2007年8月号
特集  - 「新技術説明会」を見逃せないワケ
知的財産活用の使命負うJSTが大学と連携
「未公開」「実用化を展望」「東京で」が売り

佐藤 比呂彦 Profile
(さとう・ひろひこ)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 技術移転促進部
シーズ展開課 第一係長

科学技術振興機構(JST)が大学と連携して開催している「新技術説明会」は、大学のシーズと企業の出会いの場。未公開特許、発明者による実用を展望した技術説明、東京で開催、個別相談などが特徴で、人気の背景だ。その舞台裏を明かす。

科学技術振興機構(JST)は「新技術説明会」を開催している。当初はJSTのさまざまな事業成果を紹介することが中心だったが、近年では、大学と連携し、大学の研究成果を企業向けに説明する催しへと変化している。平成18年度は18回開催し、本年度は28回の開催が決まっており、さらに日程調整中のものもある。大学からの開催要望が絶えず、回を重ねても来場者は減らない。なぜこれほど人気なのか? 「新技術説明会」について紹介する。

新技術説明会

読んで字のごとく、新技術の説明会である。新技術は大学や公的研究機関、JSTなどで創出された研究成果より出願された特許に基づく技術。研究成果の実用化を目指し、企業の方へ説明する会である。いわば特許の説明会である。説明する特許は出願から1年6カ月未満の未公開の特許が中心である。説明者は発明者を原則として、発明者自身が、実用化を展望した技術説明を行い、特許の実施や、連携を希望する企業を募る。JSTの主な役割は、新技術説明会という産と学との出会いの場のセッティングである。この場で出会った産と学を連携へと結ぶのは新技術を有する大学の役割となる。

なぜ、JSTが開催するか

JSTには技術移転機関として発足した歴史がある(本ジャーナルVol.1 No.10 2005、Vol.2 No.3 2006参照)。新技術説明会は、技術移転活動の一環として、特許の実施企業や、特許技術の実用化を目指すJSTの事業を活用する企業を探索する手段として開催していた。当時は、国立大学・公立大学の法人化はまだであり、特許の機関帰属の原則やTLOも無く、国有特許の管理・活用、研究者個人有となった発明の出願(有用特許取得制度)・活用はJSTの重要な使命であった。その後、日本版バイドール法(産業技術力強化法第19条)、TLO法(大学等技術移転法)、国立大学法人法を受け、JSTの使命も、大学・TLOが中心となった研究成果の社会還元活動を、積極的に支援することへ大きくシフトした。「知的財産基本法」の制定、知的財産推進計画の決定により、知的財産の活用はさらに重要となった。一方、JSTでは、科学技術情報の流通基盤整備の一環として、技術移転可能な特許情報のデータベース、J-STORE(研究成果展開総合データベース)を構築しており、知財の活用を推進すべく、平成14年より、出願から1年6カ月未満の未公開の特許情報の掲載に踏み切った。

JSTの使命、大学・TLOの使命、未公開特許情報の早期公開という条件がそろい、JSTが大学と連携して開催する新技術説明会が始まった。

いくつかの特徴

大学のシーズを発表する場はいろいろあるが、新技術説明会の“売り”は次のようなことである。

未公開特許
発明者による実用化を展望した技術説明
個別相談
地方大学が東京で
企業への案内数

何よりも新技術とうたっている手前、説明する技術は未公開特許技術が多数含まれる。JSTとしては「JSTに来ると大学の新技術について知ることができる」という流れの創出を期待している。

新技術のプレゼンテーションについては、結論へ向け集約される研究発表ではなく、実用化を展望した技術説明として行われる。中小企業の経営者や技術者は必ずしも専門家ではない。彼らの興味を引く説明タイトルと理解しやすい説明内容とすることが必要条件である。また、研究者自身が自分の研究内容をどうしたいのか、企業に何を望むのかを示すことは、産学連携のきっかけが人と人との出会いでもある以上、特に重要である。具体的には、「従来技術とその問題点」、「新技術の特徴・従来技術との比較」、「想定される用途」、「想定される業界」、「実用化に向けた課題」、「企業への期待」といった項目で、説明する先生だけの作成でなく、今後の実用化に向けた展開を見据え大学のコーディネータとの共同作業をお願いしている。

また、新技術説明会では質疑応答の時間は無い。質問・相談をご希望の方には、各説明専用の個別の相談室にて、説明者・コーディネータとの3者での対話の時間を設けている。アンケート結果においても、多少の質疑応答を求める回答がまれにある。主催側としては不便を強いることにためらいはありつつも、どういったプロフィールの方のどういった質問・相談であったかを把握し、今後の活動に活かすことを第一に考えた結果である。

大学連携新技術説明会は、金沢大学との連携に始まり、地方大学のオフィスが集まるコラボ産学官との連携、静岡大学との連携、地方の大学のオフィスが集まるキャンパス・イノベーションセンター東京との連携、岩手大学との連携へと広がり、現在に至る。

表1 開催実績(平成19年3月末現在)

表1

いずれも、[1]地元での独自の活動では、集客効果が低い、[2]地元企業の動向はほぼつかむことができるので新たな連携先の探索、[3]先生方の最先端の成果の相手先探索として企業が多数集まる東京での開催を望む-などの理由から始まった。その後の開催については、開催実績がコーディネータ間でうわさになり開催要望が増えたものと認識している。

また、地方の大学との連携であることと、来場者の大半が東京および東京近郊の方であるということから、説明会終了後の交流会・情報交換会では、地元の物産(地酒、名産)をPRし、少しでも連携に関心を持っていただける仕組みを模索している。

現在、電子メールによる案内は約3万通、パンフレットの発送数は約3,700通を数え、およそ9割は企業の方である。これまでの新技術説明会への申込者・来場者、日本最大規模の産学マッチングイベントであるイノベーション・ジャパン-大学見本市(JSTでは当課が担当)の申込者・来場者が大半である。産学連携・技術移転に関心のある方だけに案内を出すことも、マッチング実績へつながる要因であると考えている。

JSTにとっては企業の皆さま、大学の皆さまも大切なお客さまである。すべては、研究成果を実用化につなぐためのきっかけ作りであるということを念頭に、何のための説明会か、誰が対象か、何をすべきか、なぜ相談が多かったかを、毎回考え、見直しつつ開催している。

実績は?

表2 連携したシーズ元大学・機関
     (平成19年8月15日現在)

表2

平成16年度から平成18年度にかけて開催した結果は表1表2のとおり。29回開催し、50の大学などが、413の新技術を説明し、96の新技術について企業とマッチング。マッチングの件数では228件であった(平成19年3月末現在)。

このようなマッチングの成果は、すべて大学の努力のたまものである。新技術説明会は開催が目的ではない。いかに実用化へつなげるか。開催終了後から大学の本来の活動が始まる。相談者には必ず連絡を行い、関心を持った企業を逃さないコーディネータの活躍の場、腕の見せどころとなる。開催後には各大学へJSTから進捗についてアンケート調査を行う。開催から1カ月、2カ月程度で共同研究契約を締結しているケースや、1年かけてライセンス契約を行ったケースがある。説明したシーズも優れていただろうが、コーディネータの頑張りが感じられる。


◆連携する大学の皆さまへ

企業からの参加者が多く、結果としてマッチングの成果が出ている。大学の担当者からは、しばしば、「さすがJSTさん。これだけのお客さんを呼べるなんて」と言われる。しかしJSTの知名度は低く、何ということはない、と職員として感じる。ただ、JSTには、長年、技術移転や産学連携をやってきているという気負いが感じられ、大学の研究成果を分かりやすく企業に紹介するにはどうすれば効果的か、という点もベテラン職員に聞けばヒントが得られる。

JSTは“場”を提供しただけである。ちょっとお手伝いしただけでこれだけのマッチングができている。これは、良いシーズがあるからであり、大学としてしっかりとシーズを企業へ結び付ける態勢があるという証拠である。研究者には研究成果が実用化につながるという意識を持っていただき、大学側もなんとかなるという自信を持ち、今後も、研究成果の実用化に向けて積極的な産学連携の推進、技術移転活動を行って欲しい。