2007年6月号
連載1  - 産業界に聞く産学連携
日本全薬工業株式会社 代表取締役社長 福井邦顕氏に聞く 医療・福祉機器の開発に高い評価
顔写真

福井 邦顕 Profile
(ふくい・くにあき)

日本全薬工業株式会社
代表取締役社長


動物用医薬品トップで、新製品開発に取り組む日本全薬工業の産学連携とは。研修会メンバーとの緊密なコミュニケーションが基本である。

販社を統合し新ブランド

●日本全薬工業株式会社*1は動物用医薬品の開発・製造・輸入・販売を一貫して行う日本のトップ企業ですが、動物用医薬品という一般には比較的なじみの薄い業界ですので、御社の沿革から簡単にお話しください。

福井 当社は、創業者福井貞一が、薬剤将校として郡山陸軍病院の開設にかかわった経緯があって、戦後の昭和21年に当地に薬品製造会社を開設したのが始まりです。当初は、人体用塩化カルシウム注射液等を製造販売していましたが、昭和23年に福島県畜産課から馬用リンゲル液の注文を受けたことをきっかけとして、馬の骨軟症治療薬など動物用医薬品製造の道を歩むことになりました。その後、農林水産省家畜衛生試験場(現 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)との共同研究の成果である牛の肝蛭(かんてつ)駆除剤や牛が舐める固形塩の商品化を経て、獣医畜産業界のニーズに対応した多品種生産体制を構築し、犬・猫用ノミ・マダニ駆除剤として世界標準となった商品をはじめ、多数の新製品を開発販売しています。平成13年に本社と6販売会社を統合して新しい企業ブランドZENOAQ(ゼノアック)を新創業として打ち出しました。

●産学連携に対する御社の取り組み状況についてお話しください。

福井 当社としては、将来的に遺伝子組み換えによるタンパク、特に昆虫に注目して、そこから抽出したタンパクを医薬品として実用化しようとしています。ですから開発の段階では、大学との連携は盛んにやっており、動物関係では獣医学部のあるところとはほとんどやっていますし、特殊な技術をお持ちのところともやっています。

産学連携は、始終こちらからコンタクトを取って、緊密なコミュニケーションを絶やさなければうまく進みます。しかし大学は、研究の一部としてわれわれとの共同研究を行うため、非常に時間がかかる。この制約は仕方がないことですから、研究の周辺をデータで固めていくのは当社の研究所でやっています。われわれからするとそれほど障害は無く、スムーズにいっていると思っています。日本の大学では広島大学、京都工芸繊維大学、大阪大学、東京大学、理化学研究所、動物衛生研究所、岩手大学、北海道大学、福島県立医科大学等、ざっと10大学くらいとやっています。

大学に毎年2~3人派遣

●国立大学の独立行政法人化により知的財産の扱いが変わってきましたが、その点についてはどうでしょうか。

福井 それはだいぶ変わってきました。やはり研究成果のパテント化とかライセンス化は大いにやっていかないと大学としてもやっていけないと思います。当社もそういう覚悟で産学連携に取り組んでいます。権利化とか利益の分配とかは、商品化の段階ではあるかもしれませんが、研究開発の今の段階ではありません。これまでは主に寄付金を差し上げて研究をやっていただきました。獣医系の先生方の場合はそれほど知財の扱いに神経質になってはおられないと思います。

●大学との人の交流というのはどういう状況でしょうか。

福井 大学で半年とか1年とか研究をやらせてもらう、帰ってきても時々大学へ行って研究をやらせてもらう、ということでコミュニケーションをとりやすくしています。単なるディスカッションではなく、共同で仕事の分担をしながらやっているということです。当社からも大学に人を派遣していますが、学生さん等を使って研究している先生から、レベルの高い人材がきてくれるので助かっていると歓迎されているのです。毎年2~3人を派遣し、5年ほどになります。

●海外の大学や研究所との連携はどういう状況でしょうか。

福井 いまだ初期段階です。カナダからオファーがあったものの、治験費用の点で折り合いがつかなかった例がありました。またオーストラリアでシドニー大学やメルボルン大学と共同研究をやっていこうという計画もあります。他にもスウェーデンのカロリンスカ研究所にサンプルを提供して研究をやっていただくかとか、オランダのユトレヒト大学の先生と共同研究をやろうかとか、理化学研究所の関係でノースキャロライナ大学との免疫の治験との共同研究などの話がありますので、今、検討しているところです。

家畜衛生試験場との共同研究がきっかけ

●学との連携関係はどのようにしてできたのでしょうか。

福井 農林水産省の家畜衛生試験場との共同研究がきっかけとなり、北陸支場長だった吉田先生(麻布大学名誉教授)のお力添えで、全国の獣医学関係の大学や各県の畜産課とは何十年というお付き合いがあります。産官学一体の臨床獣医学関係の研修会(しゃくなげ会:昭和44年設立)を毎年やらせていただいています。北海道から沖縄まで2,000人ぐらい会員になっています。東京大学の臼井先生には退官されてから当社の副社長をやっていただきました。そういう背景もあって、産学連携にほとんど支障はありません。

●官との連携関係はどうでしょうか。

福井 信頼関係を基に、家畜衛生試験場を退官された方の中で当社研究所長になっていただき、ワクチン開発などの基礎を築くことができました。しゃくなげ会には大学の先生方のほかに、県の試験場や畜産課の方も入っていただくとか、県の保健所の関係で全国の保健所の会議に出席させていただいています。もともと防疫関係は国が主導的な役割を担っていて、どういう病気が発生するか、それに対してどういう薬が効くかなどの情報は官の方からきます。家畜共済組合も半官半民であり、官の動きと一体でないと身動きが取れない面もあります。そういう意味では連携できています。

知財、事業化可能性を徹底的に調査

●都市エリア産学官連携促進事業(発展型)の事業総括もやっておられますね。

福井 医療・福祉機器の開発をテーマに採択いただいて1年経ち、あと2年あるのですが、私として大変評価されたと考えています。福島県や県の産業振興センター、日本大学工学部、福島県立医科大学、福島大学、県内立地企業等の連携で、ハプティック技術をベースに触覚センサー技術と計測技術を活用して医療機器を開発する事業です。乳がんの診断機器、受精卵の適否判断機器、サーカジアンリズム応用の抗がん剤動注機器という3つの主要課題があります。推進会議での議論の結果、事業を実際に推進する4人の事業化担当チームを作りました。このチームが知財、相手先、事業化可能性について徹底的に調査したのです。この4人が非常なエキスパートで、眼圧測定や触覚新素材など事業化のめどが付きました。ここまでは良かったのですが、私として本当に残念なのは、来年度はその方々が異動で交代してしまうのです。なぜ都市エリア事業が終わるまで配置できないのか、こういう人事が産学官連携を阻害してしまうのではないかと思うのです。チームが変わらずにやれるのなら、3年間で必ず成果を出せると思います。

●東北経済連合会(東経連)の副会長として、東北における産学連携についてどうお考えでしょうか。

福井 地域に特有の産業を興すということで各県が取り組んでいるわけですが、東経連としては、前にベンチャーランド協議会をやり、今は東北イノベーションキャピタルでファンド投資をしています。残念ながら、ファンドへの応募件数としては少ないような気がします。景気が良くなると目先の仕事に追われて、学や官の動きに関心が向かなくなる傾向があります。産学の共同研究もありますが少し薄いのではないかと思いますし、特に福祉医療機器はチャンスと思いますが目が向いていないのです。東経連でも先進地の産学連携状況や技術格差も伝え刺激を与えれば、やる気を出す企業も増えるのではないかと考えています。

●本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

聞き手・本文構成: 川村 志厚
(経営デザイン研究所 代表/本誌編集委員)

*1日本全薬工業株式会社
http://www.zenoaq.jp/