2007年4月号
特集  - コーディネータの責任と権限
産学連携にとって必須である専門人材としてのコーディネータの存在に焦点を当て、大学の中でのコーディネータの活用、研究現場でのコーディネータの立場、在り方などを座談会、執筆記事で、明らかにする。

座談会:コーディネータの責任と権限を考える
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澤 昭裕 Profile
(さわ・あきひろ)

東京大学 先端科学技術研究センター
教授


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野口 義文 Profile
(のぐち・よしふみ)

立命館大学 研究部
理工リサーチオフィス 課長


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橋本 昌隆 Profile
(はしもと・まさたか)

株式会社フューチャーラボラトリ
代表取締役社長



全国の大学や研究機関、あるいは産業振興機関やクラスター本部などの中間組織に、産学連携や技術移転をコーディネートする専門人材が多数配置されてきた。しかしながら、コーディネータとは何か、コーディネータに求められる資質やスキルとは、採用基準や育成・評価システム、キャリア形成はどのようなものかについて、あまり深く議論されてきているとはいえない。異なる組織、異なる立場で、産学連携のマネジメントやコーディネートの先進的なモデル創りに取り組むお三方に、話を聞く。

産学連携マネジメントは「ドーナツ化現象」に陥っている

●現在の大学の産学連携の体制や人材配置の課題をどうお考えですか?

野口 今、日本の大学が陥っているのが、産学連携マネジメントの「ドーナツ化現象」です。多くの大学は、公的資金でコーディネータを雇って、外部から人を確保してきていますが、任期制で数年したら辞めていってしまうケースが多い。これでは折角のノウハウが学内に蓄積されません。

その結果、多くの大学の産学連携本部は、現場に即した産学連携のコアのノウハウや情報が持てないままに、周りのドーナツのようなところで、辛うじてイニシアチブを握っているのが大半と思います。自分たちのしっかりした意見が持てない、戦略が立てられない、意思決定の場面で悩んでしまう。

橋本 おっしゃる通りです。ほとんどの大学で、産学連携の体制とか人材配置は、まず「予算ありき」で進められてきて、そこに人を当てはめるというスタイルが、諸悪の根源になっているという気がします。形ばかりが優先されて、どういうコンセプトを盛り込むか、どういう経営方針を打ち出すかという議論が無いままにきている。コーディネータにしても、「予算が付いて、人事の枠ができたから、たまたまその辺にいる人を採りました」としか見られないようなケースがあまりにも多いです。

野口 大学のマネジメントセクションにいる人間としては、ドーナツ化現象は何としても回避しなければなりません。それには、やはり真ん中のコアとなる人材は、大学の専任職員が中心でなければならないと思っています。大学本体の考えがしっかりしていなければ、コーディネータも成長していけません。

 立命館の「理工リサーチオフィス」というのは、理工学部に付いているような形ですか。

野口 いえ、本部の研究部に付いています。理工学部からはあえて切り離しています。理工学部に付いてしまうと、逆にマネジメントのイニシアチブが取れないからです。やはり「大学はこういう戦略でやるんだ」という本部の意思を背負ってマネジメントする姿勢が大事だと考えています。

また、コーディネータが大学内に分散せず、リサーチオフィスに一極集中しているので、隣が何をやっているか見えますし、横のコラボレートもできます。コーディネータの競争意識とかモチベーションを高める上でもいいです。

 戦略的ですね。

野口 立命館の強みは、徹底した「ワンストップサービス」です。ほとんどの大学では、知財本部、COE、奨学寄附金、科研費、ベンチャー支援など取り扱うミッションによって、マネジメントがすべて縦割りで分かれてしまっていますが、われわれは、リサーチオフィスですべてハンドリングしています。すべての研究・産学連携業務を一元化したのが3年前で、さらに昨年度からは、一人ひとりのコーディネータが、個人のレベルでワンストップサービスを行えるような体制を整えています。

ワンストップ化は、一方では研究者の研究高度化支援の向上を、もう一方では企業の顧客満足度の向上を狙った戦略です。大切なのは、企業のニーズに合わせていくのではなく、一人ひとりの先生を本当に深く知った上で、こちらから戦略的にアクションを起こすということです。企業に行ったときに、受託研究、共同研究が駄目なら、知財はどうですか、公募事業プロジェクトを組みましょうか、産学連携ラボを設置しませんかと、次々と提案していけることが、高い成果につながっています。

現在、理工リサーチオフィス全体で105名のスタッフを抱えていて、そのうち24名がコーディネータの職務に就いています。われわれはコーディネータではなくて、「テクノプロデューサー」と呼んでいます。このテクノプロデューサーの育成と活用が最大の課題です。

 1人の中にパッケージ化されていろんなことを知っている人を育てるというのは、すごく大事だと思いますね。

野口 今、本当に大学にとって大変な時代ですが、非常にチャンスの時代でもあるかなと思っています。一言で言えば、産学連携の内容が多様化してきています。最近では企業の方から「××先生の技術で、こういうビジネスを展開したいんだけれど、ユーザー企業を探してくれないか」という話も出てくる。ビジネス・インキュベーションまで含めて、大学に協力を求めてきているわけです。

大学の研究そのものも多様化してきているし、企業のニーズも多様化してきている中で、コーディネータに求められるスキルも多様になってきています。産学連携のマネジメントそのものが、非常に大変になってきているということを痛感しています。

 多様化というのが、確かに一つのキーポイントでしょうね。これまでの産学連携は、制度や補助金の枠組みが先にあって、それにみんなが合わせていく形で進んできた。しかしこれからは、立命館はこうだ、東大の先端科学技術研究センター(以下、先端研)はこうだと、自分たちのアドバンテージを最大限に打ち出すという形でやっていくのでないと駄目ですね。

マネジメントの主導権を握るのは「本部」か「部局」か
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澤 昭裕:通産省・工業技術院人事課長とし
     て、工業技術院の産業技術総合研究所への
     組織統合を担当し、経済産業研究所(RIETI)
     では研究調整ディレクター、上席客員研究員
     等を務めるなど、研究マネジメントや大学経営
     に造詣が深い。主な編著書に「大学改革 課題
     と争点」、民意活力」。

 大学というのは、企業や役所の縦型の組織と違って、もともと横型の組織なんです。縦型組織のやり方に慣れた人が突然大学に来てコーディネートなんかしようと思ったら、よほど意識して「ここは横型組織なんだ」と自分に言い聞かせていないと、絶対に理解できないし、動かない。だからこそコーディネータは、外部に対して「大学というのはこういう論理とこういう仕組みで動くものだ」というのを理解させなければいけないし、一方で大学内部に対しては「縦型組織というのはこういうもので」と教育しないといけない。両方の組織が分かっている人でないと、大学内部のコーディネータの役目は果たせないはずなんです。

橋本 お二人の話を聞いていて、日本の大学がみんな経営をここまで分かっていてくれればなあ、と……(笑)。

私の会社には、企業や大学の先生からいろんな相談が来るのですが、実はその大半が、「大学のリエゾンオフィスとか産学連携本部が機能していないので、何とかしてくれないか」というたぐいのものです。先日もある大学の先生とお会いしたら、面白い技術を持っておられるのに、3年ほど前に書かれた特許が完全に野ざらしになっている。ある会社との共同出願で、その会社は特許を実施するつもりはないのに、ライバルメーカーに使わせないためだけに特許をキープしているようなので、大学の知財本部の担当者に、「共同出願企業に交渉して、自由にライセンスできるようにしてみたらどうですか」と言ってみた。すると、以前はメーカーで特許室にいたという担当者が、「えっ、そんなことできるんですか」と……。この返事にはさすがにあきれてしまいました。ビジネスプランのアウトラインも非常に面白くて、大手メーカーに何社か声を掛けてみたら、すぐに駆けつけてきたほどなのに、実にもったいないことです。

他にも、「展示会に出展したいけれど、大学側が予算を握っていて、お金も人も出してくれない、何とかしてくれ」という先生がいて、もう何日もない中で、関係企業を回っていろんな名目で数十万円ずつ集めて、ようやく形にして出展しました。わが社の利益は、企業から集めた協賛金からのマージンですが、最終的には持ち出しで赤字でした。実は、私のところでは、大学の仕事をしていながら、大学本部からお金をもらったケースというのは、ほとんど皆無です。企業の仕事もたくさんやっていますから、大学相手に儲けようという気もないんですが……。

●その辺りがまさに、「ドーナツ化現象」による大学の意思決定の硬直化がもたらす弊害ということですね。

橋本 深刻だと思います。たくさん外部資金を取ってきても、間接経費を自分たちのために効率的に使うことができない……。

野口 大学が回避しなければならない問題の一つです。われわれは、間接経費の効率活用も、研究マネジメントの重要テーマに据えています。

橋本 結局、大学を見ていて一番問題だと思うのは、「経営」が無いことです。経営戦略が無ければ、コーディネータも動きようがないです。やはり大学には、「経営と研究の分離」が必要ではないでしょうか。これはたぶん、澤先生には「そんなのはあと30年、40年は無理だよ。われわれの時代では無理だよ」と言われるでしょうが……。

 それはほとんど無理ですね。大学全体の大枠の組織を縦型にしようとしたのが独立行政法人化で、これ以上には進まないでしょう。改革で持ち込まれたフォーマルな制度と、実態としての横型のインフォーマルな機能との間で摩擦が生じているのが、今の大学だと思います。「大学に経営がない」というのは、当たり前といえば当たり前。「経営してはいけない」という時代が百何十年続いてきたので、突然、独立行政法人化だといわれても、そんな一朝一夕にはできないわけです。

本来、大学の組織というのはどうしても部局が中心なんです。伝統的な研究者コミュニティが強い大学は、立命館のような徹底した一極集中がそう簡単にはできない。むしろ部局に産学連携のコーディネータを配属して、現場に近くしたほうが、情報も握れるし、機動的に動ける。部局ごとのマネジメントの方が効率的です。

●産学連携のマネジメントは、「本部型」か「現場型」か、どちらかに軸足をきちっと置くべきだということですね。

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野口 義文:大手金融機関に勤務の後、母
     校である立命館大学へ。産学連携の戦略
     拠点キャンパスとして位置付けられるびわ
     こ・くさつキャンパスにおいて、先進的な大
     学の産学連携マネジメントにかかわってきた。
     現在、100名を超える理工リサーチオフィス
     を率いる。

野口 大学経営の切実さというか、置かれた条件の違いによっても違ってくると思います。研究者の数でいくと、東大の理工学系の教員数は2,000名以上いますよね。立命館は250~300人で、8倍の差がある。これに対して、立命館の学生数は4万名弱と、日大、東海大、早稲田に次いで多い。東大は2万8,000名くらいですか。教員数に対して学生数が多く、圧倒的に教育負荷が掛かるわけです。旧帝大クラスのように、肥沃(ひよく)な研究ポテンシャルを前提とした大学の戦略は、そもそも打てない。

となると、われわれが取れる戦略は、いかに研究支援活動を高度化するかという一点にかかってきます。テクノプロデューサーが研究者一人ひとりをきちっと把握して、研究者のパートナーとして、一人ひとりに丁寧なサクセスストーリーをつくっていくことがとても重要になります。

中長期的な研究戦略を産学連携で創り上げる

●澤さんは「現場」に張り付いて、先端研のマネジメントを担当しておられるわけですが、今後の課題をどのようにとらえられていますか。

 先端研は、東大の中でも伝統的なやり方とは違ったマネジメントのモデルを先駆けてきました。ここにきて、産学連携も曲がり角にきていると感じており、先端研らしい研究マネジメントのモデルについて、あらためて見直そうというところに取り組んでいます。

一時期は、「産学連携やれるならどんどんやれ」という論調もありましたが、大学の強みは言うまでもなく企業とは違うし、企業と同じベースで仕事をしていると、本来の知的資源が枯れてしまう。産学連携による研究に従事する教員の資金割合は東大全体で15%程度あれば十分だろうと思います。先端研では、実際にはもっと割合は高いわけですが、そういう考え方でモデルを再構築しています。

その一つとして、先端研と企業の組織連携の在り方を模索しています。いろいろ調査してみると、大学の知財に対する企業の評価は、大学側が期待しているよりも圧倒的に低い。むしろ企業が評価しているのは、大学の先生との間のディスカッションによる知の交流です。最新の研究はどこまで進んでいるのか、だれがどこでどういう質の研究をやっているのか、将来の研究や技術の方向はどうなっていくのかを議論し合えることが、非常に高く評価されています。

●マッチングではなくて、ディスカッションですか。それは従来の技術移転とはかなり違った産学連携モデルですね。

 企業の最大の悩みは、基礎研究の能力、中長期的な研究能力に欠けていることです。事業化にリソースを割かざるを得ない企業では、研究者は一つ仕事が終わると、次にまた何かという形で目先のテーマに取り組んでいます。その結果、体系立った研究能力が根付かない。よく社長の年頭所感で、「わが社の10年後は君たちにかかっている」などと言いますが、そういう研究をさせているわけでもなければ、そこにモチベーションを与えているわけでもない。目先のことを放っておいて、10年後のことなんかやっている研究者は、今どきの成果主義では評価されません。

ところが最近、「10年後どうするか」ということが企業の重要課題として急浮上していて、研究をマネジメントしている人たちは、ものすごく悩まれている。ところが社内にはその知識が不足している。そこで、企業における研究の将来を考えるにあたって、大学が問題解決や戦略立案のために協力できるのではないか。大学のトップレベルの研究者のところには、やはりむちゃくちゃ情報が集まるわけで、その情報自体が価値を持っているわけです。

10年先の話についてディスカッションするということは、大学の研究者にとっては、まさに今の自分の関心に基づく話になります。企業とのディスカッションを通して、大学にはない情報も入ってきて、新たな気付きが得られる部分も大いにある。企業にも大学にも、お互いにメリットがあります。そこで肝心なのは、そういうニーズを切実に感じている企業とだけ連携するということです。個別の共同研究については、お互いの関心が合えばどんどんやっていいけれども、組織として進める産学連携というのは、強い意欲を持っている企業にのみ特化するということです。

こういうモデルでは、シーズをマッチングしていく、事業化していくタイプのコーディネータよりも、むしろ企業と大学という異文化間の通訳を果たす、インタープリタ的なコーディネータが重要ではないかと思っています。もちろん、あくまで先端研のモデルとしての話です。

「技術が分かる」ことがかえって邪魔になる
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橋本 昌隆:以前は技術系人材派遣会社
     に勤務し、事業企画と人材派遣を組み合
     わせた提案コンサルティング型の新規事
     業を起こす。事業拡大に伴い、独立起業。
     現在、NEDOフェローなどを社員に抱え、
     産学連携や技術移転関連のソリューショ
     ン事業、人材派遣や人材育成事業を展開
     する。

 立命館の戦略で、先端研とも共通するなと思うのは、「先生側に付く」という発想です。今までコーディネータというと、企業の人を大学に入れればいいと考えていたところが多いような気がします。コーディネータの中には、企業の論理を大学の中で振り回して、「こんなアイデアでは企業は乗りませんよ」といった言い方で、教員を叱りつけてしまう人、「あなたはどっちの味方ですか」と言いたくなるような人が結構いると聞きます。

橋本 ある大学の知財担当者に、決して自分からは研究室へ行かないという人がいるそうです。先生方がその人を訪ねて「これ特許になりませんか」と相談すると、「企業ではこんなの必要ありませんよ」とか、難癖ばかりつけるので、先生はみんな怒って帰るという……。

野口 私も似たようなケースを他で目にしたことがあります。例えば、ある論文発表会で、学生の発表に対して、担当教員を差し置いて、あれこれ否定的な意見を言ってみせる人とか、コーディネータとしての立場を完全にはき違えていますね。

 私は経験上、むしろ「技術が分からないコーディネータのほうがいい」と思っているところがあります。自分なりの技術の見方を持っていることが、かえって仕事の邪魔になるケースが相当ある。すべてとは言わないけれども、コーディネータの一つのカテゴリーとして、「技術が分からないコーディネータ」が必要なケースが少なからずあると思います。

テクノロジー・プッシュでマッチングを追求するタイプの人は今後も存在するだろうけれど、それ以外に、先ほど言ったインタープリタ的な資質を持った人や、ビジネス・インキュベーション的なことまでやれる人など、多様なタイプが必要です。

野口 われわれのところも、議員の秘書をやっていたとか、スノーボードの全国選手権出場者とか、元銀行員もいます。科学技術のキャリアとか、博士号がどうしたとかは、ほとんど関係ない。大切なのは、この仕事に対するモチベーションです。

その上で、第1にコミュニケーション能力と対面影響力、第2に現場の対話の中での問題分析能力、そして第3に、私が一番大事だと思うのは感受性です。「これおいしい」「これきれい」とか、そういう純粋な感受性でもって、「先生、この研究面白い」と言えるかどうか、相手の立場になって話せるか、そういう感受性がとても大事です。近ごろの人間ってパサパサしていて、感受性がドライな人が多い。そうじゃなくて、感受性に敏感なやつが欲しいんです。組織で一緒に働きたいなと思わせるのは、そういう感受性を持った人じゃないかなと、そんなふうに思っています。研究者には気持ちよく頑張ってほしいですから、それができなかったら、いくらスキルを持っていてもだめです。

 立命館では、1人のコーディネータがだいたい何人の教員を担当するというイメージですか。

野口 多くても20名弱です。

 先端研は、私とあと1人で担当しています。教員が20数人、特任教員を合わせると50人。教員数からみると負荷的には同じくらいでしょうか。ぎりぎり何とかやれているという感じです。内部のコーディネータはもうこれ以上要らないと思っています。先端研には、積極的な先生が多いですからね。むしろ、産学連携をやり過ぎないように、気をつけているくらいで……(笑)。

ナショナルプロジェクトを組成できる人材が地域には必要

 コーディネータのもう1つ別の役割として、ナショナルプロジェクトを編み上げていけるようなタイプの人がいなければならないでしょう。特に、地域にこのたぐいの人間がいないと駄目です。現在のコーディネータには、基本的な助成金の仕組みさえ知らない人が多い。ナショナルプロジェクトを実現させる上では、プロジェクトの中身もさることながら、細かな段取りを付けていくことがすごく大事です。誰に最初に話がいけばいいのか、キーパーソンは誰なのかといったことが分かる人が必要です。

このタイプのコーディネータは、マッチングだとか企業に行くこととかにそれほど時間を割かないで、ナショナルプロジェクトに集中して、常に情報収集や人脈づくりに走り回っていたほうがいい。

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聞き手・本文構成:田柳 恵美子(サイエンス
     &リサーチコミュニケーションスペシャリスト/
     本誌編集委員)

●地域ではその辺りの人材戦略がこれからの鍵になるのでしょうね。

 地域のコーディネータがそういうノウハウをまったく知らない人ばかりだとすると、それはまずいでしょうね。

橋本 私のところでも、国のファンディング・エージェンシー絡みの仕事がすごく増えています。一方では、大学の先生に頼まれて、ファンドを取りに行くわけですが、さらにその一方で、ファンドの側でも常に新鮮な情報を求めていて、「こんなプロジェクトを組んでみたいんだけれども、誰かいい先生がどこかにいないか」みたいな話を相談されます。

こんなところにまで踏み込んでいくとは自分自身思っていなかったのですが、海外の事例なんかを調べてみると、民間に私のような役割を担って動いている人、さらには権限や予算まで持って動いている人が、結構いるんですね。

 しかし実際問題として、橋本さんのように商社的な役割で手数料を取ろうとしても、社会的な評価のシステムが形成されていないから、ナショナルプロジェクトの経費からそのための予算を出すのは難しいですね。それは付随的なサービスとして割り切って、別の仕事で儲けるとかしないといけないでしょう。

橋本 おっしゃるとおり、個別のファンドの予算から、プロジェクトを組成するための段取りそのものでコミッションを取るのは難しいです。

現場に「プロ」を育てる仕組みが必要

橋本 一般的にコーディネータというのは、若手がほとんどいませんよね。立命館は若手が非常に多いですが……。

野口 そうですね。うちは、できるだけ20代、30代の若手を採用するようにしています。40歳を過ぎたら人間なかなか変わらないですからね。50歳過ぎても本当に優秀な人は採りますが、よく冗談でも言うのですが、面談で「何をされていたんですか?」と聞いて、「部長をしていました」という答えを平然と返してくるような人では、まったく話になりません。部分的なマッチングだけやっているならいいのかもしれませんが、うちでは戦力になりません。

 一つの企業の中でだけ20年、30年やってきて他の世界を知らない経歴の人を、大学のコーディネータとして採用するというのは、おっしゃるような注意が必要ですね。

橋本 実態を見れば、そんな人ばかりですが……。

野口 やはり今のコーディネータと言われる方々には、研究推進のプロ、産学官連携のプロとしての「プロ意識」が弱いのではないでしょうか。われわれも変えなければならないと思っているのですが、任期が3年なら3年間、固定された給与が支給されるところから間違っているような気がします。プロ野球の選手やサッカーの選手は1年終わったら「自分はこれだけチームに貢献したのだから、これだけくれ」と年俸交渉しますよね。それがプロでしょう。本音を言えば、そのような交渉の場を設けることができるような仕組みを構築できればと考えています。

プロを育てるには、やはり体系立った人材育成システムが必要です。われわれは、立命館の独自な人材育成モデルを創りたいと考えています。

例えば、最近、おおさかナレッジ・フロンティア推進機構等と連携して「研究を事業化するプロデューサー養成講座」という事業を展開しました。ある実証講義では、受講生は実際に立命館に来て、われわれリサーチオフィスのスタッフがサポートしながら、それぞれ教員に付いて研究シーズのヒアリングをやってみて、ビジネスモデル提案などの成果発表までします。このようなプログラムは非常に成功しています。

また、「インストラクター・ボード制度」というのを設けて、24名のテクノプロデューサーのうち、私も含め数名をインストラクター・ボードに指名して、現場のOJTなどの先導的な役割を担わせたりしています。このほかにも、モチベーションを上げるためのさまざまな仕組み、評価の制度などを採り入れています。

私は「グリップマネジメント」と呼んでいますが、ポイント、ポイントで、きちんとグリップを握って判断して業務を遂行していける人材を創っていかないといけない。テクノプロデューサーの中でも、リーダー的な役割を果たせる人材の育成が課題です。

競争の中でコーディネータの多様性と質を高める

●コーディネータの評価のシステムはどのようにされているのですか。

野口 今、コーディネータの評価システムを、研究支援の一連のPlan-Do-Check-Actionのサイクルに組み込もうとしています。つまり研究室の研究計画、外部資金導入計画の立案から始まって、シーズや知的財産のマネジメント、個別プロジェクトの申請、運営、経費の執行管理を含めて、トータルに支援・推進・管理を行って、さらには研究成果の公表や社会での活用を推進していくところまでの一連のサイクルをどう回しているかで、評価しようとしています。このサイクルがしっかり回せて、実績が出せて、初めて「テクノプロデューサー」と言えると思うんです。

優秀な人材には、ぜひテニュアトラックの道を開いていってあげたいと思っています。もちろん、雇用安定にあぐらをかいてしまうような人間では困るわけで、ヘッドハンティングされるくらいの実力と気概を持ったプロになってほしい。

 コーディネータの免許制なんてことを言い出したら、末期症状でしょうね。免許制とか承認制というのは、能力を一律平均的なものにしたいときにはいいけれど、人材に多様性が必要とされるときには百害あって一利なしです。野口さんが言われるように、「どこからでもスカウトに来る」くらいの評判がクチコミで立つくらいのコーディネータを輩出するとか、あるいは「立命館のリサーチオフィス」というブランドが保証書になるとか、最先端の現場でそこを目指すのがまず先でしょう。どういうトレーニングシステムを創って、どういうコーディネータのあるべき姿を実現すれば、ブランド価値が上がるのかを競争することが大事です。

●競争の中で、多様性を担保しつつ、質も上げていくということですね。

橋本 そこの仕掛けに、そろそろ大学が本腰を入れないとまずいです。

 産学連携をやらなくなる大学、やれなくなる大学は、これから増えてくる。そんな中で、ただ漫然とコーディネータを増やしても、あとで人が余ってくるでしょう。

野口 コーディネータは、大学のことをもっと理解しないと駄目だと思います。それなしに、いきなり企業に出掛けていって、「産学連携どうですか」というのはナンセンスでしょう。まず「うちの大学はこういう大学で、産学連携はこういう方向で考えていて、その中で私どものオフィスの役割はこうで、企業とはこういう成果をともに導き出したい」というストーリーを語れなければだめでしょう。

●それだけの責任と権限を持って、コーディネータは仕事に取り組まなければならないということなのでしょう。長時間ありがとうございました。

寄稿:コーディネータの責任と権限
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齋藤 省吾 Profile
(さいとう・しょうご)

元 福岡県RSP事業
科学技術コーディネータ/
九州大学 名誉教授


「コーディネータの責任と権限」という硬い題名をいただいたが、ここではコーディネータの「なすべきこと」と「できないこと」と解釈して、これまでの経験を基に日ごろ考えていることを述べたい。経験とは、初期のRSPコーディネータ、その後のRSP代表コーディネータ、科学技術振興機構(JST)支援による新産業創出のための人材育成研修講師、国の支援によるいくつかのプロジェクトにかかわる委員としての活動経験である。

大学からの技術移転とコーディネータ

コーディネータの使命は、大学の知である研究成果を企業に移転し、企業から成果使用料として獲得した果実を新たな知の創造に還元するという、知的循環サイクル形成をリードすることにある、と考えられる。このような技術移転に関する大学の基本理念はコーディネータ活動の原点であり、規範である。技術移転の先進国である米国の大学に共通する基本理念は、以下の5項目にまとめられる。

1. 公共のために役に立つ発明を製品化する
2. 経済の発展に貢献する
3. 教員や学生の昇進、身分確保、就職に貢献する
4. 工業界との間に新しい交流関係を作り出す
5. 大学、TLO、教員等の収入増加を図る

わが国の大学の場合はどうであろうか? 筆者は、上記の基本理念を適用する場合、1~4の各項目に地域の2文字を加えたい。できれば、地域イノベーションに結び付くという言葉を加えて技術移転活動に参加したい。

コーディネータ業務の基本姿勢

JSTの新産業創成のための人材育成研修プログラムを作るため、筆者らは技術移転に関する先進機関を訪問して討議を行った。この際米国から学んだことは、

1. コーディネータは技術移転の最初から終わりまで(from cradle to grave;揺りかごから墓場まで)責任を持って面倒をみる
2. この作業はグループで実施する(team approach)

ことである。筆者の経験によれば、技術移転成功例のほとんどは、たとえ中間の支援制度が変わっても、1および2の姿勢を貫いたものである。

コーディネータの業務とは

大学の研究成果の収集から始まり、企業との共同研究あるいは国等の産学官連携プロジェクトを経由して、製品化の関門と事業化の関門を突破するまでに果たすべきコーディネータの業務は多岐にわたる。

米国ではコーディネータという呼び名は使われず、Licensing AssociateあるいはTechnology Managerという呼び名が使われる。大学からの技術移転の成功例が多い米国に倣えば、多岐にわたる業務のごく一部を扱う専門家はコーディネータと呼ぶべきではないであろう。コーディネータはあくまでもfrom cradle to graveに徹すべきである。わが国の制度では、ここにコーディネータの責任と権限の問題が発生する。

表1 いろいろなコーディネータ(CD)とその
     主な業務

表1



表2 大学からの技術移転プロセスに対す
     るコーディネータの貢献

表2

わが国のいろいろな呼び名のコーディネータあるいはそれに類する人たちの業務を概観すると表1のようになる。

この表は、筆者が研修等の機会を利用して多くのコーディネータと討議を重ねた結果を参考に作ったものである。多くの役職についての定義付けや契約条項について、あいまい性がある(融通が利く?)日本では、表1の枠の中に万人が認めるマークを記入することは難しい。

このような困難性は、大学の知を企業に移転するプロセス(新産業創出のための人材育成研修で取り上げて議論するプロセス)の中の具体的作業におけるコーディネータの寄与を示す表2の枠を埋める時にも同じように体験する。

表1および表2を眺めれば、いろいろなコーディネータ制度がこれまでに実施されてきたが、以下のような傾向が読み取れる。

1. 川上(early stage)から川下(事業化)までの広い範囲にわたって活動の自由度が与えられたのは、地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)にかかわるコーディネータ(あるいは、自治体当局の合意を得た一部)である。
2. 都道府県雇用による産学官コーディネータの多くは、RSP事業採択時に国との約束で作られたものであり、RSP事業コーディネータに準ずる役割を演ずるものである。
3. その他のコーディネータの多くは、研究成果活用プラザおよびサテライトのコーディネータの一部を除き、その活動範囲はかなり制限されている。

コーディネータと所属機関の連携関係

コーディネータ制度が新しくなるにつれて活動範囲が狭められてくるのは皮肉な結果である。制度が新しいほど、コーディネータの責任が市場開拓、製品化、事業化に重点が移ってくるのは当然としても、研究成果の収集や評価に関与する機会が減少するのは好ましくない。

この状況をもたらした原因の一つは、所属機関のコーディネータに対する認識の問題にある。極端な例は、文部科学省が人材派遣会社を経由して大学に派遣した産学官連携コーディネータのケースに認められる。大学は、人事管理上の見方から、彼らを大学人と見なさなかったようである。一部の大学では彼らに大学教員の研究成果(論文)を技術的に理解する仕事のみを与えたので、その成果が後に選択された経過を知らず、また教員に対する研究費(成果の検証や熟成に使う)を持たない彼らは仕事に窮した。

上記の例は極端としても、新しい制度におけるコーディネータは、所属機関の一人前の職員として処遇されているか疑わしい。研究成果の選別プロセスに参加しなければ、コーディネータは与えられた仕事の一部を処理することしかできない。

コーディネータは力ずくで働く

コーディネータが所属機関との連携で苦労した例は、初期のRSP事業時代にも数多く認められた。所属機関との連携が成功して国の支援プロジェクトに内定していながら、親機関である県行政の妨害(県推薦課題の評価が低かった)で内定を取り消されたこともある。この場合、筆者は提案課題が優れていることを他の制度に強く訴え、より大きな支援プロジェクトを獲得したこともある。

このような努力は筆者が所属していた機関を動かした。2期にわたるRSP事業の締めくくり講演会で、所属機関は、公開できる優れた技術シーズに関するデータベースと非公開の研究者データベースを保有していることを公表した。後者が非公開である理由は、そのデータベースに研究者のネガティブ・データが含まれているからである。研究者の個人データとは、欧米の技術移転先進機関が研究開発課題の選別(Triage)で最重要視する発明者のプロフィール(Inventor’s Profile)のことである。ここでは、発明者の人間性や信頼性を含むこれまでの経験が重要視される。JSTの新産業創出のための人材育成研修を受講したコーディネータの共感を呼ぶのは、Inventor’s Profileの重要性である。

コーディネータの権限を向上させる即効薬はない。権限向上に有効なのはコーディネータの任期の長期化あるいは定員化であるが、その実現は容易なことではない。コーディネータは、発明者のプロフィールに共感、納得したならば、Triageの他の3項目(発明の技術的な強み、知財保護の進み方、製品化の可能性)を参考にしながら、障害を突破するのみである。個人と個人の関係を大切にすれば、機関の間の障害を低くすることができる。

コーディネータの喜び

コーディネータが喜びを感ずるまでには時間がかかる。苦闘を経て筆者が感じている喜びは、

技術移転に成功し、事業化に到達した
コーディネータ仲間から社長が生まれた
コーディネータ仲間が企業に就職した
コーディネータや人材研修講師が縁で、先進諸外国に友人が生まれ、ネットワークができた
コーディネータが縁で、教え子から先進諸外国の教授や研究者が生まれた
地域行政機関や公設試に多くの友人ができた
大学等の研究者でありながら、技術移転による社会貢献の理解者が増えてきた

等である。



図1 コーディネーションの成功モデル

公的機関の研究者の見事な社会貢献活動事例を紹介する。大阪府立成人病センターのある優れた癌研究者は、大阪府がアスベストに起因する悪性中皮腫発症のワースト・ワン地域であることを動機として、世界に類を見ない独自の治療法の開発に取り組んでいる。その結果、現在治験寸前の段階にまで到達している見事な成果がNHKを含む多くのメディアで報道された。筆者が強調したいのは、研究開発チームの構成の見事さである。ここでは、この研究者あるいはこの機関以外の研究者では考えられないという研究者で構成された日本最強チームが編成されている(大阪府立病院-東京大学-熊本の化学及血清療法研究所)。ここには、地域の殻も大学の殻もない。互いに補完関係にあり、ポテンシャルが非常に高いチームが構成できれば、極端であるがコーディネータは不要である。

コーディネータのビジネスモデル

筆者の目利き人材研修講師で得つつある財産は、研究者・コーディネータ・地域行政関係機関で構成される緩いネットワークである。大学あるいは地域の壁の代わりに大学間連携、地域連携、大学と地域の連携、さらには行政間連携を進めることが第3期科学技術基本計画の柱であるイノベーションを実現するために欠くことができないであろう。

コーディネータは、所属機関との長期契約の成立を待つのでなく、自分が惚れ込んだ技術シーズを起点に、図1に示すコーディネーションの成功モデルに沿って働くことに喜びを見いだしたい。

最後に:コーディネータ機能

コーディネータに必要な働きは、

1. シーズの正確な選別
2. 技術開発計画の策定と開発資金の獲得
3. プロジェクト進行中の開発業務間の調整
4. プロジェクト成果の正確な評価と分析
5. ビジネスモデルの作成
6. 事業化支援のためのフォロー・アップ

である。