2007年7月号
連載1  - 国立高専が地域と交流
釧路工業高等専門学校
地域産業の活性化を目標に市の工業技術センターと連携
顔写真

東藤 勇 Profile
(とうどう・いさむ)

苫小牧工業高等専門学校 地域共同
研究センター/文部科学省
産学官連携活動高度化促進事業
産学官連携コーディネーター/
釧路工業高等専門学校 名誉教授

釧路工業高等専門学校は同市の工業技術センターとの共同研究を通じて地域経済活性化に貢献してきた。その経緯と成果を解説する。

釧路が置かれた状況

北海道の東部にある釧路市は海底炭の街、水産の街、そして製紙工場の街として発展してきた。しかし今や、国内唯一の炭鉱の採炭量はピーク時の3分の1。水産業は200海里問題以来、水揚げが大きく落ち込んでいる。製紙産業も他地域との厳しい競争にさらされている。こうした困難な状況は早くから予想されていたため、十数年前から市当局、地域経済界、釧路工業高等専門学校が連携して活性化策を探ってきた。

平成14年、釧路市は釧路工業技術センターを設置した。平成4年ごろから地元の工業会が市に対して同センターの設置を働きかけ、その努力が実ったものである。工業会は市内の製造業企業の集まりで、金属加工、木工、塗装、電気などさまざまな業種の製造からメンテナンスまでを含んでいる。当時、道内の20万人都市でそうしたセンターを持たないのは釧路市だけだった。

地域産業への貢献に向けた環境整備

この間、釧路高専も地域貢献の実績を上げる努力を続けた。釧路高専は地域との共同研究を行う拠点づくりを目指していた。産学官の共同研究・交流を目的とした協議会をつくり機運を盛り上げた。念願がかない平成12年、同高専に地域共同テクノセンターが作られた。最初に全国11校に設けられた中の一つだが、当時、釧路高専は全国一の共同研究を実施していた。当初から地域産業への貢献という思いは強かった。

現在、釧路工業技術センターの技術開発研究分野のスタッフは8名。同センターと釧路高専はお互いに相手の設備機器や技術開発分野まで熟知した関係である。技術開発研究交流会を活発に行い地域の工業技術の課題解決に共同であたっている。企業から釧路工業技術センターへの技術相談は年500件を超えている。その幾つかについては、釧路高専との共同研究の対象になり、成果を出しつつある。

高専の活用で課題解決に好評価

振り返ってみると、両者の共同研究は、全国的には早い時期の取り組みだった。私自身が定年退職前は釧路高専の地域共同テクノセンター長として、共同研究を強力に推進した。退職と同時に、スタートしたばかりの釧路工業技術センターを軌道に乗るまで面倒を見るようにと、釧路の工業界、釧路市長などからの強い要請で引き受けた。こうした経過もあり、高専をフル活用し、更に、札幌にある道立工業試験所や旭川の道立林産試験所、帯広畜産大学や北大、北見工大など、あらゆる機関と連携して問題解決にあたった。

共同研究事例:産業廃棄物の活用に向けて

さて、釧路高専のそうした連携の成果の一部を紹介しよう。

地元の大手製紙工場から排出されるペーパースラッジ灰(PS灰)造粒品*1の有効活用について釧路工業技術センターに相談があり、その対応として釧路高専との共同研究に発展した。

PS灰造粒品を用いたコンクリートの強度増進と耐凍害性の研究、PS灰造粒品を用いたコンクリートの初期凍害抵抗性と低温強度増進、PS灰造粒品を用いたモルタル・コンクリートに関する研究が成果として発表された。一般のコンクリートに比べ軽量で、比強度は普通コンクリートと同等である。高断熱・高遮音などの好特性も期待でき、今後の研究が待たれる。同時に始めた別の取り組みで、アルミニウム合金や廃棄アルミニウムとPS灰造粒体と金型内で加熱し、溶融または半凝固状態で混合し、加圧凝固させ、アルミニウムの複合材料の生成に成功している。PS灰造粒体は軽量・ポーラスであり、制震、吸音効果、断熱性にも優れていることから、これらの特徴を生かした付加価値の高い製品として大きな期待が持たれている。

ガラス廃材(カレット)活用の技術相談についても共同で対応し、建築材料の開発を目指した。開発したガラスカレットの床タイルは強度試験結果から十分に利用が可能で、外装用タイルとしても使える。凍結融解試験でも動弾性係数の低下が少ない。公共建築物への利用が進められている。

釧路地域は冬季、快晴が続き夜間の放射冷却で気温が下がる氷都としても知られている。食品加工や食料保管地域とするために、自然冷熱による氷作りの基礎研究も進められている。滑りにくい冬靴の開発も行っている。

地域経済が発展・持続するシステム構築を

釧路市には市内の中小企業と高等教育機関との共同研究を支援する事業があり、釧路高専も支援を受けている。

高専に設置されているほとんどの地域共同テクノセンターには、研究員や事務員が配置されておらず、技術相談に即応できない場合が多い。釧路では釧路工業技術センターが窓口となり、道東唯一の工業系高等教育機関である釧路高専を活用し問題解決にあたっている。

最近は北海道内4高専(旭川高専、釧路高専、苫小牧高専、函館高専)が連携して、地域の問題解決に対応しようという取り組みを始めている。また、地域の学や公設研究機関の連携による地域支援も活発化している。金融機関と道内4高専の産学連携に関する協定書の作成や、苫小牧地域では、地域金融機関と、ものづくり産業振興のための産学官連携事業の調印へと進展しつつある。

産学官金の知識と知恵、英知を結集し、地域の特性を活用した産業を創出し、それぞれの地域が地域発のイノベーションを創出して地域社会が自立し、発展し続けるシステム構築を目指そうと活動している。

釧路工業高等専門学校の概要(所在地:北海道釧路市 URL:http://www.kushiro-ct.ac.jp/
学校長: 岸浪 建史(きしなみ・たけし)
学科数: 本科5学科(機械工学科、電気工学科、電子工学科、情報工学科、建築学科)
専攻科2学科(建設・生産システム工学専攻、電子情報システム工学専攻)
学生数/教員数:1,045人/122人
教育理念 : 創造力、問題発見・解決能力をもち即戦力となる技術者を育成し、地域の社会的・技術的要請に応え、地域と連携し、地域に貢献する。
特   色 : 早くから産学官連携に取り組む。近年では、企業経営者、技術者、OBなど外部から講師を招いてのセミナー等の開催や、地元商工会議所を事務局とした「釧路工業高等専門学校地域振興協力会」の設置などを行っており、共同研究成果も生まれている(現在2件が特許出願中)。〈内容は掲載当時〉

*1ペーパースラッジ灰(PS灰)造粒品
古紙再生時に発生する残留物をペーパースラッジと呼ぶ。これを焼却して直径5mm程度から最大直径15mm程度の粒にしたものがペーパースラッジ灰造粒品である。PS灰はセメントの原料としての用途があることは確認されたが、輸送コストがかかること、重金属類などの有害物質が含まれることから、直接埋め立て処分ができないなどの課題を抱えていた。そのため釧路高専に、有効利用について相談があった。