2007年6月号
単発記事
設立相次ぐ大学発ベンチャーをJSTが調査
平均年商は5,000万円と伸び悩む
-量から質の第2フェーズへ-
顔写真

中村 宏 Profile
(なかむら・ひろし)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 技術展開部
技術育成課長

大学発ベンチャーが相次いで設立され、その数は1,500社を超えているともいわれる。しかし、科学技術振興機構の調査によると、平均年間売上高は5,000万円、従業員は7.3人と厳しい状況であることがわかった。販路開拓が進んでいる企業もあるが、全体の8割は自立した経営ができていない。資金調達や人材確保、販路開拓の困難さを訴えるところが多い。

はじめに

大学等の知を社会還元する産学官連携の一つの形として「大学発ベンチャー」が挙げられる。平成13年5月の平沼プランにより大学発ベンチャーを3年間で1,000社つくり出すという数値目標が設定され、促進策が進められてきた。経済産業省の調査では平成16年度末で1,112社、平成17年度末までに1,503社が設立され、目標値をはるかに超え、現在も増え続けている。独立行政法人科学技術振興機構(JST)も種々の事業を通じて大学発ベンチャーの設立に貢献してきたが、JSTの事業を通じて設立された大学発ベンチャー(以下、JST発ベンチャーと呼ぶ)の現況をまとめたので報告する*1

JST発ベンチャーは160社

JSTは大学等の研究成果をもとに研究開発を行いベンチャー起業を目指す「プレベンチャー事業」および「大学発ベンチャー創出推進事業」を進めている。今回の調査の対象には、この2事業以外に、基礎研究、技術移転、地域関連など幅広い事業の中で誕生したベンチャー企業も含めている。

JST内部のヒアリング調査と、企業へのアンケート調査により平成18年11月末までに設立されたJST発ベンチャーを集計したところ、160社に上ることがわかった。大学発ベンチャー全体の約1割が当機構の事業に基づく研究開発成果から生まれたことになる。

平均の年間売上高はおよそ5,000万円

この160社を見ると、大学発ベンチャーが置かれている、想像以上に厳しい状況が浮かび上がる。

平均の年間売上高は4,990万円、平均従業員数は7.3人である。経営陣である役員を大学の教職員が兼務し、研究開発実施場所なども大学施設を利用しているところがほとんどだが、ビジネスとしてみれば厳しい状況である。資本金1,000万~3,000万円の株式会社が多く、業種はライフサイエンス分野が46%、IT分野が28%、ナノテク・材料・環境・その他の分野を合わせて26%である。

ベンチャー企業の設立後に直面する資金調達や人材確保、販路の開拓の困難さを訴える企業が相当数あった。

JST発ベンチャーは3タイプ
図1

図1 JST発ベンチャーの資本金・売上高・従業
     員数の分布

図1は、JST発ベンチャーの資本金・売上高・従業員数の分布である。平成18年度の資本金、売上高、従業員数の3データがそろっている61社を対象にした。1社につき1点でプロットし資本金はプロット円の大きさで表現した。これを見ると3つのグループに分けることができる。

○Aグループ…資本金、従業員が相対的に多い企業群。

ライフサイエンス分野のベンチャーがこのタイプの典型例である。主力製品が現在、臨床試験段階のため売り上げが少ないが、ベンチャーキャピタル等投資家からの期待が高く、出資を集め従業員の人件費等に充当しながら研究開発を続けている。

○Bグループ…販路開拓が進み一定の売り上げがあり、自立したベンチャー企業群。

機械・光学装置、部品製造等を扱うベンチャーで、主力製品が既に市場で一定の評価を得ておりコンスタントに売り上げを伸ばしている企業がこのタイプの典型例である。

○Cグループ…販路の開拓、人材の確保が不十分であり、起業したものの経営に課題を抱えている企業群。JST発ベンチャーのおよそ80%がこのグループに入る。

A、Bグループのベンチャーは、自立した経営ができつつあり、今後が期待できるが、Cグループのベンチャーは、いまだ自立した経営ができていない状態である。

経済産業省の調査によれば大学発ベンチャーの平均年間売上高は1億3,200万円ということであるが、JST発ベンチャーの平均約5,000万円はその40%程度しかない。この理由は[1]JST発ベンチャーのほとんどが設立5年未満である、[2]長期の研究開発期間を要するライフサイエンス分野が相対的に多い、[3]研究開発段階は終了したものの市場の要求に合わせる追加研究開発が必要で売り上げに結びつかない-などである。

「大学発ベンチャー活性化シンポジウム」から得られたこと

JSTは4月9日、約450名の産学官関係者の参加を得て都内で「大学発ベンチャー活性化シンポジウム~大学発ベンチャーの持続的発展に向けた新たな展開~」を開催した*2。以下はここでの主要な意見である。

大学発ベンチャーの成功を「数」で議論する時期は過ぎ、今後「質」での議論が必要。
ハイリスク・ハイインパクトな技術シーズを扱うことができるのが大学発ベンチャーであり、このような技術は、長いレンジでの資金支援が必要。
アーリーステージの大学発ベンチャーに投資・育成する個人投資家や民間のキャピタルが少ない現状においては、公的な支援が重要。
研究開発・営業・知財等における人材不足、資金不足、販路不足を解消する必要がある。また、そのための環境整備を行うことが必要。
大学発ベンチャーは公共事業依存を脱し科学技術による地域振興の起爆剤や牽引力となりうる存在である。グローバルマーケットを視野に入れつつ、地域発展の要となることも期待できるので、地域ぐるみの支援も有効。
大学発ベンチャーがブームになって5年程度であり、評価するには時期尚早。10~15年程度のスパンで見る必要がある。また、失敗事例を生かしつつ、成功事例を生み出していくことが重要。

またシンポジウムでのアンケート調査によれば、大学発ベンチャーに最も不足するものは経営力・営業力であり、次いで研究開発資金だった。大学発ベンチャーと既存企業(大手企業含む)の提携については回答者の79%が提携可能とのことだった。ベンチャーの起業にインセンティブを与えるような大学の制度改革が必要であり、さらには自由な参加と退出が許される市場の変革等が必要とのコメントも寄せられた。

今後の大学発ベンチャー支援のあり方は?

シンポジウムの全体的な方向としては量より質を重視しつつも、大学発ベンチャー全体に対してはまだ支援が必要というものであった。次々と誕生するベンチャーの中で成功するのはほんの一部。そもそもベンチャーとはそういうものだろうという考えもある。大学発ベンチャー全体を平均的に支援するというスタンスをとるのか、それとも成長が期待できる優れた大学発ベンチャーを選択的・集中的に支援し強化するのか、2つの考え方がある。

例えば後者の場合、Aグループは既にベンチャーキャピタル等の支援を受けているので、相手が求める場合にリスクの高い研究開発費の支援を行えばよいだろう。Bグループは、第2、第3の製品開発を進めるための研究開発、あるいはベンチャーキャピタル等にとって躊躇する研究開発の支援となる。潜在力の高いベンチャーを伸ばすということからは、この群の支援が中心になるだろう。Cグループは技術力に優れ、研究開発あるいは販売力支援を行うことにより成長軌道に乗る可能性が高いベンチャーを選抜して支援すればよいが、そのためにはベンチャーの有する技術力・経営力・マーケティング力などを多面的に評価できる優れた目利き人材が必要となろう。

むすび

大学発ベンチャー企業間に優劣が生じてきており、今後市場という荒波に揉まれてさらに格差が開くことは避けられない。しかし、わが国においてイノベーション創出のためには大学発ベンチャーの果たす役割への期待は高い。そのような意味で大学発ベンチャーの成功例を多く出すことが重要だと思う。

すでに設立されたJST発ベンチャーについて述べてきたが、一方でJSTが従来から行ってきた大学発ベンチャー創出推進事業については、ベンチャー設立の数を追うのではなく、優れた研究シーズをもとに質の高い大学発ベンチャーを設立することに舵を切る必要性があることはシンポジウムからも明らかであろう。

*1 : JST発ベンチャー160社の調査結果
http://www.jst.go.jp/tt/uventure/index.html

*2 : 「大学発ベンチャー活性化シンポジウム」開催報告
http://jst-entry.homeip.net/entry/