2007年7月号
特集  - 公設試験研究機関への期待
<レビュー>地域イノベーション創出を促進する公設試験研究機関
顔写真

林 聖子 Profile
(はやし・せいこ)

財団法人 日本立地センター
立地総合研究所 主任研究員


国がイノベーション立国を目指すなか、科学技術による地域産業振興に公設試験研究機関が果たす役割は大きい。

はじめに

わが国では長期戦略指針「イノベーション25」**1が2007年6月1日閣議決定され、イノベーション立国の実現を目指す方向性が打ち出された。「第3期科学技術基本計画」**2では、戦略の基本として「科学技術の発展と絶えざるイノベーションの創出に向けた戦略的投資」が掲げられ、「経済成長戦略大綱」**3では「わが国を世界最高のイノベーション・センターにすること」「科学技術によるイノベーションを産み出す仕組みの強化」等が示されている。地域における継続的なイノベーションの創出により地域産業が発展し、地域振興が促進され、わが国の経済力等の強化が期待される。

地域中小・ベンチャー企業等がイノベーション創出を目指す時、単独での取り組みが難しい場合には、明治時代より各地域に立地され各種技術指導等を実施してきた公設試験研究機関(以下、公設試)が相談先や共同研究先、あるいは産学官連携におけるコーディネート役になっており、公設試の果たす役割は大きい。本稿では、地域イノベーション創出を促進する公設試についてレビューした。

公設試の概況
1 アンケート調査より

近年、産学官連携の活発化や国立大学の法人化等、公設試を取り巻く環境変化は大きい。財団法人日本立地センターでは筆者が担当し、全分野の公設試(主なブランチ含む)を対象に、2005年12月~2006年3月中旬にアンケート調査「産学官連携による地域振興のための公設試験研究機関現状調査」**4を実施し、268機関から有効回答を得た(有効回答率42.0%)。主な結果は次のとおりである**5, **6

公設試の正規職員総数:2005年の最多は50人以上で27.6%。1995年、2000年と次第に50人以上の割合が増加している。近年、特に工業系、農業系の公設試では、合併や統合により職員数が増加している。この数年間において、2007年問題でかなり退職者が出る予定である。
公設試のミッション:全分野1位の最多は「技術指導・技術相談」、分野別の最多は工業系「技術指導・技術相談」、農業系「産学官共同研究・受託研究等」、衛生・環境等系「依頼試験分析、設備機器使用対応」で、業種による差異が生じている。
公設試が各業務に費やす時間:1位が「その他(行政対応、予算要求、単独研究等)」、次いで「産学官共同研究・受託研究等」、「技術指導・技術相談」。
公設試の近年での変化や改革:221機関(82.5%)が有り。業種別差異は無し。

表1 独立行政法人化について

表1

**4



        表2 産学官連携先優先順位(上位5位)

表2

**4



表3 公設試トップが研究員に望む資質優先
     順位(上位3位)

表3

**4

公設試の独立行政法人化:表1に示すとおりで、「未定」が113機関で最多。「議論の末、独立行政法人化しないと決定」が18機関。
公設試における産学官連携の実施:216機関(80.6%)が実施。地域中小・ベンチャー企業が研究開発力の違う大学と直接連携することは難しく、公設試のコーディネートが必要。
公設試における産学官連携開始年:2000年~2005年の開始が最多で85機関。ただし、工業系は1989年以前からほぼ均等に開始している。
公設試の産学官連携先:表2に示すとおりである。
公設試での産学官連携による成果・パフォーマンスを把握する指標設定:27機関(10.1%)が設定しており、22機関(8.2%)が検討中。
公設試トップが公設試研究員に望む資質:表3に示すとおりである。

2 ヒアリング調査より

ヒアリング調査を通して、近年高いパフォーマンスをあげている公設試の取り組みが明らかになった。

1.北海道立工業試験場

技術開発派遣指導事業を中心に地域中小・ベンチャー企業の新製品開発を支援、近年ではさらに販路開拓(大企業との取り引き成功事例等)までの一貫支援に成功。
北海道大学との人事交流で公設試研究員を北大創成科学共同研究機構リエゾン部へ派遣し、公設試研究員の効率的なコーディネートで、大学と公設試が効果的な役割分担。さらに、大学の研究シーズを深く知ることができ、大学と公設試間の顔の見えるネットワークを構築。

2.北海道立工業技術センター

公設民営の公設試が核となった函館地域一般型&発展型「都市エリア事業」の推進。
少額から可能な企業との共同研究において研究開発を公設試が主に担当し、販路開拓まで一貫支援。

3.神奈川県産業技術センター

3年3倍増活動の実施と目標達成。
ニーズに基づく産学公連携コーディネートでの開発に成功し、新たな市場へも展開。

4.大阪市立工業研究所

研究に軸足を置き、その研究の推進に必要な産学官メンバーは、研究員本人が集める方式。
OBを島屋ビジネス・インキュベータの技術担当インキュベーションマネジャーに配置。

5.福岡県工業技術センター

公設試研究員のキャリアパスとして、公設試、福岡県庁、財団法人福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)の3カ所を異動させ、研究開発マネジメント力を向上。

工業系公設試への提案

2005年12月中小企業庁から「公設試経営の基本戦略」**7が公表され、公設試が持つべき機能や他の機関との役割分担等が論じられている。

一方、筆者が2006年度に研究した「地域における科学技術の発展を目指した公設試験研究機関研究員の産学官連携コーディネート力の育成に関する調査研究報告書」**8では、工業系公設試研究員の産学官連携コーディネート力をタイプ分けし、各研究員に潜在する能力を引き出し活用することで、新製品開発を成功させるとともに、2007年問題にも対応できることを提案している。

公設試の課題と将来展望

地域における公設試と大学等が互いの研究分野や技術分野の強みを熟知し、地域中小・ベンチャー企業等からの相談案件を効率的に分担し合うことが課題である。

技術や知識がコモディティ化している現在、オリジナル製品の開発を希望する地域中小・ベンチャー企業等は多い。地域中小・ベンチャー企業等が産学官連携で公設試や大学等の技術支援、共同研究やコーディネート等を受け、イノベーションを継続的に創出し、新製品を開発していくことが望まれる。公設試が地域中小・ベンチャー企業等のニーズを真に理解し、一層の製品化・実用化への支援を行うことが期待される。

●参考文献

**1 :首相官邸.“長期戦略指針「イノベーション25」”.(オンライン),入手先<http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/saishu/070601.html>,(参照2007-06-18).

**2 :文部科学省.“科学技術基本計画”.(オンライン),入手先<http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm>,(参照 2007-06-18).

**3 :経済産業省.“経済成長戦略大綱”.(オンライ,ン)入手先<http://www.meti.go.jp/topic/data/e60713aj.html>,(参照 2007-06-18).

**4 :財団法人日本立地センター.「地域産業の振興による地域再生支援研究報告書」(2006.3).

**5 :林聖子.公設試における産学連携の現状と地域振興.日本知財学会第四回年次学術研究発表会予稿集,2006.

**6 :林聖子.公設試における産学官連携による地域振興.産業立地, Vol.45, No.4, 2006, p.9-17.

**7 :中小企業庁.“公設試経営の基本戦略”.(オンライン),入手先<http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/051220kousetushi_senryaku.htm>,(参照 2007-06-18).

**8 :林聖子.「地域における科学技術の発展を目指した公設試験研究機関研究員の産学官連携コーディネート力の育成に関する調査研究報告書」.財団法人新技術振興渡辺記念会平成18年度科学技術調査研究助成(上期),2007.3.