果としては次のような点を記せると思う。探索医療センターの活動チームの一員としての成果である。

○「治験契約」企業との創薬型産学官連携の新ビジネスモデルの導入。

「治験契約」は新しい形の創薬型共同研究法となった。

[1]企業側より:高品質(GMPレベル)な試験薬の供給と、倫理の壁を超え得る安全性データ(GLP)の提供。
[2]治験の実施責任、大学側独立性の保持、高品質の有用性評価能力の獲得。
[3]企業へのリターン・提供:2~3年後に得られる治験データの研究成果に加えて商品(ノウハウ)としての価値付加。

○研究進捗管理システムの開発:事業化を展望しての研究進捗管理調整(時間軸を含む)システムを開発、実用化しつつある(Mb=DSシステム、ITを活用)。

○今春には2主題の国内外未承認薬につき「医師主導治験(POC)」を医薬品企業との「医師主導治験」共同研究契約のもとに開始し得た。国内で最初の事例である。

○将来の臨床試験・治験を意図して次の課題につき進捗管理を研究者とともに行っている:医師主導治験(POC)(2題)、JSTシーズ発掘試験(12題)、JSTシーズ顕在化試験(1題)、文部科学省トランスレーショナルリサーチ流動プロジェクト(4題)、京大探索医療治験候補(7題)、京大先進医療申請候補(7題)、医薬基盤研・次世代医療技術創薬臨床開発プロジェクト(2題)・基礎研究推進事業(1題)、JST独創的シーズ展開事業、権利化試験(1題)。

医療開発管理部の職掌の遂行とヒューマンネットワーク
図4

   図4 医療開発管理部の業務遂行とヒューマン
       ネットワーク(一つの事例)

大学アカデミーでの医師主導治験による創薬型初期臨床試験を実施するにあたり、組織横断型の業務をミッションとする「医療開発管理部」の職掌をご報告した。組織トップからのヨコ活動(組織横断的活動)への支持、すなわち 探索医療センターの責任者3教授の強力な指導と支援、また病院長(診療部門の長)・研究科長(医学研究の長)の支援が得られたことが大きいことをまず報告したい。さらに文部科学省産学官連携コーディネーターとしてこの職掌を遂行するにあたり、図4に示すヒューマンネットワークから指導・助言・助力を頂いている。

このヒューマンネットワークは、大学時代の4年間、40年間の企業勤務時代、さらに企業を退いた後、大学アカデミーでの直近の4年間の業務とお付き合いを通じて構築されたものである。

今後医療開発管理部の業務を進め医学バイオ分野での産学官連携活動に携わっていく上で、次の点をいつも自戒しつつヒューマンネットワークの構築と展開をと存じる。

情報をいただくこと、助力を得ることは、『無償』、『ただ』ではない、大感謝の気持ちで。
情報・助力を頂戴するのみならず、自分もプロフェッショナルな情報を少しでも提供できるよう心掛ける。
電話を気軽にかけることができる関係、他の方に紹介できるレベルまでの関係を築く。

さらなる厚誼と教導・助言を賜ることができるよう自己精進を心掛けたいと思い、また、このヒューマンネットワークが組織の資産として次に継承されるよう配慮していきたい。