2007年6月号
連載3  - 産学官連携事例
水上飛行機開発プロジェクトについて

櫻井 達美 Profile
(さくらい・たつみ)

水上飛行機開発事業協同組合
副理事長

中小企業連合体が抱える技術的課題の解決を官・学にお願いするタイプの連携。その具体例の経緯を追い、中小企業再生の方法を学ぶ。

本産学官連携方式の特徴

従来の産学官連携プロジェクトは、おおむね学で発生したシーズを産が企業化、官が協力して実用化するパターンであった。しかし、ここに述べるプロジェクトは、これとは逆に、産である中小企業連合体がプロジェクトを発案、組織化を行い、その過程で自らでは解決困難な種々の技術的・社会的課題を、個々に官・学に研究開発解決をお願いするというものである。この方式の意図するところは、それぞれの機関の機能・特徴が有効に発揮でき、先進的な技術の集積・組織化、中小企業の自己努力による開発生産ネットワークの構築に役立てて日本の中小企業の再生、活発化を図るということである。

プロジェクトの発足の経緯

平成15年、東大阪の人工衛星“まいど1号”プロジェクトに触発され、それではこちらは海洋国家にふさわしい水上(水陸両用)飛行機を、下請け型から提案型に脱皮しようとする具体例として、中小企業の手で開発しようではないかということになり、水上機研究会を発足させた。

この研究会の参加者は、中小企業従事者だけでなく、国際線パイロット、ジャンボジェット機教官、アマチュアパイロット、港湾技術者、大学教官、高校教官、学生、研究所職員、セールスエンジニアと多岐にわたり、水上飛行機の可能性、設計製造法、関連法規の調査、市場開拓方法などについて論議を重ね、水上飛行機の開発に取り組んできた。この研究会の開催は本年5月で30回を迎えた。

研究会のメンバーの中の(株)青木精機、(株)北嶋絞製作所、宮城精工(株)、飛洋航空機製造開発(株)、(株)計算力学研究センターの5社で、水上飛行機開発事業協同組合を2006年3月に発足させ、開発の母体として活動している。

東京大学工学部航空宇宙学科と水上機開発の共同研究を本郷キャンパスで行い、毎週金曜日の午後に設計連絡会を行っている。

2005年9月に(社)強化プラスチック協会(通称FRP協会)の創立50周年記念大会で、筆者が行った特別講演「純国産の水上飛行機をつくろうプロジェクト」を契機に、同協会は水上機開発プロジェクトを立ち上げ、まずFRP製のフロート、高耐波性を実現する支持機構の開発に従事していただいていて、次いで機体本体の設計試作に取り掛かりつつある。

水上飛行機開発の技術的課題と解決策

1.高耐波性を持つこと

従来の水上機は内海、湖沼地帯など静かな水面から離発着するものがほとんどであった。海洋もしくはそれに接した波のある海水面での運用を可能にするには耐波性の向上が必須である。このため、新案の非線形支持機構(特許申請中)付きのフロートシステムを開発中である。

2.耐腐食性を持つこと

海上等における塩分を含む環境で運用するため、耐腐食性を持つ必要がある。この耐腐食性にはFRP複合材料の大幅採用により塩害対応を図る。

3.巡航性能が優れていること

現在の水上機の形状では、巡航時の摩擦抵抗、形状抵抗が大きく、陸上機に比べ約2倍の直接運航費がかかり、経済性において大いに劣る。飛行性能を向上させるには機体形状の洗練化、表面積減少化、複合材料の特質を生かした軽量構造様式を進める。

フロートシステムの研究開発
写真1

写真1 波浪中離水挙動の数値シミュレーション



写真2

写真2  大型水槽試験

東京大学、横浜国立大学、日本大学、東海大学、東京都立工業高等専門学校、東京都立産業技術研究センターなどと静水域以外の波浪のある水面でも離発着できる水上機(水陸両用機)開発のための共同研究を重ね、その第一歩として高耐波性フロートシステムの設計開発を行ってきた。

写真1の数値モデルによる効果検討では、新案のフロートシステム(右)と、在来のフロートシステム(左)を装着した機体の波浪中離水挙動の数値シミュレーションを行い、新案のフロートシステムが機体ピッチングの大幅減少に効果があることが判明した。

2004年、東京大学工学部環境海洋工学科で、フロートモデル(1/3)の予備水槽試験(静釣り合い)を行った。 その後、日本大学生産工学部で支持構造の強度試験、フロートの終極荷重破壊試験を行った。

2005年、横浜国大船舶海洋工学科の大型水槽でフロートシステムの応答実験を行った(写真2)。実験の結果、フロートは波との出会いによって激しく振動するが、機体ダミーはほとんど揺動しないことが観察された。

これらのことから、まず波高50センチに耐えられるMLP(マイクロライトエアプレーン)用フロートシステムを設計試作し、実機に装着、種々の試験を行って生産型を策定することになった。

高耐波性フロートシステムの試作
写真3

写真3  水上滑走実験

2006年、FRP協会のプロジェクトメンバーによってFRP製のフロートと環状サスペンションに非線形ダンパーで支える試作機が製作された。

2007年に入り、霞ヶ浦に拠点を持つ3Sクラブの全面的協力により、試験用に機体を貸与いただき、それに前述のフロートシステムを装着、耐波性、操縦安定性等の実証試験を行っている(写真3)。

当面の予定

1.フロートシステムの設計・製造・販売

上記実験の結果を取り入れてMLP用高耐波性生産型フロートシステムの設計製造を開始し、今年の秋口に販売開始する。

2.MLPI型の組み立て・販売

現在実績のあるMLP機体のキットを購入し、われわれのフロートシステムを装着し、今年末に販売を開始する。

3.FRPによる機体自体の設計製作に着手する。これをMLPII型と称する。

4.来年度から軽飛行機のフロートシステムの開発に着手する。それから軽飛行機本体、ビジネスジェット水上機、小型旅客機と発展する計画である。

終わりに

当プロジェクトは、参加いただいた個人・諸機関の献身的な協力によってボランティアベースで進められてきた。霞ヶ浦での実機による実証試験にまで到達できたのは、すべてこれらの方々のご尽力によるもので、ここに深甚の謝意を表したい。また、本プロジェクトの趣旨に賛同された方から既にMLPI型 1機の仮発注を頂き、本年度中の納入を目指して鋭意作業中であることを記して終わりとしたい。