2007年6月号
特集  - 大学の知的財産本部
<寄稿>大学の知的財産本部 -基盤整備から戦略的展開へ-
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小桐間 徳 Profile
(こぎりま・あつし)

文部科学省 研究振興局 研究環境・
産業連携課 技術移転推進室長


産学連携、技術移転を進める行政の立場から、大学の知的財産活動の現状を整理し、将来を展望する。

大学等における産学官連携・知的財産活動の重要性

「科学技術創造立国」を目指し、厳しい国際競争の中、独自の研究成果から絶えざるイノベーションを創出していかねばならないわが国にとって、産学官連携は、その実現のための重要な手段である。

また、わが国が「知的財産立国」を実現するためには、質の高い知的財産を生み出す仕組みを整え、知的財産を適切に保護し、知的財産が社会全体で活用され、再投資によりさらに知的財産を創造する力が生み出されてくるという「知的創造サイクル」を有効に機能させることが不可欠である。そして大学には、知的創造サイクルにおける知の創造の担い手として、世界レベルの独創的な研究成果を生み出すことや、知の活用を担当する産業界と連携して、新技術・新産業の創出に寄与することが、強く期待されている。

「知」の拠点としての大学の重要性が一層増していく中で、わが国の経済の活性化や国際競争力の強化等の観点から、産学官連携に対する期待はますます高まっており、その推進は、大学にとっても「第三の使命」と言われる「社会貢献」を進める上で、また、自らの教育・研究の活性化を図る上でも重要な手段である。

大学知的財産本部整備事業
1. 背景

大学が知的創造サイクルの一翼として社会からの強い期待に応えるためには、知的財産を原則機関帰属化し、大学が組織的に取り扱うことにより、個人帰属における問題点を解消するとともに、企業等との交渉窓口の一元化を図り、知的財産が死蔵されることなく有効に活用されるという研究成果の社会還元を実現することが求められる。

また、知的財産戦略大綱(平成14年7月知的財産戦略会議決定)および知的財産基本法(平成14年法律第122号)等では、大学等において研究成果の適切な管理および企業等への円滑な移転が行われるよう、知的財産管理機能の強化を図るため、知的財産に関する専門的知識を有する人材を活用した体制整備の必要性がうたわれている。

このような政府全体の方針を踏まえ、文部科学省では、平成15年度から「大学知的財産本部整備事業」を開始した。本事業は、大学等で生まれた研究成果の効果的な社会還元を図るため、大学等における知的財産の戦略的な創出・管理・活用を図るモデル的な体制を整備するものである。これは、これまでの大学にはなかった全く新しい体制であり、大学内部には専門的な人材がおらず、ノウハウもないため、本事業においては、原則5年間の継続的な支援を前提とし、外部人材を積極的に活用し、学内ルールを整備するなどの初期段階の体制作りから、事業終了後をも見据えた内部人材の育成を行うなど、安定した体制の整備を目指してきた。

2. 成果

「大学知的財産本部整備事業」の実施に当たっては、全国の大学等から申請された83件の計画を審査し、「大学知的財産本部整備事業」として34件、「特色ある知的財産管理・活用機能支援プログラム」として9件の合わせて43件を選定した(図1)。

図1

図1 「 大学知的財産本部整備事業」の実施機関
     地域別分布図(平成19年度)



図2

図2  大学等における産学官連携・知的財産活
     動の実績

本事業により、これらの機関では、副学長等をトップに据えた全学的・横断的な体制の構築、企業OB等の外部の専門人材の積極的な活用、知的財産ポリシーなど基本的な学内ルールの策定、研修会の実施などによる学内教職員への普及啓発活動、特許出願の決定などの迅速な審査体制の確立、知財管理システムの導入など、体制の整備が着実に図られつつある。

こうした取り組みを通じ、機関帰属の方針が浸透し、特許出願件数や特許実施件数が飛躍的に増大したほか、企業等との共同研究も着実に増加するなど、大きな実績を上げてきた(図2)。

また、「大学知的財産本部整備事業」実施機関は、単に体制整備を進めるだけでなく、本事業の対象となっていない他大学等に対して、そのノウハウを普及することを責務として負っている。このため、平成16年度から「大学知的財産戦略研修会」を実施し、実施機関を中心に成功事例・失敗事例を紹介するなど、体制整備のノウハウの他大学等への普及と、大学等の研究成果の外部への発信に努めている。その結果、平成18年3月末現在で、知的財産の管理・活用体制を整備している大学は、147大学に上っている。

国際的産学官連携機能の強化

知的財産推進計画2006、イノベーション創出総合戦略、経済成長戦略大綱等の政府の各種提言において、国際的な産学官連携活動の強化の必要性が指摘されていることを踏まえ、科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会では、平成18年8月末に「大学等の国際的な産学官連携活動の強化」に関する審議状況報告*1を取りまとめた。

同報告書では、

1. 今後、大学等においては、産学官連携や知的財産の活用について、これまでの国内中心の取り組みに加えて、件数のみに偏らず質の重視を念頭に将来の基本特許につながるような重要な発明を国際的に権利取得していくことが極めて重要であること
2. また、海外企業との共同研究や受託研究の受け入れなどの国際的な産学官連携活動を強化することは、大学等の研究成果の向上や優秀な研究者の輩出など教育・研究の活性化につながるとともに、国内企業が大学を介在して海外企業と連携するなど、国内産業の国際競争力の強化につながるものであること

等が指摘されている。

図3

  図3 国際的な産学官連携の推進体制整備
       (大学知的財産本部整備事業)

これを受けて、文部科学省では、基本特許の戦略的な国際取得や海外企業との共同研究等の拡大を図るため、国際知財人材の育成、国際法務機能の強化・紛争予防などを事業内容とする「国際的な産学官連携の推進体制整備」(図3)を平成19年度に行うこととし、これまでの取り組みや実績を踏まえ実施可能性等に配慮した上で、同整備事業の対象として12機関を選定するとともに、「特色ある国際的な産学官連携の推進機能支援プログラム」として5件(6機関)を選定したところである(図1内の「(注)」を参照)。

今後の展開

これまでの5年間が、知財本部の「基盤整備」に重点を置いてきたとすれば、これからは知財活動の「戦略的展開」がますます重要となろう。文部科学省としては、大学知的財産本部整備事業終了後の平成20年度以降においても、知的財産活動が失速することなく、各大学等の戦略が十全に展開されるよう、大学の規模、教育研究分野、地域等を踏まえた大学による主体的かつ多様な取り組みを支援していくことが必要であると考えている。

*1
審議状況報告(科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu8/toushin/06082811.htm