2007年6月号
インタビュー
奈良先端科学技術大学院大学 知的財産本部長 久保 浩三氏
スピーディーな運営でライセンス収入は全国トップ級
顔写真

久保 浩三 Profile
(くぼ・こうぞう)

奈良先端科学技術大学院大学
知的財産本部長・先端科学技術
研究調査センター長・教授/弁理士

平成3年に開学した奈良先端科学技術大学院大学は当初から「学外との連携・協力」を掲げ、全国トップレベルのライセンス収入をあげている。高い評価を受けている同大学の産学連携の取り組みの背景に迫った。

開学当時から掲げられた理念としての産学官連携

●奈良先端科学技術大学院大学*1は教員1人当たりの外部資金獲得金額やライセンス収入が、全国の大学でトップレベルをまい進しておられますが、その理由はどこにあるのでしょうか。

久保 奈良先端科学技術大学院大学は平成3年に学部を持たない大学院大学として、情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学と融合分野の教育と、最先端の研究を行うために開学した新しい大学です。4つの理念の4番目に「社会の発展や文化の創造に向けた学外との密接な連携・協力の推進」が入り、開学当初より産学官連携を行うことを掲げています。平成18年4月現在で教員217名のうち120名(55%)が大学以外の民間企業等の経験者で、産学官連携への意識が高いこと等が理由だと思います。

国立大学法人化で一層進んだ産学官連携
図

  (参考)知的財産の権利化、産官学連携の
       しくみ提供:奈良先端科学技術大学院大学)

●法人化され、一層産学官連携を推進されるための新たな取り組みはございましたか。

久保 平成16年4月の国立大学法人化と同時に、「産官学連携ポリシー」を制定しました。研究、教育に加え、産官学連携が本学の重要な使命であることを明記し、新産業創出・雇用創出へ貢献することと、産官学連携の目的について知的創造サイクルを効果的に進めることで、研究・教育の活性化に資することを掲げています。同時に、産官学連携推進本部*2を設置し、現在は先端科学技術研究調査センター、知的財産本部(知的財産部、ビジネスイノベーション部)、今年1月1日開設のTLO部、産官学連携室から次ページの図1のように構成しており、24名体制です。

●TLOを今年1月から学内に設置されたそうですが、学内にというあたりは、かなり検討されたのでしょうか。

久保 当初TLOは学外に作ろうと検討していましたが、法人化が大きなターニングポイントとなり、TLO機能が大学内部にあった方が実際に仕事がしやすいということで、内部に作りました。今までと機能面は本質的には変わりませんが、より技術移転を重視するために新設しました。

図1

図1 産官学連携推進本部の組織(提供:奈良先
     端科学技術大学院大学)



図2

図2 産官学連携に関する研究実績(提供:奈良
     先端科学技術大学院大学)

●産官学連携推進本部の先端科学技術研究調査センターは、どのような機能を果たしておられますか。

久保 先端科学技術研究調査センターは、産官学連携に対する企画・立案、図2のような研究・動向調査や知財教育等を行い、ヘッドクォーターの役割を担っています。

●人材育成関連の素晴らしいテキストもお作りですね。

久保 平成16年度、17年度には「技術経営人材育成プログラム開発」等を行いました。海外での弁理士経験があり、現在も米国で活躍中の客員准教授吉田哲氏等が、自らの経験を効果的に活かしながら、プログラムやテキスト(写真1)作成に尽力してくれました。

●知的財産本部での取り組みについてお尋ねします。

久保 国立大学法人化と同時に「知的財産ポリシー」を作成し、職務上、創作された知的財産の帰属は原則として大学としました。2つの特徴があります。1つ目は発明者への実施補償は、経費を引かずに大学への収入の40%としました。この補償は日本の大学でトップレベルの水準だと思っています。もうひとつの特徴は、対象者を教職員だけでなく、教員の指導の下での契約を条件に学生も入れていることです。

知的財産本部取り組みの4つの特徴
写真1

写真1 技術経営人材育成等で使用するテキスト

●知的財産ポリシーの下、日々の活動に特徴がおありだそうですね。

久保 図3のように4つのポイントがあります。第1ポイントは、「教員との密接なミーティングによる意識改革。全研究室・全知的財産の把握」です。第2ポイントは、「迅速なレスポンスで、早期の把握と相談から10日以内の判断」です。大学として出願するかどうかの目安を提示するようにしています。第3ポイントは、「厳格な評価体制。必ず出口(ライセンス・共同研究・競争資金獲得等)のある特許出願」です。評価会議を年間約50回開き、特許性よりも出口があるかどうかの市場性を重視しています。第4ポイントは、「創造性・展開性ある技術移転。発明者とコーディネータの密接なコラボレーションによる市場開拓」です。

教職員へは、知的財産は重要で、企業からの問い合わせ等については、必ず知的財産本部に伝えてほしいと依頼しています。研究者のアカデミックフリーダムは尊重しながらも、教職員がノウハウ等を企業へ渡す前に、知的財産本部へ伝えてもらい、その後の交渉や契約は知的財産本部が担当しています。

図3

図3 知的財産の取り組みの特徴(提供:奈良先
     端科学技術大学院大学)

●成果をかなりあげられているようですね。

久保 平成17年度の外部資金受け入れ金額は教員1人当たりで約1,500万円、研究室当たりでは約6,000万円で、わが国の大学のトップレベルです。

また、教員1人当たりのライセンス収入は22万5,000円(平成18年度)で、日本のトップレベルです。もちろん最終的な目標はお金もうけではなく、本学がいかに世の中に役立つような研究ができるのかを表明し、ブランド力を向上させ、優秀な学生に来ていただいて、質の高い研究を行い、新産業創出や雇用創出へ貢献していきたいわけです。

●平成16年度全国トップレベルのライセンス収入をあげられ、文部科学省「知的財産本部整備事業」の中間評価においてはA評価。さらに、文部科学省の「スーパー産学官連携本部」のモデル事業全国6大学のうちの1校として産官学連携推進本部が選定されているのは、開学からの理念が成就され、外部から高く評価されているわけですね。先日は、文部科学省の「国際的な産学官連携の推進体制整備」に採択されたそうですが、国際戦略への取り組みについてはいかがでしょうか。

久保 本学理念の2つ目に「国際社会で指導的な役割を果たす研究者の養成」を掲げており、国際的に通用する大学になりましょうということで、教員に海外企業、大学等からアプローチがあったときは、すべて産官学連携推進本部が交渉、契約を引き継ぐ等の取り組みを行っています。「国際的な産学官連携の推進体制整備」事業で一層、海外案件対応を強化していきたいと考えています。

●奈良先端科学技術大学院大学の産学官連携活動で高いパフォーマンスをあげておられますが、その成功要因はどこにあるのでしょうか。

久保 大学が新しく、かつコンパクトなサイズであるため、大学としての意思決定が極めて早いということがあります。大学以外の出身の教員が半数以上を占めるので、産学官連携への理解を得やすいこともメリットですね。さらに教職員の規模の最適化というか、コンパクトな規模により、研究者とコーディネータが暗黙知の共有や合意形成をしやすく、これらもメリットですね。もちろん、企業等出身の優秀なコーディネータを多数擁していることも大きな長所です。以上のような各種メリットが、本学産学官連携によるパフォーマンスをあげるに際しての成功要因となっています。これらの成功要因をベースとして、国際的産学官連携も含めて、一層成果をあげていきたいと考えています。

●本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

聞き手・本文構成: 林 聖子
(財団法人 日本立地センター 立地総合研究所 主任研究員)

*1奈良先端科学技術大学院大学
http://www.naist.jp/

*2産官学連携推進本部
http://ipw.naist.jp/sankan/top.htm