2007年3月号
巻頭座談会
徹底討論「産学官連携ジャーナル」2006年の記事をレビューする
-産学官連携の傾向を見る!-

江原 秀敏、 荒磯 恒久、 伊藤 伸、
西山 英作、 平尾 敏、 府川 伊三郎、
藤井 堅、 吉国 信雄

2006年からの新編集委員を中心に、昨年1年間のジャーナル記事についてジャーナルから見た産学連携のトレンドをレビューする。2007年のキーワード、例えば、産学連携ロードマップ、起業家精神を持った人材育成……に注目されたい。

Ⅰ. 2006年掲載記事を振り返る

江原 今日の課題は、昨年1年間を振り返って、1月号から12月号までの記事から、コメントを含めて紹介していただきます。また面白かった記事などにも言及してください。

最初に編集委員長の私から述べます。4月号と5月号で巻頭座談会、「産学官連携による人材育成」を2回連載いたしました。また、12月号で、「博士人材をいかに育成すべきか」という人材育成問題を掲載しました。昨年は産学連携による人材育成が熱いテーマになったと思います。産学連携による人材育成、特にポスドクも含めたドクターの今後について、研究人材としてのキャリアパスだけでなく、いかなるものにも対応できるような、迫力ある博士人材の育成が大きなトレンドとして、期待されていると感じました。

吉国 私は、昨年から編集委員に参加させていただきました。私自身が大学の知財本部に籍を置いていますので、振り返ってまず関心を強く抱いたのは、知的財産に関する法的問題シリーズだったと思います。知財の取り扱いをめぐって大学と産業界との間に議論がわき起こっていたことを考えると、このシリーズは、非常に問題提起的であり、かつ解決のヒントも与えた大きな記事ではなかったかと思います。今後も課題のフォローアップが必要ではないかと思っています。特に3月号に掲載された「マテリアル・トランスファー・アグリーメント」ですが、今後いろいろな形で、影響を与えていくだろうと個人的に思っています。 次に非常に関心を持って読んだのは、8月号の「マーケット志向の産学連携」、9月号の「動き始めた諏訪地域」です。産学連携という活動の中で、地方の学はどういう役割を果たしていったらいいのかのヒントが得られたという印象を持っています。

Ⅰ-1.地域の特性に合わせた産学連携事例とは

平尾 私の本業は証券業ですので、投資とリターンを常に考えます。そういう面では官におられる方とはちょっと軸足が違うかもしれません。私が非常に面白いと思ったのは、「地域の産学連携事例」と題する記事です。地域の特性に合わせた、地域のニーズが活かされた連携の形態が紹介されています。毎月楽しみにしているシリーズです。どこからネタを選ぶのか、これは豊富なネットワークを持っていないとできないでしょうから、私としては高い評価をさせていただきました。できれば2007年も引き続き、地域の特性に合わせたものが出てくることを期待します。そして、例えば4月号の福井大学の事例がその後どうなったかというような追跡レポートを、1年か1年半後ぐらいに改めて掲載すると、なお良いかなと思った次第です。

Ⅰ-2.7つの視点で2006年の記事を見ると
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藤井委員

藤井 私は、7つの視点で見させていただきました。 一つは、早く産学連携の成果が顕在化してほしいということ、つまり社会貢献事例です。次に、クラスター経営事例です。諏訪地区のようなクラスターの記事から見ても、マインド面から内容をきちんと把握しているとの印象を持っています。3番目が海外に学ぶということです。日本型の産学連携を早く進めるうえで、海外の産学連携を早くマスターして、その上に立って、日本型の産学連携を進めるべきだと思っています。4番目は、政府の政策、それとのマッチングの関係です。これはJST沖村理事長、相澤東京工業大学学長、多田野村證券常務が1月号の「グローバルな競争に打ち勝つ産学官連携モデルの構築を」と題する座談会で、それまでの経験を踏まえて、今後はこうあるべきというコンセプトを打ち出されていました。こういう記事は、産学連携に関係しておられる方々の方針づくりに非常に役立つと思います。私自身も勉強になりました。第3期の科学技術基本計画はこの4番目に含まれます。

5番目が、産学連携の仕組みの話です。仕組みを構築して、運営し、いかなる手法で行うかが現場では非常に重要になってまいります。この意味で、11月号の特集「TLO再考」の記事は非常に参考になりました。そして、同じく11月号の柘植綾夫総合科学技術会議議員へのインタビュー記事の中でも「産学連携がブリッジする知の創造と社会経済的価値の結合」ということで柘植さんの持論がかなりあらわれていたと思います。

それから6番目が、人材の育成です。人材は、産学連携を推進する人のマインドにも通じる話ですが、10月号の山野井昭雄氏のインタビュー記事や、MOTに関する座談会の中での北陸先端科学技術大学院大学の亀岡氏のお話、12月号の府川編集委員の書かれた博士人材の記事、が参考になりました。この分野は今後、持続的に取り上げる大きな課題であると考えます。7番目が、産学連携を進めるにあたってのユニットオペレーションといいますか、単位操作的な知見として持っておかねばならない視点です。知財の話、契約の話、MOTなどです。

これら7つの視点から全体を見まして、印象に残った記事ベスト3を選びました。ナンバーワンは、5月号の北海道大学川下産学官連携コーディネーターの記事で、「北海道発、海外に飛ぶベンチャー」です。本物の産学連携顕在化に向けた努力がよく理解できました。産学連携にかかわる方々のマインド、やる気と、その周囲の意気込みが非常に感じられました。2番目が、「羽ばたけ学生発ベンチャー! 集まれベンチャーの卵たち!!」 と題する11月号の松田前大臣が出席されたイノベーション・ジャパン2006年のシンポジウム報告です。若い芽がどんどん育つのが感じられ、これこそ、これからの産学連携ではないかなと思いました。3番目が、産学連携による人材育成の必要です。博士人材の記事(12月号)、山野井氏へのインタビュー記事(10月号)です。これらの記事は読者を啓蒙(けいもう)するし、感銘も与えるのではないかと思いました。

Ⅰ-3.人材育成に関する記事は2006年の掲載記事のひとつの主流
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府川委員

府川 今回のジャーナルの中で、4月号、5月号の2カ月にわたる巻頭座談会「産学官連携による人材育成」は何回読んでも非常に味があり、問題点を鋭く指摘していると思います。座談会のメンバーの方々が人材育成に長い経験を持ち、その分野の専門家であることと、2回に分けてこの問題をじっくり話し合われているので、メンバーの方々の意見が非常によく伝わる内容でした。その中でも、立命館大学の加藤先生が理系と文系の学生を比べて、理系はビジネスマインドも少ないし、社会を動かして変えていくことを考える人が少ないと述べられている話はショックでした。野依フォーラムのアンケートでも、博士の人間力が不足している、プレゼンテーション能力とかリーダーシップ、人と協調して仕事を進める力が不足しているとよく言われているのですが、この加藤先生のご指摘は考えさせられるところが多々ありました。理系の学生はあまりにも膨大な科学技術の知の集積を前に、これを理解していかなくてはならないと思った途端に萎縮するのではと考えました。

研究室は、過去の知の蓄積を背景に権威を保つ、年功序列的なところが基本的にあるので、そこへ入ると学生はますますそうなりやすい。ドクターになると研究領域が狭くなるのでその心配は増えます。理系の学生は大学のとき長い年数一生懸命勉強しますが、その割には、会社に入ると文系の人が偉くなってしまうという傾向もあり、この点は非常に気になるところです。科学技術を学ぶ、研究する以外に利用するという俯瞰(ふかん)的視点を学生が持つことが必要と思います。 そういう観点で、10月号の神戸大学主催の日本型COOP教育をめざした洋上事前講義は非常に画期的な試みではないかと思います。洋上であること、文系理系合同で行うこと、価値観の多様化とか、インターンシップを有効にする種々の仕組みが書かれていて、この記事は、非常に素晴らしい内容だと思っています。

Ⅰ-4.経営学と理系の技術の融合ができる人材の育成

荒磯 今、経営学、経営論と理系の技術が融合していません。会社の経営、ビジネスプランの策定、マーケティングの構築という手法の中に、科学技術を基盤としたものが学問的にも構築されていません。従って技術経営学こそ産学連携なのではと思っています。

ですから、産学連携学という学問がもしあるとしたら、そのあたりなのではと思います。

藤井 最近、アナリストだとか、いわゆる企業価値の将来性を評価する側が、かなり知的財産に基づく経営システムとその戦略に注目し、企業評価の尺度として活用していると思います。

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吉国委員

荒磯 大手企業では、特に産学連携に対する戦略と世界の状況の分析をしていると思います。しかしそれらはあまり外に出ません。そこでの産学連携担当部署のリーダーの方々は、産学連携を日本で一番よくご存じの方々であると思います。そういった先を行く産業界の産学連携のノウハウなり知見をもっと引き出すことができれば、学と官は大いに啓発されると思います。

平尾 実業界は、文系より理系がポジション的には上になるということが多いですが、わが社では最前線で理系と文系の者が同じ仕事をしています。全く違和感ありません。多分そういう面では、どこかでだれかが理系も文系も同じ条件になるよう早くから訓練させていればこんな議論にはならないでしょう。

吉国 具体的にいいますと、企業の方は、「文理融合教育で協力したいけれども、キャッシュフローはどうなるか?」というような話がくるんです。大学内部でできなければ、大学は専門家を配置して学生を教育するという工夫が必要であると思います。

伊藤 技術と経営の融合をどうするかという点には、私もいつも関心を持っています。まずは技術のシーズが大切と言われます。しかし事業化に近づくと、そしてベンチャー化していくと実は技術は2割で経営が8割という話になってしまいます。こちらには技術の専門家、あちらには経営の専門家というドリームチームがそろう大学やベンチャーはそうはありません。では、限られた資源の中で、融合分野の課題をどのように解決していくか、まだまだこれからです。だからこそこの議論が、楽しいのだと思います。

西山 先ほど経営者が8割という話がありましたが、一昨年の10月に米国に行って、ベンチャーキャピタリストといろいろ意見交換をしてきました。日本のベンチャーキャピタリストの多くは経営者を見て投資の判断をすると言われますが、彼らはまず顧客、マーケットがきちっとあるかどうか、事業化のシナリオが描けるかどうかを最も重要視します。私も産学連携でどのように事業化に持っていくかという仕事をしていますが、バリューを生み出す技術の事業化といった学際的な議論も将来まとめたいと考えています。

Ⅰ-5.TLOの記事

西山 それで、昨年の特集記事のナンバー3を挙げます。私が一番印象に残ったのは、11月号の東北テクノアーチ西澤昭夫社長のTLOの議論です。理由はTLOが今、42に膨れ上がって、これからも増えそうだというような議論があります。ちょうど東北テクノアーチができたばかりのころに、西澤氏から「スタンフォードであろうがMITであろうが、莫大なロイヤルティを稼いでいる特許はそんなに多くない」と聞きました。記事では「TLOが全国に42まで来てしまった。……半分の20だって多すぎる。……一方で、大学の知財本部も全体で43ほどもある。知財本部とTLOが統合されつつ、20から多くても25くらいに収束していくというのが現実的な数字のような気がします」とのくだりがあり、「日本型イノベーションシステムの限界」をも感じました。二つ目は12月号の「信用金庫業界が提案する、新しい『産学官+金』連携の形」です。その中で、熊本第一信用金庫の鴻池さんが、「コラボ産学官ファンドを日本版のエンジェルのきっかけになっていくものと考える」と言われています。テキサス州オースティンでザ・キャピタル・ネットワークというエンジェル・ネットワークを主宰していたデビッド・ゲラハルドさんから「エンジェルよりもファンドの方がしっかりと制度的設計されているので効率的で良い」との指摘がありました。日本の場合、富裕層が少ないので、確かに信金とかそういうものを日本版のエンジェルととらえるのは、面白いと思います。特に信金は中小企業とのネットワークが強いので、信金が中小企業の産学連携の中核になることを期待しています。最後に「マーケット志向の産学連携」(8月号)を企画した趣旨をお話しします。科学技術基本計画も昨年4月に第3期(2006年4月~2011年3月)がスタートしました。第3期では、1期、2期以上に研究成果の事業化が厳しくみられると思います。東経連事業化センターでは研究成果をいかに市場化するかの実践活動に取り組んでいるわけですが、われわれの活動を紹介しながら研究成果の事業化という議論をクローズアップさせたいというのが企画の趣旨でした。

また、連載では平尾編集委員が担当されている「大学発ベンチャーの若手に聞く」が面白いです。JSTのプレベンチャー事業を活用して生まれた大学発ベンチャーも結構ありますので紹介いただければと思います。東北でもプレベンチャー制度を活用して創業したフォトニックラティスがJSTの研究成果活用プラザ宮城の育成研究を通じて、開発を進めました。さらに東北イノベーションキャピタルからの投資も呼び込み、株式公開を目指しています。大変注目しています。

伊藤 私も自分自身がTLOを経営していることもあって、一番関心を持ったのは11月号の「TLO再考」です。特に西澤昭夫氏のわかりやすい、現実的なご発言に注目しました。この記事の掘り下げ方は、この程度でよかったと考えます。さらに、政策研究大学院大学隈藏康一助教授の執筆記事と、日経BP社丸山正明氏の記事が加わり、TLOの現状、課題の把握ができました。

Ⅰ-6.掲載記事の主題についてフォローアップする記事があってもよいのでは
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伊藤委員

伊藤 先ほど、その後のフォロー記事という話が出ていましたが、TLOも例えば1年後や2年後に、その後どうなったのかフォローをしていければより良いでしょう。

それから、もうひとつは、「産学連携と法的問題」シリーズです。産学連携の実務者にとっては身近なテーマを取り上げましたので、役に立ったのではないかと思います。中には、知的財産権信託のようにこれからの話もありましたが、今後を考えるきっかけになったと受けとめています。

平尾 知的財産権信託は、実績が1件しかないので、今後信託の件数が増えないことには関係のない話になってしまいますね。

荒磯 地域における産学連携がだんだん水面に顔を出してきています。発展してきているという印象を持っており、それがジャーナルにも反映していると思います。3月号の秋田県の産学官連携記事である「ビジネスロードマップ等を活用した事業展開」、諏訪の記事、函館都市エリアの記事などが印象に残りました。地域の特性、地域の持っている比較優位性、資源、これをどうやって活用していくかを真剣に考える。その中には、キーパーソンが必ずいます。派手な動きをするだけでなく、非常に朴訥(ぼくとつ)な動きをしながら一つ一つのセクターを説得してというようなキーパーソンの動きもある。1995年に、科学技術基本法ができ、JST関連では、地域に拠点を置き、その地域のリージョナルテクノセンターをつくる動きがあります。産学連携の形としては、非常に強い一騎当千のベンチャーが先に走り、リーダーを配置して、その地域がクラスターをつくっていく、もしくはクラスターをつくる萌芽(ほうが)を見つけていくというタイプが現れています。

それからもう一点、国立大学法人化は既に3年経過し、大学が今、じわり、じわりと変わり始めています。それに関する記事も九州大学、東北大学の例が掲載されましたが、これらの記事は関係者にとってかなり参考になっているのではないでしょうか。記事のランキングでは、私は1位が3月号の秋田県の記事、2位に国立大学法人化以後の東北大学の産学連携体制についての記事(12月号)、3位が諏訪の特集(9月号)です。

Ⅱ. 2007年に期待される記事とは
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平尾委員

江原 出席者の方々に2006年の記事を振り返っていただきました。次に今年のトレンドになりそうな事象であるとか、注目に値する内容になるであろうと思われる課題を挙げていただけますでしょうか。

吉国 研究者のモラルの問題があると思います。研究費の管理も含まれます。そして、研究の成果は何か、知財を支える資金は何かなどをフォローする必要があります。研究管理全体の中で知財をどのように位置付けるか。そういった原則的な問題について十分理解できる環境に大学があるのか、今後、把握するべきであると思います。

平尾 昨年の11月に「全国知的・産業クラスターフォーラム」に参加してきました。各地の成果が展示されていましたが、中には全国区でビジネス展開できると思われる素材がたくさんありました。大学発ベンチャーも16社上場したといってもビッグビジネスになっている会社、50億円以上売り上げ、利益10億円以上という会社はほとんどありません。ここで何が必要か、それは人材です。管理、営業のマネジャーが多く要ります。売り上げ規模の大きいベンチャーの必要性を何とかジャーナルを通してアピールしていきたいと思います。

藤井 私が懸念するのはコンプライアンスです。具体的には、大学は産学連携でブランドアップを狙う活動をしているわけですが、ひとたびトラブルを起こすと、非常にイメージダウンするという危機をはらんでいます。そこに対する保護もしくは、防御をきちんとしないといけないと思っています。このジャーナルでもいろんなインテグリティーの在り方に関する知見を紹介していますが、それは大いにするべきでしょう。もしくはそれを発展させたシンポジウムなり、特集の記事があるといいと思います。

吉国 大学間のトラブルの可能性も多くなると思われます。

藤井 もう一点気になるのは、産学連携活動を健全に持続するためには、今やっていることの開発のステージの診断をきちんとして、発表することが必要であることです。そういう仕組みを導入しようとすると、開発計画に関わる産学両方の種々の情報を共有化してやらざるを得ません。このシステムを定着させていくことが必要です。今のままですと一方的、断片的に出てくる成果の表現ですので、それでは国民に納得されません。一般社会も意識した記事の発信が必要だと思います。

Ⅱ-1.産学連携の法的根拠の問題、シーズの事業化について

府川 もうひとつ、知的財産と契約関係の連載記事が非常によかった。1月号の不実施補償の法的根拠に関する記事は特に勉強になった。妥当な見解であると思う。この問題が解決すれば産学連携がもう少し加速するのではないでしょうか。

もう一点は、大学発ベンチャーと、今の企業でやられている研究とをスタートから最後まで1回比較して、その違いを認識することは、産学連携をする上で大事であり、大学発ベンチャーにとっても役に立つことと思います。まず、会社の研究は成功確率が非常に低いことを認識する必要があります。企業であっても大学発ベンチャーであっても事業化には、技術以外に営業とか会計であるとか経理であるとか、法的な問題とか、いろいろな意味でのサポーターが必要です。日本と米国ではその体制が大分違うとよく言われますが、そのあたりでのサポート体制が充実すれば、大学発ベンチャーももう少しうまくいくかなと感じます。この産と学の研究開発の違いみたいなものを、1回、大いに議論して、記事にしても良いのではと思います。

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西山委員

西山 中長期的に地域の産学連携の事業化をどう推進するために何が必要かを考えると、やはり人材育成に行きつきます。地域には自立的な経営判断のできる経営者が決して多くありません。新技術をきちんと事業化するためのCEO人材を育成する必要があります。東経連事業化センターでは、新技術を事業化するにはマーケティング、セールス、知財、ファイナンスをどう活かすかの議論をしています。そういった議論をしながら、地域の新技術を事業化するためのCEO人材をどう育てるか、これから地域の産学連携で重要になってくると思いますので、それに関する記事を提案できたらと思っています。

Ⅱ-2.産学連携の海外事例の記事

西山 もう一点は、国際的な産学連携の議論です。テキサス州オースティンのデビット・ギブソン先生は「1990年代のテキサス・オースティンを成功に導いたテクノポリス・ウィールモデルは、20世紀モデルだ。新しいモデルを探す必要がある。それが国際的な産学連携だ。世界中から起業家をオースティンに連れてきてインキュベートして、米国のマーケットを狙う」と言っていました。そこで仙台フィンランド健康福祉センターを紹介したところ、「オースティンは仙台フィンランド健康福祉センターから学ぶべきだ」とのお話をいただきました。東北で新しいモデルを作れたらと思っています。

Ⅱ-3.起業の推進には
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荒磯委員

伊藤 私は、日本型イノベーションの限界との指摘が印象に残りました。産学連携のおそらく一番のボトルネックは、大学発ベンチャーだと思います。それは、TLOにとっても非常に大きな問題です。1年間のロイヤルティ収入全体が1,000億円以上になっている米国のTLOでは、新規契約件数の約7割が、大学発ベンチャーと中小企業なのです。一方、日本の大学発ベンチャーは、株式公開の数も少なく、一番大きなところでも売上高が50億円いっていないとの指摘がありました。その違いを生むボトルネックは本当に何なのか。人なのか、それとも大学の研究成果から企業化に至る間の追加的な研究資金、いわゆる死の谷の支援がまだ少ないのか、1回議論してもいいという気はしています。

人材に関して言うならば文系、理系を超えた経営人材が必要だと思います。国際的にいい人材なら世界中から集めるのも手です。そういう形で、新たなボトルネックの解決方法を考えていく必要もあるでしょう。

荒磯 私は、今までの産学連携、例えば大学発ベンチャーでは、自分のところに技術があって、それをもとに生産して販売もしてという、非常に古い、立身出世型で成功するというように見ていたのでは、と思います。そこで、ベンチャーでも、バイアウトとか非常に高度にビジネス的なところも考えなくてはならない。バイアウトしても、次から次へ泉のごとく技術が出てくれば、泉のごとく新しいベンチャーをつくれる。そのようなことを含めたところまで産学連携の範囲として、わが国でとらえているでしょうか。

Ⅱ-4.産学連携を発展させるには
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江原委員長

荒磯 私が今考えているのは、産学連携事業の発展段階です。大学の産学連携への関与を、今までの共同研究で終わりという考えから改めて、バイアウトなどを含めて、ベンチャーなり事業なりが発展していく上で、大学がどうやって企業が必要とする科学技術のバックアップができるか、それが可能になる体制を作らなければならないと思います。

産学連携のプロセスを、「基礎研究→応用研究→商品化研究」というように考えますが、視点を変えて「商品アイデア→概念設計→研究開発→試作→市場開発→生産→販売企画→販売」と並べることもできます。これを見ると、試作ができて市場開発をすることによって再び研究開発に戻るケースが多いことに気が付きます。このループをしっかり回すためには文理融合、技術経営が必要になります。大学との共同研究は、概念設計の後に来る、研究開発のところです。産学連携はここでは終わりません。

知財の発信、共同研究を産学連携における大学の役割と考えている多くの大学関係者には、先ほどのスキームは大学の範囲を超えていると感じています。大学は産学連携事業全体の中でどういうステージで、どういう役割を担っているのかを把握する必要があります。今年は「事業展開」と「学」との連携の在り方を考える必要があると思っています。

もうひとつ、産学連携のロードマップを考えたいと思います。産学官それぞれが描く産学官連携ロードマップを比較してみるのも一案です。

藤井 今までの産と学のすれ違いをきっちりマトリックス的に明らかにし、それぞれのステージにおいてつながりを持ってやっていく、という仕組みを考えることなのでしょう。

荒磯 産と学の基礎的コミュニケーションを土台にして議論が発展すれば、産・学がより分かり合えると思います。

藤井 経済界からのそういった話も記事に入れたいところです。

藤井 産にとって望ましい大学とは何かということも含まれますね。

Ⅲ. 2007年の記事企画における標語とは

江原  最後に、今年の産学官連携のトレンドとなるであろう標語を、一言ずつ参加者の皆さんからお挙げください。

荒磯  「産学連携ロードマップ」です。

伊藤  「起業家精神を持った人材の育成」です。

西山  「マーケット志向のイノベーションシステム」です。

藤井 「これからの産学官連携活動は、“プロセスイノベーションからプロダクトイノベーションのステージへ”」です。

吉国  「産学連携、目的意識を明確に、何のための産学連携か」です。

府川  「学の成果をビジネスに!」です。

平尾  「地方から全国に羽ばたく産学連携」です。

江原 1年間の総括をしていただき、今年のキーワードが出ましたところで、座談会を終わります。ありがとうございました。