2007年3月号
連載2  - 産学官連携コーディネーターの事例に学ぶ
ロードマップを活用した特許出願
顔写真

小川 俊也 Profile
(おがわ・としや)

電気通信大学共同研究センター
産学官連携コーディネータ/文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業
産学官連携コーディネーター

顧客の満足が得られるシーズに育てて特許化した、電気通信大学の事例であるレスキューロボットおよび情報伝送システムについて述べる。

はじめに

私は2003年4月に文部科学省から電気通信大学に派遣され、産学官連携コーディネーターとして今日まで大学の研究者が研究した成果をいかに産業界(顧客)の満足を得るソリューションとして提供するか、そのためにはどのようなプロセスで活動したらよいかを念頭に取り組んできた。

本稿では大学の研究者が考えている研究ロードマップを整理し、研究者が発想しているアイデアから顧客の満足を得られるシーズに育てて特許化し、顧客と共同研究や受託研究などを実施した事例を報告する。

新任研究者との出会い

2003年4月に電気通信大学に配置され、学内のシーズ収集をいかにするかが当初の課題であった。そこで、過去に共同研究で多数実績のある研究室を訪問すること、および学外から新しく来られた教員を訪問することから着手した。その中で東京工業大学から赴任されてきた松野教授を訪問し研究実績やこれからの研究計画を聴取した。同教授の研究内容はレスキューロボットに関するもので、神戸大学在職中に阪神大震災で研究室の研究員が災害に遭われ、それ以来レスキューロボットの研究に取り組み災害救助などで社会貢献したいと非常に強い情熱を持って研究しておられる方である。

研究計画についてはロードマップと研究要素のプラットホームについて調査した。具体的には[1]クローラ型情報収集ロボット、[2]ネジ推進型および[3]ヘビ型の被災者探査ロボット、[4]ホイール型不整地踏破型ロボットである。これらロボットの共通プラットホームである遠隔操作に関する研究も重要で、新しいアイデアを用いて今後研究したいとの説明を聞いた。このアイデアは災害現場で探査中のロボットの周辺状況を過去画像の中に俯瞰(ふかん)的に取り込んで表示する「画像の生成法」に関する発明であった。

これを聞いてまずは先願特許調査を実施し先行事例が無いことを確認し、応用分野はレスキューロボット分野以外にも可能と判断し、共同発明者である稲見講師(現教授)および研究員にも特許化の検討をして出願するよう提案し、協力いただくことにした。まだ研究前ではあるがアイデアとしては独創性と実現性があり、実用価値が高い発明であると判断した。当時TLOの株式会社キャンパスクリエイト(以下、TLO)に特許流通アドバイザーの河面氏が着任され、相談の結果、発明の具体化にはかなり時間がかかるとのことで具体化に協力願うことにした。この間、発明者から大学に発明届を提出し、発明委員会から知的所有権の個人有の決定を受け、TLOに支援を依頼して出願活動に入った。

一方、共同発明者である稲見講師はロボティクスのユーザーインターフェース分野の「遠隔コミュニケーション技術」の研究をしていて、新しいアイデアについて特許相談があった。このアイデアは情報伝送システムに関する基本的なもので、これも「画像の生成法」と同様に個人有の決定を受けTLOで出願を行うことになった。

ロードマップ・特許マップによる発明発掘と出願
図1

図1 画像生成法の発明・松野研

図1に松野教授のアイデアを示す。レスキューロボットは遠隔操作が基本であり、ロボットが直視できないところに行った場合、ロボット周辺環境情報をいかに把握するかが操作上の大きな課題であった。従来は図1の「俯瞰映像提示システム検証実験」のように「外部設置カメラからのモニタ映像」で今どのような環境にいるかを把握できるが、これでは広い範囲をモニタするには複数の外部設置カメラが必要である。新アイデアは当該ロボットが先ほど(過去に)通過した時点の「ロボット搭載カメラの実映像」を記憶しておいて、そこから現在位置へ移動した距離や方向から「提案システムによる俯瞰映像」を生成することにより外部設置カメラを必要としない発明である。

図2

図2 レスキューロボットの特許マップ

図2はレスキューロボットの研究ロードマップとプラットホームから特許マップを作成し、マップに従い出願済みの特許に加えて新規に特許出願を行ってきた。

この間、「画像の生成法」の特許化検討は発明者、特許流通アドバイザー、およびOBでTLO顧問の弁理士の協力を得て、発明を完成させ2003年12月に特許出願を行った。さらにその後特許マップの操作部に関して、松野教授と助手によるハンズフリーで情報入力を可能にする「情報入力装置」も発案され、前記発明と同様な活動で2004年4月に特許出願を行った。

図3

図3 情報伝送システムの発明・稲見研

図3は稲見講師の発案で、旧来のプロジェクタは2次元情報を人間に提示するのみであるが、提示する画素ごとに目に見えないデータストリームを重畳して投影し、個々の画素位置ごとの重畳(ちょうじょう)信号を再生することにより空間分割による超多重通信が可能な「情報伝送システム」で、2003年9月に特許出願を行った。この発明は実現性が高いが、どの分野に応用したらよいか判断が困難であったため、情報伝送関連のベンチャー企業経営者を訪問し相談したところ用途開発が必要であろうとのことで、IT企業、ゲームソフト企業、Webコンテンツ制作企業の各企画担当者を招き機密保持の覚書を交わして、アイデア発想会を実施した。その中でIT企業の方から、本発明を用いた新しいアイデアが提案され、研究室で原理実験による検証を行った後、「ビットマップ表示装置における指示位置検出」の共同出願を2004年4月に行った。

研究成果の事業化支援と起業化支援

以上の活動から松野研究室ではレスキューロボットに関するマッチングが成立し、2003年度1件、2006年度1件の共同研究を実施した。さらに「情報入力装置」の発明に関しては、ベンチャー起業を狙いに松野教授が開発代表者となり、事務機企業出身の起業家と共同で2005年度科学技術振興機構(JST)「大学発ベンチャー創出推進事業」に採択され、2007年度までの3年間の受託研究を実施中である。

また、稲見研究室ではIT企業と「情報伝送システム」と「ビットマップ表示装置における指示位置検出」の発明を用いて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「大学発事業創出実用化研究開発助成事業」に申請し、採択を得て共同研究をスタートすることができた。

以上の活動で二つの研究室のシーズ調査を契機に、2003年度2件、2004年度6件、合計8件の出願をすることができた。2004年度は国立大学が法人化され職務発明は大学帰属となった年で、大学の出願件数は63件になり、約10%を2研究室で出願した。このことから法人化初年度の発明発掘および特許出願の推進に貢献できた。

このような成果を出せた要因は、まずロードマップとプラットホームの調査を教員に聞くことができたことと松野教授、稲見講師をはじめ、特許流通アドバイザー、弁理士、関連企業の方々のご理解とご協力をいただくことができたことである。

むすび

以上の結果、産学連携意識の高い教員との出会いから、TLOおよび特許流通アドバイザーなどとの人的ネットワークを築くことができた。さらにはロードマップなどから、新規に着手する研究テーマの構想段階からかかわることで戦略的な知財の創出が可能となった。また、TLOや関連企業と連携することで企業に対してより価値の高いシーズを創出することが可能となった。今後はこれらシーズからイノベーションを創出し社会に貢献できる日が来ることを心から望んでいる。