2007年8月号
特集  - 「新技術説明会」を見逃せないワケ
単独で3回開催した静岡大学 発表37件の約半数が共同研究へ、5件がライセンス契約
JSTのサポートがあってこそ成立する出会い
顔写真

出崎 一石 Profile
(でざき・かずし)

静岡大学 知的財産本部 副本部長、
学術情報部 産学連携支援課長


科学技術振興機構(JST)が大学と連携して実施している「新技術説明会」は産学連携の世界のヒット企画。大学と企業のマッチングを促進するシーズ発表会はさまざまな機関、大学が行っているが、「新技術説明会」は極めてマッチング率が高く、大学関係者もその成果の大きさに驚いている。これまでに単独で3回実施した静岡大学の知的財産本部の幹部が、その特色、活用の仕方を具体的に説明する。

「なぜ、科学技術振興機構(JST)の新技術説明会は人気があるのか。各地の大学から開催の要望が続いているのは、このシーズ発表会のどこに惹かれているのか」-こうした疑問に、大学の立場から答えてほしいと、「産学官連携ジャーナル」編集部から要請がありました。私どもの大学がこれまでに単独で3回も実施し、そのマッチング率などの成果が大きいという理由で私に白羽の矢が立ったようです。先日、他の複数の大学と連携した新技術説明会の準備の過程で、他大学の知財関係者からも同じような質問を受けました。一問一答形式を借りて、新技術説明会の特徴、活用の仕方、数回重ねて見えてきたことなどについて答えてみました。

なぜ静岡大学は新技術説明会を単独で3回も開催しているのですか?

「新技術説明会」によって得られる成果がとても大きいからです。

「静岡大学との連携による新技術説明会」では、当日および事後における企業との面談件数が大変多く、現時点までの成果として、これまでの説明テーマ37件のうち半数近くのテーマについて共同研究が実施され、5件がライセンス契約に至っています。共同研究契約の総額は約2,750万円(平成18年度まで)、実施許諾での一時金総額は約1,050万円(平成18年度まで)で、その成果は大きいといえますが、ここに至るまでには少々経緯があります。

静岡大学(以下「静大」)は、学生数10,745名(大学院含む)、教員数836名、事務職員数342名の中規模の地方大学です。そして、知的財産本部(以下「知財本部」)は、現在、イノベーション共同研究センターの共同研究開発、ベンチャー経営支援、未踏技術開発の各部門、産学連携担当の事務部門と一体的に活動を行っており、総勢30数名の組織です。非常勤の知財マネージャー9名から始終助言指導を受けていますが、知財本部本体の常勤メンバーは、知財コーディネーター3名、知財事務部員4名の比較的コンパクトな人員体制です。

平成15年に文部科学省の大学知的財産本部整備事業を受託して、平成16年に法人化する直前に知財本部の実体的体制を固めましたが、その当時の考えでは、大学の知財本部のコーディネータは、出願のために教員の相談に乗って明細書案文を作成することが仕事であり、ライセンシングはTLOの仕事と考えられていました。

実際に、大学法人化以降に学内研究者への特許出願の働きかけを熱心に行ってきたことと、それまで個人的に産学連携を行っていた教員が、知財本部の機能に期待し特許事務所費用などの出願費用を頼るようになり、平成16年度は約70件、平成17年度は約100件の出願を行うことになりました。ただし、今後は、量より質のためにこれを半分以下に絞りこんでいくことになります。

このような状況でしたので、特許や試料サンプル(研究成果有体物)の提供などの知財権にかかわる実施許諾や譲渡のためにオーソドックスな方法でライセンシングを行うための人員を配置することができませんでした。例えば、近隣の企業を訪問しそのニーズをお聞きしたり、大学保有特許の宣伝を行うこともままならない状態でした。さらに、パテントマップや特許ポートフォリオを作成するための原資や人員も割くことができませんでした。また、連携しているTLOは自己保有ではない大学帰属の特許のライセンシングには消極的であり、積極的な協力が得られない状態でしたので、結局、知財本部が自らライセンシングの方策を考えるしかなかったのです。そして、このことは現在もあまり変わっていません。

このような状況は本学だけではなかったと思いますが、こうしてライセンシングの方策を模索している中で、JST主催の「技術移転に係る目利き人材育成研修会」のグループ討議で、「金沢大学がJST共催で新技術説明会を開催し、発表テーマの半数近くに引き合いがあった」との情報を得ました。これを私どもは大変うらやましいと思うと同時に、これは本学の特許を産業界に紹介するために今できる唯一の方法ではないか、と考えました。つまり、パテントマップによる分析から大学が企業を探すのではなく、技術内容を早期に企業に見ていただくことで、静大の技術テーマを選んでいただき、説明を行う研究者も観察していただき、連携相手として評価していただく大変良い機会と考えたのです。さらに企業側は、共同研究やサンプル提供などによる相互のシーズ・ニーズの交換から、その技術移転での収益の十分な検討をすることができますし、その特許について企業自身でポートフォリオ作成の情報を得ることができると考えました。

ライセンシングは一時金を得るための方策ではなく、製品化され事業化されることで本来の意義を果たすのですから、大学の保有特許、研究内容とその発明者を、企業に十分に評価していただく状況を作らなければなりません。新技術説明会はそのスタートのための「好機会」というわけです。

「新技術説明会を行うのは大変ではないか?」とよくいわれますが、これを行うことで、ライセンシングの方策についての新しいアイデアを得ることができますし、開催後に企業に十分な対応を行うことで、大学側の手間を含めた経費以上の成果が得られると思います。

なぜJSTとの新技術説明会が良いのですか?

JSTの強力なサポートがあってこそ実現する新技術説明会だからです。

JSTが新技術説明会について行う多種多様なPR、例えば数万通に及ぶ紙媒体のダイレクトメールやEメール、WEB(JSTサイト)によるPRをはじめ、“JSTが行う”という信頼性、会場となる東京・市ヶ谷という地の利を地方大学が利用できるメリットがあります。

さらに企画マネジメントとして、このような宣伝力を用いて技術内容を日本中に広報すること、当日配布する技術資料の編集や作成、当日の運営の大部分をJSTが担っていただけるので、大学はJSTの時間的・財政的な支援のもとに、当日に向けて発明者や研究者とどのように新技術を来場者に説明すればよいかを検討し準備することに集中することができます。さらにいえば、このようなJSTの全面的に協力していただける取り組み体制と関係者の努力、経費、費やす時間に報いるために、静大の教員も知財本部も本気にならざるを得ないということもあります。

新技術説明会に対する静岡大学の「取り組み方」とは?

本学では、第1回から第2回、第3回と年を追うごとに取り組み方が変化しました。

第1回平成17年6月の新技術説明会は、ライセンシング相手を探す目的で行いました。本学としても初めての試みに対する意気込みは大きく、2日間で17件のテーマを発表し、当日面談した企業のうち9社が共同研究を求めてきたので、当時は落胆したのですが、その後この中の企業に特許の実施許諾をすることになりました。

第2回平成18年6月の新技術説明会は、静大のイノベーション共同研究センターの共同研究開発部門と協力して、あらかじめ共同研究やサンプルの提供などによる相互のシーズ・ニーズの交換も狙いとして、WEBなどで事前に広報する「発表案内文」と当日の「発表内容」、「配布資料」を構成するようにしました。

第3回平成19年6月の新技術説明会は、JST技術移転プランナーから積極的助言をいただき、JSTの支援事業への展開を含めて構成しました。今回は、すぐに共同研究に入れないと思われるテーマも、シーズイノベーション事業や育成研究への展開を期待して発表しました。このプロセスを期待して発表するテーマは、そのシーズを企業に聞いていただくだけではなく、むしろ発表後の個別相談の際に、企業側のニーズからその応用の可能性を教わることを念頭において面談させていただいています。

ライセンシングは学外の技術移転組織に委託することができるのではないですか?

ライセンシングの方策は知財本部からと学外の技術移転組織からとでは異なります。

ライセンシングを行う研究テーマは、ほとんど特許出願を前提とします。このため、慢性的に人手不足の静大知財本部では、研究成果から特許性を見いだすために、[1]科研費の申請内容、[2]静大独自で行っている「共同研究希望テーマ説明会」、[3]JSTのシーズ発掘試験等試験研究助成への応募の相談内容、[4]共同研究の提案書・申請書・報告書などからも特許シーズを探して教員に特許出願を勧めます。そして、新技術説明会で発表するテーマの多くはこの中から選ばれることになります。このように大学内の多くの情報に基づいて、教員と共に特許をライセンシングすることになるので、学外の技術移転組織への委託にももちろん期待していますが、外部に技術移転を委託する特許への知財マネジメントとは異なるわけです。いずれの道筋であっても、これから知的財産権活用の方策は、各大学のポリシーに従って行われ、そのおのおのの大学の個性として産業界に評価されることになると思います。

今後の新技術説明会での技術移転の方策は?

産業分野によって異なる新技術説明会の効果を今後どう対策するかが検討事項です。

静大は、これまで最新の研究成果を基に未公開特許を中心として新技術説明会で発表してきました。特に工学分野では、企業が他社に先んじて付加価値の高い製品とするために特許技術を一定期間独占できる見込みがなければ採算ベースを築けず、結果的に広くは実用化されないことになります。このため、静大では新技術説明会の直前に特許出願することで、公開日までの時間をできるだけ確保できるようにしてきました。

一方、権利として確立していない知的財産を紹介しライセンスするため、知財本部は実験データの確認、妥当性の検証、先行技術検索について注意深く検証したテーマのみを発表してきましたが、決して完全とはいえません。

新技術説明会での画像処理や電子デバイスの発表テーマからの実施許諾は想定された用途でしたが、共同研究となる場合は思いがけないテーマとなることがあり、これも新技術説明会の醍醐味(だいごみ)といえます。このような展開に知財本部がどのように追従して補完していくかが今後の課題と考えています。

また、ライフサイエンス分野の特に創薬分野に関しては、企業が新技術説明会を大学とコンタクトする場として利用することは考えていないように思えます。大きなリスクと長い年月を要して一社寡占で事業を行う産業分野では、大学の未公開特許の発表は企業からはどのように受け取られているのでしょうか? 製薬メーカーの技術者によれば、大きなリスクを負っての投資なので、発表を聞いて会社へ戻り十分な調査によるふるい落としの後に大学の知財本部ではなく、発明者の教員に直接コンタクトしている場合が多いとのことです。

例えば、バイオ分野では、国際バイオEXPOという大きな催し物が行われており、この分野の研究者の発表が活発に行われ、発表会への参加者も多く、企業の情報検索の場として活かされているようです。

このように産業分野によって新技術説明会の効果が異なっていること等を受けて、さらなる方策を検討することが必要であると考えています。