2007年1月号
連載4  - ヒューマンネットワークのつくり方
バイオ・医学系シーズを求めて
-大学教員とのネットワークづくり-
顔写真

松本 守 Profile
(まつもと・まもる)

近畿大学リエゾンセンター/
文部科学省 産学官連携活動高度
化促進事業 産学官連携コーディネーター

近畿大学のコーディネータである筆者が、シーズ発掘について語る。ここでも大学内のヒューマンネットワークづくりが有効であった。さらに、外部のクリエイション・コア東大阪での集まりを通したネットワーク参加についても語る。

はじめに

産学官連携の中でヒューマンネットワークといえば、産である企業あるいは自治体を含む官との人的つながりを指すものと考えられる。この観点でのヒューマンネットワークのつくり方については、本ジャーナルまたは各種セミナーでもすでに多く取り上げられてきているので、1年しかコーディネータの経験がない筆者が語るのは一知半解の域を出ない。それで、本稿ではこの1年、私が行ってきた大学のバイオ・医学系シーズ発掘活動を、題意には沿わないかもしれないが書くことにした。“知の拠点”そのものである大学教員のシーズ発掘の報告である。

大学教員との面談
図1

図1 コーディネーターパス



写真1

写真1 インタビューの模様

 

近畿大学は関西の私学では唯一、医学部と3つの附属病院を持つユニークな存在である。さらに、農学部、薬学部、生物理工学部等、のバイオ系学部も併せ持つ。従って、この分野を目利きできるコーディネータの必要性は高い。このバイオ・医学系でのコーディネータ活動として期待されることは、医工連携に代表される学部間のネットワークの中でのシーズ創生、ニーズ創生、マッチングなど産業化のベースをつくることと思われる。その後、企業との連携の中で、実用化を目指していくのである。近畿大学の場合、バイオ・医学系のコーディネータが配置されていなかったので、企業で薬理・生化学的手法で創薬活動をしていた筆者に白羽の矢が立ったのであろう。だから、最初のヒューマンネットワークづくりは学内のシーズを仲介としたネットワーク構築であった。まずは、教員シーズの把握である。以下に実際の活動を示す。

研究者一覧等を利用して、バイオ・医学系の教員の中で、実用化可能な研究テーマを目利きし、ピックアップした。メールを教員に配信、アポを取ろうとした。件名“始めまして…”。なしのつぶて。私の認知度も低く、迷惑メールと思われたのであろう。件名に問題があると思い、“文部科学省コーディネーターの…”と変えてみた。すると徐々に返信があった。その教員には即座にアポを取り、出向いて、インタビューを行った。その際、文部科学省コーディネーターは大学とは雇用関係に無いのでその立場を示すため、先輩コーディネータのアドバイスにより作成した図1に示すA4判名刺「コーディネーターパス」を示し、話の取っ掛かりとした。“こういう者ですが…”。お互いの緊張が解け、初対面でも話が進んだ。このパスはなかなかの優れものである。その後は淡々とインタビューし、30分程度で切り上げる。短ければ短いほど良いように思う(写真1)。

以上を整理すると、まず、目利きした教員にメール等で連絡、名刺交換、リエゾンの説明、特許関連、助成金、研究内容(助成金の状況および研究員数を含む)、今後の抱負等を要領よく聴取、この結果をネットワークの基礎とした。最小単位のネットワークの成立である。

有効に働くネットワークづくり

しかし、上述したこのネットワークは交流、情報交換には有意義でも、有効に働くネットワークではない。この最小単位のネットワークを有効に働くネットワークにするためにはお互いの信頼関係の構築が重要である。教員の信頼を得るためには、異分野の研究協力者の探索、研究助成金獲得等、研究の進展に必要な努力が必要である。その中で、助成金獲得は研究の進展に必須である。コーディネータはぜひ力を注いでいきたい。そのような活動の中、発掘したシーズで、医学部との連携が必要となるテーマが多く見られた。例えば、理工学部で代替骨材料の研究があった。研究の進展にはどうしても生物学的試験が必須になってきた。そこで、最小単位のネットワークを構築していた医学部の教員に相談。結果、医学部で動物実験を実施することになった。有効に働くネットワークの構築である。このようにマッチングしたテーマについては、得られたデータの解析と上述した各種助成金の獲得等、研究の進捗管理に深く関与している。

一方、近畿大学では平成18年度文部科学省私立大学教育研究高度化推進特別補助社会連携研究推進経費に“医工連携による医療技術のイノベーション”が採択された。5年間で総額約5.5億円である。テーマは大枠4テーマが進展中で、私もこのプロジェクトに深く関与している。前述したテーマもこの中に含まれ、資金的環境に恵まれたので、研究の進展に期待が持てる。

ところで、一般的に医学部が関与するテーマが進展した場合はどうなるであろうか。非常に良い例はシーズが薬理作用を持つ新薬開発の場合である。大学では、化合物の発見・合成、試験管内での初歩的な薬理作用の確認までであろう。動物実験のデータを得るには資金的にも苦しい。さらに、これを新薬として世に出すとなれば発見から10~15年、費用も200~500億円かかるというのが相場である。すなわち、前臨床試験として、薬理試験、吸収・分布・代謝・排泄試験、毒性試験、発ガン試験、ガイドラインに従った治験薬の作成。続いて臨床試験、認可申請、市販後調査等をクリアしなければならないのである。とても大学のみでの開発は無理である。大手製薬企業との連携が絶対必要になる。大手製薬企業では現在、資金のかさむ自社開発より、大学やベンチャー企業からシーズを求めることが多くなったので、この点では追い風である。いずれにしても、製薬企業とのネットワークづくりが必要である。

ところで、新薬開発の最終評価は臨床試験で有効であるかどうかである。病院で、新薬の効果を実際の患者に投与し、トライするのである。近畿大学の場合、医学部があるので、早期からの連携でテーマを進めていける。この点では非常に有利である。

以上、大学発の新薬の開発というような案件では、このようなネットワークづくりが必要となる。バイオ・医学系の産学連携は資金的にも時間的にも大変な努力が必要であるので、各方面でのネットワークづくりを真摯(しんし)に構築していかねばならない。

クリエイション・コア東大阪でのネットワーク

大学以外のネットワークとして、東大阪には“ものづくり支援拠点クリエイション・コア東大阪(略称クリコア)”という施設がある。クリコアでは大阪大学、立命館大学など近畿の13大学が産学連携の窓口としてリエゾンオフィスを開設している。また、中小ベンチャー企業も入居している。クリコアでは主に中小企業ニーズと大学シーズのマッチングによる共同研究、技術移転を主たる業務にしている。近畿大学は産学連携オフィスおよび大学サテライト研究室を開設、活動している。このクリコアで毎週水曜日に入居大学コーディネータが集まり、“アゴラの会”を開催、各大学間の情報交換をしている。この集まりでは、ものづくりを聞くいい機会にもなる。このネットワークはアルコールの会等、親密なつながりができるので、ネットワークの拡大に利用できる。

おわりに

バイオ・医学系シーズの産学連携には有効に働くネットワークづくりが大切で、コーディネータはその連携維持に努めなければならない。これらシーズの実用化には多額の資金と時間を要するが、日本発の優れた医薬品あるいは医療機器が少ない中、大学としては精力的に取り組むべきテーマであると思う。