2007年5月号
連載4  - ヒューマンネットワークのつくり方
「大学発ベンチャー支援」をキーワードとした地域におけるヒューマンネットワークづくり
顔写真

坂本 剛 Profile
(さかもと・つよし)

九州大学 知的財産本部
起業支援部門 部門長、
特任助教授

大学発ベンチャーが成功し、地域で新しい産業を創りだしていくためには支援者の連携が不可欠。九州地区の活動を通じて今後を展望する。

はじめに

経済産業省が実施した平成17年度「大学発ベンチャーに関する基礎調査」によると、平成17年度末時点で、全国の大学発ベンチャー数は1,503社にのぼる。そのうち福岡地区(福岡県)の大学発ベンチャー数は89社であり、九州地区全体の約6割を占める。この数字は、大学発ベンチャーの所在する都道府県ランキングで5位に位置し、全国的に見ても多い方だといえよう(表1)。

一方で、設立後の大学発ベンチャーが成長・発展し、本来の役目である「新しい事業や産業の創出」 を実現していくためには、

経営人材の確保
資金調達
販路拡大

表1 大学発ベンチャーの所在する都道府県別
     トップ10(累積ベース)
     (出所:株式会社価値総合研究所 平成17年度
     「大学発ベンチャーに関する基礎調査」実施報
     告書より)

表1

等さまざまな課題があることが明らかになっている。

これらの課題を克服するためには、大学発ベンチャーの周りに支援者のネットワークを形成し、そのネットワークを基礎としたコミュニティが一体となって大学発ベンチャーを支援していくことが望ましい。

そのような状況において、筆者が所属する九州大学では、数年前から知的財産本部が中心となり、福岡地区に「九州大学を中核とするアントレプレナーシップ・コミュニティ」の形成を目的として、「大学発ベンチャー支援者のネットワークづくり」に取り組んでいる。

その活動は、経済産業省「広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業【大学発ベンチャー型】」(以下、大学発ベンチャー支援者ネットワーク事業)に平成17年度、18年度と採択されており、起業家人材の育成を担う学内組織であるVBL(ベンチャービジネスラボラトリー)をはじめ、ベンチャー支援機関、公認会計士や弁護士、金融機関、ベンチャーキャピタル、大学発ベンチャー経営者、中小企業経営者、ベンチャー企業経営者等と連携しながら進めている。

知的財産本部は、このコミュニティを構成するメンバーに対し、経営人材・支援人材として必要な経営知識を習得する機会や、ネットワーキングの場を提供するとともに、ビジネスプランの発表およびディスカッションの機会と場を設けるなどして、福岡地区における「大学発ベンチャー支援者のネットワークづくり」 を行っている。「アジアラウンドテーブル」や「綾水会」がそれにあたる。

本稿では、その活動の中核事業のひとつである「綾水会」について紹介し、その活動の実績や活動を通じて感じたヒューマンネットワークの重要性および今後について述べる。

綾水会(あやみずかい)とは

知的財産本部が起業支援部門のアドバイザーとして招聘(しょうへい)している綾尾氏は、ベンチャー支援NPOである日本MITエンタープライズ・フォーラム(MIT-EFJ)の理事であり、数年前から地域のベンチャー支援機関である「ふくおかアイストベンチャーサポートセンター」 のベンチャービジネスコーディネーターとしても、地域のベンチャー成長の支援を行っている。

その支援先であるベンチャー企業や有望な大学発ベンチャーを、地域密着型ベンチャーキャピタルである九州ベンチャーパートナーズ(KVP)の水口社長に紹介することを目的として、綾尾氏はじめベンチャー企業経営者、支援者や大学関係者等が集まり、食事をしながら自由に交流する会が発足した。これが「綾水会」の始まりである(ちなみに綾水会の「綾」は綾尾理事の綾、「水」 は水口社長の水である)。

図1

図1 綾水会の構成スキーム

その後、交流のみならず、ベンチャー企業のプレゼンテーションおよびディスカッションを行うようになった。さらに知的財産本部のネットワークを活用し、九州大学をはじめとする大学発ベンチャーや大学の技術シーズを事業化するチームのプレゼンテーション、およびそれに対する評価やディスカッション、アドバイスを行う現在のスタイルとなった**1図1)。

「綾水会」という名称により、時々会合の趣旨を勘違いされることがあったが、現在では、福岡地区における唯一の大学発ベンチャー支援者のネットワークとして認知されるようになった。

筆者は、プレゼンテーション企業の発掘や開催告知、メーリングリストの管理等、運営全般を担当している。

毎月第2火曜日を定例とし開催しているが、開始当初は、プレゼンテーションを行う大学発ベンチャー企業を探すのさえ苦労した。大学発ベンチャー数が全国的に多いといわれている福岡でも難しいものなのである。そのため、告知が遅れ、参加者も10数名しか集まらないという時期があった。何度も開催を延期、スキップしたいと思ったことがあった。

しかし、「継続は力なり」という言葉を信じ、何とか一度も欠かすことなく現在に至るまで毎月1回の開催を継続している。既に3年が過ぎているので、約40回連続の毎月開催である。

現在、綾水会のメーリングリストには約120名が登録している。そのうち毎回30~40名が参加するようになった。また、綾水会でのプレゼンテーションを希望する大学発ベンチャー、事業化案件も徐々に増えてきている。

綾水会のヒューマンネットワークおよび実績

これらの活動を継続するうちに、参加者同士の出会い・交流により、具体的な支援事例や大学発ベンチャー創出の事例および産学連携の実績が生まれている。

綾水会の支援者メンバーには多数の金融機関関係者がいるが、その一つである国民生活金融公庫(こくきん創業支援センター)と大学発ベンチャーや地元ベンチャー企業の経営者との間でヒューマンネットワークが生まれ、これまでに5件を超える資金調達(無担保融資)が行われている。

写真1

写真1「第6回ビジネスプランコンテスト・イン・ジャ
     パン」表彰式の模様

平成18年4月~6月には、経済産業省「大学発ベンチャー支援者ネットワーク事業」の一環として、綾水会の支援者メンバーをメンターとするビジネスプラン作成セミナーを開催した。そのセミナーに参加した8チームのうち九州大学の事業化チームが、MIT-EFJが主催し知的財産本部が後援する「第6回ビジネスプランコンテスト・イン・ジャパン」で最優秀賞を獲得した(写真1)。

その後、大学発ベンチャーとして起業を検討するにあたり経営人材を探していたところ、綾水会を通して知り合ったQBS(九大ビジネススクール)の社会人学生を経営者として迎え入れ、同年10月に九大発ベンチャー「株式会社ユーテラス」を立ち上げた。

また、綾水会に参加している地元ベンチャー企業や、KVPの支援企業から技術相談を知的財産本部が受け、工学研究院の教員を紹介し、共同研究に至った事例もある。

地域におけるヒューマンネットワークづくりの鍵

これらの活動、いわゆる「大学発ベンチャー支援者のネットワークづくり」を行う中で、一つ気付いたことがある。現在のわれわれのネットワークにおいてキーマンのほとんどが、実は九州大学の卒業生なのである。福岡地区では当たり前といわれればそれまでだが、今までそのような切り口で考えたことはなかった。しかし、今後さらに九州大学を中核とするアントレプレナーシップ・コミュニティ形成を推進していくためには、ヒューマンネットワークの深化が重要であり、その鍵となるのが「九州大学の卒業生をいかに有機的に組織化するか」ではないかと考えている。

米国の事例を見てみると、MIT(マサチューセッツ工科大学)では、VMS(Venture Mentoring Service)という組織があり、ボストン地域に居住するMITの卒業生が中心となり、MIT発のベンチャーを支援している**2

当然ながら九州大学には同窓会組織が存在する。しかし、部局別、地域別等での組織構成になっており、その数も膨大である。われわれが求めているのは、「大学発ベンチャー支援」 という切り口での組織化である。

九州大学の卒業生のほとんどが関東、関西に就職する中、福岡地区においてわれわれの活動に参加・協力していただいている九州大学卒業生を核として「大学発ベンチャー支援組織」 を形成し、さらなるヒューマンネットワークの深化が図れないかと考えており、今年度中に具体的な取り組みを開始する予定である。

●参考文献

**1 :坂本剛;綾尾慎治.大学を中核とするアントレプレナーシップ・コミュニティ.機械の研究((株)養賢堂).第59巻,第1号,2007,p.136-137.

**2 :九州大学.「福岡地区大学発ベンチャー支援者コミュニティ形成事業」アメリカにおけるアントレプレナーシップ・コミュニティ調査報告書.2007, p.39-41.