2007年3月号
連載4  - ヒューマンネットワークのつくり方
地方都市における産学官連携事始め

松村 秀隆 Profile
(まつむら・ひでたか)

草津市 産業建設部 新産業振興課
産学連携コーディネーター/
立命館大学BKCインキュベータ
インキュベーション・マネージャー

草津市を中心とする滋賀県内陸工業地帯である、びわ湖南部エリア新産業創出特区では、立命館大学、滋賀医科大学、龍谷大学が立地している。地域産業振興のために域内企業に起点を置き、地方自治体による積極的な活動を盛り込んだ産学官連携活動を述べる。

はじめに

今回、「ヒューマンネットワークのつくり方」というテーマでの寄稿依頼を受けたわけだが、産学官連携コーディネータとしての経験は浅く、ネットワーク形成どころかすべてにおいて試行錯誤の毎日であり、正直なところ、読者の方々に教示できるほどのものはまだないように思う。しかし、草津市のような一地方自治体による産学官連携活動を紹介させていただく機会もめったにないだろうと思い、掲載後のご指摘などは覚悟の上、これまでの活動報告というかたちで、寄稿させていただくこととした。

びわ湖南部エリア新産業創出特区
図1

図1  圏域における3大学の位置関係

まずは草津市の紹介となるが、当地は、大都市の京都、大阪に近接しているほか、本州のほぼ中央に位置していることから、交通の発達も相まって早くから工業立地が進展し、高度経済成長期には大企業の工場や研究所の進出が相次ぎ、関西有数の内陸工業地帯として発展してきた。また、学術研究機能においては、滋賀医科大学(大津市)、龍谷大学(大津市)、立命館大学(草津市)の3大学が、わずか数キロの近接した圏内に立地しており(図1)、県内で研究開発のシーズを創出する中枢としての役割を担ってきた。

図2

図2 滋賀県経済振興特別区域制度の概要


図3

図3 びわ湖南部エリア新産業創出特区の支援策

そんな折、滋賀県では平成16年に県版の「経済振興特別区域制度」(図2)がスタートするが、これは、県が各市町からの提案に基づき、地域の特性を活かした産業振興策の実施が見込まれる地域を「経済振興特別区域」に認定し、期間を限定して集中的に支援するものである。草津市では、集積する3大学の知的資源を活かしたベンチャー企業等の新産業や、既存企業の第二創業等の創出をさらに促進すべく、研究開発から販路開拓、企業立地まで一貫した支援(図3)を実施する新たな産業振興策を、隣接する大津市との連名で「びわ湖南部エリア新産業創出特区計画」として申請し、「経済振興特別区域」の認定を受けた。本計画の特徴は一貫した支援を実施することにあるが、「産学連携に意欲を有する企業の発掘」、および「各大学との連携推進」といった、いわば新産業の種探しについては、草津市自らも専門員を配置することとし、本計画の開始に合わせて、筆者が「産学連携(特区推進)コーディネーター」に着任したのである。

足で稼いだ産学連携事始め

としたものの、圏域の3大学や県の中小企業支援センターには、産学連携を推進する専門の部局がすでに整備されており、わざわざ庁舎まで足を運んでくれる経営者などいるはずがなく、まずは地域の中小企業を訪問することから始めた。結果として、初年度の訪問数は100社を超えるまでになったわけだが、これもやみくもに訪問していたのでは効率も悪く、事前に訪問先の企業選定に参考とする情報を各方面から頂戴することとした。具体的には、[1]特区制度の計画段階で実施したアンケートに意欲的な回答をした企業、[2]県が実施する事業可能性評価制度で高評価を得ている企業、[3]旧創造法・経営革新認定企業、などの情報に加えて、地元の金融機関や商工会議所より、研究開発に興味を持つ企業情報などを頂戴することができ、これらに業種や規模、社歴に経営者の年齢、その他もろもろ、自分なりに設けた検討ポイントを加味した上でオリジナルの企業リストを整備し、その優先順位に沿って順次訪問していった。

しかし、対象はこれまで大学との連携を行ったことのない中小企業であるので、産学連携の仕組みそのものをご存じない経営者が大多数であり、初回訪問においては、いかにして、経営者の方々に「うちの会社も、産学連携で何か新しいことができないか?」といったきっかけを与えることができるかが重要であった。この点については、早くから産学連携に積極的であった立命館大学のリエゾンオフィス(現:理工リサーチオフィス)の協力によって、過去に実施された研究交流の事例を数多く提供いただくことで、訪問先の業種や規模に応じて、いくつかの近しい事例を紹介することができ、若干なりとも興味を示してくれた経営者の方々とは、スムーズに対話を進めることができた。こうした地道な取り組みの成果として、たちまちに研究交流を実現すべく、先述の3大学の産学官連携部門へ橋渡しを行ったケースも発生したが、何より、これまでにそうした取り組みを行ったことなどなかった経営者の方々より、大学等との研究交流の有無はともかく、「こんなことを考えているのだが、どうだろうか?」といった相談が徐々に増えてきて、産学連携による新産業創出を期待するための土壌作りを成すことができた。

企業ニーズから広がるネットワーク

繰り返しになるが、当市での産学官連携活動は初めての試みであったことから、必要なネットワーク構築は一から開始する必要があったわけだが、それらはすべて訪問先企業からのニーズに応じて徐々に広がりを見せていくこととなった。

産学連携に意欲を有する企業の発掘が最たる使命とはいうものの、経営者の方々からしてみれば、産学連携による研究交流は、企業が抱える課題解決のための手段の一つでしかないわけであり、おのずと訪問した先の企業からの相談はそれのみにとどまるはずもなく、「事業計画」「外注先」「販路開拓」「人材採用」「資金調達」「工場用地」といったように多岐にわたった。無論、産学官連携コーディネータの職務の範囲を超えているのだろうが、当地での新産業創出を大目的としていることから、単に窓口となる機関を紹介するだけでなく、可能な限り、主体的に行動し、コーディネートしていこうという方針を取ることとした。

幸いなことに、当地は、滋賀医科大学、龍谷大学、立命館大学といった学術研究機関だけではなく、財団法人滋賀県産業支援プラザ、独立行政法人中小企業基盤整備機構による立命館大学BKCインキュベータ、JSTサテライト滋賀といった支援機関の集積もなされており、いずれの相談に対しても、それらの機関の門をたたくことで解決することができ、まれに対応し得ない場合であっても、京都、大阪といった都市部に足を延ばすことで対応した。

とはいえ、各機関にコンタクトを取る際、初回は筆者自らが行い、訪問の際も同行するようにしていたのだが、「市の方がなぜ同席されているのか?」と怪訝(けげん)そうにされることも多々あった。しかし、一見本来の職務とはかけ離れたこうした活動の積み重ねは、組織の枠を超えた情報交換の場の創出の端緒を開くことになり、その後、圏域における各組織の産学官連携コーディネータの連絡会議等が実施されるようになり、また昨年度においては、インキュベーション・マネージャー*1の方々との連携の下、事業成長および企業間や事業活動を支援する機関等の連携・交流を図ることを目的とした「滋賀のインキュベータ活性化フォーラム」の開催へとつながるなど、機関同士のネットワークを活用しての企画、実行にこぎ着けるまでに至った。

おわりに

産学官連携コーディネータが担う役割は企業と大学等とのマッチングであるわけだが、当市のような地方自治体においては、やはり地域産業の振興を期待しての事業であるため、企業側のニーズをいかに大学の知に結び付けるかといったように、すべての取り組みは、常に起点を企業においての活動となる。全国的に見ればそうでもないのだろうが、圏域の3大学における産学官連携事務局の体制が充実していることからも、当地における産学官連携活動は各大学に期待する部分が多面にある。しかし、企業と大学において、真のWin-Win関係が構築されるためには、われわれ地方自治体による積極的な活動も不可欠であろうと思う。こうした取り組みが近隣の自治体に対して少しでも波及していってくれればと願いつつ、今後も草の根的なコーディネート活動を進めていきたい。

*1インキュベーション・マネージャー
新規事業者に対し、知識、ノウハウ、経営資源など、不足するものを幅広く補い、時には相談相手となり、支援システムを活かしながら、事業にまで導く人材。