2007年6月号
特別寄稿
委託開発の成果「青色発光ダイオード」の経済波及効果
付加価値は3,500億円 3万2,000人の新規雇用も
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榊原 清則 Profile
(さかきばら・きよのり)

慶應義塾大学総合政策学部 教授



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杉江 周平 Profile
(すぎえ・しゅうへい)

株式会社三菱総合研究所産業・
市場戦略研究本部 事業開発戦略グループ
研究員

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堀内 正隆 Profile
(ほりうち・まさたか)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 開発部開発計画課
係長

表示装置や照明機器などに次々と使われるようになり、近年では国有特許の実施料収入の約9割を占める青色発光ダイオードの経済波及効果を算出した。

はじめに

本稿では、独立行政法人 科学技術振興機構(以下、JST)が平成18年度に実施した「委託開発の成果『青色発光ダイオード』の経済波及効果に関する調査*1」の結果を紹介する。当該調査では、JSTの委託開発*2課題「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」(新技術の代表発明者:赤﨑勇 名城大学教授・名古屋大学特別教授(当時 名古屋大学教授)、開発実施企業:豊田合成株式会社、開発期間:昭和62年~平成2年)の経済波及効果を算出した。

調査の背景と目的

「独創的シーズ展開事業 委託開発」は、昭和36年から、国産技術の振興策として、数々の新事業、新製品を生み出す一助となってきたが、その中でも「窒化ガリウム(GaN)青色発光ダイオードの製造技術」は、近年では、国有特許による実施料収入のうち約9割を占めるという金字塔を打ち立てている。また、青色発光ダイオードおよびそれを利用した白色ダイオードの製品化の成功により、表示装置や照明機器等、新製品が多数生み出され、大きな経済効果が創出されたと考えられる。

そこで、「青色発光ダイオード」を公的な支援を受けた研究開発の成功例として、その波及効果を正確に把握することは今後の科学技術政策を考える上で大変重要であり、また、科学技術関連投資の国民への説明責任を果たすという観点からも波及効果の明確化が必要である。

以上の背景により、本調査では、「青色発光ダイオード」の経済波及効果を明らかにすることを目的とした。

調査方法

調査は開発実施企業である豊田合成および、発光ダイオード(以下、LED)利用産業(携帯電話、大型フルカラーディスプレイ等)へのヒアリング調査、文献調査を中心に実施した。また、波及効果把握フレームや定量化手法については、有識者5名および(株)三菱総合研究所事業開発戦略グループ、JST産学官連携事業本部開発部からなるタスクフォースを設置して、検討を行った。

波及効果の算出方法

経済波及効果は開発実施企業のLED売上を基点として、生み出された付加価値ベースで算出した*3。研究開発成果の経済波及効果を算出するに当たっては、売上を基準にする方法と付加価値を基準にする方法が存在するが、タスクフォースでの検討の結果、本調査では他の技術等による効果とのダブルカウントを避け、日本経済に実質的にどの程度(いくら)の影響を与えたのかを把握するために付加価値を基準とすることとした。また、開発実施企業の開発成果は、技術のスピルオーバー等により、LED産業全体や青色レーザー関連産業へも経済波及効果をもたらしたと考えられるが、本調査においては、過大評価をしないことに重点を置き、それらについては直接の経済波及効果には含めないこととした。

以上より、経済波及効果としては、以下の3点を合算したものとした。

LED売上の付加価値分:開発実施企業におけるLEDの売上における付加価値
応用製品を通じた波及効果:LEDを利用した製品(応用製品)の付加価値に占めるLED寄与分
生産誘発による波及効果:LEDの生産により誘発された付加価値

図1

図1 携帯電話を通じた波及効果

付加価値については、対象とする製品の売上を調査し、当該産業の付加価値比率(工業統計調査より推計)を乗ずることにより、算出した。応用製品については、既存市場の置き換えか、新規市場を創出したのかを考慮し、創出した付加価値を算出した。また、LEDの寄与分については、ヒアリング調査およびタスクフォースによる検討により応用製品ごとに設定した。生産誘発による波及効果は産業連関分析により算出した。応用製品を通じた波及効果について携帯電話の例を図1に示す。

なお、白色LEDは青色LEDの存在なしには実現不可能なものであるため、白色LEDの波及効果も全て青色LEDの波及効果とみなすこととした。

また、本調査では1997年から2005年の9年間を経済波及効果算出の対象とした。また、経年データについてはGDPデフレータにより、2000年基準に実質化を行った*4

調査結果

本調査の結果、JSTの開発実施企業への委託開発による経済波及効果は以下のように推計された。

JSTは委託開発として、1987年から1990年の間、豊田合成の「青色発光ダイオード」の開発に5.5億円を支出(返還済み)した。開発は成功し、1995年から事業化された。

1997年から2005年末まで9年間の経済波及効果を見た場合、携帯電話や大型フルカラーディスプレイ等、豊田合成のLEDを利用した応用製品の売上は約3兆6,000億円に達しており、その結果、直接的には、我が国の産業界において3,500億円弱の付加価値が新たに生み出され、約3.2万人の雇用が新規に創出された。

また、国家に約46億円の実施料収入ももたらした。

図2

図2 経済波及効果の算出フレームと算出結果

経済波及効果の算出フレームと算出結果を図2に示す。

LEDの最大の特徴は省エネルギーと長寿命であり、その特徴が広く社会に受け入れられ、普及したことにより図2のような波及効果が実現されたと考えることができる。

LED産業はJSTの支援の寄与もあり、これまで日本企業を中心として大きく発展をしてきた。また、今後もテレビ、通信、植物育成、医療等さまざまな用途への利用が期待されており、経済波及効果はさらに大きくなると考えられる。

おわりに

本調査では、青色LEDの経済波及効果として研究開発成果が事業化されたことにより生じた売上高を起点とした経済波及効果を算出した。それ以外の効果、例えば青色LEDの利用による環境負荷低減効果やメンテナンスコスト低下効果、技術のスピルオーバーによる青色LED産業全体および他産業への波及効果については定量的に算出していない(報告書では定性的には記述している)。

研究開発プロジェクトの波及効果は必ずしも経済的な価値だけには留まらないので、科学技術関連投資の効率を高めるためには、公的研究開発プロジェクトや産学連携事例の波及効果を事例ごとに正確に把握し、評価の精度を高めることが重要であり、環境負荷低減、技術のスピルオーバー、ネットワーク形成等の効果など、従来必ずしも正確に把握できていない波及効果を定量的に把握できる手法・枠組みの開発が必要である。

*1
調査は株式会社三菱総合研究所が受託して実施した。また、調査方法・結果等を検討するタスクフォースを設置し、座長を慶應義塾大学総合政策学部 榊原清則教授が務めた。

*2
大学や公的研究機関等の研究成果で、特に開発リスクの高いものについてJSTが企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図る制度。詳しくはJST Webページ参照
http://www.jst.go.jp/itaku/index.html

*3
付加価値とは、企業の経済活動によって新たに付け加えられた価値のことで、生産額から原材料費、税金、減価償却費を除いたものである。

*4
本調査では、基本的に公開資料をベースに経済効果を算出している。例えば、開発実施企業の売上データはIR資料より取得している。